やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。
非常に助かっております。

またしても、前後編に、何故かこの頃、スパッと一話で話題が終わりません><
という事で、初登場が二人です。


(63)唐巣神父の教会に行く(前)

 

2月初旬の土曜日。

美神さんのお使いで、唐巣神父の教会に赴く。

美神さんとキヌさんは依頼で静岡に、美神さんとキヌさんのコンビで地方への出張という事は、そこそこの規模の地鎮を行っているのだろう。

横島師匠はシロとタマモを引き連れて、都内の地下街の除霊だとか。

俺も師匠について行こうとしたのだが、美神さんに俺は唐巣神父の元に行くように言われた。

 

内容は至ってシンプル。

唐巣神父が所蔵してるエクソシスト系の特殊な封印術が書かれた本を借り受ける事。

日本では唐巣神父しか持っていないのだそうだ。

昔、美神さんが唐巣神父の元で修行をしていた頃に、見かけたらしい。

普段なら唐巣神父の様子を見がてら、美神さん本人が行くのだが、電話の際、唐巣神父は何か手伝ってほしいと言われたそうだ。

貴重な封印術の本を借りる手前、手伝わないわけにはいかないようで、そこで、ただ働きが嫌な美神さんの代わりに、俺がよこされたという事だ。たぶんだけどな。

美神さんって、金にならない事は絶対嫌だしな。

しかし、それでも唐巣神父の事は無下にしないし、何だかんだと手伝って上げたりする。一応師匠として尊敬しているのだろう。

 

唐巣神父は何処にでもいそうな、優し気な眼鏡をかけた中年のおっさんだが、その実はこの業界でも、かなり偉い人らしい。

GS協会の重鎮でもあるし、日本におけるエクソシスト系の霊能者の第一人者とも言われてる。

階級こそAランクだが、それ以上の実力者であると巷でささやかれている人だ。

美神さんの師匠であると同時に、あの美智恵さんも一時期師事を仰ぎ、師弟関係だったらしい。

それと、今はヨーロッパで活躍してるオカルトGメンのピートさんの師匠でもある。

 

ただ、GS事務所としての経営は苦手らしく。困っている人は見過ごせない性分もあり、昔はどんな依頼もタダ同然でやってたらしい。

今は、法改正で、それはできなくなったとはいえ、その性分は変わっていないのだろう。

その辺は、いつも美神さんがガミガミと唐巣神父に説教してるようだ。何だかんだと美神さんは面倒見がいいのだ。

 

 

俺は唐巣神父の教会に到着する。

相変わらず質素なたたずまいな教会だが、厳かな感じはする。

ん?いつもは伸びっぱなしの敷地の雑草とかも手入れされてる。

 

「こんにちは、唐巣神父」

俺は教会の扉を開け、挨拶をする。

教会の礼拝堂の中もいつもより、小奇麗な感じだ。

 

教会の執務室から、唐巣神父が出てくる。

「やあ、比企谷君。そろそろ来る頃だと思っていたよ」

何時もの優しそうな笑顔だ。

こう見えて、若い頃はブイブイ言わせていたゴーストスイーパーだったらしい。

 

「神父、なんかいつもより片付いてるというか、整頓されてるんですが、お嫁さんでも貰いました?」

俺は冗談半分にそんなことを言った。

唐巣神父は50前ではあるが未だ独身である。

神父であるため、その身は神にささげてるからなのかもしれない。

この教会は神父一人で今は切り盛りしてる。シスターとか教会付きの信者さんとかは居ない。

ちょっと前までは弟子のピートさんが色々としていたそうだ。

 

「手厳しいな比企谷君。いや、流石に一人で教会とGSの仕事は厳しいのでね。土日だけアルバイトを雇ったんだ。ちょっとした縁で知り合ったのだけど、若いけどしっかりした子でね。私もいろいろと叱られてばかりだ」

唐巣神父は頭を掻きながら、朗らかに笑う。

なるほど、それで小ぎれいになってるのか。たまにキヌさんが見かねて掃除をしたりしてたぐらいだもんな。

 

「そうですか。あの、早速なんですが、美神さんに言われていた本なんですが……」

 

「それなんだけど、美神くんが探している本を私自身どこにしまったか忘れてしまってね、今、その子に探してもらってるところなんだ。書庫だとは思うのだけどね」

 

