やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

唐巣神父編というよりも、サキサキ編ですね。
ちょっと長くなりましたが続きどうぞ。



(64)唐巣神父の教会に行く(後)

美神さんのお使いで、唐巣神父の教会に訪れると、そこにはクラスメイトの川崎沙希が唐巣神父の元で土日限定のアルバイトをしていたのだ。

 

俺がGSだと言う事は、学校の連中には黙っておきたい。

勿論、川崎にもだ。

後にでも、神父に俺がGSであることを黙ってもらうようお願いしようとしていた矢先。

 

唐巣神父は書庫から出てきた川崎に俺がGSだと口にしようとしたのだ。

 

「ししし、神父!!ちょっといいですか?」

俺は慌てて、祭壇で何かの作業をしてる神父の下に駆けつける。

 

「何かな、比企谷君。君らしくもない。そんなに慌てなくとも」

神父はいつもの朗らかな笑顔で、落ち着いた口調で俺にそう言った

 

俺は神父の耳元で小声で説明する。

「神父、川崎は学校のクラスメイトなんですよ。だからGSってバレたくないんです」

 

「そうだったのかね。沙希君の通う学校がどうも聞き覚えがあると思っていたら、君と同じ学校だったか、そうかそうか、うんうん。これも神のお導きというものだね」

そう言って頷いてる神父だが、この人、本当にわかってるのか?

しかも、もうちょっと声のボリューム落としてくれませんかね。

神父の声、川崎に聞こえちゃいます!

 

「神父わかってます?俺の通う学校は一般の学校なんです。そんな中、俺がGSだって広まったらどうなりますか?」

俺は懸命に神父の耳元で訴えかける。

 

「いやー、まあ、最近の子は色々とあるみたいだけど、沙希君は大丈夫じゃないかね?」

 

「そういう事を言ってるんじゃないんです!」

ダメだ、わかってない。

俺がGSバレすると学校に居られなくなる可能性がある。

学校ではちゃんと許可を取り、正式な手続きを行っているが、そういう事じゃない。

学生からすると、GS免許を持ち、実際に悪霊や妖怪退治を行ってる人間などは、圧倒的に異物だ。しかもだ。俺みたいな何を考えてるかわからないようなボッチ野郎がだ。

そんな人間は、気味悪がられ、恐れられ、排除される。

俺だけならまだいい、いつも一緒に部活をしてるあいつらにも迷惑が掛かる。

 

そこに川崎が徐々に近づいてくる。

「比企谷。なに神父とコソコソ話してるのさ?私に話せない事でもある?」

 

「いや、男同士の話だからな。ちょっとな」

俺はそんな言い訳をする。

全然言い訳になってないな。横島師匠と同じレベルの言い訳だ!

 

「神父がさっき、師匠だとか、横島だとか、言ってたけど。もしかして、美神令子さんところの横島っていうGSの人の事?一度ここに来て、セクハラまがいな事をしてきたから、蹴り飛ばして踏んづけてやったんだけど。師匠って何?」

圧倒的にピンチだ!しかも、川崎は横島師匠と会ってた!

しかも、川崎に痴漢行為を行おうとしてただと!!何やってんだあの師匠は!?

川崎は制服着てなかったら、20代中盤だって言われてもわからない風体だしな。

いや、関係ないか、あの人、未成年だろうと、手を出すな……

神父はそんなトラブルを知って、横島師匠ではなく、俺を指名したのかもしれない。

なんか泣けてきた。

 

「ははははっ、すまないね比企谷君。彼女なら大丈夫だよ。私も彼女の人となりをよく知ってる。沙希君は信用できる子だ。私が保証する」

 

「し、神父っ」

川崎は唐巣神父の言動で顔を赤く染める。

 

「……そ、そうですか」

……バレるのは時間の問題だったな。

まさか、唐巣神父の下にバイトで学校の奴が居るなんて思いもよらなかった。

 

「それに君に手伝ってもらいたいことは、彼女にもかかわる事なんだよ」

俺に手伝ってほしい事が川崎に関わる事ってどういうことだ?

