やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
ようやく、この章のエンドが見えてきました。
奉仕部の連中と精神暴走事件の件でキヌさんの部屋を訪れてから10日。
各テレビ局のニュースで、千葉の中高生で起きていた精神暴走事件がオカルトが関わった事件であることが、警視庁の正式に発表を受け、大々的に流れたのだ。
どこのテレビ局もこのニュースで沸き上がり、こぞって特番まで組まれる有様だ。
オカルト事件の報道はなかなか難しい面がある。通常の事件に比べ、目に見えない恐怖や不安を一般市民に与えてしまうからだ。
ここまで大々的にオカルト事件として流れたのは、3年前の世界一斉大規模霊災以来だ。
なのになぜ、警視庁は大々的に発表したかというと、この事件、解決に至ったからだ。
世の中は早期発見に早期解決に警視庁とオカルトGメン、GS協会の功績を讃えていた。
原因は……とある大手情報サイトのコミュニティーツールだった。
サイトに用意されてた詳細な千葉のマップに自らが撮った街中風景の面白写真やお店の感想等を掲載していくという企画物だった。このツールが扱えるのが一応18歳以下の学生限定ということもあり、千葉の学生の約半数がダウンロードしたとか……因みに俺はダウンロードというかサイトの存在自体知らなかった。……雪ノ下の反応を見るからに多分知らなかったのだろう。
そのツールがどのように人に影響を与えたかというと……
マップ上に写真を貼るにはツールを用いる。その写真を貼る場所の枠内の模様と枠は一見どこにでもあるようなデザインだが……巧妙に隠された術式の一部だったのだ。
ただ、この枠と枠内の模様だけでは術式としては不完全なもので発動しない。写真を貼ることで術式が起動する仕組みなのだが……それだけでも不完全な状態となり発動しない。貼られた写真の模様や色が術式の一部となり発動するのだ。
そして、術式が発動した写真を見た人間に影響を及ぼす。
しかし、写真を貼ったからといって必ずしも発動しない。貼った写真が術式起動条件の色や模様に合致しないといけないからだ。逆に言えば、合致して発動する方が稀なのだ。
スマホで撮る写真というのは一定の傾向があるらしく、それを見越した術式を組み込み発動率を高めていたようだが。
しかも、写真を貼り、それを掲載してから10分という短時間で術式は消滅するようになっていたいうわけだ。
さらにだ。この掲載された写真を見た人間がすべて、術式の影響を受けるわけではない事もわかっている。人によっては全く影響が無かったりと、影響が弱かったりと、術式自体の強度が低いのだ。
また、スマホの機種によっては術式を阻害していたり、画面のフィルターでも阻害されたりするらしい。
そういえば、この術式について、小笠原エミさんが、かなりお冠だったな。
「呪いや術式の発動がランダムとか、オカルトをなめてるわけ。そんなもの術式や呪いじゃない。完全に発動し、術者の意思を反映させてこその術式や呪いなわけ。先人が試行錯誤し完成させた一種のアートなわけよ!!これを作ってばら撒いた奴はそんなこともすっとばしてこんなものを世にだしたのよ!!これはあたし達に挑戦してると一緒なわけよ!!探し出してありとあらゆる呪いをかけてやるわ!!」
わざわざ美神さんに愚痴を言いに来てたしな。
呪いのプロとして許せなかったようだ。
完璧じゃない術式。ランダムで発動する術式……効果もあやふやな術式。
確かに、これだけ強度の低い術式は、正直実践では使えないレベルのものだ。
命をやり取りする現場ではとても信用して使えるものではない。
それでも……社会混乱を招くというテロ目的であれば、十分使える代物だ。
死者こそ出なかったが、人々の心に十分傷跡は残してくれた。
しかも、そのランダムな性能のせいで術式の正体を突き止めるのが遅くなったと言っても過言ではない。
この事件の発端となったサイトは停止し、サービスを行っていた大手情報サイトの会社は捜査の手が入ったが、どうやらサイトのサービス開始後に、外部からハッキングされ改ざんされたことが分かった。
ハッキング自身はオカルトではないため十分なセキュリティ対策を取るようにという注意警告を受けるにとどまった。
そして、この事件を起こした、ハッキングしこんな術式を組み込んだ奴は、未だ捕まっていない。
