やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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前回の続きです。




(57)温泉旅行は回避したい。

 

「さあ、吐きなさい。姉さんに何を約束させられたのかを」

「ヒッキー!陽乃さんと仲良さげだし!何の約束したし!」

雪ノ下と由比ヶ浜は俺に迫って来る。

 

なぜか、刑事に尋問される容疑者のようになってるんだが。

俺は何も悪いことはしていない。

ただ、陽乃さんと温泉旅行に行く約定を取り付けられたってことだ。

いや、それが非常に不味いのだ。

もし、陽乃さんが俺を婿にし、関東における土御門家を立ち上げると言う話が本気なのであれば、俺の相手は陽乃さんだけでなく、土御門家がバックにあることになる。

さらに、この件はあの美神美智恵さんが一枚かんでいるのだ。

陽乃さんだけでも厄介なのに、さらに土御門本家と、あの美神さんさえ手玉にとる美智恵さんが敵にまわるとか、絶望的なのだ。

 

そして、陽乃さんは土御門家当主である土御門風夏さんに俺が卒業するまでに俺を落とすと宣言した。

陽乃さんは本気なのかどうなのかが、俺にはいまいちわからない。

確かに陽乃さんは美人でスタイルもいいし、頭も切れる。GSとしての実力も高く、普通に考えればかなりの優良物件なのだが、その性格がちょっとぶっ飛んでるのだ。まあ、美神さんとか小笠原エミさんとか六道冥子さんとかに比べれば大分ましだがな。

俺はGS試験以前の陽乃さんの事を今迄、恋愛や結婚対象として見たことも無い。逆にあの外面仮面に警戒し、マイナスイメージを持っていたまであるのだ。

 

それが何故かこの急展開に……

しかも俺は困惑しっぱなしの中、攻められ続けられているのだ。

陽乃さんは俺のどこが気に入ったのかがさっぱりわからない。

俺は顔もこの腐った目さえ気にならなければ、悪くはない。性格は小町曰く、めんどくさいと、俺も自分でもそう思う。

あれ?俺のいいところってなんだ?冷静に自己分析ができるとか、勉強がそこそこできるとか?いやいや、女性にとってそこは大事なことか?

やはり陽乃さんは俺の霊能力に目を付けたのだろうな……

青臭い事を言うようだが、俺の能力を有用だからという理由だけなら、即お断りだ。

確かに昔は有能な女性と結婚して専業主夫などと、多大な理想を抱いていた事もあったが、それでも好きな人とは恋愛をした上で結婚をしたという思いも漠然とはあった。

 

まあ、今俺が好きな人がいるのかと問われても困るが……

理想としては、やはりキヌさんだな。あの人とだったら恋愛をしてみたい。ただその夢は既に破れたけどな。

今でも女性としては見てる面はある。やはり俺の目から見ても理想な女性像なのだ。だが敬愛や尊敬の念の方が上回っている。

そして、最近では小竜姫様だ。これまた。即、夢を絶たれたがな。

理由はすべて俺の師匠である横島忠夫が原因だ。二人とも横島師匠が好きなのだ。

小竜姫様には面と向かって言われたしな。流石にショックはでかい。

しかし、相手があの横島師匠ならば、諦めが付く。

とは言いつつも、悔しいものは悔しいのだ。

あれだぞ、凡その全世界の男どもの理想がすべて詰まったような女性なのだぞ。

キヌさんは現世に現れた聖母そのものだ。小竜姫様は理想のファンタジーヒロインそのものだ。

………やはり、納得がいかん。

しかもあの師匠に惚れてるなんて!確かに優しかったりするが、普段は変態だぞ!もうどうしようもないぐらいの変態なんだぞ!世間様に後ろ指さされてるんだぞ!