 

「神父どういうことですか?それに比企谷は」

川崎はいぶかし気に神父に聞く。

 

「沙希君、彼はね。比企谷君はプロのゴーストスイーパーなんだよ」

 

「え?」

川崎は驚いた顔を俺の方にそのまま向ける。

 

「……そういうことだ」

俺は観念して肯定する。

 

「え?それまじなの?」

川崎は神父と俺の顔を交互に見て、信じられないような顔をしていた。

当然の反応だ。驚かない方がおかしい。俺でもそう思う。

 

「そう、彼はそれこそ、一流と言われてるゴーストスイーパーに引けを取らない実力を持ってると私は思ってる。後は経験だけかな」

唐巣神父にそう褒められるのはうれしいが、今はな……

 

「……これだ」

俺はGS免許を川崎に見せる。

 

川崎は驚いた顔のまま、俺の免許を手に取り、まじまじと見ていた。

「……美神令子除霊事務所所属。比企谷八幡。Cランク……」

 

そして、俺の顔をまじまじと見る。

 

「あんたCランクって!凄いじゃない!!なんで隠してたのよ!!」

急に喜色の声を上げ、嬉しそうにする川崎。

え?俺はその姿に、一瞬戸惑う。

俺の予想では、てっきり怖がられたり、するんじゃないかと……

あれだぞ、お前の知らない間に、クラスに幽霊やら妖怪やらを相手にしてるような怪しい奴が、紛れ込んでいたんだぞ。

 

「いや、GSだぞ。その怖くないのか?」

 

「はぁ!?何言ってんのあんた!なんであんたを怖がらなくちゃならないのよ!」

何故か責められる俺。

 

「比企谷君。沙希君の言う通りだ。確かに人は未知なものや、自分と異なるものに恐れを抱く。しかしそれは、お互いを知らないからだ。お互いを知れば未知なものではなくなる。それと人は一人一人異なるものを持っているものだ。それが大小の差はありはするがね」

 

「しかし、神父」

 

「一足飛びで何もかもうまく行くわけが無いんだよ。沙希君のように理解者を一人、また、一人と作って行く。そうすれば終いには皆、知るところになる」

 

「そう、うまく行くものですか?」

 

「その中でも障害は沢山あるだろう。それは致し方が無い事なんだ。でも、忘れてはいけない。妖怪だって人と仲良くできるんだ。君だってそうだろ?」

確かにそうだ。俺は霊能に目覚める前は妖怪や幽霊を恐れていた。でも今では妖怪のシロやタマモとも気軽にうまく関係を作れてる。

 

「横島君を見たまえ!彼はあんなのでも!学生時代は学校でGSだと堂々と名乗っていたんだぞ!!」

神父は声を大にしてこんなことを言った。

しかも、神父にあんなのって言われる横島師匠って……

 

「はぁ、あの人は例外です。あの人と一緒にしないでください」

神父の話、結構感動したんだが、一気にテンションが下がった。

横島師匠の場合、GSどうのこうのと言う前に、あの人自身がおかしいから、あの性格でよく学校ではぶられなかったな。

というか、今とほぼ一緒だったら、少年院行き、まっしぐらだろうに。

しかし、あれだ、あの人はどんなこともでもめげないし、大変な事があろうとギャグで全部ふきとばしてしまうだろうからな。

 

「あれ?ダメだったかね?あははははははっ!」

神父は茶目っ気たっぷりに笑う。どうやら、神父流のギャグのようだ。

 

「神父、いくらなんでも、あの横島とかいう変態と同じにするのは、比企谷も可哀そうですよ」

川崎、フォローしてくれるのはありがたいのだが、その変態は俺の師匠なんだ。

うちの師匠の評価はどこに行っても、低いんだが、特に女性に……

 

