やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

ようやく、らしくなってきますね。
今回はちょっと長いです。


(76)八幡、困惑する。③

やはり、今日の学校は何時もと雰囲気が違っていた。

全体的には浮足立っているという印象を持つ。

バレンタインデーの翌日、週明けの月曜日。

学生にとって今日がバレンタインデー本番と言う事だ。

 

クラス内でもそうだ。

女子はチョコを渡すタイミングを計り、男子はそれをジッと待つ。独特の緊張感だ。

既に、渡す、渡されるを終わらせた女子男子は騒ぎたてる。

 

まあ、三浦のグループは我関せずと言った感じだな。

三浦も海老名も土曜日のバレンタインイベントで済ませてしまっているからな。

葉山は大変だ。葉山にチョコを持って来る他のクラスや下級生、上級生の女子生徒に受け取らない趣旨を伝え、頭をバッタのように下げていた。

イケメンはイケメンなりの苦労があると言う事だ。

 

そういう俺にも、もはや関係ない。

一つ間違えばリア充共の仲間入りになるところだった。

義理チョコをかなり貰ったからだ。

バレンタインイベントで、折本、一色、ケーちゃん、それと川崎か。

家に帰って、シロ、タマモに、小町とかーちゃん。

翌日に、雪ノ下と由比ヶ浜、そんで、置手紙と一緒に、キヌさんと美神さん。

10個以上あるな。

 

お返しとかどうすればいいんだ?

キヌさんとか美神さん、シロとタマモとかは去年横島師匠とホワイトデーに一緒にお返しをしたからよかったものの。

流石に、学校の連中とかに横島師匠を巻き込むわけには行かないしな。

小町にでも相談してみてもいいが……

小町を昨日泣かせてしまったしな。結局理由がわからなかったが、どうやら俺が鈍感なのが原因らしい事だけはわかった。

鈍感といわれてもな。何に鈍感なのかもわからないし。

これは由比ヶ浜あたりに聞いた方が良いのかもしれないな。あいつ俺の事良く鈍感だって言うしな。

アレ?なんかループしてるような。

 

 

 

放課後、俺は奉仕部の部室へ向かう。

昨日義理チョコを貰った後、雪ノ下は何かを俺に言いたげだった。

今日話してくれるらしいが、あまり思い当たる節が無い。

 

それよりもだ。陽乃さんだ。急に現れて、温泉旅行の日取りが決まったとか。

しかも、雪ノ下と由比ヶ浜はかなり怒ってたような。

あの後、話し合いをするとかで陽乃さんと二人はどこかに行ってしまうし……

今日のクラスでの由比ヶ浜の様子を見るに何事も無かったようだが。一体何があったんだろうか?

 

温泉旅行か、元々予定に入っていたオカルトGメンの仕事は直前でキャンセルになるのだろう。それでタイミング良く陽乃さんが現れて、俺をそのまま温泉旅行に連れて行く。

そんな段取りなんだろう。

 

温泉旅行先で何されるか分かったもんじゃない。

前に話した通り雪ノ下と由比ヶ浜は付いてきてくれるのだろうか?

 

いや、温泉旅行の場所もわからない事には付いてきてもらえないだろう。

せめて、場所だけでも陽乃さんに聞いておかないと。

 

 

そんな事を考えふけながら歩いていると、スマホにメールが届く。

由比ヶ浜だな。

(ヒッキーごめんね。急に用事できたから、今日部活休むね)

 

まあ、由比ヶ浜はこの頃は休まずに部活来ていたが、前は週に1、2度三浦たちと遊びに行くために休んでいたから。今日もその辺の用事だろう。

 

しかし、メールはもう一通届いた。

雪ノ下だ。

(比企谷君。急な用事が出来たので部活を休ませてもらいます。今日の部活の活動は比企谷君にまかせます。部室の鍵の貸出しは平塚先生に手続きをしてください)

 

珍しいな。雪ノ下が部活を休むとは、学校には来てるようだが、昨日、やはり陽乃さんと何かあったのだろうか?

