やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

ようやくこの章が終わります。
今回はかなり長いです。


㊹クリスマス会当日

12月24日クリスマス会当日を迎える。

当日の俺の役割はコミュニティーセンター周辺に立って案内をする要するに案内係だ。

老人ホームの方々は、専用バスで来客。近隣のお年寄りはデイサービスなどを利用して車で来るのがほとんどだ。出演する小学生や園児達の親御さんも結構来るらしいが、殆ど見かけない。車で来てるのだろう。

 

まあ、形だけの役柄だ。

案外、窓際部署とはこういうものなのかもしれない。

 

生徒会長の一色は司会進行役でマイク片手に大活躍中。

表面上はいつも通りだ。葉山への失恋から立ち直ったように見えるが心中どうなのかはわからない。

あの後、ディスティニーランドに行ったことで、何が重要かを再確認し、劇については、小学生や園児らしさに重点に置いた構成に変更し、さらに園児にはセリフなしで、ナレーション形式に、問題のセットは演劇部からの借り物をらしく見せるように光で調整し、低予算且つきらびやかに見せることができた。

 

雪ノ下とキヌさんは大忙しだ。

早朝からクリスマスケーキを参加者人数分を焼いてる。

勿論、雪ノ下とキヌさんだけではないが、料理が出来る二人が中心となって、コミュニティーセンターの料理教室でケーキやらクッキーやらをひたすら焼いていた。

 

由比ヶ浜もそのフォローに回っているが、料理はさせられないため、主に荷物や原料運びなど肉体労働だ。

 

 

開演から1時間が経ち、俺は案内係の役目も終わり、コミュニティーセンターに戻ることにした。

 

「比企谷、寒いし暇だったね」

他校の制服姿の女子生徒が俺の後ろから近づき横に並び歩く。

 

「俺はぼーっとするのが得意だからな、全然OKだ。なんなら最後までやってても良いぐらいだ」

 

「なにそれ、うけるー」

折本かおりもクリスマス会に1週間前に復帰し、当日は別の場所ではあったが俺と同じで案内係だ。

あの精神暴走事件後、学校への復学は順調だったらしい。学校の友人達とも和解し、今ではほとんど今まで通りらしい。

ただ、やはりというか、周りからは腫物扱いを受けることがあるとか……本人は気にしないようにはしてるようだが……

メディアであれだけ大々的に行ったからな、被害者への理解も深まったが、逆にそういう事もあるだろう。

それも、時が経てば薄まるだろう。

 

 

「比企谷、……これクリスマスプレゼント」

折本はショルダーバックからゴソゴソと可愛くラッピングされた包み紙を取り出し、俯き加減で俺の胸元に押し当てる。

 

「ん?俺にか?」

 

「べ、別に深い意味とかないんだから!その……お礼よ。お礼……助けてもらったし、その電話で相談にもずっと乗ってくれたし……本当に、本当にありがとう」

折本は頬をうっすら赤く染め、涙目で俺に礼を言う。

あのつらかった時の事を思い出したのだろう。

折本からは復学後も、ちょくちょく電話で現状報告やたわいもない会話をしたが、まあ、本人がここまで立ち直る事が出来てよかったと思う。

あの事件は、多感な時期の学生の心に大きな爪痕を残した事件だった。

折本はこうして復帰できたが、まだまだ、復学に至っていない学生が多数いるらしい。

あの犯人はまだ見つかっていない。犯人が何をしたかったのかも不明のままだ。

 

「まあ、たまたま俺がGSで居合わせただけだ。そんなに気にすることじゃない」

素直にお礼を言われるとこそばゆい。

俺は折本から視線を外しながらそれを受け取って、照れ隠しでこんなことを言うのが精いっぱいだ。

 

「比企谷って中学の時、そんなにひねくれてたっけ?」

折本は涙をぬぐい笑顔を見せる。

 

「だいたいこんな感じじゃないか?」

 

「今の比企谷、結構かっこいいよ。中学のみんなが知ったら絶対驚くし、今度の中学のクラス会一緒にいかない?」

 

「いかねーよ。あと、俺がGSだって絶対言うなよ」

なに恥ずかしげもなくそんな事言ってくるんだ?こいつは。

 

「えー、まいっか。キャラじゃなさそうだし……比企谷がGSだってのは私と比企谷の秘密だし、言わないって、…その今も仕事が忙しいんでしょ?」

 

「まあ、そこそこな」

 

