やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
ちょっとあいてしまいまして、すみません。
年末で忙しくて……今週もちょっと厳しいかもです。
冬期休暇に入れば……大丈夫だと。
妙神山から出られないように、斉天大聖老師からみっちり修行をつけて貰ってるはずの横島師匠は、どうやってかはわからないが、妙神山から抜け出し、バレンタインイベント会場前まで、ボロボロになりながら現れる。
俺は横島師匠の並外れた煩悩とそれにかける情熱が、どんな障害があろうと、ここに現れるだろうと確信に近い何かを感じ、イベント会場突入を阻止するために会場前であらかじめ準備をし、待ち構えていた。
煩悩と極度な疲労で理性が飛んだ師匠と一触即発な状況となるが、そこに偶然を装って居合わせた美神さんにより師匠はあっさり成敗され、木に吊るされる。
横島師匠を成敗した美神さんは折角だからと、キヌさんに会うために、コミュニティーセンターへと向かった。
美神さんは有名人だから、きっと会場は大変なことになるだろう事は想像に易い。
俺の事は他人のふりをしてくれるそうだ。俺がGSバレしないようにな。
俺は美神さんとタイミングをずらして会場に向かう。
美神さんはキヌさんの方の教室に入り、俺はしばらくして雪ノ下の教室に戻る。
案の定、美神さんが突如として現れたキヌさんの教室は大騒ぎになり、それを聞きつけた雪ノ下の教室の参加者も、キヌさんの教室の方へと美神さんを一目見ようと押し寄せた。
まあ、こうなるわな。美神さんは有名人の上に、下手なモデルさんよりスタイルもいいし美人だからな。
こちらの教室では、チョコ作りはほぼ終わったようだ。雪ノ下と由比ヶ浜は片付けを始めていた。
「美神令子さんが来られてるようね」
「ああ、キヌさんに会いにな。一応二人とも、面識がない様に振舞ってくれ」
「そうね。その方が良いかもしれないわね」
雪ノ下はそれを了承してくれた。雪ノ下は美神さんとの面識は結構ある方だ。
由比ヶ浜は一度会った程度だが、雪ノ下は何かとキヌさんの部屋に来てるため、既に5、6度は会ってるはずだ。
「由比ヶ浜、聞いてるか?」
返事のない由比ヶ浜に再度尋ねる。
「ヒッキーえい!」
由比ヶ浜は笑顔で、手に持ったチョコを無理やり俺の口に押し込んでくる。
俺は仕方がなく覚悟を決め口に入れた。
「ん?……普通にチョコだ。雪ノ下さすがだな」
口にしたそれには、普通に味があったことに驚き、由比ヶ浜でなく、雪ノ下を褒める。
たぶん。由比ヶ浜の作ったものだろうから、炭か、桃風味の得体のしれない味を想像していたのだから、余計だ。
「そのチョコ、あたしが作ったのに!」
由比ヶ浜が俺に抗議してくる。
「ああ、お前にこのレベルのチョコを作らせた雪ノ下が偉い」
そうだ。炭しか作れないお前に、これを作らせた雪ノ下には流石だとしか言いようがない。
「苦労したわ」
雪ノ下は少々疲れた様子で、ホッとした表情をしていた。
「ええーー!あたしも褒めてくれてもよくない?」
納得がいかない様子の由比ヶ浜。
「あーー、えらいな由比ヶ浜は」
「感情がこもってないし!う~」
「先輩、先輩!凄いですよ!有名人ですよ!あのゴーストスイーパー美神令子が来てるんですよ!!」
一色が慌てたようにこの教室に入ってきて、俺にそんな事を言ってくる。
「ああ、そうらしいな」
「凄い美人ですよ!大人の美人です!!カッコいいし!!オシャレで良い服着てるし!!」
「ああ、そうらしいな」
「反応薄!?も、もしかして先輩は女の人に興味とか無いんですか?」
「そんな事ないぞ」
そう言われてもな、2、3日に1度の頻度で会ってるし。確かに美人だけど、中身は鬼や悪魔と変わらんからな。
「それでね。氷室さんのお知り合いみたいなんですよ!!……たしか氷室さんって先輩のバイト先の先輩ですよね?」
「あ、ああ、そうだが」
「……先輩、やっぱり私に隠し事してませんか?……氷室さんって、六道女学院の霊能科で成績はトップクラスらしいじゃないですか。六道女学院の生徒会の人に聞いたんですが、現役のGSらしいですよ氷室さん。しかも、あの美神令子さんの事務所に所属してるとか……」
「そ、そういえば、聞いたことがあるな」
やばい、やばい、やばい、なんだ一色の奴。この頃俺に突っかかってたのはこの事か?
「で、先輩は氷室さんとは、どこのバイトの先輩なんですか?」
一色はジトっとした目で俺を見据える。
「お、親父の東京の仕事先のな、アレだ」
「……先輩、前、幽霊騒ぎありましたよね。私、見ちゃったんです。先輩が幽霊に抱き着かれてる所を……」
あああーーー、こいつ、あの時、起きていやがったのか!!
