やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
今回、初の番外しかも、八幡視点ではない。
雪乃視点です。
これに続くのは次に結衣視点となります。
バレンタインイベントが無事終了した後の奉仕部部室。
比企谷君は一色さんを自宅に送り届けるために先に学校を出た……
「ゆきのん、明日どうしようか?ヒッキー誘っちゃったけど」
「え?でも由比ヶ浜さんは比企谷君に……」
「うん、あたしはバレンタインチョコレートをヒッキーに渡すの。それで好きですって言うの」
「……だったら私は……」
「ゆきのんもだよ。ゆきのんもバレンタインチョコレート、ヒッキーのために作ってたんだよね。だからゆきのんも……ヒッキーにチョコレート渡して、ゆきのんの思いをヒッキーに伝えたらいいよ」
「それは………」
「あたしはヒッキーの事が好き。でもゆきのんの事も大事な友達なの。だから一緒に…ね」
「私は………」
「ゆきのん、今日ゆきのんちに泊まって良い?作戦考えないと」
「………うん」
私はゆっくりと頷いた。
私が初めて友人だと言える関係を持った女の子、それが由比ヶ浜結衣さん
彼女は私が持っていない物を多く持っていた。
今日もそう。
本当は怖がりで意気地の無い私の背中をやさしく押してくれた。
いつも笑顔で、優しさを持った女の子。
それだけじゃない。心がとても強い女の子。
私は知っていた。彼女が私が好きな男の子と同じ男の子の事がずっと好きだったと言う事を。
だから私は直前で躊躇した。怖かったから。彼女も彼も失いたくないから……
でも、彼女はその先を勇気をもって、踏み出そうとした。
私も一緒に……
私が好きになった男の子、比企谷八幡君。
最初に出会った時は、目が濁っていた事が印象だったけど、そこらにいる男子と同じように思えた。ただ、他の男子とは異なりかなり捻くれてはいたけども。
彼は私の注意やきつめの言動にも全く動じない。普通の男子だと二度と私の前に顔を出さないのだけど、彼はそれを楽しむかのように逆に言葉を返してくる。
彼とのやり取りは、私の中でなかなかの楽しみとなっていた。
彼は恥かし気もなく公然と独りぼっちを名乗っていた。
そんな彼だが、何でも一人でやり切ろうとする姿勢には共感していた。私もそうだから。
私はそんな彼が、そこらにいる男子とは異なり、興味の対象へとなっていた。
この時はまだ、好意という感情は無かったように思う。
文化祭では文化祭の成功と自分を毛嫌いしている女の子を救うために、自ら校内一の嫌われ者となった。誰に褒められるわけでもなく、自分を犠牲にしてまで……
彼に聞いたわ、自分を犠牲にまでして、なぜそこまでやる必要があったのかと。
彼は何時もと変わらず平たんに答えた。これが一番効率が良かったと。
目的を達成するための最短ルートは彼自身が校内一の嫌われ者になること、それを躊躇なく実行する。
流石に呆れはしたが、彼らしいとも思った。
その頃、ますます彼は興味の対象となっていた。
そして……あの京都の夜での出来事。
最初に数馬という人と餓鬼という妖怪に囲まれた時、私は既に絶望していたわ。
もはや、あらがいようがないと……体は震え、立つこともままならない自分にも絶望したの。
その時、彼は大丈夫だと言って、急変する……いつもの彼とは全く異なる顔つきをし、雰囲気すらも一変した。
これが彼のもう一つの顔、いえ本当の顔だった。ゴーストスイーパー比企谷八幡。
最初は何が起きたのかわからなかった。気が付いたら、彼が周囲の妖怪を次々と消し去って行った。
その後、圧倒的な存在感の鬼が現れた。鬼は私達を食わんと迫ってきた。
それでも彼は、自分より圧倒的な力を持つ鬼相手に、私達を助けるために、満身創痍になりながら何度も何度も立ち上がって……
その時の背中が今でも忘れられない。
姉さんに聞いたわ。鬼の名前は茨木童子。平安時代に悪行を働いた本物の鬼。
一流のゴーストスイーパーでも一人では退治することが困難な相手だと……、その状況であれば、比企谷君だけが逃げることができたとも……でも彼は逃げなかった。私達を命がけで守ってくれた。
彼に聞いたわ。なぜ私達を助けてくれたかと。彼は気恥しそうに「後味悪いだろ」と。
効率を重視するならば、私達を見捨て逃げるのが正解。でも彼はそうしなかった。私達を見捨てないどころか自らの命を懸けて鬼の手から立ち塞がってくれた。
彼は少なくとも私達の事を彼にとって必要な存在だと思ってくれていると、そう思うと心の中で何かが騒めきだした。
私は彼に助けられてから、ゴーストスイーパーの事、霊能者の事について、色々と調べたわ。
