やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
お待たせしました。
続きです。長くなりすぎて、3部になってしまいました。
後も連続投稿します。
一色が奉仕部に依頼を持ってきた。生徒会としての正式な依頼だ。
その依頼とは、校内で起こってる不可解な事件の解決に協力してほしいと言うものだった。
事件と言っても、人死にや怪我人がなどが出たわけではない。ましてや、警察沙汰にするレベルのものではない。そこで生徒会と奉仕部におはちが回ってきたのだ。
最初は久々にまともな依頼そうだと思っていたのだが、一色の話を詳しく聞くと、かなり気味が悪いものだった。
華道部の生け花の白い花が密室で抜き取られ、抜き取られた花が、翌日から連続で異なる教室に花びらを抜かれて散らばっていたと言うものだ。これだけを聞けば、ただの悪戯だろうと誰もが思うのだが……
最終下校時刻である19:00当たりで、その花を毟って、床にバラまく人物が数人に目撃されているのだ。
白いドレスを着た女性らしいのだ。
学校のそんな時間に、白いドレスを着た女性などはいないはずだ。
まあ、演劇部だったら在りえるが、その線は無いことは一色の事前調査で分かっている。
目撃者はそろって、皆、幽霊だと証言している。
まあ、不可思議なものを見ると、人は大概自分が認識してる近いものに表現するものだ。
そんなわけで、それが人であったとしても、幽霊だと認識してしまうのも致し方が無い。
材木座義輝もそんな目撃者の一人なのだ。だが、こいつは妙に霊感が高いからな。その可能性も無きにしも非ずなのだ。
確かに犯人が幽霊である可能性がある話だ。
もし、犯人が幽霊であったならば、霊感の強い材木座は別にして、霊気や霊力が発現していない一般人でもその幽霊が視認できるレベルと言う事になる。
一般人でも見えるレベルの幽霊とは、かなりの思念を持った存在だ。
執着や怨念をいだいているのが一般的だ。そんな幽霊は大概、地縛霊である。
但し、この学校には地縛霊は存在しない。霊視に優れた俺の目でそれは確認済みだ。
念のため、遠距離からの霊視で、材木座が昨日、その幽霊らしきものを見た2年C組の教室にはそれらしい残留思念や霊気は全く残っていなかった。
もはや、地縛霊でないのは確実だ。
浮遊霊がそのような行動をとる事もある。何らかの影響で怨霊レベルで思念を持った場合や、大きな思念に引き寄せられる場合、何者かに意図的に悪霊化させる場合などがある。
まだ、目撃者が襲われていない事からも、悪霊の類でもなさそうだ。
しかし、今の所、幽霊の可能性は低いと言わざるを得ない。俺は悪戯の可能性の方が高いと思っている。
但し、悪霊化する前の浮遊霊という線もある。あまり一般的ではない特殊な例もあるため、幽霊では無いとは完全に否定は出来ない。
何者かによる悪戯にしろ、幽霊の可能性がある限りは、俺は念のためこの依頼を一人で解決しようと決意する。
目撃されたのは、連日どこかの教室で19:00と決まっていたため、今日にでも、一人その時間まで残り、悪戯か幽霊かを見極め、解決するつもりだったのだが、雪ノ下と由比ヶ浜も同行する気満々だった。
まあ、この二人なら、俺がGSだと知ってる上に、幽霊の仕業だとしても今回は危険度は低い内容であるため、特に構わないと思っていたのが、何故か一色と材木座まで、残るといいだしたのだ。
邪魔なんでお引き取り願いたい。
「材木座、無理して残らなくていいぞ」
「はーーっ、はっはーーー、何を言う。この剣豪将軍材木座義輝に恐れるものなど何もない!」
足をガクガクと震わせながら、そんな事を言う材木座。
ノリで残ると言ってしまった手前、引くに引けなくなったようだ。怖いなら無理をするなよな。別にそんな見栄を張るようなものでも無いだろう?
「はぁ……一色も別に帰ってもいいんだぞ。後は俺達に任せておけば」
俺はため息を吐き、一色にも帰るように説得する。
「先輩、元々生徒会の仕事ですし、生徒会の誰かいないと後で体裁が悪いじゃないですか」
まあ、確かにそうだが、お前がそんな事を今さら気にする玉か?
「別に、お前が居たって事にしておけばいいだろ?」
「むー、先輩。この頃、私を適当に扱いすぎです」
何故か頬を膨らませ、不満そうに言う一色。
「まったくなんなんだ?」
やりにくいんだよ。材木座と一色にはGSってバレたくないからな。もし幽霊だった場合に霊能を発揮させにくくなるだろ?