「そういうわけで、比企谷、これからもよろしくね!」

笑顔の折本は先にコミュニティセンターに駆けて行く。

 

「どういうわけなんだよ」

俺は折本の後姿を見ながら小声で一人ぼやく。

 

 

 

俺もコミュニティセンターに向かって歩むが、緊急連絡が入る。

 

『比企谷君、緊急時案よ!また例の同時多発霊災。今度のは数が多い。東京で7か所、横浜、埼玉にも派生してる。千葉では丁度あなたがいるコミュニティセンターの近く。千葉駅のショッピングモール地下通路よ!周囲のGSも向かってるけど、あなたとおキヌちゃんが一番近いわ。あなた達も行きなさい』

美神さんからだ。

同時多発霊災、先月もあったばっかりだぞ!

よりによってこんな時に……

しかも、クリスマスイブにかよ……街中は人でごった返してるはずだ。早くしないと人的被害が大きくなるな。

 

「わかりました。相手は?」

 

『不明よ。警察が先に駆け付けたらしいけどね……こっちの対処しだいそっちに向かうわ』

 

「了解です」

 

『横島の奴がいない時に………気をつけなさいよ』

 

「はい」

通信を切った。

 

キヌさんが制服にエプロン姿のまま、駆けてきた。

「比企谷君!」

どうやら、俺より先に美神さんから連絡があったようだ。

 

「キヌさん。ここから400mぐらいですね。走った方が早い」

俺はスマホのGPS機能で場所を特定する。

 

「行きましょう」

 

 

ショッピングモール地下入口に到着すると警察がバリケードを張っていた。

俺とキヌさんはGS免許を警察官に見せ、地下へと入る。

 

「ホビットが数体見えますね」

50cm程の小さな人型が地下通路の店舗内を漁っていた。

 

「全部で3体それ以外は居ません」

俺は霊視空間把握能力を発動させ、地下一体の周囲の状況を確認する。

 

「おかしいですね。ホビットが3体だけなんて……発生するときは5体以上は発生するはずなんですが……しかも、こんな子供が喜びそうな物がないところで」

ホビットとは妖怪というよりも、妖精に属している存在だが、遊園地などの遊戯場で発生する。子供の楽し気な霊気に惹かれ発生するともいわれているのだ。キヌさんの言う通り、こんなところで自然発生するものではない。

まあ、ランク的にはDもしくはEランクに属する存在でそれ程脅威にはならない。

 

「……無理やり召喚陣で召喚したんでしょう」

 

「比企谷君ここは私に任せて」

キヌさんはそう言うと、ミサンガのような飾りを手首から外す。

するとそれは、横笛に変化する。

ネクロマンサーの笛だ。

 

キヌさんがネクロマンサーの笛でメロディーを奏でると、暴れてたホビット達は大人しくなり、キヌさんの前に並ぶ。

調伏が完了したようだ。キヌさんはネクロマンサーの笛に霊力を送る事によって霊やアンデッドなどの死者全般を、さらに低位ながら妖怪、妖魔、妖精や精霊まで操る事が出来るのだ。

 

「あなた達は、どこから来たの?」

キヌさんはホビット達に優しく問いかける。

 

ホビット達は一斉にある一点を指さす。

地下通路に半開きの扉があった。

 

ホビット達に札で封印を施してから、俺はその扉を開ける。

さらに地下へと階段があった。扉表には、電気排水設備室と書かれていた。

俺はこの下の設備室に召喚陣が何らかの形で置かれているのだろうと予想する。

発生原因を調査すべく、地下階段へと降りる。

今の所、霊気などは感じられない。

 

その間、キヌさんは美神さんとGS協会に霊災対処終了の連絡をしていた。

 

地下設備室へと降り立った俺の霊感が急に騒ぎ出す。

やばい……なんだこれは?

 

俺は直ぐに引き返す選択をするが……遅かった。

俺の足元から何らかの術式が展開し、設備室の奥側へと術式が連なり光り出した。

設備室の奥の壁は、西洋の召喚魔法陣と思わしきものが柴色に発光し、発動したのだ。

 

罠だ!

俺の一歩が術式を起動させるスイッチになった!

そして、召喚魔法陣が起動する仕組みだ!

 

俺はとっさに札を取り出し結界を張り、霊視空間把握能力を発動させ、さらに霊力による身体能力向上させる。

 

魔法陣から召喚されたのは、全身黒色の体長2メートル位ある犬だ。しかし頭が二つある。

……ガルムだ!

魔獣ガルム、地獄に住むと言われるBランクの地獄の炎を操る魔獣だ!