「川崎、それ、俺の師匠なんだ。一応な……」

 

「へ?あんなのが!?比企谷の!?」

まあ、そうだろうな。普通は驚くだろうな。

本当はいい人なんだぞ。たぶん。

 

「まあまあ。話をもどすと、沙希君が君を怖がらないのは、君の優しさを知ってるからだよ。根本的には横島君も優しい子だからだよ。君と一緒でね」

 

「………」

ちょっと気恥しいんですけど神父。

この人、滅茶苦茶いい人だ。横島師匠の本質まで見抜いてる。

本当に美神さんや美智恵さんの師匠なのか?なぜこの師匠からあんな弟子が!?

いや、美神さん達が例外か。ピートさんはいい人そうな雰囲気はあったな。

 

「比企谷はなんとなくわかるけど、ただ、捻くれてるだけで、横島…横島さんも?そうなんですか?まあ、神父が言うなら」

川崎も何を、本人の前でそう言うのやめてもらえませんかね。マジ恥かしい。

まあ、横島師匠の事は、納得いっていないようだが、一応そう言う事にしてくれた。

 

「そうは言っても川崎。やはり俺は学校でGSを名乗る事は出来ない。俺はそこまで我慢強くないし、人間が出来てない。すまないが黙ってもらっていいか?」

俺の卒業まで後凡そ一年。神父が言う方法では、まず間に合わないし、俺は別に知ってもらおうとも思わない。出来たら知り合い位にはとは思うが、それも善し悪しだろう。

 

「いいよ。話す相手もいないしね」

川崎は軽い感じで了承してくれた。

そういえば、こいつもボッチだった。

 

「助かる」

 

「でも、比企谷には良いんでしょ?」

 

「そりゃ、そうだが……」

 

「何、由比ヶ浜や雪ノ下もあんたがGSって知ってるの?」

川崎はジトっとした目で俺を見る。

 

「ああ、そうだな。その二人以外では後は学校の先生かな、全員ではないと思うが」

 

「そう、由比ヶ浜と雪ノ下は……知ってたんだ」

川崎は何かを考えるように頷く。

 

「京都の修学旅行の時からだ」

 

「そういえばあんた、京都で大きな霊災に巻き込まれて怪我してたよね。その時?」

 

「そうだな。完全に実力不足だった。俺は横島師匠に助けられて、何とか命拾いした。唐巣神父に褒めてもらっておいてなんだが、俺はそれほど強くない。まだまだヒヨッコもいいところだ」

 

「ふーん。でもCランクなんでしょ、学生で」

 

「まあ、そうだが」

なんか、やりにくいな。

川崎は普段からサバサバしてる奴だが、こうも肯定されるとな。

 

 

「和解はしたようだね。そろそろ私の話を聞いてもらっていいかな?時間もそれほどないのでね」

和やかに神父はそう言った。

 

「すみません。神父の手伝いの件ですね。しかし、川崎が関わってるような事を言ってましたが」

 

「わたし?神父?」

 

「実はだ。沙希君をここでバイトしてもらっていた本当の理由があったんだ。沙希君やご家族に心配かけないように黙っていたのだけどね」

 

神父は真剣な表情で語りだした。

 

「私は8年前、沙希君の川崎一家に憑りついた悪魔の眷属を祓ったのだが、沙希君が礼拝に訪れてきてくれた時に、気が付いたことがあった。川崎一家に憑りついていた悪魔は……一体じゃなかった。双子の悪魔だったことに……。私が当時退治したのは一体だけだ。双子の片割れの悪魔はどうやら、どこかで沙希君を見つけ、狙っているようなのだよ」

川崎と神父の間に、そんな事があったのか。それで神父となじみに。

しかし、双子の悪魔とはまたレアな。

 