 

俺はそのまま職員室に行き、平塚先生に鍵を借りに行ったのだが、平塚先生は部室までなぜか一緒について来た。しかも言葉を一言も発しないでだ。どうしたんだ?

 

「比企谷……横島さんと3日間音信不通なのだ。何か知ってるか?」

部室に入るなり、平塚先生は暗い表情で、俺に涙目で訴えかけて来た。

なるほど、そう言う事か。

 

「師匠は3日前から修行の旅に出てまして、それで電話にでないんです。よくあるんですよ。修行に集中するためにスマホとかは置いて行くんで」

 

「そ、そうなのか!?なーーんだ心配して損した。そうかそうか、てっきりバレンタインを別の女と過ごしてるんだと思ってた。はーーっはっはーーー!私の勘違いか!」

さっきまで、この世の終わりみたいな顔をしてたのに、いきなり元気マックスかよ。

 

……いえ、勘違いではないですよ平塚先生。別の女性、いや女神様と過ごしてたはずです。妙神山っていう携帯もつながらない場所で。

過ごし方は、平塚先生が心配するような事ではないですが。何せ武神斉天大聖と72時間組手なんで、死の心配をした方がいいですよ。多分生きてますが。

キヌさんと小竜姫様とで、横島師匠をバレンタインイベントに来れないように、他の女の人とバレンタインデーを過ごさないようにと妙神山に閉じ込めたんです。半分は平塚先生対策なんですよ。

 

不味いよな。キヌさんが平塚先生に嫉妬とか……。なぜそんなあり得ないような状況ができたかというと、すべて横島師匠が悪い。あの人が平塚先生をキッパリ振らないからだ。キヌさんや小竜姫様の気持ちに答えてあげてくださいよ師匠。特にキヌさんはもう限界ですよ。あんなにいい人いないですよ。師匠がその気がないなら……俺が……いや、俺が?

俺がキヌさんに告白する→一生友達でいましょうねとキヌさんに言われる→絶望して涙にくれる。

もはや、未来が見えるまである。

 

 

「比企谷、その横島さんだが、いつ帰って来るのかわかるか?」

 

「今日、明日ぐらいじゃないですかね」

 

「そうか!!一度自宅に帰って、冷蔵庫を満たしてる愛の結晶を持って行かねば!!比企谷すまん。私は帰るぞ!!部活が終わったら、鍵は宿直の先生にでも返してくれたまえ!!はーーはっはーーーー!!」

高笑いをしながら、奉仕部の部室を猛スピードで出て行く平塚先生。

愛の結晶って、バレンタインイベントで作ったあのおどろおどろしいチョコでしょ?

はぁ。

俺はため息を吐くことしかできなかった。

 

 

 

俺は部室のいつもの席にポツンと座り、本を開く。

そういえば、部室で俺一人というのは初めてかもしれないな。

一人だと、いつもの部室なのだが広く感じる。

 

 

そんな時だ、ノックの音が部室に響く。

俺一人の時に依頼とか嫌だぞ。

居留守はまずいよな。電気ついてるしな。

 

「どうぞ」

俺は雪ノ下と同じ返事をする。

そう言えば、奉仕部でこうやって依頼者に返事をしたのは初めてかもしれない。

いつも、あいつらがやってくれるからな。

 

「失礼しまーーっすって、アレ?先輩が返事?先輩一人ですか?」

来訪者は一色だった。

まあ、依頼じゃなさそうだが、こいつはこいつで面倒を押し付けてくるからな。

 

「そうだ。今日は二人は休みだ。用事があるらしい」

 

「そう…なんですか。……チャーンス」

一色、小声だが聞こえてるぞ。チャンスって何がだよ。

また、俺に雑用をおしつけるつもりじゃないだろうな。

 

