やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
今年一発目です。
感想ありがとうございます。
誤字脱字ありがとうございます。
それでは……
由比ヶ浜と雪ノ下に呼ばれたのだが、なぜか葛西臨海公園内にある葛西臨海水族園で、要件を知らされないまま2人と、まったりとした時間を過ごした。
昨日のイベント後の部室や電話の様子だと、かなり重要な事のようではあったのだが……
水族園から出た後には、俺は二人から感謝の言葉を述べられ、バレンタインチョコを貰った。
義理チョコだろうが、俺は生まれてこのかた学校で女子にバレンタインチョコ貰うなどというリア充丸出しの出来事はなかったため、嬉しさ半分気恥しさが勝ち、返事や表情をどう繕えばいいのか困った。
雪ノ下からチョコを貰った後、さらに何かを俺に話そうとした時だ。
京都に居るはずの陽乃さんが訳が分からない事を言いながら、それを遮ったのだ。
そして、3人が言い争いになり、3人で話し合いが必要だとかで、どこかに行ってしまった。
俺はここでポツンと置いてけぼりを食らってしまう。
言い争いの理由に皆目見当がつかん。
雪ノ下はいつもの事だが、争いごとを好まない由比ヶ浜が、あんなに陽乃さんに突っかかるのは、相当の事なのだろう。
陽乃さんは二人に挑発めいたことを言っていたのは確かだ。
それもそうだが、陽乃さんが言っていた今週末に温泉旅行ってのが気になる。
週末は、オカルトGメンからの協力要請で泊りがけで遠方へ行く事になっている。だから断ろうとしたのだ。
陽乃さんは俺がオカGの仕事に行く事自体知っていたような口ぶりで、その上で、温泉旅行の方は大丈夫だと言う。
まるで、なぞかけのようだ。
予想では、オカGが解決するはずの仕事を、事前に陽乃さんなり、土御門家なりが解決してしまう。
直前に仕事のキャンセルという事になれば、さすがに次の仕事という事は無いはずで……俺がフリーとなり、そこを陽乃さんに強引に連れていかれると言う事なのだろう。
だからサプライズだとかなんとか言っていたんだ。
陽乃さんは、俺がキャンセルを食らった直後に現れ、そのまま温泉旅行に連れて行くつもりだったのだろう。
しかし、なぜ、そのサプライズを中止しなければならない事態になったんだ?
陽乃さんは雪ノ下と由比ヶ浜を見据えながらそんな事を言っていたが……
まるでわからん。
そんな事を思い浮かべながら、美神令子除霊事務所に到着する。
すでに、美神さんとキヌさんは出かけていて、事務所には置手紙と共にキヌさんと美神さんからのバレンタインチョコが置いてあった。
今年もありがたく頂きます。キヌさん。
そう言えば、美神さんとキヌさんの用事とはなんだろう?仕事だったら、事前に知らせてくれるのだろうが、何かプライベートなのだろうか?
シロとタマモはこの後しばらくして、事務所に戻ってきた。
「八幡殿、デートはどうで御座ったか?」
「デ、デートじゃねえし」
俺は要件で呼ばれて、水族園に行っただけで、決してデートとかではない……と思う。
いや、これは奉仕部の延長線上だ。奉仕部のメンバー全員での課外活動とかなんかそういう奴だ。
……なるほど、そう考えれば納得だ。
「この前の二人と会ってるって小町が言っていたわ。私達にデートの邪魔はしないようにと」
「はぁ!?何言ってんのうちの妹は!?」
シロとタマモに何言ちゃってるんだ小町は!?
「八幡殿達は、どこに出かけたでござるか?」
「す、水族園?」
「なんで疑問形なのよ」
「やっぱりデートではござらんか」
シロもタマモもジトっと疑いの目を俺に向けてくる。
「バッカ、ちげーよ」
「そう?八幡、バレンタインチョコを貰ったんじゃないの?」
「貰ったが義理だよ、義理、ほれ」
俺は二人に貰ったラッピングされたチョコの袋を見せる。
「クンクン………八幡殿。本気でそう思ってござるか?」
ラッピング袋を間近でシロは臭いを嗅ぐ。
「なんだそれ、それ以外何があるんだ?」
「だめねこの男。師匠が師匠なら弟子も弟子ね」
「八幡殿、先生より鈍感でござるよ」
「何がだよ」
「シロ、この男に何を言っても駄目ね」
「八幡殿~、お二人がかわいそうでござる~」
タマモは呆れた目で、シロは哀愁が漂った目で俺を見てくる。
ったくなんなんだ?