「俺も手伝いましょうか?」

 

「すまないね。そうしてくれると助かる。私もこの頃物忘れが多くなってね。手伝ってくれてるその子もこっち関係については素人でね。一応最低限の事は教えてるつもりなんだけど」

唐巣神父は申し訳なさそうに苦笑する。

 

「わかりました。確か書庫はあの扉の奥でしたね」

 

「ああ。私は仕事の準備をここでしてるから、何かあったら声をかけてくれたまえ、それと美神くんには伝えてあるのだけど、後でちょっと手伝ってほしい事があってね」

唐巣神父は何やら準備を始めながら、そう言った。

 

「聞いてます」

 

「悪いね」

 

美神さんの師匠とは思えないぐらい腰の低い人だ。

俺みたいな若造にも気を使って、丁寧な対応をしてくれる。

美神さんの知り合いの中で一番の常識人であり、表裏の無い人格者でもある。

 

俺は書庫の木製扉を押すと、ギギギと音を立て開く。中は薄暗い畳12畳程の石造りの書庫だ。

木製の書棚の前で人影が俺の方に振り向く。

唐巣神父が言っていた土日だけのアルバイターだろう。

神父の口ぶりからすると、霊能者ではなく、普通の人だろう。

 

「すみません神父。まだ本が見つからなくて……え?比企谷?」

どうやらその人影は俺を神父だと勘違いしたのようだが、振り返り俺の事を見ると、俺の名前を驚いたように口にした。

ポニーテールで結んだ長い後ろ髪を腰まで垂らし、背も高く、手足がすらっと伸びている。

その驚いた顔には見覚えがある。キツメな目元に泣きぼくろ、全体的にシャープな印象な美人顔だ。

 

「……川…川?」

俺もこいつの事を知っている。名前は確か、川なんとかさん?

 

「あん!?川崎沙希よ!あんた、なんで覚えてない?同じクラスでしょ!」

めっちゃ睨まれたのだが……

そうだ。こいつは川崎沙希。小町を狙う下心丸出しのゴミムシ(川崎大志)の姉だ。そして俺のクラスメイトのハズ。

というか、なんでこいつがここに居るんだ?

この川なんとかさん……もとい川崎とは、深夜の違法バイト問題で、関わった事がある。

川崎は、大学と大学に行くための塾に通う資金を貯めるために、高校生では禁止されてる深夜のバイトを毎晩していたんだ。

それをやめさせるのが奉仕部の依頼だった。川崎は兄妹も多く、金銭面で困っていた。だから、金を得るために無茶なバイトをしていたのだ。無料で塾に行ける方法であるスカラシップ制度を紹介して、深夜バイトをやめさせ、依頼を解決したのだが……

神父が言っていたバイトの子とは、よりによってこいつか……どうやら、神父は俺の事を川崎に話してないみたいだが、ヤバいな。いろいろと面倒な事になるから学校の連中にはGSバレは避けたいが、このままだとGSってバレる。なんとか誤魔化さないと。

それと、その整ったシャープな顔立ちで、威嚇するように凄むのは、やめてほしい。まじヤンキーみたいなんでちょっと怖い。

 

「じょ、冗談に決まってるだろ」

まじ、名乗られるまで名前を忘れてた。

横島師匠だったらギャグでお茶を濁すだろうが、俺には無理だから、こんな感じで誤魔化す。

 

「冗談って……で、比企谷。あんたはなんでここに居るの?」

川崎は睨むのをやめたが、訝し気に聞いてくる。

 

「あれだ。そのだな。俺もバイトの使いでここに」

GSバレを避ける方向で。バイトをしてる事はこの際、致し方が無い。

 

「あんたもバイト?……ここに居るって事はGSに関係するバイトだよね。あんた金に困ってなさそうなのになんで?」

いきなり、俺の言い訳の退路を断たれたのだが……

 

「お前こそ、なんでこんな所でバイトしてんだ?スカラシップ制度で塾にも通ってるんだろ?しかも千葉からは近いとは言え、ここはお前の家から電車で一時間ぐらいかかるだろうに」

 

「お前じゃない。川崎沙希って名前がある…っとに。でも、スカラシップの事は正直助かったよ。でも大学に通うお金を親だけに払わすわけには行かないからね。少しでも足しになればと思って、……それにGSのバイトって最低賃金で時給1800円でしょ?土日の日中だけでもかなり稼げるしね。……唐巣神父とはちょっと縁があって、それに神父も優しいし。……それであんたは何で?」

