やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
というわけで、決勝戦です。
もちろん。あの人との戦いです。
俺は関係者観覧席に向かうと、そこには美神さんと巫女服姿のキヌさん、そして、やはりというかボロボロになった横島師匠が倒れてた。
「比企谷くん、さすがですね。次の準決勝も頑張ってください」
キヌさんに褒めてもらい、激励してもらった。
ありがとうございます。キヌさん。こうやって声を掛けられるだけで、癒やされる。
キヌさんがいてくれたおかげで俺は、美神令子除霊事務所でやってこれたと言っても過言ではない。
だって、あれだぞ。キヌさん以外、まともな人が1人もいないんだぞ。事務所に来る人もおかしな人ばかりだし。
「比企谷くん、やっぱりあの土御門陽乃って子只者じゃないわ。もはや受験生レベルの霊力じゃない。それとどうやら式神を持っているようよ」
美神さんは俺に的確なアドバイスをくれる。
遠目で見ていた試合と先ほどの接触だけで、それだけのことがわかるとは流石だ。
陽乃さんは試合では一度も式神を出していない。いや、どの試合も10秒以内で決着がついていたため、手の内は全くわからない。
俺の霊視で式神の存在は感じていた。
かなり強力な奴だ。
「そうですね。強いと思います」
「あんたの知り合いみたいだけど、どういう関係?」
「部活仲間の姉です。今日はじめて彼女が土御門の関係者だと知りました」
「ふーん。まあ、頑張んなさい」
美神さんはそれだけを言って、特別審査員席へと戻っていった。
何がなんでも勝って、絶対優勝しろって言われるかと思ったが、意外と普通の激励だった。
それだけ、陽乃さんの実力を認めてるってことか……俺が思っている以上にやばいのか?
「私も行かないと、比企谷くん。無茶だけはダメですよ。せっかくGS資格とれたんですから」
キヌさんもそう言って、この場を離れ会場裏に姿を消す。
「はい、怪我しないように頑張ります」
2人が去った後、ボロボロだった横島師匠は、ビヨーンと立ち上がり、復活した。
「八幡!あの超絶美人のお姉さんと知り合いか!!うらやましいーー!!式服着てたから目立ってなかったが!!おっぱいは88のDだ!!水着姿を拝みたい!!」
……横島師匠、そんな情報要りません。しかも、どうやって測ったんだよ!
「まあ、俺の知り合いの姉ですよ。土御門家の霊能者だとは知りませんでしたが……」
陽乃さんは普段は霊気を抑え、隠しているのだろう。前に会った時は違和感はあったが、霊能者だとは判別はつかなかった。
霊力コントロールもかなり出来るということだ。
「八幡、いい機会だ。全力でやってみたらいい」
横島師匠は急に真面目な顔になり、俺の肩にポンと手を置いた。
「……わかりました」
師匠のこんな顔は年に数度しか拝めない。
ただ、その時の言葉はどれも的確で意味があるものだった。
そして、会場から準決勝開始のコールがかかる。
『準決勝第一試合117番、336番前に』
準決勝で陽乃さんには当たらなかった。
まあ、これに勝てば、決勝で陽乃さんと当たるのだが。
全力でやってみたらいい………か
俺は横島師匠の言葉を思い出しながら、準決勝の舞台に上がる。
うーん、結果は圧勝。
というか弱くないか?いいところDランク妖怪と同じくらいだぞ。
受験生って、どれもこのレベルなのか?
俺が強いのか?
いやいやいや、普段、俺が強いなんて感じたことがないぞ……?