「それはだな。あれだ。悪戯していた生徒が幽霊の恰好をしてたんだ」
「なんか……その後、変な人が物凄いスピードで現れて、先輩と言い争ってましたよね」
一色はジト目のままだ。
ああーーあかん!ピンチやーー!ぐっ、つい師匠の口癖が頭の中に!
横島師匠を見られてた!やばいぞ!
「一色さん、それは…あの変な男も悪戯のグルだったのよ」
雪ノ下が助け舟を出してくれた。ナイスフォロー。確かに変な男だ。うちの師匠は!
「本当ですか?雪ノ下先輩?……結衣先輩も何か知ってるんじゃないですか?」
一色の追及の手は、今度は由比ヶ浜に向かう。や、やばい。
「え?あたし?あ、あの変な人からヒッキーがあたし達を守ってくれたの」
ナイス答えだ由比ヶ浜!そう、間違いなくうちの師匠は変な人だ。女と見たら、誰だろうと見境が無い。
「へー先輩がねー………せーーんぱい?本当のところはどうなんですか?」
一色は俺の方にクルっと振り返り、あざとい満面の笑顔で俺に聞く。
「そんな感じだ」
そう、俺は横島忠夫なんていう人間には会ってないはず。三十路の生霊を抑えるために何かを差し出したのは覚えてるが、それは変な男で変な人だ!いや、いままで人生であの人以上に変な人は見たことが無かったな横島師匠……
「そうなんですね。それで、せーーんぱい!氷室さんと、どこで一緒にバイトしてるんですか?」
あざとい笑顔のまま、ずいっと一歩さらに近づいてくる一色。
もう、これはダメだな。観念するしかないか。
「一色、絶対誰にも言うなよ。俺はそのだな……その美神さんところで働いてるんだ」
「やっぱり……で、先輩はGSのしかもあの美神令子さんの事務所でなんのバイトをしてるんですか?」
「それは……」
「掃除とか、荷物持ちでしょ?比企谷君」
雪ノ下がまた、ナイスフォローを入れてくれる。
「そ、そうだ。要するに雑用係だ。俺が出来る事と言えばそんなことぐらいだしな」
「もしかしたらと思ったんですけど。先輩だし、そんな事だと思ってました。でもいいな~、先輩のお父さんの伝手ですか?」
ふー、どうやら俺のGSバレだけは回避できたようだ。これも普段の行いの結果だな。まず学校での俺はどう見てもGSやってるような人間に見えないだろう。
「それはそうだが一色。絶対秘密だぞ。そんな所でバイトしてるなんて色んなところにバレたら、やばいからな」
「うーん、どうしようかな~…先ー輩!内緒にしてあげますんで、時給もいいんでしょ?今度何かおごってくださいね!」
一色はいい笑顔でこんなことを言ってくる。
こ、こいつは…いい根性してやがる。
GSバレがしなかった代償としては、それぐらい仕方が無いか。
「まあ、今度な」
「あっ、忘れるところでした。これ先輩の分のチョコ!家に帰ってから食べてくださいね。先輩のは特別激甘です!」
一色はきれいにラッピングした手のひらサイズのピンクの包みを俺に手渡した。
さっきとは違い、あざとさが抜けた自然な笑顔のように見えた。
「ああ、サンキュな」
俺は一色にお礼を言うと。
「チョコのお礼、期待してますよ」
一色はそう言って、元の教室へ戻っていく。
ふう、一色の奴、鋭いのか鋭くないのか、よくわからなかったな。だが、もう少しでGSバレするところだった。普段の言動にも気をつけないとな。
隣では雪ノ下と由比ヶ浜もホッとした表情をしていた。
一時はどうなるかと思ったが、一色からなんとかGSバレは回避できた。
「比企谷ーー!ちょっと、ちょっと!」
ホッとしたのも束の間、今度は折本がこの教室の出入口から俺を呼んで手招きをしてきた。
「はぁ、ちょっと外すな」
雪ノ下と由比ヶ浜にそう言って教室から出ると、折本にそのまま、一階の自販機のある休憩場に連れていかれる。
「比企谷、これ…はい」
そう言って折本は少し恥ずかしそうに、可愛らしくピンクでラッピングされた小さな袋を俺に差し出してきた。
多分、中身は今日作ったチョコだろう。
「ん、チョコか?俺にもくれるのか?」
「うん。あの時からずっとお世話になってるし……比企谷ってさ、何だかんだって優しいじゃん。こんな私の話も聞いてくれるし……だからそういう事」
「サンキュウな。まあ、アレだ。俺もGSの端くれだしな。相談くらいは乗る」
俺はお礼を言いつつ、義理チョコを受け取った。
「はぁ、比企谷って鈍感でしょ。まあいっか。ちゃんと食べてよね。手作りなんだから、次そんな態度だったら、無理にでも分からせてあげるんだから」
折本は呆れた顔をしてから、一方的にそう言って、先に足早に戻って行った。
なんなんだ?俺は何か不味ったか?そんな態度とは?