なるほど、確かにこいつの家庭環境では厳しいものがあるしな。GSのバイトの時給は法律で1800円は約束されてる。しかも唐巣神父が川崎に危険な仕事をやらすわけはないしな。川崎自身多少普通の人よりも霊気内包量は多いが、今のままじゃ霊能者になれるレベルじゃない。確実にGS免許試験の霊気霊力測定で落とされる。それで言うならばよっぽど材木座の方が適性があるのだが……それは置いといてだ。多分、掃除とか、事務的な手伝いや教会の手伝いなど、除霊やオカルトに直接かかわらないような仕事をさせてるのだろう。

だが、GSのバイトをするにはかなりの制限があるはずだ。しかも18歳以下の学生身分では申請や手続きも一筋縄では行かない。もしかして教会の手伝いのアルバイト名目で雇ってるのかもしれないな。唐巣神父の事だ。それでも一応、GS基準でアルバイト代を出してる可能性がある。

 

「俺は……後学のため?」

ここに来て、俺がGSバレを阻止するための誤魔化せる選択肢は少ない。雪ノ下の言い回しを貸してもらう事にした。

 

「何?比企谷?GSにでもなるつもり?無理無理。GSってのはね。憧れだけでなれるもんじゃないよ。

豊富な知識に、冷静な判断力。運動神経も良くないといけないし、生まれ持った霊能力が無いと無理だし。何より、人々を救いたいと言う気持ちや、人の役に立ちたいと思う高潔な意思と覚悟が必要なんだよ。そう、唐巣神父みたいにね。あんたに出来る?」

川崎はクスっと笑いながら、こんなことを俺にとうとうと語る。そして唐巣神父の下りは何故か遠い目をしていた。

……川崎、なんか語ってるところすまないが、既に俺はGSなんだ。

確かに、GSになるには豊富な知識と冷静な判断力や体力、霊能力が無いと難しい。

最後の方の件で、人を救いたい気持ちとか、役に立ちたいとか、高潔な意思とか覚悟とか……GSにはまったく必要ないんだ!!

俺の知ってる一流のGSはそんな気持ちなんぞ、ドブに捨ててきてるような人間ばっかりだぞ!!

まったく真逆な人間性をもった一癖も二癖もあるような性格な悪鬼羅刹ばりの人の皮を被った悪魔のような人達だぞ!キヌさんを除いて!!

 

それよりも、なんか川崎の奴、唐巣神父にかなり心酔してないか?

まあ、唐巣神父は出来た人だしな。わからんでもない。

ここに礼拝を受けに来る人達は、神様っていうよりも神父の人柄を慕って来てるらしいしな。

 

「そ、そうかもしれないな」

俺はこれ以上突っ込まれないよう。取り合えず川崎の考えに同意する事にした。

 

「まあ、あんた。学校の成績もそこそこ良いんだし。いい大学行って、いい会社に入って働いた方がいいんじゃない?」

 

「そ、そうだな」

 

「余計なお節介かもしれないけど。来年は受験だし、変な憧れなんかやめて、勉強した方がいいと思うよ」

 

「そ、そうする」

俺は生返事をするしかない。

川崎、もう俺が普通の会社になんて無理だ。どっぷりこのGSの世界に浸かっちゃってるんだ。

大学は行こうと思うが、すでに将来する仕事は決まっているようなものなんだ。

 

「あ、比企谷悪いね。話しこんじゃって。あんた本を取りに来たんだろ?」

 

「そうだな」

 

「それが、見つからなくて。神父はローマ字で書いてあるって言ってたけど」

川崎は、本棚の本を一冊一冊確かめながら、目的の本を探すのを再開する。

 

「俺も手伝おうか?」

美神さんが探してる本は時代背景からローマ字はローマ字だが古代ローマ字のハズだ。発音も読み方も結構異なる。

 

「悪いね比企谷、私もここのバイトをやりだして、まだ1か月しかたってなくてね」

本棚の高い位置に手を伸ばしながら、声だけを俺に向ける。

 

「いや、いい」

俺も、別の場所の本棚を探し出す。

 

「比企谷は、どこの事務所?……あっ、そっかGSって本当は色々と登録が面倒だしね。学校にも報告しないといけないからね。私はGSじゃなくて、ここの教会の手伝い名目でアルバイトさせてもらってるし、比企谷も似たようなもんでしょ?」

やっぱりな。GSでアルバイトをしてる名目だったなら、学校や役所に登録しないといけないし、既にGS免許を持ってる俺の耳にも入ってないとおかしい。

 

「ま、まあ、そんなようなもんだ」

なかなか答えづらい質問が続き、さすがに返事に窮してくる。

それにしても川崎って、こんなにしゃべる奴だったっけ?

