やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
感想がいつの間にかこんなに、みなさんありがとうございます。
徐々に返信していきます。
遂に始まっちゃった温泉旅行編
まだ、序章です。
雪ノ下と由比ヶ浜は、この一週間奉仕部を休んだ。学校には来ているのだがな。
電話で理由を聞いても答えてくれない。
休み時間に直接聞きに行っても同じだ。雪ノ下は申し訳なさそうに、由比ヶ浜は俺を気遣うように。
ただ二人とも、温泉旅行は何とかするから、心配するなと何度も言っていた。
やはり、陽乃さんと何かあったのではないだろうか?
無理に聞くわけにもいかないが。無茶をしてなきゃいいが。
何かあれば、相談してくれとだけは言っておいた。
雪ノ下と由比ヶ浜が居ない部室には、何故かずっと一色が入り浸り、俺に距離を詰めてくる。
一色は一色で何を考えてるかさっぱりわからん。
そんな中でもうれしい知らせが一つ、小町が総武高校に合格したということだ。来年から俺の後輩ということになる。
雪ノ下と由比ヶ浜にも小町から知らせたのか、メールでお祝いの言葉を送ってきてくれた。
……ちなみに、川崎からもメールが……ゴミムシ(川崎大志)も総武高に受かったらしい。
どうやら横島師匠に強力な呪いの藁人形の作り方を教えてもらわなければならないようだ。
そして、問題の金曜日。
俺は一度事務所に行き、美神さんとキヌさんに見送られ、かねてからオカルトGメンから要請であった調査及び除霊のため、北陸の某所雪深い集落へと向かう。現地近くでオカルトGメンのスタッフと待ち合わせをすることになっていた。
この仕事、俺は当日キャンセルになると思っていたが、今の所そんな素振りはない。
温泉旅行は陽乃さんは俺に今日だと言っていたのだ。だからこの仕事が何らかの方法でキャンセルになり、陽乃さんに温泉旅行に連れていかれるものだとばかり思っていたのだ。
そして、当の陽乃さんはあの日から連絡が一向につかない。
だから、温泉旅行先の場所や待ち合わせの場所すらわからない。
もしかすると、オカルトGメンの仕事をキャンセルさせる何らかの方法が失敗したのかもしれない。
しかし、あの人に限ってそんな失敗をするだろうか?
あとだ。美神さんがわざわざ事務所の外まで出て、仕事に送り出してくれたのも気になる。あの笑顔、……あれは良からぬことを考えてる時の笑顔だ。何を考えてるんだ。この仕事に関係する事か?
一応、仕事に行く前に、雪ノ下と由比ヶ浜にも連絡した。一応繋がったが、どこか外にいるような雰囲気だ。しかも一緒にいる。そして、お決まりの、大丈夫だ任せてとの一点張りだ。
一体何がどうなってる?
因みにだが、横島師匠は予定通り、西条さんとオーストラリアに出張中だ。
横島師匠は定期的に海外出張してる。SSSランクの横島師匠がいかないと収まらないと言う事なのだろう。それだけヤバい案件が世界各国にあると言う事だ。
俺は待ち合わせ場所の無人駅を降り、駅舎の中で待つことにする。待ち合わせの30分前だ。オカGの人は車で来るのだろうか?
ここの駅の周りには何もない。民家すら見当たらない。あるのは自動販売機と、バスの停留場だけ。閑散とした場所だ。
今も雪がちらほらとだが降り続け、連日の積雪でかなり積もってる。近くの道路は一応除雪されているが、その上から雪が積もりだしていた。
しかも、もうそろそろ21:00、この駅周り以外明かりは何もない。真っ暗闇にポツンとこの駅が浮かんでる様に見えるだろう。
ふぅ、ジッとしてると流石に寒いな。
俺は依頼内容を確認する。
オカGからの情報だ。ここからしばらく進んだ先の山間の集落で、夜な夜な妖怪が出るとの事、目撃者もいるらしい。ただ今の所人的被害は出ていないか……緊急性は低そうだな。ただ家畜が消える被害が出てる。河童の類かもしれないな。それとも狒々か……
すると、大きな4WDの車が駅前に到着する。
多分、待ち合わせのオカGの人だろう。
しかし、運転席から出てきたのは。
「ヤッホー!、比企谷君」
防寒具に身を包んだ陽乃さんだった!
「……なんでいるんですか?」
「ご挨拶ね~。仕事だよ。今からオカGの」
「オカGの人はどうしたんですか?」
「私がその代理人!だって、オカGの人って毎日忙しいでしょ?だ・か・ら」
やられた!
そうだよな。美智恵さんが噛んでるんだもんな。こんな手段はあの人しかできないしな。くそっ!そこまで想定してなかった!
