やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

とりあえず、前回二つの甘々展開はおわり、
72話の続きとなりますが、今回は第三者目線での話になりますことをご了承ください。


(75)乙女たちの前哨戦

葛西臨海公園から東京湾に向かってせり出してる人工島の小さな砂浜。

2月中旬の寒空とあって、人は殆ど訪れない。

 

ただ、3人の人影が見受けられる。20前後の美女が年恰好からすると高校生ぐらいの美少女2人と向き合っていた。

 

「……雪乃ちゃん。比企谷君は諦めなさい。ガハマちゃんもね」

雪ノ下陽乃は目の前の少女二人を見据え、淡々と彼女らに言葉を突きつける。

 

「突然現れて何を言い出すかと思えば、いきなりね。姉さん」

雪ノ下雪乃はその言動に怒りをあらわにし、凍てつくような視線を実の姉に向けた。

 

「そうですよ。なんでそんなこと言うんですか!」

由比ヶ浜結衣は、珍しく声を荒げ、陽乃に噛みつかんばかりにと強く言葉を投げつける。

 

「彼は霊能者、しかも私に匹敵する程の霊格を持った本物の霊能者なのよ。霊能者でも何でもない雪乃ちゃんやガハマちゃんが出る幕じゃないの」

陽乃は淡々と、まるで一般人である二人に、霊能者の話に入って来るなと言わんばかりの物言いをする。

 

「それがなんだって言うんですか!?あたしがヒッキーが好きなのと、関係ないじゃないですか!!」

結衣はそれに猛反発する。

 

「ガハマちゃん。霊能者は貴重な存在なのよ。ほぼ血筋で決定するような物なの……彼は霊能の家系ではないのだけど、あのレベルの霊能者となると霊格は多分、子へと引き継がれるわ。この意味は賢い雪乃ちゃんだったら分かるわよね」

 

「……だから、彼を諦めろと、そう言うのね。姉さん!」

雪乃はそれを理解するも納得はせず、声を低くし威嚇するかのように陽乃を睨みつける。

 

「そうよ。しかも男性の高位の霊能力者は数が少ない。霊感や霊気を操る感覚は、本来女性の方が優れてるの。この国のAランク以上のGSの7割以上が女性よ。公表されてるSランクに限って言えばすべて女性だわ。この意味わかるわよね。優れた女性霊能力者に対して、優れた男性霊能力者の人数が圧倒的に少ない。その貴重な男性の高位の霊能力者が比企谷君なのよ」

霊能力は女性に優位性があるのは確かだ。霊的感覚は女性の方が生まれつき優れてると言う論調はGS協会にも正式に認められてるものだ。

陽乃はそんな貴重な存在である八幡のように若くて霊能力に優れた男性を、霊能力の無い雪乃や結衣が一緒になるのは根本的に間違っていると言っているのだ。

優れた霊能力者を受け継ぐためには優れた霊能力者どうしが結ばれるのが当たり前だと言ったのだ。

それは霊能力を代々受け継ぐ家系はそうやって今迄その血筋を維持してきた事は周知の事実だった。

 

「たとえそうだとしても、私は彼が好きで、一緒になりたいと思ってる!これは私と彼が決めることだわ!」

 

「雪乃ちゃん。言うようになったじゃない。いや比企谷君か、あの雪乃ちゃんをここまで落としちゃうなんて、罪な子。でもね雪乃ちゃん。曲がりなりにも陰陽師の分家の人間として、それは許されるものじゃないわ」

 

「それを決めるのは比企谷君よ!」

 

「あたしは霊能者やゴーストスイーパーが好きなんじゃない。ヒッキー自身が好きなの!」

 

「そう、言い方をかえるわ。今、ゴーストスイーパーの人数は圧倒的に少ないのよ。しかもBランク以上なんて極わずか。将来はもっと必要となるわ。ならば、この国の将来のため、優れた霊能力者を次代にと繋いていかないといけない。だとしたら高位の霊能力者どうしが結ばれるべきだと思わない?」

陽乃は飽くまでも冷静に、淡々と話を進めていく。

 

「……それが姉さんだというの!比企谷君と結ばれるのが姉さん自身だと言うの!?」

 

「そうよ。私は彼を、比企谷八幡を正式に婿に迎え入れるつもりよ。土御門陽乃としてね」

 

「な!?やっぱりそうだったのね!!母さんはそれを知ってるの!?」

 

「知らせてないわ。まあ、本家が説得すれば、頷くと思うわ母さんは。母さんの望みは本家の人間と結婚させる事だったのだけど、いくらご当主である師匠の息子だからと、次男の数馬となんてないわ。比企谷君の方がよっぽど優れてるもの」

 

「さっき姉さんが言っていた事とは齟齬があるのではないかしら!?いくら優れていても、比企谷君は後天的な霊能者。その高い霊能力で霊格はある程度子供に引き継がれるかもしれない。それでも、引き継ぐ遺伝的な物に関しては、代々受け継がれてきた土御門家にかなう可能性は低いわ!」