いや、犯人像すらわかっていないのだ。
「比企谷君、この事件はこれで解決なのかしら?」
雪ノ下は奉仕部の部室で窓際のいつもの席から俺の方へ聞く。
「……いいや、事件自身は終息したが、犯人は捕まってない」
俺は正直に答える。雪ノ下自身もこれでは解決してはいない事がわかってて、そういう風に聞いたのだろう。
「じゃあ、ヒッキーも、犯人を探すの」
由比ヶ浜は雪ノ下の隣でスマホを操作しながら俺に聞く。
「いや、キヌさんと俺の役目は終わった。後は警察とオカルトGメンの仕事だ」
キヌさんと俺の仕事としては十分な成果だ。
この事件の解決には至ったからな。
「ということは、あなたからの奉仕部への依頼は完了したということでいいかしら」
「ああ、正直助かった。俺だけではここまで出来なかった」
「てへへへへ。そうなんだ。ヒッキーは私たちのおかげで助かったんだ」
「そう」
由比ヶ浜は笑顔で、雪ノ下も口元が微笑んでいるように見えた。
キヌさんの部屋に行った日、雪ノ下と由比ヶ浜とキヌさんとの話し合いに美神さんが介入し、この事件の解決に至る道筋ができたらしい。
6日前、学校では精神暴走事件についてのアンケートを全校生徒に向けて行なわれた。
これは千葉県内にある中学高校すべてで行われていた。
チェック方式のアンケートはかなりの項目が記載されている。
内容は大きく分けて3つの大項目に別れている。
一つは体調についてだ。
二つは不安や不満など、精神に関する事だ。
三つ目は学生の行動や趣味、流行り、使用してるアプリについての項目だ。
特に三つ目はキヌさんとの話し合いの際で出てきた由比ヶ浜の意見が多数盛り込まれてる。
このアンケート結果を踏まえ、問題の術式が組み込まれていた大手情報サイトの千葉限定のコミュニティーツールに行き当たったそうだ。
そして、潜在的被害者も多いことも判明し、GS協会から治療を行うため、GS免許を持った心霊医術やヒーリングに長けた術者のチームを各学校に派遣し、該当者の治療を行っている。
元々心霊医療を行える術者やヒーリングを行える術者は数が少ないため、一日1,2校回るのがやっとだ。来週から地方からも術者も募り、もう1チーム作って2チーム体制になるのだが年末までにすべて終わらせるのは厳しいようだ。
もちろんキヌさんも参加要請があり参加してる。
被害者救済処置として、カウンセラーを置くことになったが、カウンセラー、特に霊障関係のカウンセラーは非常に貴重だ。一人で5,6校掛け持ちで行うことになるとの事だ。
しかも、現GS協会会長の六道家当主まで、現場にでる予定なのだ。
相当人手不足なのようだ。
この辺の心霊医療や霊障カウンセラーなどは、時代に即して需要が増加し、これから再整備されていくことだろう。
そして……もう一つ、サイバーオカルト対策だ。
今回の件が、情報化社会と言われる現代で、ネットや情報端末を通して大々的に起こった最初のオカルト事件となった。
政府も本格的にサイバーオカルト対策に着手する方針のようだ。
それに伴って、GS協会やオカルトGメンもこの辺の人員を確保することに動きだすだろう。
GSは今迄は妖怪や霊を相手どっていたのだが……今回の事件はオカルトを使った人間が起こした事件だ。過去には呪い屋やオカルトを駆使した殺し屋などの人間は多く存在したらしいが、新たなジャンルの敵として対処しなければならないだろう。
そして俺も……美神さんにサイバーオカルト対策の研修に行けと言われる。
美神令子除霊事務所のメンツで俺が一番その方面に詳しいからだという理由なのだが、別に詳しいわけじゃない。一般知識程度だ。キヌさんはその辺苦手そうだし、横島師匠はエロサイト専門だし……美神さんはたぶん独自で勉強するだろうな。
まだ先の話だ。来年、1月中旬に行われるらしい。
なんかアレだな、なんか新たな免許とか資格とかできそうな勢いだ。
そういえば、折本はようやく踏ん切りがついたらしく、今日から学校に行くらしい。
なんか、1日置きぐらいに電話かかってくるんだが……まあ、あんなことがあったしな、一応俺もGSの端くれだし、話し相手としては丁度いいのだろう。……愚痴を聞くか世間話しかしてないがな。
最初の頃を思えば折本も大分元気が出てきたようだ。
今日のニュースで、折本の学校の連中も折本が置かれた状況を理解してくれるだろう。
しかし……今回の事件を起こした奴はどんな奴なのだろうか?
