やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は繋ぎ回です。



(66)聖母の嫉妬

三校同時開催となったバレンタインイベントが明日に控える金曜日の夕方。

美神令子除霊事務所に行き、いつも通り掃除を始める。

 

今回のバレンタインイベントでは事前に俺が出来る役目はほとんどない。

メインはやはり、料理教室ならぬ、チョコ教室の先生役となる雪ノ下とキヌさんの二人が、色々と準備に時間を取っていた。

キヌさんは雪ノ下同様に料理が上手い。なんでもできる。去年俺も手作りのチョコをもらったが、プロ顔負けの出来だった。

しかし、そのキヌさんだが、チョコの作り方は美神さんに教えて貰ったとか言ってたな。

美神さんが料理してる姿なんて見たことは無いが、キヌさん曰く料理が上手いらしい。

普段のあのとんでもない姿からはとても想像はできないが……

そんな事もあり、雪ノ下とキヌさんはチョコのレシピや材料などの検討のために、何度か打ち合わせをしていた。しかも、キヌさんの自宅。要するにこの事務所ビルでだ。

それでだ。夜遅くなると、俺は雪ノ下を自宅マンションまで送る羽目になる。

 

雪ノ下は今日は流石に来ないようだ。

明日のために、しっかり体力を温存しないといけないしな。

全然体力ないからな、雪ノ下は。

 

俺が玄関の掃き掃除をしてると、キヌさんが学校から帰ってきた。

「こんにちは、キヌさん」

「比企谷君。こんにちは、私は着替えてから事務所の掃除をしますね」

 

俺はここでキヌさんに言っておかないといけない事がある。

横島師匠がまだ来ていない今がチャンスだ。

「キヌさん。明日のバレンタインイベントなんですが」

 

「頑張りましょうね。比企谷君」

笑顔のキヌさん。

 

「そうじゃなくて、一般参加で…その横島師匠を連れて……」

そう、横島師匠を明日のバレンタインイベントに参加させないようにお願いするためだ。

あの師匠がくるとイベント自体が台無しになる可能性が十分にある。

 

「横島さんは来ません」

俺が最後まで言葉を出す前にキヌさんは、笑顔でこう言い切った。

 

「え?あの、そうなんですか?」

俺はキヌさんの言葉を最初は疑った。俺はてっきりキヌさんが横島師匠を連れてくるものだと思っていたからだ。

 

「はい、横島さんはこないです」

キヌさんは笑顔のままだが、断固とした言い回しだ。

 

「あの、師匠の事だから、女の子が沢山来るイベントを嗅ぎ付けて、来るんじゃないかと」

どうやら、キヌさんは横島師匠を連れてくる気は最初からなかったようだ。

俺は肩の荷が下りる思いではあったが、あの師匠の事だ。俺やキヌさんが知らせてなくとも、どこからか知って、来てしまうかもしれない。

 

「横島さんは絶対に来られません。いえ、来させません」

キヌさんは何時もの笑顔だが、なんか迫力がある。

 

「……その、どういう事でしょうか?」

 

「横島さんは妙神山で今日から3日間。修行で出てこれないはずです」

 

「え?何があったんですか。何か特別な修行でも?」

そんな事は横島師匠から何も聞いてないぞ。

 

「私が小竜姫様にお願いいたしました。2日前に横島さんにお手紙とお土産を小竜姫様と斉天大聖老師様にと、渡していただきました」

キヌさんは静かに、鞄の中から書簡を取り出し、「返書です」と俺に渡す。

書簡か大分古めかしいな……多分、小竜姫様の手紙だろう。

 

俺は書簡を開く。

 

 

おキヌさんへ。

 

こちらもご無沙汰しておりまして申し訳ありません。

こうして手紙のやり取りを再開することを喜ばしく感じております。

 

横島さんの件、万事了解いたしました。

横島さんを明日から三日間、妙神山から出さないようにいたしましす。

老師も、おキヌさんから頂いた最高級の日本酒に甚く喜んでおられました。

老師も協力してくださいます。横島さんは明日から72時間老師との組手という荒行を行います。

 

さて、その横島さんを狙っているという女性の事ですが、詳しくお話をお伺いしても良いでしょうか?わたくしも、興味が湧いてきました。かなり積極的な方のようで。

では近いうちに。

 

小竜姫

 

 

 

………何これ?