霊能家は代々霊能力者どうしで血筋を残した結果、遺伝的にも霊能力者を擁しやすい。それは陽乃自身が証明している。薄まったはずの分家の血筋として隔世遺伝という形で霊能力を発現したのが陽乃だからだ。

雪乃は八幡や絹から借りた参考文献や教えて貰った事をフルに活用し、反撃の糸口を見つけたのだ。

 

「あら、雪乃ちゃん。ちゃんと勉強してきたのね。それも比企谷君のため?妬けちゃうわね。……雪乃ちゃんが言ってる事は間違いではないわ。でも陰陽師家や霊能家が代々受け継ぐものは霊能の血筋や遺伝だけではないわ。もう一つ重要なものがある。技術継承よ。彼は美神令子と横島忠夫の技術を継承してるわ。霊波刀なんて、一流の霊能者ですら発現すらできないような絶技と呼ばれるようなレアな代物も、それを努力だけで彼は習得した。まだ不完全なようだけどね。それだけを見ても霊的センスを感じるわ。後天的に霊能を得て、高々2年弱で様々な術式を理解し正確に扱え、応用も出来る。師匠がよっぽどよかったのかもしれないけど、それを差し引いても、凄まじい霊的センスだわ。今年の初めに久々に会った彼はさらに進歩していた。彼は私の知らない未知の力も隠してる。まさに霊的センスの塊のようね。土御門本家ご当主も認めるぐらいよ。これはね。雪乃ちゃんやガハマちゃんがどうすることもできないようなレベルの話なの。彼自身は自分の価値に気が付いていないけど。土御門本家は本気よ。土御門本家は私に比企谷君を婿に迎える事を承認しただけでなく、土御門の人間として迎えろと正式に言ってきてるの。私もそうすべきだと思う。私自身、ご当主には申し訳ないけど、数馬兄上よりも、比企谷君の方がよっぽどいいもの」

 

「だからって!」

 

 

「陽乃さんはヒッキーのどこが好きになったんですか?」

結衣は、声のトーンを落として、陽乃に静かに言葉を投げかける。

 

「なーに?ガハマちゃん。話した通りよ。彼と対峙した私は感じたわ。彼の霊気霊力の扱い方、技の多彩さ、反応、すべてが満足がいくものよ」

 

「それって、ヒッキーの霊能力の話だけ。陽乃さんの話にはヒッキー自身の話が全然入ってない」

 

「何を言ってるのかなガハマちゃんは、霊能力も彼の一部よ」

 

「陽乃さんはヒッキーの事を全然分ってない。そんな人にヒッキーは譲れない」

 

「いうわねガハマちゃん。私の何が全然わかってないというの?」

 

「ヒッキーが好きな飲み物を知ってますか?」

 

「それがどうしたというの?」

 

「マッ缶。あの甘い練乳が入ったコーヒー。ヒッキーは甘党で、サイゼに行ってもコーヒーに砂糖をたっぷり入れるの」

 

「だから、それが何か関係があるのかな?ガハマちゃん」

 

「……ヒッキー、悩んでた。陽乃さんに温泉旅行に無理やり連れていかれる事を。何でそこまで悩んでたのかわからなかったけど、ようやくわかった。ヒッキーの事を好きでもない陽乃さんに無理やり結婚させられるかもしれないと思ったから。ヒッキーはそんな陽乃さんと結婚なんてしたくないから!ヒッキーの事を良く知らないのに結婚だなんて言ってる人をどうやって好きになれるの!」

結衣は徐々に声を荒げ、最後には叫ぶように訴えた。

 

「……やっぱり、温泉旅行の事を雪乃ちゃんとガハマちゃんに話してたのね。よっぽど比企谷君に信用されてるのね」

それでも陽乃の顔色はかわらない。

 

「姉さん。当の比企谷君本人が姉さんを望んでいないのよ!」

 

「そうね。それは雪乃ちゃんとガハマちゃんの言うとおりね。確かにまだ、彼の心を掴んでないわ。でも今回の温泉旅行は、比企谷君と親睦を深める事なのよね。2泊3日。その間に落としてみせるわ」

陽乃は結衣と雪乃の訴えを肯定しつつ、話を次に進めていく。

 

「やっぱりそうだったのね。比企谷君の勘が当たったわ。でも残念ね姉さん。姉さんの外面の魅力に引き寄せられるそこらへんの男達と比企谷君を同じにしない事ね。彼は動じないわ」

 

「雪乃ちゃん。私は本気だと言ったの。比企谷君も男の子よ。この先は言わなくてもわかるわよね」

 

「姉さん!まさかその、その、そんな事を!?」

雪乃は姉の言葉を理解し驚愕な表情をしていた。

 