「せーんぱい」

一色はあざとい笑顔で俺の目の前までやって来る。

 

「何の用事だ一色。今日は二人が居ないから部活は休みだ。他の日に来てくれ」

 

「先輩がいるじゃないですか?なんで意地悪言うんです?」

わざとらしく泣きそうなマネをするんだ?あざといんですが。

 

「はぁ、分かった。で、何の用事だ一色」

 

「用事じゃないですよ。先輩とお話ししたくて♡」

あざと可愛い笑顔がより一層あざとい。

 

「ああ、そういうのいいから、で、用事は何だ一色?」

 

「むー、先輩は何で私に冷たいんですか?本当にお話したかっただけなのに~」

また、わざとらしく悲しそうな顔をする一色。マジお前、演劇部でも入れば?

 

「あー、わかった」

 

「やったー!」

一色は俺の正面に椅子を持ってきて、俺と一色の膝がくっ付くぐらいの位置で座る。

 

「おい、近いし、話づらいんだが」

 

「良いじゃないですか、可愛い後輩が上目遣いでお話しようって言ってるんですよ?」

何で上目遣い?しかも微妙に首を傾げるのやめてくれませんか?あざと可愛いにさらに可愛いがプラスされてるんですが?

 

「………」

俺は自らの椅子を引いて一色から少し離れる。

 

「♡」

一色は俺が離れたぶん、間を詰めてくる。

 

俺はさらに椅子を引く、すると、一色も詰めてくる。

それを繰り返していくうちに、教室の後ろに積まれている予備の机に阻まれ、これ以上後ろに行けなくなった。

 

「わかったから、もうちょっとだけ距離を離してもらえませんでしょうかね?」

まるで由比ヶ浜みたいだな、この反応は。

由比ヶ浜の場合無意識だが、こいつの場合意識的にやって来るからな。なに?俺にそんな事をして何の得があるんだ?もしかして、とんでもない仕事を押し付ける前触れではないだろうか?

 

「むー、ちょっとだけですよ」

そう言って元の位置に戻る一色。

なんで俺が悪いみたいになってるの?

 

元の位置にもどったら、一色はほんのちょっとだけ離れてくれた。

「はぁ、なんなんだ一体?」

 

 

「先輩、免許また見せてください」

 

「……ダメだ」

 

「何でですか~?」

 

「平日の学校で出したら、誰が見てるかわからんだろ?」

 

「む~、仕方が無いですね」

そう言って一色はスマホを操作しだす。

 

「せーんぱい。これって先輩の事ですよね。名前とか写真の顔とか伏せてるけど」

そう言って、俺にスマホ画面を突きつけて来た。

……なんか見たことがあるような写真だが。

そこには何かの記事の写真が載っていた。

 

「えっと、10月に行われた今年の2回目のGS免許資格二次試験決勝戦の様子。それと、記事には、今年の優勝者は西の名門土御門家、土御門陽乃さん(20)が優勝。惜しくも準優勝した彼は学生のため所属と名前は伏せさせていただきますが、若干17歳の現役高校生です。GS協会六道会長によると、この二人は今期の受験者の中で、群を抜いて優秀だとの事、優勝した土御門さんと現役高校生の彼との差はほとんどなかったとのコメントを貰っております。今後期待の若手のホープが二人誕生したことになります。だって……これ、先輩の事でしょう?だって、優勝者はBランク、準優勝者はCランクが付与されますって書いてるし、先輩の免許にもCって書いてましたよ?この写真の後姿、背中がピンと立ってますが、どう見ても先輩の後姿ですよ~」

また、首を傾けながら、あざとい笑顔を向ける一色。

 

その記事、確かに霊能関係の業界誌に載ってたけど……嬉しくてその業界誌とってたけども。どこから探してきた?ネットにそんなのまで載ってるのか?

 

「………し、知らないな~」

 

「ふーん、やっぱり先輩なんですね。期待の若手のホープなんですね。しかも群を抜いて優秀って!」

あの~、否定したんですけど。なんで俺の否定した言葉を、肯定だと捉えるんですかね?