「帰っていいですか?」
「ちゃんと受けた依頼でしょ?解決しなきゃ怖い所長さんに怒られるわよ」
笑顔の陽乃さん。
「はぁ、この依頼自体は、ブラフじゃなくてちゃんとしたものなんですよね」
「当り前じゃない。そうじゃないとオカGからわざわざ民間GSに要請を出さないわよ」
「……まあ、そうなんでしょうけど」
依頼自体は正式にオカGから来たものだし、事務所として依頼は受けてしまってるしな。ここで帰ったら、めっちゃ怒られるのは目に見えてる。逃げ道は既にふさがれていたようだ。
もう、先が思いやられるんだが、ため息しか出ない。
「さあ、乗った乗った!」
俺はしぶしぶ、その4WDに荷物を後ろに乗せ助手席に乗り込む。
「ちゃんとした仕事って事は、温泉旅行は良いんですか?」
俺は手袋の外しながら、運転する陽乃さんに聞く。
「なーんだ。八幡。お姉さんとの温泉旅行楽しみにしてたの?」
「そう言うわけじゃないんですが」
「温泉旅行はこ・こ・か・ら!この仕事を速攻で終わらせて、そんで近くに温泉旅館があるからそこで八幡とお泊りするの!」
「内容は調査ですよ。ちゃんと現場で待機する必要があると思うんですが、良いんですか?」
「原因がわかって、その原因を排除したら終わりでしょ?そしたら調査の必要が無いじゃない」
「確かにそうですが……」
なるほど、そう言う事か。
オカGの仕事に託けて、温泉旅行をしてしまおうってことだ。
これならば誰にも邪魔されずに温泉旅行が出来る。
名目上は正式なオカGの仕事だからな。美神さんも文句は言わないだろう。
陽乃さんの余裕の態度はそう言う事だったのか、美智恵さんがバックに居るから出来る事だ。
この人だけでも厄介なのに、後ろには美智恵さんか。…これは流石に厳しいな。
しかし、雪ノ下達は何とかすると言っていたが……流石にこれは無理じゃないか?
俺は依頼内容を見ながら、報告書を作成し始めるためにタブレットを取り出す。
オカGの仕事内容はちゃんと事件性のあるものだろう。そんなところで嘘偽りはあの美智恵さんはしないはずだ。
それを利用しただけの話。手続き上も問題ないようにしてるだろう。
「比企谷君って、本当に真面目だね……こんな時ぐらいお姉さんに頼ったらいいのに」
俺のそんな姿を運転しながら横目で見て、陽乃さんはため息交じりに話しかける。
「依頼は依頼です。困ってる人も居るんです」
「そう。あの美神管理官がほしがるわけだ」
しばらく沈黙が続き。
「そう言えばさ、雪乃ちゃんどうしてる?」
「いえ、特に何も……」
やっぱり、あの後陽乃さんと雪ノ下達と何かあったのだろう。
しばらく会っていないと言えばこの人は何かを察知しそうだ。
「ふーん。着いたわ」
陽乃さんはサイドブレーキを引き車を止める。
「あの……集落はどこに?」
車を降りたのだが、そこには依頼内容にあった集落は無く。道路から外れた山の中だ。
「集落はあそこ」
陽乃さんが指さす方向に、夜と雪の暗闇の中、遠方の山肌にほんのりと明かりが灯っているのが見える。
確かに、三十軒程の集落がありそうだ。
「それで、妖怪はこっち」
陽乃さんはLEDランタンを片手に、そう言って山道を歩き出す。
「ちょ、それはどういうことですか?もう、先に妖怪の居場所を特定したんですか?」
俺は装備の入ったザックを背負い、陽乃さんについてく。
俺の質問に陽乃さんは「いいからいいから」と言って答えてくれない。
山道を登る事、20分程度で小さな山小屋に到着する。
……ここか、確かに霊気を感じる。この中だな。しかし大分弱ってそうなんだが……
陽乃さんは何の警戒も無く山小屋の扉をギギギと開く。
「待ってください」
「いいからいいから」
陽乃さんは無警戒に山小屋に入り、手に持ったランタンを山小屋の柱に吊るすと、小さな山小屋全体に光がいきわたる。
すると……妖怪らしきものが柱に括りつけられているのが見えてきた。
これはアレだな老成したサルが妖怪に変化した狒々だ。十中八九、家畜を襲ったのもこの狒々だろう。
もう、虫の息だがな。
「ハイ八幡、退治しちゃって」
「……何の茶番ですか?」
明らかに、この狒々は誰かにやられ、ここの柱に括りつけられている。ご丁寧に動けないように札を何枚も張られていた。これをやった犯人は勿論、目の前で笑顔をこっちに向けてるこの人だろう。
「ええ?茶番って失礼ね。私が昨日に見つけて捕まえちゃったの」
「だったら、昨日の内に依頼完了でいいじゃないですか」
という事はこの人、予定の何日か前に既に現地入りしてたって事か、すでに調査やらを済ませて、原因のこの狒々を特定し、捕えたと言う事か。
その場で依頼完了させずに、狒々を活かした状態で拘束し、正式な依頼開始日時である今日以降に退治する。事前に退治してしまうと、今日からの依頼が無効になりかねないからな。……それで、依頼開始後直ぐに、原因である捕えていた狒々を退治し、さっさと依頼をすませ、後は温泉旅行にか、かなり用意周到に準備したんだな。
「八幡たら、真面目さんなんだから……でも忘れてないよね。温泉旅行の約束」
「そ、それはそうですが……」
温泉旅行……なぜ俺なんかと?そこまでして?