 

今となってはという感じだが、キヌさんも小竜姫様も2人はどちらかというか、テレビで見てるアイドルのような存在だ。

だから、生の恋愛とは違うような気もする。

ただ、目の前に居て、話をし同じ時間を過ごせるから……恋愛対象としての好意と俺が勘違いしているだけなのかもしれない。

 

昔、折本に告白したことがあるが、あれは明らかに違う事だけはわかる。

クラスでも人気のある折本の表面しか見ずに、勝手に自分の中で作り上げた折本像に告白していただけなのだ。振られて当然だ。

 

ごちゃごちゃと語ったが要するにだ。俺は恋愛についてはさっぱりわからないのだ。

何が正しくて、何が間違っているのか。

高校になって、2年経とうとするが、正直、自身の霊障やら、GSの仕事や修行でそれどころじゃなかったというのもあった。だから恋愛については、全く考え無くても良かったのだ。わざとシャットアウトしてきたのかもしれない。

 

そこで、急に湧き出た話がこれだ。

陽乃さんによる一方的な婿になれ宣言だ。

恋愛とか一切合切をすっ飛ばして、最終ゴールからの告白だ。

好きだと面と向かって言われたわけでもなく、いきなり婿になれだぞ。

俺が困惑するのもわかるだろ?

 

陽乃さんは土御門家や自分の地位のために、霊能力者である俺を土御門家の傘下にいれるため、好きでもない俺を婿にしようとしてるのかと。

時代錯誤にもほどがある。戦国時代の発想だぞ。

陽乃さんはそれでいいのだろうか?

いや、間違いなく陽乃さんはモテただろう。もう男との付き合いやら恋愛やらは掃いて捨てるほど、既にやってきたのかもしれない。だからもうその辺には未練が無いと……

 

だからって、恋愛もまともにしたことも無い俺が、そんな打算にまみれた理由で俺と結婚しようとするなどと、そんなものに同意できるわけがない。

何としても回避したいのだ。

 

それで、この温泉旅行だ。

下手をすると、既成事実を作られるかもしれない。

俺も男だ。陽乃さんが本気で色仕掛けを仕掛けてきて、いつまでも耐えられる自信は無い。

恋愛感情とかそういうものをすっ飛ばして、そんな一時の快楽のために身を捧げてしまうかもしれない。そんな自分が自分でなくなるようでそれが怖い。

 

俺に回避できるだろうか?

いや、温泉旅行に行ったとしても、回避し続けるしかないのだが……どこまで耐えられるか。

強硬手段で、土御門の術式などを使われた日には、もはやどうすることもできない。

 

 

致し方が無い。横島師匠にでも相談するか?

いや、横島師匠にこの件を相談するのは気が引ける。ああ見えて昔、結婚前提にした恋人を亡くしたらしいからな。

 

キヌさんは?

ダメだダメだ。キヌさんに恋愛事を相談などと、流石に気恥しいぞ。

 

美神さんは……

や、やめておこう。陽乃さんの身が危ない。土御門の関係者を嫌ってるしな。下手をすると再起不能に……あの人、容赦という単語を美智恵さんのお腹の中に置いてきてしまったようだしな。

 

美智恵さんは、既に土御門側だしな。

西条さんは出張中か。

 

シロは子供だし、タマモは……

 

 

「ヒッキー!ヒッキー!?どうしたの?」

「比企谷くん、比企谷くん!」

気が付くと由比ヶ浜と雪ノ下の2人の顔が間近にあった。

心配顔で俺の顔を覗き込んでいた。

 

「い、いや、なんでもない」

どやら、俺は思考の渦に嵌っていたようだ。

 

「何でも無いってあなた、急に黙り込んで、眼が死んでるわよ?」

「ヒッキー大丈夫?」

 

「………」

 

「姉さんとの約束、それほど大変な事なのね。私から姉さんに言って聞かせるわ」

「ヒッキー、ごめんね。なんかその、大変なんだね」

何故か俺に同情の目を向ける二人。

俺は思考の渦に陥った時に、よっぽどひどい顔をしていたのだろうか?