だから、嫌だったんだ。こいつに知られるのは!

 

 

「それよりも一色、一昨日の呪いの件で、オカルトGメンが昨日あたりに自宅に事情聴取に来ただろう?」

俺はワザと話題を変える。しかしこれはこれで重要な話だ。

 

「来ましたよ。なんか偉い人が来て、えーっと結構イケメンのおじさんで、西条さんっていう本部長さん、いろいろ聞かれたけど、そんなに時間かからなかったです。先輩の事を聞いたんですけど。西条さんとお知り合いなんですね先輩!オカルトGメンの本部長さんと知り合いって、どんなに有望株なんですか!!」

おい、西条さんをおじさんって、あの人30歳位だぞまだ。……まあ、高校生からしたらおじさんか。

しかも何そのテンション。

 

「はぁ、西条さんに言われただろ、俺の事を口外するなって」

 

「わかってますよ~。せーんぱいっ!」

……本当にわかってるのか心配になるんだが、そのあざとい笑顔が!

 

「先輩~、こんど先輩の事務所に連れて行ってくださいよ~」

 

「嫌だよ。なんでなんだよ?」

 

「職場見学?」

なぜ疑問形?

 

 

 

そこに、奉仕部の扉にノックをする音が響く。

 

一色さんや、あざとい笑顔のまま、舌打ちするのやめてくれませんかね。

 

「どうぞ」

 

「はいるよ。比企谷と……生徒会長?あんたら何やってるのさ。それに由比ヶ浜と雪ノ下は?」

一色は来訪者の川崎を見るやいなや、真正面に座っていた椅子を俺の真横に並ばせ座りなおす。

何の意味があるんだ?しかも近いんですが!やめてもらえないでしょうかね!

 

「由比ヶ浜と雪ノ下は今日は用事で休みだ。こいつは……知らん」

俺は座っている椅子を持って、一色から大きく離れて座りなおす。

 

「あんたら、本当に何やってるの?」

川崎は呆れ半分疑問半分の顔をして俺に聞いてくる。

 

「俺もわからん。……ところで川崎、何かの依頼か?」

 

「先輩ーーーー!私とこの……川崎先輩と態度違いすぎませんか!!」

一色は自らの椅子を持ち上げ、俺の横まで来て座り直そうとする。

 

「離れろって」

 

「いやです~」

 

「あのさ、いちゃついてるところ悪いんだけどさ、私、比企谷と話があるんだよね。ちょっと外してもらっていいかな生徒会長」

川崎は切れ長の目で一色を見据える。一色は一瞬ビクッとする。

うん。川崎は背も高いし、顔も美人だが切れがあるというか……ちょっと目を細めるだけで、威圧感半端ないんだよな。

 

「い、嫌です」

 

「い、いちゃついてるわけじゃないぞ。こいつが勝手に!……まあ、その川崎、こいつが居たらまずい話か?」

男女がいちゃついてるって、リア充かついやらしい響きの言葉なんだが!決して俺は一色といちゃついてるわけじゃないぞ、雪ノ下と由比ヶ浜が居ない事を良いことに、なんかこいつがいつも以上に面白半分にかまってきてるだけだ。

 

「その、ちょっとね。あの件で相談があって」

川崎は話しづらそうにしていた。

多分、バイトの件だろ、大方唐巣神父の事か教会の事だろう。

 

「わかった。一色。そう言うわけだから、お前は生徒会に戻れ、仕事があるだろ?」

俺は立ち上がり一色の肩を後ろから掴み、部室の扉まで押していく。

 

「えーーーー、何でですか?なんで川崎先輩がよくて、私はダメなんですかーーー!先輩!!」

 

「お前は、生徒会をサボりに来ただけだろ、川崎のはある意味依頼者だ」

 