「え……わたしに、あの悪魔がまた?今度はわたし個人に?」

何時も気丈にふるまってる川崎だが、この時ばかりは、影を落としていた。

それでも泣きわめかないだけ随分ましだ。

材木座だったら即気絶もんの事実だ。

 

「その悪魔は新月であり、土曜日の2の付く月と日にしか現世に現れることが出来ない。要するに今日だよ」

ちょっとまて、なんだその縛りは、いくらなんでも多すぎだろ。

俺は驚いていた。

縛り、要するに制約の事だが、制約が多いという事は、それだけ強力な悪魔だと言う事だ。

通常、悪魔は現世に出るには何らかの制約を課さなければ、悪魔の世界からこちらに来ることができない。強力な悪魔ほど、その制約が多いのだ。たとえ眷属だとしても、主が大物ならそうなる。

という事は……

 

「神父…何の悪魔の眷属なんですか?その縛り、かなり大物では?」

 

「ああ、私の見立てではベルフェゴールの眷属だろう」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。怠惰と色欲のあの大悪魔ベルフェゴールですか?そんな大物!」

 

「え?比企谷……そんなに凄い奴なの?」

 

「沙希君大丈夫だよ。所詮眷属だよ。まあ強力な悪魔には違いないけど、どうってことない」

しまったな、川崎を不安がらせてどうする。そのへんは流石は神父だ。

でも、何この人サラッと言ってるんだ?あのベルフェゴールだぞ。キリスト教の悪魔、七つの大罪に匹敵する悪魔だぞ!その眷属っていってもな……そうだよな。この人こう見えても美神さんや美智恵さんの師匠だものな。やっぱ、この辺はぶっ飛んでる。

 

「……わかりました。俺は何をすれば?」

俺は諦めて、神父に何をするか聞く。

まあ、こういうのは慣れてる。美神さんや美智恵さんのおかげでね。

 

「流石は美神くんや横島君の弟子だ。話が早い。となると、私の孫かひ孫弟子でもあるんだね。……既に教会には強力な結界を張る準備をしてる。眷属の悪魔はわたしが祓おう。君は沙希君を守って、眷属の悪魔が従えるインプや悪霊を祓ってくれたまえ、そして現れるのは11時11分だ」

 

「もう、20分も無い」

 

「沙希君は礼拝堂の中央の結界内にジッとしてるだけでいい。比企谷君。この教会の結界に阻まれた悪魔を、わざと祭壇に顕現させ、私が退治する。祭壇に顕現する際、一時的に教会の結界を解除しないといけない。その間に教会内にインプや悪霊が一斉に押し寄せるだろう。そこは任せたよ」

美神さんの悪魔祓いは何度も見たことがあるが、唐巣神父のは初めてだ。

要領はいつもと一緒。要するにボスは神父に任せ、雑魚を俺が相手しながら、川崎を守ると言う事だ。

 

神父はまた、祭壇で何らかの術式の準備を進める。どうやら結界陣の様だが、俺の知らない術式だ。

 

俺は自前の神通棍と、神父に借りた霊体ボウガンの手入れをし、呪縛ロープや札を何枚か準備する。

 

「比企谷ごめん。わたしのせいで、巻き込んじゃって」

その横で川崎は硬い表情をし、礼拝堂の椅子に座っていた。

 

「ゴーストスイーパーってのは、人を助けたいって思う気持ちが大事なんだろ?」

俺はちょっとおどけて見せる。

 

「うん。そうだね」

川崎は弱弱しいが笑顔を見せる。

 

「まあ、心配するな。唐巣神父はあのゴーストスイーパー美神令子の師匠だぞ」

 

「そうだね。また唐巣神父には返しきれない恩が出来ちゃったかな。あんたにも」

 

「おい、恩なんていらないぞ。神父もだ。神父はどうやら自分が双子の悪魔だと気が付かなかった事に後悔してるようだ。自分のミスだと思ってるだろう。俺がもし、神父の立場だったら、そう思う」

 