学校のクラスでは俺と同じで、いつもボッチなはずだ。

俺とも一応知り合いだが顔を会わしたところで、会釈する程度の仲だ。

名前をなかなか思い出せなかったりするし。

 

意外と学校以外では社交的な奴かもしれない。

忙しい両親の代わりに兄弟の面倒も見てるし、一番下の妹の保育園の送り迎えとかもしてるようだしな。近所付き合いとかちゃんとしてるかもしれん。

 

「クラスの連中が比企谷がバイトしてるなんて知ったら驚くでしょうね。普段のあんたからは想像できないからね。流石にさっき会ったときは驚いたよ。……でさ、あのあんたの妙な部活の、由比ヶ浜と雪ノ下は、バイトの事を知ってるの?」

 

「一応な。言わないと、部活をバイトで休んだ日には、『部活をサボって何をしてるのかしら?』とかなんとか、後で何を言われるか分かったもんじゃない」

俺は雪ノ下の物まねをしながらそう言った。

うん、これは嘘ではないな。

 

「ぷっ、確かにね。あんた達、妙に仲がいいしね」

川崎が噴き出すように笑う。どうやら雪ノ下の物まねが効いたようだ。

こいつ、こういう感じで笑うんだな。

学校で、川崎が笑った顔を見たことが無い。

妹の前ではデレデレだが。

 

「そうか?」

 

「由比ヶ浜も2年の初めの頃に比べたら大分変ったし……私も……」

 

「あった。これだ」

俺や美神さんの目的の本を見つける。やはり古代ローマ字だな。

これじゃ、川崎がいくら探しても見つからないだろう。

 

「さっき私もその本手に取って見たけど……」

 

「古代ローマ字読みだから、スペルが異なる」

 

「あんたよく知ってるね。そんな事」

 

「ま、まあな」

ふう、危ない。ついGSの知識を出してしまった。

 

とりあえずは用はすんだ。

後は唐巣神父の手伝いなのだが……

川崎の前で霊能を発揮するわけにも行かないし、神父に事情を説明して、川崎が居ない平日にでも、日にちをずらしてもらうしかないか。

 

これ以上、川崎と話をすると、どこかでボロが出るかも知れない。

こそっと唐巣神父に事情を話して、とっとと事務所に帰るか。

 

俺は書庫を出ると神父が礼拝堂の祭壇から俺に声を掛ける。

「比企谷君。本はあったかね?」

 

「ありました」

俺は本を掲げ、神父に見せる。

 

川崎もちょうど書庫から出てくる。

 

「あっ、私としたことがしまった。沙希君を少々驚かそうとしたのだけど、もうお互い紹介は終わらせてしまったかい?」

神父は出てきた川崎に自嘲気味に聞く。

 

俺と川崎は顔を見合わせる。

紹介も何も知り合いなんだが……

 

「まだのようだね。沙希君。彼は凄いんだ。この年でゴー……」

神父は俺達の様子を見て、まだ自己紹介をしていないと判断して、こんなことを言いかける。

 

「あああああ!!し、神父--っ!!」

おいーーー!!危ない!!今、ゴーストスイーパーって言おうとした!!バレちゃうからやめて!!

 

「?どうしたんだい比企谷くん、急に大声なんか出して、君らしくない。まるで師匠の横島君みたいだね」

 

「師匠?横島?」

川崎は疑問顔をする。

ちょ、それ以上は!!

 

「ししし、神父、ちょっといいですか!!」

俺は慌てて唐巣神父の元に駆けつける。

やばい、早く説明しないと!!GSバレするっ!!

 




川なんとかさん登場!!
ようやく出せました!

で、後半に続きます。
次は土日更新かな?

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