「なんでなんですか~。せんぱーーーい!」

俺は一色を部室の外に放り出してカギを閉める。

 

「いいのかい?比企谷」

 

「まあ、いいんじゃないか?あいつは仮にも生徒会長だ。こんなところでグダグダしてる暇はないはずだ」

一色が扉を叩く音がしていたが、しばらくしたら諦めて生徒会室に戻るだろう。

まあ、なんだかんだとあいつは結構真面目だからな。

 

「そう。それじゃあ」

そう言って川崎は俺に話し始める。

内容はやはり、GSの事だった。唐巣神父の所に来る依頼で、GS協会の最低価格も支払えない人が来るそうだ。それでも唐巣神父は何とかしようとするらしいのだが……それも限界があるらしい。

 

「川崎……神父は30年以上前にGS免許を取った人だ、今の規定も細かいところまで把握していないのかもしれない。そう言う人たちを救済する処置もある。GS協会にまずは相談してもらって、補助金が出る案件なのかを確認してもらった方がいい。一般家庭では所得に合わせて補助金が出る制度もある。但し、唐巣神父のようなA級GSを使うわけにもいかないから、それは了承してもらってくれ。神父の心情的なところもあるだろうが……規定に従ってもらった方が良いと思う。但し、規定外のフォローはいいんじゃないか?あそこは教会だ。教会って何をするところだ?祈りを捧げるところだろ?そう言う方法だったら、たまにはいいんじゃないか?」

唐巣神父は事務関係は苦手みたいだからな、川崎も苦労してるかもしれないな。

しかも、神父は善意で出来たような人だ。頼って来る人を断れないのだろう。

あと、ちょっと美神さんバリだが、裏技を少し川崎に教える。あそこは教会も兼ねてる。祈るだけだったら、宗教の範疇だ。除霊やGSの仕事にはならない。但しだ。神父が《そういう》祈りを捧げたらどうなるだろうか?まあ、そう言う事だ。

 

「比企谷……助かるよ。神父も頼ってくる人たちを無下に断る事ができないからね。それで余計に心労が増えてるような気もしてたんだよ」

 

「GS系の法律体系は、目次を把握するだけでも大分違うからな、それと協会規定で補助金制度の件が第六章辺りの後ろの方に載ってるはずだ。神父の教会にもあるはずだ。協会規定を無くしてたら、協会からタダでもらえるから、郵送手配でもしてもらった方が良い。近くにあると何かと便利だ」

 

「流石はCランクのGS。頼りになるね比企谷は、本当に助かるよ」

 

「まあ、去年免許取ったばっかりで、その辺も勉強してたから、記憶に新しいだけだ。もしだ。そのまましばらくそこでバイトを続けたいのなら、ちゃんとした手続きをした方が良いぞ。ちょっと難しいかもしれないがやってやれない事は無い」

もし川崎が今後もこのバイトを続けたいのなら、今度設置されるGS協会の認定資格制度のオカルト事務管理資格者の資格試験を紹介した方が良いだろう。資格試験に通れば、学校や市などにもGSでのアルバイト許可や登録がしやすいはずだ。まだ正式発表はされてないが、それももう間もなくだろう。

 

「そうだね。考えておくよ。ありがとね。比企谷」

川崎は、微笑みながら奉仕部をあとにする。

 

 

「先輩……なんか楽しそうにお話してましたね」

一色が恨めしそうに川崎が出て行った扉から部室を覗いていた。

 

「お!?一色まだいたのか?」

 

「生徒会室に戻って、今日の分の仕事を終わらせました!」

意外とスペック高いからな一色の奴。それなのになぜ俺に仕事を押し付けようとする?