今はまだ午後4時過ぎだ。19:00まで、後3時間はある。
準備を進めておくか。
「一色、生徒会の権限で、部活の最終下校時刻を30分早くできないか?」
「うーん。たぶんできると思いますけど、何でですか?」
「けん制だ。学校の門が閉まるのは最終下校時刻の30分後だ。面白半分に悪戯してる連中がいたとしても、それまでには帰らないといけないだろう。ならば悪戯するのも30分早くなるか、今日はやめるかもしれない。幽霊だったらそんな事は、おかまい無しだろうしな」
実際のところ、最悪幽霊だった場合の備えだ。
幽霊が出る時刻に校内で生徒にうろつかれると、やりにくいからだ。
「わかりました。ちょっと手続きしてきますね」
一色は素直にうなずいて、部室を出て行った。
「材木座、別に帰ってもいいんだぞ。もし残るんだったら、お前、なんかお祓いとかそう言うアイテム持ってきた方がいいんじゃないか?なんかそういうのあるだろう?」
「うむ。確かにそうだ!我としたことが……あれなんかよかろう!」
そう言って、部室を出ていく材木座。
そのまま、帰ってくれないかな。
「雪ノ下と由比ヶ浜もいいのか?俺一人でもいいんだぞ」
俺は一色と材木座が出て行った後、2人に再度確認をとる。
雪ノ下と由比ヶ浜と打ち合わせをするために、何だかんだと一色と材木座を部室から遠ざけたのだ。
「幽霊の可能性があるのでしょう?後学のために同行させてもらうわ」
やっぱりか、これが雪ノ下の本音か。オカルト関連の資格を取るつもりだしな。幽霊だとしても危険度は低い。実地体験としてもいいのかもしれん。
「ヒッキー、私も何かしたい。ヒッキーの手伝いをしたいの」
何時になく真剣なまなざしで、俺を見据える由比ヶ浜。
なんだ?やはり、いつもと様子が違う。
「わかった。幽霊の可能性は低いと俺は思ってるが、一応な。もし幽霊だったら俺の指示に従ってくれ。それと、一色と材木座をどうするかだな。俺の霊能は見せたくないが、それよりも幽霊が出て騒がれたら厄介だ」
「私がなんとかするわ」
「どうするんだ?」
「騒ぐようであれば締め落とせばいいのよ」
雪ノ下さん?それはちょっと過激では?幽霊より雪ノ下の方が怖いんだけど。
「ゆきのん過激過ぎ!いろはちゃんがかわいそうじゃない?中二はいいけど」
由比ヶ浜、材木座はいいんだ。……もうちょっと、労わってあげてもいいんじゃないでしょうか?
「ま、まあ、いざとなったら俺の方でなんとかするわ」
雪ノ下の事だ。本当に締め落としかねない。
2人には幽霊が出た際の注意事項を軽く説明をする。
一番は騒がない事だな。まあ、今回は俺が居るからいいが、もし一人で出くわして相手が気が付かなかったら、騒がずゆっくり、その場を離れる事が肝心だ。
もし、既に相手の視界に入った状態だったら、逆に思いっきり大声を出した方がいい、相手がビビッて消えてくれればラッキーだし、誰かが助けに来てくれるかもしれない。
俺は教室を出て校内を歩き回る。一応、幽霊だった場合に備え、幾つか結界用の札を校内に張り付ける。ちなみにこれは俺の私物だ。こんなことで事務所の物品を使うわけには行かないしな。美神さんからは、一応ある程度の装備を持ち出し許可は貰ってる。緊急事態に備えてだ。神通棍もその一つだ。
俺も一応GS免許を持ったゴーストスイーパーの一人だ。自衛やそれ以外の場合も考慮し、オカルトアイテムを自前で購入してる。最終的には自分の命は自分で守らなくてはならない。後は自宅にも結界用のアイテムを設置してる。
それほど高価なものは購入できないが、それでも最近まとまったお金が懐に入ったおかげなのだ。
まとまった金っていくらだって?