「あんた、こういう時でも捻くれてるんだね」

川崎は苦笑していたが、大分気持ちもほぐれたようだ。

 

 

 

そして、準備を終え11時11分を迎える。

 

教会全体に巨大な何かがぶつかった様な音が異様なうめき声と共に何度も聞こえる。

悪魔が現れたが、教会の結界に阻まれたのだ。

 

「比企谷君。結界を解除し、悪魔を祭壇に顕現させる。準備はいいかい?」

 

「はい」

俺は礼拝堂の中心に描かれた結界陣の中に居る川崎の前で、構え返事をする。

 

神父はエクソシスト特有の印を切り、結界を解除した。

 

すると、あちらこちらから、悪霊やインプ(小悪魔)が現れる。

俺は、霊視空間把握能力と霊視空間結界を発動させ、さらに身体強化を行った。

俺は右手で神通棍を振るいながら、左手で霊体ボウガンを放ち、迫る悪霊やインプを打ち払う。

霊体ボウガンの矢は、連射式だが、矢のストックは少ない。ボウガンの矢が切れると、結界内の川崎に渡し、補充をしてもらう。そうしながら、次々と倒していく。

 

そして、再度教会の結界が活動しだすと、悪霊とインプが現れなくなる。

とりあえず、俺の仕事はここまでだ。

俺は霊体ボウガンを床に置き、神通棍を構えたまま、川崎の前に立つ。

 

祭壇には羊の角を持つ、体のわりに頭が大きい2メートルほどの悪魔が顕現していた。

祭壇には強力な結界が張ってあり、容易には出られないだろう。

 

そして、神父の悪魔祓いが始まる。

悪魔祓いはまずは悪魔との交渉から始まる。交渉と言っても取引をするわけではない。話術を駆使し、相手より精神的に優位に立つように持って行くのだ。それにより悪魔は弱体化し、祓いやすくなる。

逆に失敗すると、悪魔はより強力になり、その場を立ち去ったり、暴れたりする。

 

まあ、美神さんの場合、その交渉は、めちゃ簡略化されてる。なにせ、悪魔の一言の前に、「別にあんたと話す必要はないわ」「話しても無駄でしょ、どうせ私に祓われるんだから」「別にどうでもいいし、あんたになんか興味ないの」ってな具合に女王様気質に悪魔の心を一発でへし折るのだ。

ある時なんて、「キモ、あんた生きてる価値無いわ」……俺はこの時ほどその悪魔に同情したことはない。俺があんなことを言われたら、その場で自殺しちゃうかもしれない。

 

「双子の悪魔よ。なぜこの子を狙う?ここはお前が来ていい場所ではない。魔界に帰りたまえ」

神父は悪魔にまずは言葉を投げかける。

 

『ふん、しれた事よ。我が弟が狙った獲物を我も欲したまで、人の聖職者よ。お前が我が弟を祓ったようだな。臭いで分かるぞ』

悪魔が神父の言葉を穢れた声を出しながら答える。

 

これだ。普通はこんなやり取りをするはずなんだ。悪魔祓いというのは。

美神さんの交渉は女王様とその奴隷みたいな感じなんだよな。

 

 

しかし、不意に悪魔は俺の方を見て言葉を発した。

『ん?……まさか、その目はアアアアア、アザゼル様!?』

 

………どういう事?まさか……

 

「おい、誰がアザゼルだ!?この目か?またしてもこの目なのか?」

俺はついその悪魔に反論してしまった。

 

「比企谷君!悪魔に耳を貸してはいけない!」

神父は慌てて俺を止めようとするが、祭壇の前の悪魔を封じてる結界陣の前からは離れられない。

 

『ぜーーーったい、アザゼル様だ!!人間に擬態してるんでしょ、でもその目は誤魔化せないぞ!!』

悪魔は震えながら俺を指さし叫ぶ。

 

「おい、誰が擬態だ!!俺は人間だ!!」

 

