やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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新学期編。ようやく始業式です。


(54)噂

1月5日

新学期、学校では体育館で恒例の始業式に参加させられ、長ったらしい校長の挨拶が始まる。

必殺、その場でぼーっとするを使い、時間を有意義に費やすとする。

 

一昨日の六道冥子さんの式神逃亡事件は、何とか秘密裏に対処ができた。

どうやら、メディアやなんやらに嗅ぎ付けられることなく、何とかなったようだ。

昨日事務所に呼ばれて、美神さんと美智恵さんに褒められたが、陽乃さんに手伝ってもらったと報告したら、昨年の一件以降、土御門家を毛嫌いしてる美神さんの機嫌が一気に悪くなる。美智恵さんはその横で澄まし顔だ。

だって、仕方がないだろ?最強クラスの式神、十二神将の封印なんて俺に出来るわけがないんだ。

いくら、霊的能力が修行で上がったって、知識や経験とさらに適性がないと出来るわけない。

美神さんや美智恵さん、唐巣神父みたいに経験豊富じゃないんだから、無茶は言わないで欲しい。

まあ、機嫌が悪くなっただけで、怒ったりはしなかったけどな。その辺は重々理解してるのだろう。

 

その後、六道冥子さんと母親の六道会長が、わざわざお礼に来た。

冥子さんに涙ながらいきなり両手を握られ、お礼を言われた時には焦った。

可愛らしい女性に手を握られて緊張してとかじゃないぞ。泣いて式神暴走するんじゃないかと焦ったのだ。手を握られた状態だと逃げることもできない。十二神将揃い踏みで暴走されたら、俺の命なんて、一瞬で吹っ飛んでしまうだろう。

後で美神さんに聞いたのだが、母親の六道会長が居る場では、六道会長が式神をコントロールするから暴走はしないそうだ。

ただ、先日みたいに、2人とも酒飲んでダウンすると、もうダメみたいだな。

一昨日、美神さんの実家に遊びに来た六道親子は、そこに置いてあったお酒を水かジュースかに間違えて飲んでしまったらしいのだ。

しかし、美智恵さんならそんな事になるのがわかってるはずだ。なのに六道親子の前にそんなものを置くかな?まあ、正月だし、美智恵さんも少々酔っていたに違いない。

 

それで六道会長に騒動のお礼にと、小切手で金一封貰ったんだが、その額を見て俺は驚き、目が点になる。桁が一つ多い様に思うんですが。

多分これは口止め料だろう。日本屈指の霊能者の家系、六道家のご令嬢の不始末など、マスコミの恰好の餌食だ。にこやかな六道会長の顔が何故か恐ろし気に見える。……気にしないでおこう。

タマモも金一封貰ってたな。多分全部本に消えるのだろうが。

六道会長にも一応、陽乃さんに手伝ってもらったことを話すと、土御門家にもお礼をしないと、とにこやかに、話していた。

西の陰陽師の大家、土御門家。東の陰陽師の流れを組む式神使いの大家、六道家。

東西の霊能者の大家だけあって、仲が悪いかもしれないなと漠然と思っていたが、そうでもないのかもしれない。

 

昨日の昼はまだ、横島師匠もキヌさんもシロもまだ帰ってきてなかったな。

代わりに俺が、お茶菓子の用意と掃除をさせられたが。

 

 

俺は体育館から教室に戻り授業の準備をする。妙に視線を感じる。

なんだ?

 

そこに天使登場。

「八幡、明けましておめでとう」

 

「お、おう、おめでとさん」

 

「今年もよろしくね」

戸塚の笑顔が眩しいんだが、今年はいい事が起きそうな予感がする。

 

「おう」

 

 

そこに不意に葉山の声が耳に入って来る。

「誰がそんな事を言ったんだ?」

葉山にしては語気が強く、攻撃的な言葉だ。

 

「い、いやー、噂になってるべ。隼人くんが雪ノ下さんとオシャレして年始に一緒に歩いていたって」

戸部はそんな葉山に弁解するように答える。

あれだな、雪ノ下家と葉山家に年始挨拶回りをしてる姿を見られたんだな。二人で喫茶店とかで待機してたしな。

 

「それ、俺も聞いた。隼人君と雪ノ下さんが付き合ってるって、学校中に噂にな、な、大和」

同じ葉山グループの大岡が戸部のフォローをする感じで、大和にも同意を求めていた。

 

「根も葉もない噂だ。俺と雪ノ下さんはそんな関係じゃないし、そんな事を信じるもんじゃない」

葉山は、顔をしかめ強く言う。葉山がこんなに感情を出すのは珍しいな。

雪ノ下に関係してるからか?雪ノ下と葉山の二人は幼馴染らしいが、雪ノ下は葉山に対して一方的に厳しい態度をとっている。過去に二人の間に何かあったのかもしれないな。

 

「そうだよな、噂は噂だよな、な」

大岡は葉山の形相に焦りながらも、そう言うと、つられて大和も頷いていた。

 

「そうだと思ってたんだよな。どうせテキトーな噂だべ。だってさー、ヒキタニ君が超絶金髪美女とデートしてたとか、オシャレ系美人お姉さんとデートしてたとか男連中の間で噂になってるとか、それは流石に無いべ」

戸部がとんでもない事を言い出した。

おいー!!その噂!!詳しく聞こうか!!