怒ってはなかったようだが……
俺は釈然としない感じで、元の教室に戻る。
「折本さん。何の用だったのかしら?」
「ゆ、ゆきのんそれ聞いちゃう?」
雪ノ下は戻ってきた俺に、折本の用件について聞いてきたのだが、何故か由比ヶ浜が雪ノ下の言動に焦っていた。
「ああ、これを貰った。義理チョコな。この前のお礼だろう」
折本からもらった可愛らしくラッピングされた小袋を見せながら雪ノ下に返事する。
「……ヒッキー、それ本気で言ってるの?」
「由比ヶ浜さん。確かに、聞いたのは間違いだったようね。反省するわ。でも、それ以上に目の前の男は鈍感よ」
由比ヶ浜は眉を顰め、雪ノ下は由比ヶ浜に謝りつつ、何故か俺をジトっとした目で見てくる。
「何がだ?」
「………ヒッキー」
「………これは大変ね」
なんなんだ?いったい。
「ハーちゃん!はい!ペンギンさんとイルカさんとアザラシさんのチョコ、ハーちゃんにあげる!」
ケーちゃんが急に俺の腰あたりに元気よく飛びついてきて、俺に動物を象ったチョコが入った半透明のラッピング袋をくれた。
「ありがとな。ケーちゃん」
俺はそんなケーちゃんの頭を撫でる。
「比企谷。今日のイベント、助かったよ。京華も喜んでるしさ」
「川崎、また、沢山作ったな。チョコクッキーか?」
川崎は沢山のチョコクッキーが入った大きなタッパーを、手提げ袋に入れていた。
「明日、神父のところにバイトでしょ。その時、礼拝に来た子供たちに配ろうと思って」
「喜ぶんじゃないか」
川崎は見た目に反して、かなり家庭的な感じだ。得意料理も里芋の煮っころがしだしな。
「神父って甘いのとか大丈夫かな」
「大丈夫じゃないか?何でも食べてた印象があるが」
「そう……比企谷、これ、その、この前助けてもらったお礼、まだだったから」
川崎は早口で言いながら、リボンが付いた小さな紙袋を俺に差し出す。
この前か……川崎を狙った双子の悪魔の片割れかの事だが、あれは思い出したくない記憶の一つだ。あの悪魔は、俺の目を見て、変態悪魔と勘違いして、勝手にあの世に逝きやがったのだ。
結果的にはよかったんだが……
「ああ、ありがとな」
「うん。この子も居るし、先に帰るね。じゃあまた」
川崎とケーちゃんは教室を後にする。
ケーちゃんは俺ともっと遊ぶと駄々をこねていたが、川崎が何とか説得したのだが、帰り際はずっと手を振っていた。
「………」
「………」
なんでしょうか?お二人とも。
無言の圧力というかなんというか。何なんだ一体?
この後、予定通り14時前にバレンタインイベントは無事に終わった。
横島師匠が現れたが、未然に防ぐことができたのが幸いしたな。
まあ、美神さんが来て、ちょっとした騒ぎにはなったがな、それは別に悪い意味ではない。
ただ、六道女学院の女生徒達は、うっとりした表情で美神さんを囲んで、令子お姉さまとか言って、何故か百合百合した空間になっていたが……。キヌさんの時もそうなんだが、六道女学院の女生徒って……あれか、そう言う女子たちを量産してるのか?
俺達奉仕部と生徒会はイベント会場に持ち出した資材やらを、学校に戻すために、一度学校に戻る。
クリスマスイベントに比べ、コミュニティーセンターで貸し出しや調達できるものが殆どであったため、それほど荷物はない。無いはずなのだが。
明日が2月14日日曜日、バレンタインデー本番だ。
イベントに参加した人たちも、今日作ったチョコを明日に、大切な人や親しい人に渡すのだろう。
総武高校では休み明けの月曜日があれだな。ちょっとした騒ぎになるだろうな。
女子は勇気と恥かしさを胸にチョコを渡す事に思いを寄せる。……男子は希望を持って待つのみ。
まあ、俺には関係は無いがな。
そんな事を考えながら、学校の正門に到着する。
「先輩、行きますよー」
「おい、誰の荷物を持ってると思ってるんだ?」
「先輩、か弱い女の子に重たい荷物を持たせるつもりですか?」
「そもそもお前のだろ。全部」
俺は今、一色の荷物が入った大きなボストンバックを2個を担ぎ、校舎の玄関に向かう。
一色の奴、毎度の事ならが私物多すぎないか?それよりも、なぜ俺が当然のように一色の私物を運んでいるんだ?
まあ、重さ的には問題ないんだがな、普段の仕事で慣れてるし。一色は俺を召使か何かと勘違いしてないか?
雪ノ下と由比ヶ浜は先に奉仕部の部室で待ってるようなことを言ってたな。
とっととこの荷物を生徒会室に放り込んで……
なんだ?霊気の乱れ?
「きゃーーー!!」
一色の悲鳴が1年の下駄箱がある方から聞こえてくる。
俺はボストンバックをその場に放りだし、一色の下に駆けつける。
次はご想像にお任せします。
この次の次は温泉旅行編に突入!?