なんか怖い。

 

 

確かに、これじゃ、横島師匠は明日のバレンタインイベントには来れないな。

武神斉天大聖孫悟空と72時間の組手って、うちの師匠死んじゃわないか?これ?

 

 

文章は短かったが、なんていうか、これまずいんじゃないか?

小竜姫様もなんていうか……まずいんじゃないか?

 

 

 

「比企谷君。少しお話を聞いていいですか?平塚先生とは、どのような方なんですか?どうやら比企谷君も大分お世話になっているようですね」

見るとキヌさんは少々眉を潜ませ頬を膨らませていた。

良い、ちょっと怒り顔のキヌさんも可愛いくて素敵です。

じゃなくて、……こ、これはキヌさんが嫉妬!?まさか平塚先生に嫉妬!?

いやいやいやいや、キヌさんが嫉妬する要素は一つもありませんよ。あの三十路女教師には!!

ええええ!?

 

「あのー、キヌさん?」

 

「雪乃さんに聞きました。横島さん。時々、総武高校に来てるそうですね。しかも、デートも……よ、横島さんが誰とお付き合いされようが、私に咎める権利はありませんが、よりによって、弟子の恩師にとは……いささか納得がいきません。比企谷君はどう思いますか?」

いや、これは完全に嫉妬だ。しかも、ちょっと怒ってらっしゃる。

雪ノ下さんや、言っちゃまずい事もあるでしょ?ちょっとまずいんじゃないですかね。俺は師匠の弟子の立場もあるんで、あれやこれやと。

 

「その、キヌさんが思うような相手じゃないですよ?平塚先生は」

その、あの三十路の方が暴走してるだけで、横島師匠はその気は無いはずです。

はずですよね!師匠!?

 

「グスッ、平塚先生は美神さんみたいに美人だし、大人の女性です。それに引き換え……」

あーーーーダメだ。キヌさんの目に涙が!!

おいーーーー誰だ!!キヌさんを泣かす奴は!!い、今は俺か!!俺、死んでしまえ!?

 

「そんな事は決してないです」

 

「グスッ、比企谷君は恩師の平塚先生と師匠である横島さんが……」

絶対無いですよ。キヌさん!!確かに平塚先生は恩師ではありますし、幸せになってほしいとも願ってます。ただ、横島師匠の恋人と伴侶としては………あれ?意外と相性が良さそう?

 

「だだ、大丈夫です。その、俺はキヌさんの味方ですんで……その」

くそーーーーー、あの師匠め!!キヌさんをこんなにも悲しませるなんて許さん!!だから早く振ってしまえと言ったんだ!!いくら師匠と言えども許せる事と許せない事があるんだ!!

次に会ったら、アレだ。美神令子直伝千年殺しの刑だ。

 

「ごめんなさい比企谷君。取り乱してしまって、直ぐ着替えて掃除しますね」

弱弱しい笑顔でそう言って、階段を駆け上るキヌさん。涙を目にためながら……

キヌさんのは取り乱した内に入らないです。

 

決定だ。横島忠夫に千年殺しの刑を……

そして、俺にあの人を呪える力を!

俺に嫉妬で人を呪う力をください!!