なんだそれ!そんなの噂になってるのか!?だから今朝から視線が俺に?

 

「八幡。彼女が出来たの?」

戸塚も戸部の発言が聞こえたのか、俺に首を傾げながら聞いてきた。

何そのしぐさ、かわいい。言ってる場合じゃない。

 

「いや、根も葉も無い噂だ。そんな事を信じるなんて、よっぽど暇なんだな」

俺は葉山の口調を真似をして、言ってみた。

 

「八幡、似てないね」

戸塚は苦笑する。

自分では似てると思ったのだが……

しかし、見られていたのか、確かにタマモとはあの後自宅まで、一緒に帰ったし、モールでは陽乃さんとも行動を共にしてたからな。

 

そういえば、陽乃さん。あの後、将来の旦那さん発言を母親と雪ノ下に冗談だったと弁明してくれたのだろうか?

奉仕部に行くのが怖い。

 

 

放課後、足取りを重くし、奉仕部へと向かう。

 

「うす」

 

「あら、比企谷君。いいえ、お義兄さんとでも呼べばいいのかしら?」

雪ノ下の、のっけからの凍てつく視線攻撃だ。

ほら、全然誤解が解けてない。あの人、絶対ワザと弁明してないな!

 

「だから、あれは雪ノ下さんの冗談だと言っただろ?雪ノ下さんは何か言ってなかったか?」

 

「あの後、姉さんは京都に帰ったままよ。電話しても出ないわ。それにしても随分姉さんと仲がよろしいようで、将来のお義兄さんの女たらし谷くん」

ひと昔の、雪ノ下に戻ったかのような、冷たい視線に毒舌だ。

 

「違うって言ってるだろ。あの人は俺を使って遊んでるだけだ。何時もの奴だ」

 

「母さんの前でも、よく冗談を口にしてたのだけど、重要な件であんな冗談を言う事は無かったわ。母さんもかなり冠で、あなたの事を色々聞かれたわ」

 

「はぁ、何考えてるんだか……」

俺はため息しか出ない。

雪ノ下の母ちゃんってなんか怖そうだったし、直接俺に尋問しに来たりしないよな。

 

「あなたの態度を見てると、どうやら姉さんの冗談だったようね」

どうやら雪ノ下はわかってくれたようだ。

 

「俺は隠し事はするが、嘘はなるべく言わん」

 

「あなたね、それは全く弁明になってないわよ」

雪ノ下は呆れたように言う。

 

 

勢いよく、奉仕部の扉が開く。

「ヒッキー―――!!陽乃さんの旦那さんになるってどういう事!!」

またか。しかし何でお前、そんなに怒ってるんだ?由比ヶ浜。

 

「あれは、雪ノ下さんの冗談だって言っただろ?」

 

「だって!!ゆきのんのお母さんも、めちゃくちゃ怒ってたし!!」

 

「俺にはその気は無い」

 

「ヒッキー、ほんと?」

 

「ああ、本当だ」

 

「うーー、陽乃さんって美人でお金持ちだし、GSでちゃんと仕事してるし、優しそうで、ヒッキーの事を好きそうだし!それに、ヒッキーこの前、昔はヒモになりたかったって言ってたじゃん!」

恨めしそうに俺を見つめる由比ヶ浜。

 

「おい由比ヶ浜、間違えるなよ。ヒモじゃない、専業主夫だ」

ヒモと専業主夫は大違いだ。ヒモはただ単に、奥さんの利益を吸い上げるだけの存在だ。

専業主夫は家庭を守り、家の一切合切を取り仕切る。要するに働く奥さんとはギブ・アンド・テイクな関係なんだ。そこは間違えるなよ。

 

「あなた、そこは否定しないのね」

やはりというか、やっぱり呆れる雪ノ下。

 

「はぁ、俺は雪ノ下さんとは、いわば、商売敵みたいなもんなんだぞ」

 

「うー、わかった。ヒッキーを信じる」

何でそんなにこだわるんだ?俺が陽乃さんともし、いや、万が一、将来を誓い合った許嫁だとして、由比ヶ浜に何の不利益があるんだ?