客観的に見て、俺がデートとかおかしいだろ?
それに雪ノ下と由比ヶ浜とは部活でいつも一緒に居るんだ。それが外に出かけたぐらいでデートとか、何言ってるんだ?
しかも、あの雪ノ下と由比ヶ浜だぞ。由比ヶ浜はリア充の上級者で人当たりがいいから、結構モテるらしいし。雪ノ下はボッチだが、校内一の美人だぞ。
俺に?ありえないだろ?
夕方、俺はシロとタマモを引き連れて、郊外のとあるお菓子メーカーの工場の除霊に向かった。
妖怪が4日ぐらい前から工場の倉庫に居座っているらしい。
『がはっはーーーーっ、リア充どもめ、こんなチョコ共は俺がこうしてやる~~~』
3メートル位の滅茶苦茶デブのブサイク妖怪がそこら中に積み上げてるチョコレートを片っ端から食べていた。
俺達はその倉庫の物陰から妖怪の様子を見る。
「……なにこれ?この頃こういう奴多くないか?」
「八幡、どうするの?」
「依頼主は、この妖怪が全部チョコを食べきってから退治してくれと」
「生チョコがもったいないでござるな」
「いや、これ作り過ぎて廃棄処分する分らしい」
そう、これは作り過ぎて廃棄処分するチョコなのだ。
このお菓子メーカー、バレンタインのチョコ需要を見込んで多量に作ったのはいいのだが、今年のブームは生チョコではなくて、高級チョコと後は手作りチョコだったらしいのだ。どこかの雑誌で手作りチョコが簡単に美味しくできる記事を載せてから、そのブームに火が付いたらしい。
それに乗ったライバル会社の、誰でも作れる手作りチョコキットが爆発的に売れたが、ブームを読みきらなかったこのお菓子メーカーは大誤算だったそうな。
そんでこの会社は多量に作り過ぎたチョコを流通させる前に絞って、こうして倉庫に保管し、徐々に廃棄する予定だったらしいのだが……4日前からこのデブ妖怪が現れ、この廃棄処分品を置く倉庫に居座って、チョコを食べ続けているらしいのだ。
どうせ、退治費用が掛かるのなら、そのままにしておいて、廃棄処分代を浮かすために今日までほったらかしにしてたのだそうだ。
この頃は産業廃棄物の規制も厳しくて廃棄処分代も馬鹿にならない、と言ってたな。あの部長。
世の中は世知辛い。
この妖怪は廃棄処分品の入った倉庫に入り込んでチョコを食べつくしていただけなのだ。
世の中には一つも影響が出ていない。このお菓子メーカー的には妖怪が工場に居ついて気味悪がっての退治依頼だ。まあ、工場自体は倉庫から離れてるため、稼働してるらしいが、それでも従業員は近くに得体の知れないものがいるのだ。働きにくいだろう。
『がっはっはっはーーー、チョコなんて俺が食べつくしてやるーー!!これで世のモテ男のリア充どもは、チョコが貰えないだろう!!』
……いや、全然リア充どもに影響が全く出てないんだが……お前がやってるのはタダの残飯処理だから……
俺は物陰から妖怪の様子を見て、ほろりと涙を一滴落とす。
『なにがバレンタインだ!?人間がそんな事をするから、妖怪の間でもバレンタインチョコが流行るんだ!!イケメン反対!!イケメン妖怪反対!!差別反対!!一反木綿の癖に!!チョコ貰いやがって!!』
目の前の妖怪は叫びながら、涙を滝のように流しながら其処らじゅうのチョコを平らげていた。
どうやら、妖怪の世界でもバレンタインチョコは流行ってるらしい。
まあ、日本だけだろうが。
そのデブサイク妖怪が大方チョコを食べきった所で、俺は目の前にサッとでる。
「ゴーストスイーパーだ。お前は住居不法侵入の上に、一応器物破損を行った。しかし人的被害は出ていない。大人しくすればギリギリ封印処分ですむ。後に解放される事もあるだろう。抵抗するならば退治する。お前には選択の余地がある」