彼が霊能に目覚めたのは後天的、私が乗っていた車との事故が原因だった。
後天的に霊能に目覚めた場合、そのまま安定するケースは10%にも満たないと。一番多いのは何らかの霊障が後遺症という形で後の人生に付きまとうケース。社会復帰もままならない事も多いらしいわ。次に多いのは死亡するケース。霊能が暴走し死亡する。又は現実を見ることができず自殺をし死亡する。
彼は、霊能が暴走するパターンだったらしい。でも努力で霊能をコントロールできるようになり、後遺症が残る事が無いと言っていた。それどころか霊能者として開花させ、GS免許を取得するまでになっていた。
本人は決して言わないのだけど、それは並々ならない努力が必要だと、いろいろな資料を見ても理解できる。
この頃、私は彼に嫉妬と敗北感に近い感情を抱いていた。
彼は人生に翻弄されながらも、それを乗り越え、自分でその先を切り開いた。
私は親の言いなりになり、人生を決められ、それに抗いたいと思いつつ何もできなかった。
私がやっていた事は駄々をこねた子供のような事だけ……
彼はどうして一人で切り開くことができたのか、私はどうして何もできないのか、それが当時の私の感情を支配していた。
彼は奉仕部を辞めると言った時、当然だと思った。
彼は奉仕部に居たとしても得るものが無い。私と居たとて無駄に時間を過ごすだけだと……
しかし、由比ヶ浜さんがそれを止め、私を叱る。
そして、彼の真意を聞く。
彼は私たちの為に、奉仕部を辞めるつもりだった。
GSという特殊な立場が、いずれ私達に迷惑がかかると……そう、彼は私達の事を考え行動しようとしてくれた。
それと、彼は奉仕部で時間を過ごすのは居心地が良いとも言ってくれた。
理由は彼なりの捻くれた答えだったのだけど……
そして、私の悩みを聞いてくれた。彼は真剣に聞いてくれた。
私がこの時一番聞きたかったことに答えてくれた。
なぜ、一人でそこまで出来たのかという質問に。
彼は自分一人では何もできないと言っていた。
私には彼が正解を選択し続け、何もかも一人で解決してきた様に見えたから……
彼は周りの人たちに助けられて、ここまでこれたと……
一人では解決できない事の方が多いと、一人では間違ってばかりだと。
周りの人に恵まれたと言っていた。
私には姉さんしか頼れる人が居なかった。
その姉さんも今は……
彼は言ってくれた。
私の周りには平塚先生や由比ヶ浜さんが居る事を、そして自分にも頼ってくれと。
私はその言葉で救われた。
その後は……
いつの間にか彼を何時も目で追うようになっていた。
最初は彼の行動を観察しようと何気なく思っていたのだけど……
彼の周りには素敵な女性が居る事もわかった。
彼女の名前は氷室絹さん。名門六道女学院3年生。そして彼女もゴーストスイーパーで彼と同じ事務所所属の先輩だった。
彼は彼女の前だといつもの顔が綻ぶ。今迄に見たことも無い顔で……そう、由比ヶ浜さん調に言うとデレデレとした表情。
そんな彼を見ると何故かイライラとする。
氷室絹さんはいつも笑顔で口調も柔らかい。私から見ても清純そうな可愛らしい人。
六道女学院でも学業優秀で、霊能科の科目もトップクラス。交渉力も非常に高い。
さらに料理から家事全般まで何でもこなすことができる。誰が見ても非の打ち所がない人だった。
それに、ゴーストスイーパーだと言う事は、精神も強いと言う事。
能力だけを見ると姉さんとも似てなくもないのだけど、全く別のベクトルを持つ人だった。
彼を通じて氷室絹さんと懇意になる事が出来た。
そこで、知れば知るほど、彼女はわたしから見ると完璧に見えた。
やさしい笑顔も口調も、取り繕ってるわけではなく、そのままの彼女。姉さんの外面の仮面とは似ても似つかないものだった。
彼が彼女にあのだらしない顔を見せるのは致し方が無いと思うしかない。
しかし、彼はどうやら、彼女には羨望と憧れの念を持っているようなのだけど……その恋愛とは別に感じる。
そこで私は気が付いた。
私は比企谷君の事がもしかしたら好きなのかもしれないと……
そう自覚しだした頃に、ディスティニーランドで彼と二人きりになる事が出来た。
その思いはさらに強くなっていく。
私は彼が好きなのだと……
クリスマスイベントが終わり冬休みに入る。
私は彼と会えないこの期間に、もう一度自分の気持ちが本物なのかを再確認しようと、この機会に冷静に考えようとする。
考えても気持ちの問題というものはどうにもならない。やはり私は彼を比企谷八幡君が好きだと……
なぜ好きなのか……私を守ってくれたから?彼がゴーストスイーパーだから?