 

現れた瞬間にガルムは青白い炎を吐く。

結界を張ったおかげで俺への被害はないが、設備室の地下通路のための電源などがショートし焼き切れ、明かりはすべて消える。

上ではモールの地下通路は停電となっているだろう。

 

「比企谷君!!その霊圧は!!」

階段の上の方からキヌさんの声がこだまする。

 

「キヌさん来ないでください!!ガルムです!!ここから出したらどれだけの被害が出るか!!俺が抑えてます!!」

俺は札を取り出しさらに結界を張り、炎を抑える術式を壁や床、天井など至る所に展開させる。

ガルムの炎を抑えるためだ。この狭い空間で地獄の炎を吐かれると、結界もそれほど耐えられるものではない。さらに、結界がなくなった後は俺は一撃でお陀仏だ。

奴の炎を抑えなければならない。

 

「比企谷君!!応援が来るまで何とか頑張ってください!!でも危なくなったら逃げて!!」

 

「はい!!」

 

ガルムは炎が効果が無いことに気が付き、炎を吐くのをやめ、結界をその毒を含む爪で何度も引っ掻く。

結界の耐久力が徐々に落ちて行く。

 

俺は地下通路への出入口となる階段を上る。その際にも札を使い、炎を抑える術式を展開させていく。

階段の中頃当たりで足を止め、踵を返し待ち構える。

 

ガルムがついに結界を破り、こっちに向かってくるのを感じる。

階段に奴の影が映る。

 

俺は右手に霊力を集中させ……

奴が狭い階段に差し掛かったところを見計らい、右手に集中させた霊力を変性させ、……霊波刀を発動させる。

 

ガルムが一気に階段を駆け上り俺に襲い掛かろうとする所を、俺は狙い撃ち、ガルムの首筋に霊波刀を突き刺す。

 

「手応えありだ!!」

 

俺はガルムに突き刺した霊波刀をそのまま切り払う。

ガルムの突進力と相まって、ガルムの首から下を真っ二つに切り裂いた。

 

ガルムは勿論絶命するが、俺はガルムの血を浴び、紫色に染まる。

 

「ふぅ……何とかなった」

ガルム……キヌさんと以前GS試験のペーパーテストの勉強をした時に、出てきた魔獣だ。

地獄の番犬。動きが素早く。地獄の炎を吐くと。その毛皮は防御力がかなり高いとあった。

警戒すべきは炎だ。設備室の狭い空間では、炎を避けることができない。さらに動きも素早いと……ならば、強力な結界を張りつつ、炎を抑え、狭い空間に誘い込み仕留める作戦を思いつき、階段に誘い込んだ。

そして、俺が今持てる技の中で、最大の攻撃力を誇る霊波刀で仕留めたのだ。

 

以前Sランクの茨木童子と対峙した事のある俺は、Bランクの魔獣に対して冷静に対処できた。

ガルムを目の前にしても、あれほどの脅威を感じなかったからだ。

まあ、茨木童子みたいなのに比べれば当然なんだが……

 

じっとしてるわけにもいかない。また召喚魔法陣が発動して、ガルムが出てきても困る。

俺は召喚魔法陣の凍結を試みる。変に魔法陣をいじって解除しようとして、とんでもない事になっても困るしな……そんな技量もない。

残りの札を使い。魔法陣が発動を阻害する結界を張る。発動する前であれば、俺でもこの程度の事は可能なのだ。

 

「比企谷君!!大丈夫ですか!!」

キヌさんの声が上の方から機械室へと響く。

「何とかガルムを倒しました」

俺は設備室から階段へと昇る。

 

キヌさんは通路側の扉を開けライトで階段を照らす。

「きゃー、比企谷君大丈夫なんですか!?」

血まみれの俺を見て驚いたようだ。

 

「ああ、これですか、そこの死骸の血を浴びただけです」

魔獣ガルム程の存在がある魔獣だと、死しても肉体は滅ばず、死骸として残る。

 

「比企谷君はやっぱりすごいですね。一人で魔獣ガルムを倒せるなんて、私が地下に先に入っていたら、どうなっていたか……」

 

「そうですか?一匹だけだったんで、複数いたらヤバかったですね。でも沢山いても美神さんや横島師匠とかなら、瞬殺じゃないですか?」

 

「あの人たちは別ですよ」

 