 

「そ、そうか」

 

「先輩も、もう部活終わりですよね」

 

「そうだな」

俺は時計を見る。結構時間が経ってたな。

 

「先輩、一緒に帰りましょう!」

 

「……お前んち、俺んちと方向が逆なんだが」

 

「途中までですよ!」

 

「俺、自転車通学なんだが」

 

「自転車は駅まで押してくださいね。せーんぱい♡」

何あざとい笑顔で、強制労働みたいなことをさせようとしてるんだこの後輩は。

 

 

 

俺がこんなことをしてる間、まさか、雪ノ下と由比ヶ浜があそこに行っていたなんて、考えもしなかった。

 

 

 

 

 

とある事務所の広々とした一室。

 

「雪乃さんと由比ヶ浜さんだっけ、よく知らせてくれたわ」

所長席に座る美神さんは笑顔だった。

 

「あの……ヒッキーは大丈夫なんですか?」

 

「私の方で何とかするから、但し、あなた達も少々手伝ってね」

美神さんはニコっとした笑顔を2人に向ける。

 

「私達に出来ることがあれば何でもします」

 

「ほんと助かるわ。比企谷君はわたし…この事務所の大事な大事な、で、従業員なのだから」

美神さんは所長席を立ち、ふと窓の外を見る。

使い慣れない表現をつかうものだから、言葉言葉につっかえていた様だ。

 

「ありがとうございます美神さん」

「ありがとうございます」

2人は美神さんに頭を下げる。

 

「いいのよ。おほほほほっ」

美神さんは終始笑顔だったそうな……そう笑顔だった!

2人が事務所の扉に向かう最中、所長席から少し離れ窓際に歩む。

 

雪ノ下と由比ヶ浜は美神さんの背に再度一礼して扉を閉め事務所を後にし、キヌさんの部屋に向かったそうだ。

雪ノ下は美神令子に温泉旅行の件を相談してしまったのだ。

 

 

残った美神さんは……

事務所の所長席を背に天井を見据え。

堪えていたものを一気に開放する。

 

「おほほほほっ、うははははははっ!遂に来たわね。土御門家、土御門陽乃!!それとママ!!こうなる事はわかっていたわーーー!!雪ノ下雪乃、あの子めっけもんだわ。いい仕事するじゃない。しかも比企谷の奴の事をどうやら好きなようね。くーーっ、笑いが止まらないわね!!」

その笑う姿は悪魔さえも、戦慄を感じるだろう物だった。

 

美神さんは手を大きく広げ拳を作りいきなり叫び出す。

「それにしても土御門陽乃!!あんのーーーーー!!くそアマーーーーー!!私の所有物に手を出してタダで済むと思ってるなんて!!いい度胸ね!!ヒヨッコの分際で!!この美神令子から金の卵を奪おうとは!!腹が煮えくり返るどころか、笑いが止まらないわ!!土御門が何よ!!一度没落した、古い仕来りにしがみついた化石じゃない!!この美神令子にケンカを売ったことを後悔させてやるわーーーー!!」

 

美神さんはそのまま、拳を作りながら窓際まで進む。目は充血し血走っていた。

「ママめーーーー!!いつかの仕返しができるわーーーーー!!一度決着をつけないといけないと思っていたのよ!!なんでもママの言う通りになるとは思わない事ね!!この美神令子、一度手に入れたものは二度と離さないのよーーーー!!」

 

美神さんは所長席に戻りドカッと椅子に腰を下ろす。

「ふっ、雪乃。ほんといいもん手に入れたわ!目を掛けておいて正解だわ!!これで比企谷の奴は一生私の元で馬車馬のように働くのよーーーーーあはははははははははっ!!あははっあはははははっーーーーーーー!!」

しばらく美神さんの笑い声が事務所中に響き渡ったそうな。

先ほどまで晴れていたのに、何故か外では急に暗雲が立ち込め、雷鳴が鳴り響く。

 

雪ノ下と由比ヶ浜は知らない。悪魔よりも質の悪い美神令子という神魔さえも認める極悪な存在と契約してしまった事に……




いよいよ温泉旅行編のスタートが……

ちゃんと乙女たち?の攻防も繰り広げられる予定。

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