違う……。私は多分、彼がゴーストスイーパーだと知らされなくても好きになっていたと思う。
彼のそのわかりにくい優しさに気が付いてしまったから………
しかし、問題はここから……この後をどうすればいいのかが皆目見当がつかなかった。
こればかりは、平塚先生や由比ヶ浜さんに相談できない。もちろん姉さんにも。
由比ヶ浜さんは彼の事が好き。今から考えるとかなり前の段階で彼の事が好きだったと。
その事を考えると、私の心に痛みが走る思いがした。考えることを拒否しそうになる。
それでも前に進まないと。
私はどうしたいのか……
彼と一緒に居たい。
彼と一緒に居る方法を私は考える。
彼は高校卒業後はゴーストスイーパーをしながら大学に通うと言っていた。
将来はゴーストスイーパーを生業とすると。
そう、彼と居たいのならば……
私は彼とは切っても切れないゴーストスイーパーという職業について再度調べる。
そして見つけた。
霊能力者でもない私が、彼と一緒に居られる方法。
サイバーオカルト対策講習会。
この講習会、今後展開されるのGSに関する新たな資格試験制度についての事前説明会でもあった。
しかも、これは霊能者ではない一般人向けの資格制度。
私はこれを見つけた時には思わず小さくガッツポーズを取ってしまっていた。
資格制度は3つ。
オカルト管理責任者資格とサイバーオカルト対策管理者資格は国家資格。
オカルト事務管理資格者制度はGS協会認定資格。
国家資格の方は難関となるでしょうが、必ず取得する。
勉学は霊能とは異なり、努力で何とか出来る。
これさえ有れば、彼と一緒に居られる。
私の中で希望がどんどん膨らんでいく。
でも、ここで思わぬ壁に遮られる。
このサイバーオカルト対策講習会に参加するには色々と条件があった。
雪ノ下のコネとかではとても入れるものではなかった。
土御門家に居る姉さんに頼むのも手だったのだけど、この事だけは姉さんには絶対頼りたくない。
今の私は、頼れる人は姉さんだけじゃない。
彼が示してくれた。彼が私にくれた人との繋がり……
私は氷室さんに電話をする。
冬休み中で、氷室さんは実家に帰っていたのだけど、良い返事をいただけた。
氷室さんの講習参加枠を譲っていただけると。氷室さんは丁度大学受験と重なって行けないとの事だった。冬休み明けに参加資格の手続きを行ってくださるとの事。
私は今迄、実家と学校の中のごく限られた狭い世界感しか持っていなかった。
そこから、解放されたようなそんな手ごたえを感じていた。
そして、私の世界が広がって行くようにも思えた。
新年明けて、私は雪ノ下の実家の命令で、大人達と地元の有力企業や政治家達との挨拶周りに駆り出される。
姉さんの代わりに……
姉さんは正式に土御門家本家の人間となる事が新年に宣言された。
母さんは手放しで喜んでいた。本家筋のトップである土御門家の本家の人間になる事は数ある分家の切実な願いや希望であり、目標でもあったから。
そして、私は正式に雪ノ下家の跡継ぎにさせられた。
今迄は邪険に扱われ、戦略的な結婚をと、私の嫁入り先を探していたものを、手のひらを返したように、将来は婿を取って雪ノ下建設の跡をと……
私はもう迷わない。
私はそれに従うフリをする。
そして1月3日、あの日も親達と挨拶回りに向かう。
そこには私と同学年の男の子が同席していた。
葉山隼人くん。彼も私と同じく親の跡目を継ぐ事を決められた人。でも彼は私とは違い生まれた時からそのように育てられた人。彼は跡目を継ぐためにこれからも突き進むのでしょう。
私は彼を嫌っている。でも本当は過去の私自身の問題なのに。今もそれを引きずっている。
あの時、近くに居て助けを求めたのが葉山君ではなく、彼だったならきっと助けてくれたのだろうと思わずにはいられない。
そんな時、彼が私の目の前に現れる。
私が葉山くんと親達を2人で喫茶店で待っていたタイミングで。そう、私は別の男の子と一緒で……その、彼にそう言う目で見られるのが嫌だった。
でも、その彼は由比ヶ浜さんと一緒に居た。
私は暗い気分になる。もしかすると……二人でデートなのではと。
違った。小町さんやタマモさんも一緒だったのと、そして、今日の私の誕生日プレゼントを買いにきていたと……私はその場で、彼と由比ヶ浜さんから誕生日のプレゼントを渡される。