 

「ち、ちょっとな」

 

「ちょっとどころじゃないわ。あなたの様子」

「ヒッキー……何を約束させられたの?」

心配そうに尋ねてくれる雪ノ下と由比ヶ浜。

 

「………」

どうしたものか、由比ヶ浜と雪ノ下に思い切って相談を……いやしかし。

 

「比企谷君。また独りで抱え込んでるわね。私の身内が仕出かした事ですし、相談に乗るわ」

 

「………」

婿の話とかは余計に混乱するだろう。陽乃さんはどうやら雪ノ下の家にはその件、全く言ってないようだしな。

 

「ヒッキー……」

2人とも心配してくれてるようだ。

思いっ切って相談してみるか……婿の件は何とか誤魔化そう。

 

「……そのあれだ。除霊を手伝ってもらった見返りにな。雪ノ下さんと温泉旅行に行く約定を取り付けられた」

 

「「温泉旅行!?」」

困惑とか混乱とかそんな顔で同時に声を上げ、見事にハモル二人。

 

「そうだ」

 

「本当にお義兄さんと呼んだ方がいいのかしら!この間男谷君!」

何でそんなに怒ってるんだ雪ノ下?しかも間男ってどういうことよそれ?

 

「ヒッキー……本当に陽乃さんと」

何、泣きそうな顔してんだ由比ヶ浜。泣きたいのは俺の方なんだけど。

 

「温泉旅行に行くと何をされるか分かったもんじゃない。何とか回避したい」

 

「ヒッキーは行きたくないの?」

 

「当然だ。だが、約束してしまったため、こちらからは何ともできなくてな。それで悩んでた」

 

「なんでそんなものを受けてしまったのかしら?」

 

「緊急事態だったんだ」

あの時、俺だけで何とかなったら、陽乃さんにあんな約束なんてしない。

くそ、何の因果であのタイミングで暴走した十二神将が千葉に来るんだ?

 

「もしかして、1月3日のあの時の事かしら?」

雪ノ下はどうやら察してくれたようだ。

そう、あの時に十二神将の封印を手伝ってもらった見返りにこんな約束をしてしまったのだ。

 

「ああ」

 

「足元を見られたのね。……温泉旅行。姉さんの事だから、何か企んでるのは確かね」

 

「いつ行くの?」

 

「日程も場所も何も決まってない。雪ノ下さんから連絡が来るはずなんだが……」

 

「姉さん。あの日に京都に帰って以降、連絡がつかないのよ。母さんも土御門本家に連絡したのだけど、修行中だとかで」

 

「………」

あの妹が好きすぎる陽乃さんに雪ノ下でも連絡がつかないのか。

俺はどうしようもない虚無感で肩を落とす。

 

「わかったわ。私も温泉旅行について行ってあげるわ」

「ゆきのん!あたしも行く」

雪ノ下は、考え事をしながらゆっくり頷いた後、こんなことを言ってきた。

それに間髪入れずに由比ヶ浜も同行すると言い出した。

 

「はぁ?いや、しかし、そこまでしてもらうわけには」

 

「勘違いしないでもらえるかしら。部員の生死が関わってるかもしれないのよ。しかも私自身の身内のせいで、当然部長としての責務よ」

何故か顔をほんのり赤らめ、まくし立てるように早口でこんなことを言う雪ノ下。

生死って、まあ殺されないまでも、人生の牢獄にとらわれるかもしれないしな。

 

「そうそう!ヒッキーがその、陽乃さんに誘惑されるかもしれないし!ヒッキーも男の子だから……その、あれで」

勢いよく由比ヶ浜も言葉を口にしたのはいいが、最後は恥ずかしくなったのか、顔を赤らめ口ごもる。

その可能性は否定できないのが辛い。

しかし、恥かしいならそういう事は言うなよな由比ヶ浜。こっちも恥ずかしくなる。

 

「しかし、日程とか場所も決まってないんだが」

 

「あなたが直ぐに知らせてくればいいのよ。後はなんとかするわ」

「そうそう!絶対ついて行くし!」

そう言う二人が今は心強く見える。

 

「すまん」

この二人が近くに居れば、さすがの陽乃さんも強硬手段をとれないだろう。

俺は礼を言いながら、肩を撫でおろしホッとする。

 

 

 

と……この時は甘っちょろい事を考えていたんだが……やはり、女難の相は続くらしい。

 





ここの八幡。恋愛ごとにはとことん疎い感じです。
高校生活を無慈悲なGS環境で過ごしてきた影響が出てます。

次回はGSベースのコラボな感じです。
多分。

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