「だって、こうでもしないと八幡来てくれないじゃない」
「……雪ノ下さんが後の処理をしてください。これ以上このままだとこいつも可哀そうです」
「ふーん。妖怪がかわいそうね。誰にでも優しいのね」
陽乃さんはそう言って、右手を掲げ、狒々を凍らせた。
札や霊具も使わず、言霊も発せず術式も展開していない。やはりこの氷結術は陽乃さんが生まれ持った特殊霊能力だ。この人はやはり天才型だな。
狒々の霊気は完全に消える。
「じゃあ、温泉旅行の開始ね!夕飯は遅くなっちゃうけど、船盛も用意させるわよ!それとも…お姉さんが良い?」
陽乃さんは若干照れたような笑顔で振り返る。
「……夕飯でお願いします」
その時だ。地響きが響き渡り、山小屋も揺れる。
「え?え?何これ?」
俺は咄嗟に霊視能力を最大限にし、山小屋の外を感知する。
雪崩だ!!しかもかなりデカい!!なぜこんなところで雪崩が!?
「まずい!雪崩です。急いで小屋を出ますよ!」
「ええ?ほんとに?ヤバ!?」
俺と陽乃さんは間一髪、山小屋を出て、霊力で身体強化をし飛び上がり、高い木に飛び移る。
山小屋は雪崩で押し流される。
……なんだこれ?こんな樹木が生い茂ってる山で雪崩?しかもこんな大規模の?そんなことはあるのか?
雪崩は激しさを増し、俺と陽乃さんが飛び移った木も押し流す。
俺と陽乃さんは押し流される木々を飛び移り、何とか雪崩が終わるまで耐えた。
「雪ノ下さん、大丈夫ですか?」
俺はザックからLEDヘッドライトを取り出し、辺りを照らす。
「なんとかね」
雪ノ下さんは帽子に取り付けていたアクセサリのような予備の小型懐中電灯を照らしていた。
俺は雪ノ下さんが立ってる倒木に飛び移る。
「車、埋もれちゃいましたね」
「どうせレンタルだし、保険とか効くんじゃない?」
「装備背負っててよかった。雪ノ下さんの装備は?」
「車の中ね。最低限しか持ってこなくてよかったわ。後は旅館に置いてきてるのよ」
「それにしても大分下の方に流されましたね」
俺はザックからLED懐中電灯を陽乃さんに渡す。
「ありがとう。そうね。なんでこんなタイミングで…運がないわ」
陽乃さんは懐中電灯を受け取り周りを見渡す。
流される前の山小屋付近では、民家の集落の明かりが見えていたが、今は見えない。
思ったより下に流されたようだ。
「これは、歩いて行くしかないですかね」
「大丈夫よ。旅館から迎えの車を寄こすから」
俺はスマホを取り出し、現在時刻を確認しようとした。今は22時52分。ん?