本を開きながらも考えにふけていると……
奉仕部の部屋にノックの音が響き、雪ノ下が「どうぞ」と答える
「失礼しまーす」
亜麻色の髪の女生徒が元気よく入ってくる。
「やっはろー、いろはちゃん!」
「こんにちは、一色さん」
「結衣先輩、雪ノ下先輩、こんにちはです」
一色はそう挨拶を返しながら、俺の前まで来て、泣き真似をしながらこんなことを言ってくる。
「先輩ー、ピンチです。ヤバいです!手伝ってください」
「何がだ?クリスマス会の合同イベントは問題ないはずじゃないのか?」
「……それが」
一色は言いにくそうする。
「一色さん。私達奉仕部で準備することはほとんど終わったはずよ」
「そうなんですけどー……その総武高校の出し物の演劇が予算がオーバーしちゃいそうで……」
「どんだけだ?」
「これだけ」
一色は片手を胸元あたりで開いて見せる。
「5万か……生徒会費で賄えるんじゃないか?」
「……50万」
「はぁ?」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げる。
「……一色さん。どうして、演劇でそんなに予算が必要なのかしら?」
雪ノ下は頭痛がするかのように、手を額に当て、一色に呆れたように聞く。
「しょぼいのっていやじゃないですか、何より他校に負けたくないじゃないですか!特に六道女学院の鼻もちならな……いえ、お嬢様達になんて特に、セットをレンタルで外部発注しようとしたら……その」
何対抗意識もってるんだ?一色の奴、鼻持ちならないって言おうとしただろう。それがキヌさんをさしているのなら許せんぞ。
「……お前……なにそれ、たかが学生の演劇でセットのレンタルって」
「セットは演劇部に借りるか、自作にしなさい。それよりも肝心の演劇の方は進んでるのかしら?」
雪ノ下は一色に冷たくそう言い放つ。
「えーー、演劇部のって、しょぼいじゃないですか。演劇の方は、そ……それが、その地元の幼稚園や小学生と一緒にってとこまで来てんですが……そのセリフを覚えなくて」
「一色、幼稚園児にセリフとか要求するか?」
「いろはちゃん。全くできてないってことだよね」
由比ヶ浜は純然たる事実を一色に突き付ける。
「あと、2週間もないわよね」
「今更路線変更できないですよ。先輩ーー、助けてくださいよーー」
泣き付く一色。
「……とりあえず。平塚先生に相談だな」
こういう時に頼りになる平塚先生に相談しに行く。
……平塚先生に相談に行ったら、何故か週末にディスティニーランドに行くことになった。
友人の結婚式の2次会でディスティニーランドの一日フリーチケットが当たったそうだ。しかもペアチケットを3セットも……今年は友人の結婚式に4回行ったそうだ。
さらに……横島師匠に12月24日に誘ったら……大事な用事があるからと断られたそうだ。
だから今、平塚先生は絶賛落ち込み中。
横島師匠は仕事じゃないですかねと言ったら復活し、他の日を誘ってくると職員室を出て行った。その前にチケットを2セット4枚を俺たちに渡して……エンターテイメントを学んで来いと……いや、そこまで本格的なものはいらないんですけど……それよりも予算をもうちょっと融通してほしいんだが………
しかし、何を思ったのか由比ヶ浜と一色はノリノリだ。
雪ノ下は最初は、この混雑時期のディスティニーランドは行きたくないと拒否していたのだが、由比ヶ浜に説得される。……なんか、由比ヶ浜に甘くないっすかね雪ノ下さん。
俺は仕事が有ると雪ノ下と由比ヶ浜に断ったのだが、機嫌がいい美神さんは何故かその日、俺に休みをくれた。しかもその情報はキヌさん経由で、雪ノ下と由比ヶ浜に伝わる始末……
……俺のプライベートはどこに?
次はディスティニーランドへ