「そうよ。いくら精神力と理性がずば抜けて高いと言っても、比企谷君は所詮男子高校生。既成事実を作ってから、彼の心を私に振り向かせて行けばいいだけよ」

陽乃は女という武器を使って、八幡を誘惑し、既成事実を作ると言っているのだ。

陽乃は顔立ちもスタイルも女優やモデルに負けないぐらいの容姿を持っている美女だ。

いくら八幡とて、そう耐えられるものではない。

 

「そんな事が許されるわけないわ!」

 

「許されるも許されないも、これも比企谷君次第と思わない?まあ、格式高い土御門家や雪ノ下家の人間的にはあまり好まれる方法ではないけど。前後逆になるのだけの話よ」

陽乃はこの時でも、表情は全く崩さない。

 

「姉さん!!」

雪乃の怒りは頂点に達していた。

 

「ヒッキーは、ヒッキーはそんなのに負けない!」

結衣は目に涙を溜めながら叫ぶ。

 

「ガハマちゃん、そんなのは酷くないかしら?これでも、容姿とスタイルには自信があるのよ。ただ今日は流石の私も、雪乃ちゃんとガハマちゃんが比企谷君にここまで迫っているなんてことは、予想外だったわ。もうちょっと、比企谷君のために徐々にと思っていたのだけど、もう、終わりよ。

今週末で決着をつけるわ。雪乃ちゃん達のおかげでね」

陽乃は1年掛かりで徐々に八幡を落としていくつもりであったが、雪乃と結衣の状況を見て、早急に八幡との事を決着しなくてはいけないと感じたのだ。

図らずも雪乃と結衣の行為は、逆に陽乃を刺激し、本気にさせてしまっていたのだ。

 

「そうは、させないわ!」

 

「雪乃ちゃん。諦めが悪いわね。土御門家がバックにあるのよ。今週末の温泉旅行もね。多分比企谷君は雪乃ちゃんとガハマちゃんに付いてきてもらって、私と八幡の関係を阻止してもらおうと思っていたのだろうけど、まだ甘いわ。残念ながら、それはできないようにしてあるのよ雪乃ちゃん。

誰にも邪魔されないように、色々と細工をさせてもらってるのよ。本来は雪乃ちゃんとガハマちゃんの対策ではないのだけどね。ただの甘い感情の色恋沙汰ではなく、これは既に業界の将来のパワーバランスの話になってるの。雪乃ちゃんとガハマちゃんは最初からお呼びじゃないのよ」

陽乃が言っている事は事実だ。

陽乃の裏にはこの件に関して、土御門家が完全にバックアップしてる。

そして、土御門家だけではない。あの美神美智恵も一枚噛んでいるのだ。

 

「……そこまでして!!」

 

「ヒッキー………嫌だ!」

 

「もう、いいわ。一応伝えたからね。姉からのせめてもの情けでと思ったのにね。でもいいんじゃない?雪乃ちゃん。私と比企谷君が結ばれたら、彼、雪乃ちゃんのお義兄さんになるのよ、家族になれるんだから良いじゃない」

陽乃はもはや、二人と話をする必要はないと判断しつつも、妹の雪乃を挑発するような言葉を発する。

 

「姉さん!!!!」

「ヒッキー……」

 

「じゃあね。雪乃ちゃんとガハマちゃん」

そう言って最後はとびっきりの笑顔でその場で去って行く陽乃。

最後まで終始主導権を握ったまま。圧勝だった。

 

 

結衣は涙をため。その場でジッと陽乃の後姿を睨むように見据えていた。

雪乃は怒りが込み上げたまま、陽乃の後姿を睨みつけていた。

 

 

 

そして、陽乃の後姿は完全に見えなくなる。

「どうしよう。ゆきのん。ヒッキーがヒッキーが……」

結衣は涙目で雪乃の腕を引っ張り、訴えかける。

 

「……由比ヶ浜さん。明日の放課後空けてくれるかしら?」

雪乃は硬い表情のまま、結衣にそう言った。

 

「え?どういうこと……」

 

「私に考えがあるわ……」

 

「うん。ぜーったい空ける。学校休んでもいい!」

 

「大丈夫、放課後で……奉仕部は明日は休みね。今日の続きを比企谷君に言いたかったのだけど。この決着をつけるまでお預けね」

 

「ゆきのん。陽乃さんを止めれる方法があるの?」

 

「あるわ。でも、その方法は今はわからない」

 

「え?どういうこと」

 

「姉さん。私は比企谷君から色々と貰ってるのよ。半年前の私と同じだと思ったら大間違いよ!大けがするのは姉さんよ!!」




やはり、修羅場は陽乃さんの圧勝でしたね。
でも、雪乃ちゃんに反撃の方法があるようです。

言っておきます。ここはガイルの世界でもあるですが……GSが滅茶苦茶混じってます。

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