 

 

「一旦落ち着きましょう」

雪ノ下はそう言って、ティーセットの用意をし、紅茶を俺達に入れてくれる。

その際、由比ヶ浜に誕生日プレゼントで貰った猫のミトンをつけていた。

どうやら、気に入ってるようだ。

 

「それにヒッキー、変な噂になってるよ。ヒッキーが年始に綺麗な女の人とデートしてたって、多分、あの日のタマモちゃんと陽乃さんの事だと思うけど」

紅茶を息を吹きかけ、冷ましながら、由比ヶ浜は顔をしかめていた。

 

「まあ、俺の噂など直ぐに消えるだろ。嫌われ者の俺のそんな噂なんて、面白くもなんともないからな」

俺は紅茶を飲みながら答える。

 

「あとね、その」

由比ヶ浜は何かを言いたげだが、言い難そうにする。

多分あれだ。雪ノ下の噂の事だろう。

 

 

部室に扉にノックする音が響く。

雪ノ下がどうぞと入室を許可すると。

「こんにちはー!あっ、明けましておめでとうございますですね」

間違えちゃったテヘ、みたいな感じで、あざとく可愛らしさをアピールしてくる女子生徒が、と言うか生徒会長の一年の一色だな。

 

「いろはちゃん。やっはろーあけおめー」

「一色さん、明けまして、おめでとうございます」

由比ヶ浜は独特な挨拶を、雪ノ下は丁寧に挨拶を返す。

 

「おめでとさん」

俺も挨拶を返すのだが、一色は俺の方に駆け足で寄って来る。

 

「先輩!金髪美少女ってどういうことですか!!なんかモデルみたいなお姉さんともデートしてたとか!!」

 

「あー、お前もか」

こいつは噂とかに敏感だからな。

 

「まあ、私は、先輩が誰と付き合おうと関係ないですが」

何故かツンツンした感じで言ってくる。

関係ないんだったら別に聞くなよ。

 

「そうか」

俺はそんな一色に適当に相づちを打ち、鞄から本を取り出す。

 

「むーー、何ですかその態度、先輩の癖に生意気です。生徒会としてもこの噂の真偽を確認しないといけないんです」

 

「生徒会にそんな仕事はないぞ一色」

生徒会が一生徒の噂の真偽など、調べる必要性があるわけがない。

 

「いろはちゃん。多分それ、デートとかじゃないよ。ヒッキーのバイト先の人と、たまたま会ったゆきのんのお姉さんの事だから」

由比ヶ浜が苦笑しながらフォローしてくれる。

 

「えーー、そうなんですか?なんで結衣先輩がそんな事を知ってるんですか?」

 

「あたしもその場にいたから、なんであたしだけ噂にならなかったんだろ?」

そりゃそうだろ。俺と由比ヶ浜が付き合ってるなんて誰も思わないはずだ。

俺と由比ヶ浜が同じ部活だと知ってる奴もそこそこ居るだろう。

結構な時間共に活動してるが、そんな風に見られたことも無い。

と言う事は、学校の連中は、人気があって美少女の部類にはいる由比ヶ浜が俺なんかと付き合うはずがないと、理解しているからだ。

それは雪ノ下と俺にも言えることだろう。

 

「まー、そんなことだろうと思ってましたが、ヘタレな先輩が二股なんてありえないですからね」

何、一色、なぜそこで俺をディスるんだ?思ってても口に出して言うなよな。雪ノ下の毒舌がのりうつったのか?

 

一色はその後、雪ノ下の目の前まで来て、会議用テーブルを挟んで椅子に座る。

「雪ノ下先輩、ちょっといいですか?」

 

「何かしら、一色さん」

 

「雪ノ下先輩はー、その……葉山先輩と付き合ってるんですか?」

 

「何を言ってるの一色さん。冗談もほどほどにしなさい」

雪ノ下は絶対零度の視線に一色を見据える。

あの、めちゃ怖いんですが雪ノ下さん。見てるこっちまで寒気がする。

 

「あははははっ、ですよね。でもでも、学校中で噂になってるんですよね。その雪ノ下先輩と葉山先輩が付き合っていて、年始にデートしてたって」

一色は雪ノ下の凍てつく視線に身じろぎしながらも、渇いた笑いで誤魔化しながら、核心に触れる。

 

「誰がそんな根も葉も無いでたらめを流したのかしら、実に不愉快だわ」

雪ノ下は表情までもが凍り付いたかのように硬直し、切って捨てる様に吐く。

相当、腹に据えかねているな雪ノ下は。

一色の奴、何地雷ふんじゃってるんだ?それはタブーだぞ。

 

「で、ですよねー」

一色は雪ノ下の迫力に押され、顔を引きつらせていた。

 

 

 

そこにまたしても、奉仕部の部室に扉をノックする音が響く。

どうぞと間延びした声で、由比ヶ浜が返事をする。雪ノ下が絶賛憤慨中だったので、由比ヶ浜が返事をしてくれたのだろう。流石は空気を読むことに関しては定評がある由比ヶ浜さん。

出来れば、俺に関することにも空気を読んでほしい。

 

「ちょっといい?」

そう言って入ってきたのは意外な人物だった。

しかし、その人物はいつもの迫力がない。何かに怯えてる様にも見えた。




次は久々に奉仕部に依頼です。
勿論依頼者はあの子です。

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