主には年始に六道会長から貰った口止め料だが……千葉郊外だったら普通に一軒家が買える金額だ。
部室に戻ると、雪ノ下と由比ヶ浜、一色は紅茶でティータイムを取っていた。
「結衣先輩と雪ノ下先輩は幽霊とか怖くないんですか?」
「私は大丈夫!」
「な、何を言っているのかしら?怖いわけがないわ」
由比ヶ浜はああ見えて、度胸があるからな。
雪ノ下は、恐々だな。
誰だって未知の存在や、自分が理解できない物に恐れを抱くのは当然だ。
しかし、オカルト関連の試験受けるんなら嫌でも慣れないとな。
「いろはちゃんはどうなの?」
「私ですか?うーん。見たことが無いからわからないですね」
「一色は意外と度胸があるんだな。可愛らしいアピールはどうした?怖がってる方が男受けするんじゃないか?」
こいつは意外と根性座ってるからな。幽霊見てもビビらなさそうだな。
俺はそう思いつつ、一色に声を掛ける。
「はっ!?そ、その実は怖いです~」
一色はワザとらしく、怖いですアピールをする。
「……もう手遅れだろ。俺の前でしても仕方ないしな。葉山の前ででもやっておけ」
まあ、葉山には、一色のなんちゃってゆるぽわキャラ作りなんて、とっくにバレているだろうけどな。
「むー、やっぱり先輩はこの頃、私を雑に扱いすぎです」
頬を膨らます一色を余所にもう一人の所在を聞く。
「で、材木座は?」
「さあ、あれから見てないわね」
「そういえば居ない!中二、怖くて逃げたかも!」
雪ノ下はあまり興味なさそうに、由比ヶ浜は既に逃げ出した判定をしていた。
ちょっとは、気にかけてあげてもいいんじゃないか?俺が材木座だったら泣いちゃうまである。
「はーーーっはっはーーーー!!幽霊など恐るるに足らん!!この大将軍材木座義輝の前ではな!!」
絶妙なタイミングで奉仕部の部室に騒音を立てながら高笑いと共に入って来る材木座。
「……お前、なんだその恰好?」
「ふははははっ、我の対幽霊用、霊装ファニファニール形態だ!!」
……あまり奴の今の恰好について、説明をしたくは無いが。
何時もの暑苦しいコートの上に、赤の十字架の紋章が掛かれた腕章を両腕に6枚嵌め、首からは、どこから持ってきたかわからんお守りの束と、十字架を下げ。手には剣道の小手。そして右手にどこからか持ってきた聖書。左手には数珠を持っていた。足にはホッケー部のキーパーのガード。腰には鈴とほら貝を吊り下げ、頭には神風と書かれたハチマキに、二本のろうそくを刺す。背中にはデタラメな魔法陣が掛かれたマントを羽織り、襟首には木の枝が突き刺さっていた。
まじで、どこからそんなものを持ってきたんだ?
なんか幽霊に効果ありそうなものと思って持ってきたのだろうが、宗教観も何もかもがデタラメだ。
どこからどう見ても不審者だ。
というか、その恰好をみた幽霊が逆に怒って襲ってこないか?
雪ノ下は呆れた顔を、由比ヶ浜と一色は露骨に嫌な顔をしていた。
俺はこの後、材木座を説得して、数々の装備を外すように……というか無理やりひっぺがえす。
その妙ちくりんな恰好は、歩くたびに音を立てるのだ。静かに行動をしないといけないのに、この格好は邪魔だ。いや、材木座自体邪魔だ。
そして、いつもの材木座の恰好に戻す。
聖書と数珠だけは涙ちょちょ切らせながらも絶対手放さないため、好きにさせた。
そして、18:50分
俺達は、各教室が一望できる最上階の渡り廊下で、何か異常が無いかを確認する。
まあ、そんな事をしなくても、霊能を発揮すれば、どこに誰が居るかぐらいは把握できるのだが、一応一色と材木座が居る手前な。
1月の午後7時前だ。外は月明かりはあるが、真っ暗だ。
相手にこちらを勘づかれないように、俺達もライトなどは点灯していないため、暗闇の中に居る。
20分前まで部活動を行っていた生徒達は既に校舎から出て、グランドや正門あたりにちらりほらりと帰宅をするために歩いているのが遠目に見える。
月光にうっすら照らされる誰も居ない校舎内には、非常口案内の蛍光灯の光と非常灯の淡い赤い光がぽつりぽつりと見え、何故か物悲しいような雰囲気を漂わせている。
昼間見る騒然とした学校の様子とは別に。夜の学校とは意外と不気味な風景だ。
まあ、1階の宿直室にはまだ先生はいるのだが……その先生も、午後8時には校内を点検して帰るらしい。