私はこんなに嬉しい誕生日プレゼントは初めてだった。
先ほどの暗い気分は嘘のように霧散していく。
しかし、そこに姉さんが現れ、彼にちょっかいをかけ出した。
私はそれを見るのがとても嫌だった。
彼にだけはちょっかい掛けてほしくない。
しかも、姉さんはとんでもない事を、母さんの前で言う。
「私と比企谷君の関係は、将来の旦那さんかしら?」
何時もの悪戯にしてはこれは……
思わず姉さんに声を荒げてしまった。
これにはさすがに母さんもかなりお冠だった。
彼は慌てて否定していたのだけど……
この後、姉さんとは音信不通となる。京都に戻って修行をするとかなんとかで。
彼と何かあったのではないかと疑ってしまう。
新学期に入って早々にトラブルに巻き込まれる。
私と葉山君が付き合ってるという噂が学校中に立った。
私は彼にそう思われるのがとても辛い。
彼は全く意に返していないためホッとはするが、それはそれで何か釈然としない。
新学期でも、相変わらず彼はいつも通りだったため、それはそれでホッとするし、一緒に居られることに喜びも沸き上がる。
私は新学期早々に放課後、美神令子除霊事務所に向かう。平日の前半は彼は仕事を入れていないので、彼に気づかれる事は無い。
サイバーオカルト対策講習会の受講票を受け取りに行くために。
受講票を受けとる際、美神令子さんに話しかけられる。
GS業界きってのやり手、若くして最高峰SランクGS。それがゴーストスイーパー美神令子さん
「雪ノ下雪乃さんだっけ、なんでこんな講習会の受講票が欲しかったの?」
「後学のためです」
「ふーん。後学の為ね」
美神さんはジトっとした目で私を見てくる。
「それ以外に何か?」
私は冷静に答える努力をする。
「いーえ、そう言えばこの講習会、比企谷君も出るから、同じ日に」
「!?……そうですか」
「ふーん。まあ、そう言う事……そう言えばあなたの姉って、土御門陽乃よね」
「そうです」
「土御門の方が沢山講習会枠持ってるわよ。あっちの方が圧倒的にGS協会員多いしね。なんでわざわざ、ここに、おキヌちゃんに頼んで?」
「家庭の事情です」
目の前にするだけで、かなりの迫力が……これが女傑美神令子。
少しでも油断するとボロが出そう。
「なるほどね。まあ、いいわ。頑張って行ってきなさい。それとそうとあなた。本気で資格取るつもりがあるなら……ここでアルバイトとして雇ってあげてもいいわよ」
美神さんの目はまるで人を見透かしたような感じ、いえ、まだボロを出してないはず。
「!?……今はまだ、考えておきます。もしその時があればよろしくお願いします」
渡りに船だけど、ここで返事はまずいわ。一旦持ち帰ってから。
「そう、待ってるわ」
そう言った美神さんの笑顔は凶悪な悪魔か何かに見えた。
氷室さんは隣で苦笑していた。
サイバーオカルト対策講習会当日。
彼は私が参加することに少々驚いていた。
これは私のちょっとした悪戯、いつも驚かされてばかりいるから、そのお返し。
氷室さんには黙って貰っていた。もちろん美神令子さんにも。
その後、比企谷君は資格試験についての、参考になる本などを貸してくれるようになる。
嬉しいのだけど、それはあまり必要はなかった。
私は氷室さんとは会うようになっていて、氷室さんは第一志望の大学に合格が決まり、時間が空いたからと、色々と教えていただける。
オカルト関連の事だけでなく、いろいろな事を、学校や雪ノ下の実家では学べない事を。
美神さんともよく会うのだけど、私に良くしてくれる。
でも、美神さんは何か黒黒したとてつもない事を考えていそうな……
このまま、順調にと思っていたのだけど。
比企谷君の周りがこの頃、騒がしくなる。
川崎さん……多分一色さんも。
彼の事を気が付き、理解しだしている。
私は焦りを覚える。
私の恋敵は、友人の由比ヶ浜さんだけだと思っていたから……
彼女だったら……比企谷君は。
そんな中、バレンタインイベントそして、バレンタインデーが。
私は決心する。
私の思いを彼に告白しようと……
いざとなると腰が引ける私。
そして今、マンションの自室で由比ヶ浜さんと話し合う。
「私も比企谷君が好き」
次は結衣編です。