 

 

 

 

しかし、キヌさん。

横島師匠はキヌさんの事を大事に思ってますよ。

それは、恋愛ではないですが、妹のように、家族のように。

 

 

 

 

 

横島師匠は今日から3日間は事務所に来れないと言う事だな。

大した仕事は入ってないから大丈夫なようだが……

 

俺は今日、美神さんから一人で仕事に行くようにということで、来たのだが……

 

『バレンタインなんか嫌いじゃーーー!!』

『チョコなんて、チョコなんて、ほろ苦いチョコなんて!!』

『お前ら!!チョコをもらえない男子の事を考えた事はあるのかーーー!!』

 

ここはデジャブーランド、関東で二番目流行ってるテーマパークで、今はバレンタインイベント開催中で、カップル達が沢山訪れている。

 

俺の目の前にいるのは、悪霊だ。しかも合体して顔が3つある悪霊だ。

その悪霊はカップル達を脅したり、手をつないでるのをみると、その手を叩いたり、そして、チョコを渡すカップルを見ると、そのチョコを分捕って食べていた。

バレンタインでチョコをもらえなかった嫉妬した男の幽霊が集まって悪霊化したようなのだ。

なんで、こんな連中ばっかり量産してるんだ?ここは……

 

「おいお前ら、嫉妬も大概にしろ。迷惑なんだよ!」

 

『なんだとぉぉぉ!!モテる奴はみんなそう言うんだ!!ってあれ?』

『あれ?その目はお仲間じゃねーか』

『お前もアレだろ?モテなくて、嫉妬に狂って死にきれなくてゾンビになった口だろ?』

 

「……ゾンビか、原点回帰だな。しかもモテないって……悪かったな確かにモテないが、義理チョコは貰ってるぞ。去年なんて7つだ!しかも一人は聖母様からだ!」

そう、小町からだろ。もちろんキヌさんから、そんでタマモに板チョコに、シロから肉チョコ、何と美神さんからももらったぞ。あと美智恵さんに、美智恵さんが買ってきたものをひのめちゃんからということで。因みに家のかーちゃんは忘れてたらしい。

そう昨年は人生で一番の豊作日だった。

 

『義理か、まあ、いいんじゃね?』

『そう、そうだよな。お前、良い仲間もってるじゃねーか』

『あー、はいはい、よかったな』

おい、お前ら!何その態度!?

 

「そういうお前らは義理チョコ貰ったことあるのか?」

 

『まあな、かーちゃんとねーちゃんにな』

『俺は5つかな』

『……何お前ら、義理チョコ貰ったことあるの?』

 

『何お前、義理も無いのか?』

『流石に親姉妹は!?』

『うるせーーーもらった事ないわーーー!!』

 

なんか雲行きが怪しいんだが、3つの顔のうちの神経質そうな顔だけは義理チョコも貰ってなかったようだ。

 

『……す、すまなかったな』

『ああ、その流石に』

『うわーーー!!そんな目で俺を見るなーーー!!お前らなんて、お前らなんてトリオ解散だーーー!!』

 

そう言って、神経質そうな顔がポンっという音共に体が分かれ、魂の形になる。

そして、残りも、悪霊としての霊力が維持できなくて、魂の形になって分離する。

トリオ解散って、お前らは漫才師か何かなの?

 

悪霊は3体に別れ、ただの悪意が強めの浮遊霊に戻ったのだ。

しかも何か、魂の形になってまで、ケンカしてるし……

 

そのうち、力尽きて、俺の目の前で全員あの世に召されていったのだった。

 

 

何これ?俺、何しにここに来たんだ?

除霊も何もしてないんだが?

これ、協会にどう報告すればいいんだ?

除霊対象が勝手にケンカして、勝手に召されていったんだが。

 

 

バレンタインデーか、なぜ人も幽霊をもこうも狂わせるのだろうか?

恋愛に嫉妬か……今の俺には関係ないか。

 

そういえば今日のキヌさんの嫉妬してる顔は、可愛らしかった。

まあ、嫉妬してる対象が間違ってるんだけどな。

やっぱり、これもバレンタインデーのせいか?

 

 

明日はバレンタインイベントか。

横島師匠が来ないとわかったら、一気に気分が楽になったな。

これで何事も起きないだろう。




次はバレンタインイベント突入です。

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