今の所、変わったことはない。
そして、俺は腕時計を確認する。
丁度短針が19:00を指す。
俺の霊感が急に騒めく。
一色が何かに気が付いたのか
「あ……あれ……」
一色は驚いた顔をし、かすれ声で、指さす方向は2年F組……俺と由比ヶ浜のクラスだ。
そこに、白いドレスを着た女性の後姿が見えた。しかも何故か俺の机の上に座っていたのだ。
「ほ、本当にいた」
「………」
由比ヶ浜も雪ノ下も一色が差し示す先を見て確認したようだ。
由比ヶ浜は声を小さくして俺の耳元でそう囁き、雪ノ下は沈黙したまま、俺の制服の袖を握りしめていた。
一色も固まっていたが、慌てて俺の後ろに隠れる。
材木座は……
泡吹いて、倒れ、気絶していた………
どんだけ、メンタル弱いんだよお前。
霊感もあるし、そこそこ霊気も霊力あるみたいだし、鍛えれば、GSになれたかもしれないが……
そのメンタルじゃダメだろうと俺はその道を示さなかったのだ。
雪ノ下や由比ヶ浜や一色と俺の批評やダメ出しに耐えられるのにな……
しかし、おかしい。
あの白い女性。確かにいきなりあの場に現れて、周囲の霊気濃度も高まってる。きっと、気温もあの教室だけは2~3度下がっているだろう。
間違いなく霊的反応はするが……死者特有の霊圧を感じられない。
「……本当に幽霊なのか?」
「せせせせせ先輩!どう見ても幽霊じゃないですか!」
そんな俺の言葉に一色は必死に涙目になって俺の襟首を掴み、声のトーンを落とし訴えかける。
「ヒッキー……幽霊じゃないの?」
「結衣先輩も何言ってるんですか!?ききき急に現れたんですよ!なんか半透明ですし!先輩の目は節穴ですか!!絶対幽霊ですよ!!」
一色は我慢できなくなったのか、いきなり大声で怒鳴り散らす!!
「おい、静かに……」
俺は一色に静かにするように言おうとしたのだが……
「きゅう~~」
一色は目を回して倒れる。
雪ノ下が一色を後ろから締め上げ、落としたのだ。
「……雪ノ下、本当に落とす奴があるか?」
「だって、彼女が大声上げるものだから……」
何、顔赤らめてるんですか雪ノ下さん?だって、って…ちょっと可愛らしい言い方だなおい。
多分、恐怖に駆られながらも雪ノ下は、隣で騒ぐ一色を見て、幽霊に勘づかれるのではないかと思い、とっさに締め落としたのだろうが。
「ヒッキー幽霊じゃないって言ってたけどほんと?いろはちゃんじゃないけど、幽霊っぽいよ」
「ああ、なんか妙なんだ。ちょっと見に行ってくる」
俺はそう言って、渡り廊下から出ようとすると、由比ヶ浜と、何故か雪ノ下も制服の裾を掴み、ついてくる。
「ここで、待っててくれ、こいつらも倒れたままだしな」
「あたしも行くよ。ヒッキー」
「私もよ勿論後学のためよ。置いてけぼりで怖いなんてことは無いわ」
何故か必死な表情で訴えかける由比ヶ浜。
雪ノ下はそうは言っていたが、どうも置いて行かれるのは怖いらしい。
「はぁ、じゃあ俺から離れるなよ」
俺はため息を吐きながら二人にそう言う。
一応倒れてる材木座と一色の周りに簡易結界を張り、由比ヶ浜と雪ノ下にはお守りと結界の札を渡す。念のためだ。
2年F組まで、静かにこっそりと近づき、中の様子を見る。
白いドレスを着た女性は確かに半透明だ。手には情報通り白い花を持っていた。
やはり、場の霊気が濃くなっている。しかし、死者特有の霊圧は感じない。
しかし、声までが聞こえてくる。
『来るー、来ない、来るー、来ない、来るー、来ない』
霊体なのは確かだが声まではっきり聞こえるとは。
半透明の白いドレスを着た女性は、手に持っている白い花の花びらを、1枚1枚むしり取っていた。
この角度からじゃ後姿しか見えないが、手入れされてるだろうロングヘア―の髪を見る限り、美人そうな感じだ。まあ、横島師匠じゃないから、後姿だけで正確に判別できないが……しかし、この後ろ姿、どこかで見たことがあるような。
「ヒッキー、なんか誰かに似てない?」
小声の由比ヶ浜も俺と同じ意見の様だ。
『来るー、来ない、来るー、来ない、来るー、来ない………やっぱり、来ないんだ!!うああああああ!!!!』
花を毟り取った手を止め、突然叫び出す半透明の白いドレスの女性。
そして、持っていた花を放り投げ、泣き叫ぶその顔が見える!
その顔は俺のよく知る人物そっくりだった。
後半も直ぐに投稿します。