今回は全く人的被害が出ていない。人を襲うそぶりも無い。不法侵入だけなら、危険性の無い妖怪ならば退去勧告で、二度とここに現れないように契約させればいいのだが、廃棄処分品とはいえ、食べてしまったら一応器物損壊だからな。封印処分は免れない。俺の判断で直接退治は可能だが……
『な!?なんだ貴様ーーー!!……あれ?その目は?泥田坊の旦那じゃないですか!?聞いてくださいよ!人間かぶれの妖怪共がバレンタインチョコなんて流行らすから、ブサイク妖怪たちは肩身が狭いんすよ!!何とかしてください』
「………またか」
「八幡殿、泥田坊だったでござるか?」
シロが俺に不思議そうな表情を向ける。
「なわけないだろ!?」
『ど、泥田坊の旦那も、リア充だったのか!?その超メンコイ妖怪を二体も!!その濁った目は俺達と一緒だと思ったのにーーーーー!!悔しいーーーー!!この悔しさをどう表現すればーーーーー!?』
デブサイク妖怪は涙をチョチョ切らせながら喚き叫ぶ。
超メンコイか…シロとタマモの事だろうが、もうメンコイとかいう言葉を使ってる時点でモテ無い要素が満載だろう。
「八幡、こいつ退治していい?」
タマモは面倒くさそうに俺に聞く。
「なんか……同情するんだが……知性もあるし、人的被害も出ていない。抵抗するそぶりもないしな。しかも、こいつ図体の割に弱っちい。一応封印するか……『封印』」
俺は脱力感満載のまま、封印札を取り出し、言霊を発する。
『イケメーーーーン。はーーーーーんたーーーーーい!』
デブサイク妖怪は叫びながら封印札に吸引され収まる。
封印札に処理を施し閉じる。
よ、妖怪の世界も大変なんだな……
あれ?泥田坊って、人望?がありそうだが、目はブサイク側なのか、という事は泥田坊に間違えられる俺の目は妖怪基準でもイケてないって事か……。何それ。
俺は一旦事務所に戻り、報告書を書いて、家に帰る。
まだ、美神さんとキヌさんは事務所に戻ってなかった。
自宅に帰ると小町がニヤリとした笑顔で出迎える。
「お兄ちゃんデートはどうだった?」
「デートじゃないぞ」
またか。
「え~~、でも、チョコ貰ったんでしょ、結衣さんと雪乃さんに!」
「義理チョコな」
そう言って小町にラッピングされたチョコを見せる。
「……お兄ちゃんそれ本気で言ってるの?」
「なにがだ?」
「本当にわからないの?」
「だから何をだ?」
「う……うううう、ごめんねお兄ちゃん!小町が小町がいつもお兄ちゃんにダメだしするから……ウエーーーン」
小町がいきなり泣き出した。なななんで!?どこに小町が泣く要素があった?
「ええーーー?どどど、どうした?小町!?」
「クスン……だって、お兄ちゃんがお兄ちゃんが」
やはり、俺のせいか?
「す、すまん。いや、ごめん。こ、小町ちゃん!?お兄ちゃんなんか不味い事言った?」
「グスン、小町のせいだーーーー、お兄ちゃんがこんなに鈍感になったのはーーーーーー!」
「ええええ!?鈍感!?いやよく言われるが、それは小町のせいじゃないぞ!?鈍感なのは八幡のデフォルトだきっと!」
「クスン。ウッウウウッ。小町が小町がちゃんとお兄ちゃんに言わなかったから……」
「え?何を?よくわかんないけど、八幡が悪いきっと!」
「ウウウ……ごめんねお兄ちゃん」
理由は全くわからなかったが、しばらく小町に泣かれたのだった。
次は、このシリーズ初の八幡視点以外でです。
一応番外という形にとろうかと……
この章の第の通り乙女たちの攻防ですね。