『悪魔はみんなそんなウソをつくんだーーーー!!そんな、ベルゼブブ様が吐く息のような淀み切った目。魔界広しといえどもアザゼル様だけだアアアアア!!こんなとことまで、追ってくるなんて!!もう嫌―――――!!』

悪魔は急に発狂しだしたように取り乱す。

何?俺の目ってベルゼブブが吐く息のように淀み切ってるの?それって凄くないか。多分魔神ベルゼブブが吐く息って、ちょっと吐いただけで、人が何十万人死んじゃうレベルのものだぞ。

それといっしょ?それってヤバくね?

 

「……また目かこの目か!!アザゼルってあれか堕天使のアザゼルか!!」

 

『ひいいいい、こんなところに蝋燭が!?蝋燭攻めはやめてーーー!!ひいいいいっ、ロープまで!?もう、縛るのは、亀甲縛りは勘弁してくださーーーーい!!』

確かに蝋燭があるな、お前の結界を張るために用意した奴。

確かにロープはあるな、悪霊共から川崎を守るための呪縛ロープ。

何?蝋燭攻めって。何?亀甲縛りって。

 

「………」

神父は何故かじっとその悪魔を見てるというか、なんか放心状態みたいなんだが。

 

『アアアア、あなた様が持ってる棒で何を!!もう嫌だ――――それでケツの穴に刺すんでしょ!!もうあんなのは嫌だーーーーーーー!!死んだ方がましだーーーーーーー!!俺はあんたのおもちゃでも情夫でもなーーーーーい!!』

確かに俺は棒を持ってる。神通棍をな。それをケツに……確かに刺したことはあるぞ。鬼だが。

そう言って、双子の片割れの悪魔は発狂しながら徐々に小さくなっていき、遂にはポンという音共に消滅してしまった。

 

……何、アザゼルって、堕天使で大悪魔だよな。あの悪魔アザゼルにその、とんでもないプレイを強要されてたの?という事はなにか?

 

「おいーーーーーー!!俺をそんな、とんでもない変態大悪魔と勘違いして勝手に消滅するなーーーーーー!!戻ってこい!!せめて誤解を解いてから消滅しろーーーーー!!」

俺の叫びはあの悪魔には届かなかった。

 

 

神父はしばらく茫然と悪魔が消滅した結界を眺めていた。

 

川崎は俺の肩に手を置いて、

「比企谷、そういう事もあるさ。……わたしはあんたの目、嫌いじゃないよ」

慰めの言葉を掛けてくれた。ちょっと照れ臭そうに。

 

そう言う問題じゃない。

あの悪魔め!!よりによってそんな大変態悪魔と俺を間違いやがって!!絶対許さん!!

 

神父はようやく事態を飲み込めたようで

「ひ、比企谷君すまなかったね。こんなことに巻き込んでしまって、……その悪魔は消滅した。これで良かったんだ。そう、これで良かった」

いや、飲み込めていなかった。そう無理やり自分自身に納得させているようだ。

 

 

 

こうして、美神さんのお使いと、神父の手伝いは終わった。

 

 

俺は新たな称号を得たようだ。トラウマという名の……

アザゼルめ。会ったら絶対消滅させてやる。

 

 

……大悪魔本体を倒すなんて現実的に無理だけどな。

 

 

 

神父が川崎を雇った理由は、自分が過去に失態したことのけりをつけるためだったのだ。

しかし、川崎はこんなめにあった後でも、このバイトを続けるらしい。

 

この後、変わったことと言えば、今迄俺と川崎は学校では会釈程度の挨拶だったのだが

 

「比企谷、相変わらず眠たそうな目をしてるね」

「別に眠たくないんだが」

 

他愛もない会話を織り込んだ挨拶をするようになっていた。

 




サキサキ編が終了して、第六章はこれで終わりです。

次はいよいよ第七章。
バレンタイン編やら温泉編などの予定です。

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