「……キヌさん。これ罠ですよ。明らかにGSを狙った罠です」

ホビットはGSをおびき寄せる餌。ホビットを倒したGSが周辺調査に入ったさい、より強力な魔獣や妖魔を召喚させる罠を張っていたのだ。

そして、ここではガルムの召喚魔法陣は設備室に入ってくる人間の霊気に反応して、発動する仕組みになっていた。俺が不意に踏み入れた設備室の床には発動するための術式が張り巡らされていたのだ。俺がその術式に足を置いた瞬間、一瞬霊気を吸い取られるような感覚を覚えたため、そう推測した。

 

「………そうですか、とりあえず比企谷君はここでシャワー借りて、着替えないと。その間、現場検証は私の方でやっておきます。応援の他のGSも来ますし」

 

「わかりました」

キヌさんのこの場を任し、俺はこのモールの係の人の案内で従業員用のシャワーを借りる。

幸いにも、この設備室はモールの地下通路だけの電源や排水系のポンプなどを扱っていたとの事で、他の地下売り場や、上階のショッピングモールには影響はなかったようだ。

 

着替えの服や下着はショッピングモールの方が用意してくれたため、ガルムの血で汚れた制服で外をうろつく羽目にならないで済んだ。

 

俺はさっさとシャワーと着替えを終わらせ、現場へと戻る。

すると何人かの応援に来たGSと警察が打ち合わせを行っていた。

俺も現場検証に加わり、やるべきところまでは終わらせる。俺の見立てでは、犯人の手がかりとなるものは一切残っていない。ただ、これだけの知識と仕掛けが出来るやつだ。そこそこ有名な奴だろうとは思う。

細かい検証は警察と後で来るだろうオカルトGメンに引き継ぐとの事だった。オカルトGメンは人材不足だ。この同時多発霊災でてんてこ舞いだろう。この現場に来るのは明日や明後日になるかもしれない。

 

「比企谷君のおかげでここの被害は最少で済みました。でも他の現場では……今も被害が拡大してる場所があって、美神さん達が急行したそうです」

キヌさんの話によると、美神さんとシロ、タマモは速攻で一つの現場を終わらせたのだが、他の現場で応援要請があり、そこに向かったということだ。

美神さんが最初に行った現場でも罠があったそうだが、発動する前に処理したそうだ。

流石美神さんだな……

 

「東京は優秀なGSが多いと言っても、同時に7か所か……しかも、近郊都市も含めると10数か所ですね。俺たちも応援に行かなくても?」

東京にはSランクGSとAランクGSが多く在住してるが、さすがに、同時にこれだけの数を緊急で対処できるものではない。

 

「美神さんは後は大丈夫だと言ってました……私たちが今から向かっても、間に合わないから……」

キヌさんの表情は暗い。

多分、被害が拡大した場所は、人的被害もでたのだろう。

 

「……そうですか。なら、クリスマス会に戻りますか?まだ間に合います」

 

「そうですね。途中で抜けちゃいましたから、あやまっておかないと」

 

「キヌさんが抜けた穴は痛いですからね。キヌさんみたいに料理が出来る生徒が雪ノ下以外にいるとは思えませんしね。俺は元々役目が無かったからいいですが」

 

「それを言わないでください」

キヌさんは困った顔をする。

 

 

俺とキヌさんが戻るとクリスマス会は既にエンディングセレモニーの最中だった。

 

料理教室では、雪ノ下と由比ヶ浜や六道女学院の生徒達が食器や器具の後片付けを行っていた。

 

「ごめんなさい。途中で抜けてしまって」

キヌさんが料理教室の皆に頭を下げると、六道女学院の女子生徒達がキヌさんの周りに集まってくる。

「お姉さまは大変なご用事なのですから仕方がありませんわ」

「お姉さまのご活躍を是非拝見してみたいですわ」

「お姉さまの穴はわたくしが埋めましたの」

「お姉さま、わたくしは頑張って、食器を洗いましたの、褒めてくださいまし」

 

……なに、この百合百合した空間は、しかもなぜ全員キヌさんをお姉さま呼び?