「……電波が届いてない?流石に山奥だから…仕方がないか」
「ほんとだわ。…最悪」
陽乃さんもスマホの画面を確認してから、大きく肩を落としていた。
「自力で戻るしかないですね。旅館まで、さっきの場所から車でどのくらいかかる場所なんですか?」
「一時間半位からしら」
「旅館まで結構ありますね。集落にでも泊まらせてもらいますか………スマホのGPSは生きてるな。オフライン地図で……やっぱり、雪崩に大分流されましたね。集落と逆方向だ。大分遠回りをしないといけない。……雪ノ下さん泊る予定の旅館の名前を教えて貰えませんか」
「……比企谷君、こんな時でも冷静ね」
「慣れてますから」
「なにそれ。こんな時に冗談はやめてよね」
陽乃さん冗談じゃないんですよ。
こんなもの、最悪でも何でもないです。普通です。いや、楽な方です。
最悪というのは、装備も無しに妖怪が巣くう山に放り込まれたり、悪霊だらけの樹海に放り込まれ2、3日彷徨ったり、断崖絶壁に落とされ丸一日忘れられたり。妖怪が生息する無人島に置いてけぼりにされたり、そういった事を言うんです。
こんなものは全然最悪でも何でもない。
自然災害なんかよりも、うちの所長の方がかなり質が悪いんで。
「旅館の名前は…確か北穂根御門旅館だったかしら」
「キタホネミカド旅館っと……集落よりもこっちの方が早そうですね。いや、谷を飛び越えれば、車より早いかも……雪ノ下さん、瞬発力とかのスピード系の身体能力強化は得意ですか?」
「どちらかといえば苦手ね。筋力強化とか攻撃力強化系は得意だけど」
「……らしいといえば、らしいですが。まあ、雪ノ下さんのレベルだと大丈夫か、なんか前に会った時よりも霊力は高まってるみたいだし」
まあ、そうだと思った。パワー全振りって感じだもんな、この人。
「もう比企谷君にまかせるわ」
陽乃さんは名前呼び捨てからいつの間にか苗字呼びに戻していた。
俺達はそうして、陽乃さんが予約した旅館に向かうことにした。
途中で携帯の電波がつながるかもしれないし。そう思いながら……歩いたのだが、一向に携帯の電波はつながらない。
30分ほど歩き、途中の谷越えの難所に差し掛かる。
俺は陽乃さんにこの谷を飛び越えることを提案する。
「ここさえ、飛び越えて林を抜ければ、後は平たんな草原地を抜けるだけです」
「比企谷君。この谷、結構な距離があるわね。さすがにこれは厳しいわ」
「そうですか。じゃあ、肩を貸してください」
「え?」
「雪ノ下さんを支えますんで、一緒に飛びますよ」
俺は少し中腰になり、陽乃さんの腕を俺の方に回し支える。
「ちょっ!?」
「行きますよ」
俺は一気に霊気を開放して、身体能力強化をし、陽乃さんを支えたまま大きくジャンプし谷越えをする。
「えええ?」
俺の耳元に陽乃さんの驚く声が聞こえる。
谷を越え、着地体勢に入るが……違和感を感じる。
そして着地。
「……雪ノ下さん?今、何かおかしくなかったですか?」
「え?ええ?何?私何かおかしかった?」
陽乃さんは慌てたように俺から離れ、自分の体をあちこちさわり、確認をする。
「そうじゃなくて、場の雰囲気です」
「え?私は特に感じないけど」
「……」
しばらくすると違和感は消える。
俺はふとスマホのGPSの位置情報を確認すると、GPS通信不可の表示がでていた。
俺は腰にぶら下げてる。方位磁石を確認。方位磁石の針がでたらめの方向に行ったり来たり、完全に狂ってる。
そして、先ほどまで、ちらつく程度だった雪は、突然の猛吹雪となった。
「まずいわね。視界がほとんどない。このままだと遭難しかけないわ」
なんだ?なにか……こう。
さっきの雪崩といい。なぞの磁気障害と通信障害といい。
さらにこのタイミングで猛吹雪だ。
俺は霊視能力を最大限に発揮し、周囲を見渡す。
今の俺は霊視を最大限に発揮すれば、暗闇でも周囲50メートルであれば把握できる。
妙神山での修行の成果だ。
特に何も問題なさそうだ。
周りの林もこの吹雪も本物だ。
さっきの違和感はなんだったのか。
俺は幻術か何かか、結界に入ったような違和感を感じたのだ。
「雪ノ下さん。この吹雪が過ぎ去るまでジッとしましょう。変に動くと本当に遭難しかねません。それに……」
何故か嫌な予感がする。
「……こんな場所で?」
「ちょっと待ってくださいね。明かりを俺に照らしてください」
俺はそう言って、雪からかまくらを作り出す。慣れたもんだ。こんなシチュエーション前にもあった。
ものの10分で立派なかまくらが完成する。
こんなシチュエーションが……前にも?
「なるほど。八幡頼りになるわ。さあ、お姉さんと一晩過ごしましょ!」
陽乃さんは完成したかまくらに入ろうとすると……
周囲に地響きが鳴り響く。
「また何!?」
「雪崩です……さっきより大きいです」
おかしい。いよいよもっておかしい。
こんな事があり得るのか……まるで、俺達を狙ったかのような、自然災害のオンパレード。
「もう何なのよーー!!」
陽乃さんは怒声にも似た叫び声を上げ。ジャンプし木に飛び移る
俺も身体能力強化をし、陽乃さんの飛び乗った木の枝の横に飛び移る。
本日二度目の雪崩に巻き込まれる。
雪崩はかまくらを飲み込む。
俺達はさっきと同じく、倒れ行く木々を飛び移って、雪崩を回避……
しかし、雪崩は激しさを増し、飛び移る木々ごと、押し流されていった。
まるで、誰かに誘導されるがごとく……
本番は次回からw