どうやら、ここに来てる六道女学院の生徒はキヌさんがGSだと知ってるようだな。

まあ、六道女学院の霊能科でも有名らしいからな、キヌさん。

 

「比企谷君、氷室さんから緊急事態で抜けないといけない事は聞いていたわ」

「ヒッキー、制服どうしたの?ケガとかしてない?」

雪ノ下と由比ヶ浜はどうやらキヌさんから、GS関連の緊急事態で抜けることを聞いていたようだ。

 

「ああ、途中抜けてすまなかった。まあ、大丈夫だ。制服は汚れたがな」

 

「そう、ならいいのだけど」

「よかったあ」

 

「こっちの方どうだ?」

 

「順調よ。一色さんが上手くやってるわ」

「うん、劇も可愛くてよかったよ!ケーキもクッキーも美味しかったし!はい、ヒッキー、ケーキのあまり」

どうやら、司会の一色はよくやってるらしい。

 

終演のアナウンスが聞こえてくる。

「無事、終わったようだな」

 

 

そうしてクリスマス会は成功の元、イベントは無事終了する。

 

この後の飾り付けの片づけやら、学校から持ち込んだものやらを運ぶ作業で随分時間を食った。

一番多かったのは、一色がコミュニティセンターに持ち込んだ私物か生徒会の備品なのかよくわからないものだ。俺はそれを手伝い。ついでに生徒会室の片づけまでさせられた。

俺が途中でいなくなった事に対してのペナルティ的なあれで半強制的にな。

一色は俺がGSって知らないし、仕方がない事だが。

 

ようやく、一色に解放され部室に戻ると……

雪ノ下と由比ヶ浜が待っていたようだ。

「お疲れ様」

「ヒッキー!お疲れー」

 

「そっちもな、お疲れ」

俺はいつもの席に座ると、雪ノ下はパンダのパンさんがプリントされた湯飲みに紅茶を入れてくれる。今迄は紙コップだったのだが……

 

「……それ、クリスマスプレゼントよ」

「ゆきのんと二人で選んだの」

 

「俺は何も用意してないぞ……」

 

「別に、紙コップ替わりよ」

気恥しそうに言う雪ノ下。

 

「ありがとな。なんか用意するわ」

 

「別にいいよ。ヒッキー、あっ!だったら、3人でクリスマス会やらない?明日ゆきのん予定ある?ゆきのんにケーキ焼いてもらってさ!」

 

「予定はないのだけれども。嫌よ。今日ケーキをどれだけ焼いたと思ってるの?」

 

「えーー、いいじゃん!じゃあ、あたしが作るし」

 

「……え、なにこれ、俺も参加することになってるの?」

 

「ヒッキー、昼間は暇でしょ?夜はお仕事かもしれないけど!」

 

「……休日は普通に昼間も仕事あるんだけど」

 

「由比ヶ浜さん……ケーキは私が焼くからいいわ」

 

「……俺の話聞いてる?」

俺はどうやら強制参加らしい。実際明日の昼間は特に用事がない。夜から事務所に行く予定だ。

 

 

今年はいろいろとあったな。まさか俺が部活に入ってこんなことになるとは、一年前では考えられなかった。

なんだかんだと言って平塚先生には感謝だな。

そして、GSと名乗っても受け入れてくれたこいつらにも心の中で礼を言う。

 

 

 

翌日、ニュースで同時多発霊災の件が報道される。

実際、東京都で起こった同時多発霊災の一つは、人的被害が100人弱出てる。

連日このニュースが流れているが、テロである可能性も指摘されてる。

さらにライトなニュースではクリスマスイブで起きた事を、大きな厄災の前兆ではないかとまことしやかに報道されたりした。

 

実際、政府筋や警察やオカルトGメンやGS協会の間では、テロと断定してる。

首都圏で起こった同時多発霊災は、俺とキヌさんが急行した現場同様、全て罠が仕掛けてあった。

しかも、俺が嵌ったような罠だ。C~Bランクの魔獣や妖魔をご丁寧に用意していたのだ。

同時多発霊災個々はそれほど大きな霊災ではなかった。E~Dランク程度の妖怪などが暴れていた程度だ。その後の罠に強力な魔獣や妖魔が召喚されるようになっていた。

これに何の意味があるのか……ただ俺はGSを狙った罠に見えて仕方がない。

 

オカルトGメンはこの犯人を躍起になって探すことになる。

そのせいで、シロとタマモがまた、オカルトGメン出向扱いに。

それはまた、年明けの話だ。

 

俺はこの冬休みを利用して霊能者としてGSとして大幅にパワーアップを図る。

横島師匠が俺を行きつけの修行場に連れて行って、みっちり修行を付けてくれるというのだ。

なんでも、俺が霊能者として一皮むけたかららしい。

相当厳しい修行場らしいが、どんな修行でも耐える自信はある。

どう考えても、美神さんのシゴキより、恐ろしいものは無いだろうから……




次の章はメインがもろGSです。
……ついにあの方登場します。



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