そうか、……そりゃそうだよな。
横島師匠や、Sランクの美神さん、そして、特殊な環境下では凄まじい効力を発揮するキヌさん。それにシロにタマモ。美神令子除霊事務所の面々は最上ランクの仕事までこなせるスーパーエリート事務所だ。
よく事務所に訪れるオカルトGメンの西条さんに美神美智恵さん。小笠原エミさんに六道冥子さん、皆日本屈指のGSだ。
そんなものを見慣れてりゃ、そうなるわな。
しかも、そのスーパーエリート事務所で1年半も生きて過ごせたのだから、そりゃ強くなるのも当然か………依頼で何度もこりゃ死ぬなっていう思いをしたしな。
俺は自分の両手を見つめながら、いつのまにやら自分の力量がかなり上がっていることを改めて実感した。
『二次試験決勝、12番、336番前に』
遂に決勝戦がコールされる。
決勝は雪ノ下陽乃さん……ただ単に、雪ノ下の姉で苦手な人だって認識だったが、今は霊能者として俺の前に現れた。しかもあの美神さん達が警戒する程の相手として……
『第〇〇回GS資格試験二次試験決勝、12番土御門陰陽道所属、土御門陽乃。対、美神令子除霊事務所所属、比企谷八幡』
陽乃さんは対峙する俺を見て、笑っていた。
いや、何時もの外面の愛想笑いじゃない。何かこう別のものだ。
『試合開始!』
陽乃さんはこちらに右手を掲げると、その手の平から突如として、こぶし大の氷の礫が現れ、俺に向かって放たれる。
俺はそれを大きく横に飛び避ける。
この氷の礫にふれると全身が凍らされる。
今まで、陽乃さんと試合を行った受験生達は、たいがいこの初手で皆やられていた。
しかも、陽乃さんは、札や術具を介さずにこの術を展開してくるのだ。
何らかの特殊能力者なのだろう。厄介極まる。
そして、俺が避けた先から、次々と放ってくる。
それも俺は着弾予想をし、飛び避ける。
今度は、陽乃さんの右手の平から、一気に3つの氷の礫が同時に展開し、飛んでくる。
しかも俺の避けるパターンを解析したかのように、タイミングをずらし飛んでくるのだ。
俺は一発目を避け、二発目をサイキック・ソーサーで受け止め。三発目は前に出て避ける。
陽乃さんは笑っている。
右手で氷の礫を展開しつつ、左手に何らかの呪符を手にして、言霊(呪文)を発す。
俺は霊視で確認する。あの呪符と言霊は土遁の術だ。
俺は回避しながら、呪符が効力を発揮するのと同時に、床を蹴り、大きく斜め後ろに飛んだ。
俺がさっきまでいた場所には、床から突き刺すような尖った大きな石柱が勢いよく現れる。
やはりか………
その間も、氷の礫が俺を襲う。
空中では回避は無理だ。俺はサイキック・ソーサーだけでは間に合わず。神通棍を振るい氷の礫を撃ち落とす。
氷の礫を何回か受けた神通棍は凍りつき、このままだと折れてしまう。
霊気が通っているはずなのだが、霊気ごと凍らせやがった!
サイキック・ソーサーは霊力を集中させた霊気の集合体なため、凍らされても、都度発動すれば問題なかったが、神通棍はそうはいかない。本体が持たないのだ。
くそっ、神通棍って幾らするんだっけ!?
100万は余裕でするんじゃない?
俺は神通棍が折れる前に手放す。
俺は身を切る思いで20万の護符を出し、眼前に火遁結界を張り、しのごうとするが、氷の礫を1発受けただけで、火遁結界は消滅する。
ああ、俺の20万円が!?
そこで、一度、土遁の術や氷の礫が収まった。
陽乃さんは構えを解いている。
仕切り直しがしたいのだろう。
俺はその意を汲み、開始の元の位置までゆっくりと戻る。
会場ではどよめきや驚きの声が上がっていた。
くそ、わかっていたことだが、今までの受験生とは桁が違う。
しかも、まだ陽乃さんは本気じゃない。
どんだけチートなんだよ。
「比企谷くん、本当にやるわね。ここまで私の術を避けられたのは、久しぶりよ」
陽乃さんは何時もの外面笑顔ではなく、ギラついた目をした笑みをこぼしていた。
「…………このチートが」
「私も本気を出してあげる。比企谷くんも奥の手をだしたほうが良いわよ」
陽乃さんがそう言うのと同時に、陽乃さんの影から、2メートル強はある一本角鼻から上を隠すような仮面をかぶった鬼が現れた。
会場はまたしてもどよめきが起こる。
「鬼神、雪刃丸」
陽乃さんの式神か……なんて威圧感だ。まるで十二神将なみだ。
流石は名門陰陽師土御門家か。
「………くそ」
横島師匠が、全力を出せといったな………
俺は霊気を開放する。
俺の全身から霊気が外に向かって溢れ出る。
霊気とは霊力を生み出すための燃料みたいなものだ。
霊気量が多いとそれだけ霊力を振るえる時間や大きな霊力を生み出すことができる。
但し、霊気が多いのと強い霊力を生み出すことは別物だ。
強い霊力を生み出すにはそれ相応の修行とセンスが必要だ。
いくら霊気が多いからと言って、強力な霊力を振るえるわけではないのだ。
俺は溢れ出る霊気のせいで、霊を呼び寄せてしまう体質になってしまった。
それを解消するために、横島師匠の元で最初に行ったことは霊力コントロールだ。
それは、俺のあふれる霊気を抑えるために霊気を体内に留める修行だ。
俺には最初、霊力を扱う才能はなかったため、霊気が体内にとどまること無く、ダダ漏れになっていたのだ。
霊力をコントロールできることで、霊気の流れもコントロールできる。さらに、俺の身体の器も大きくなり、霊気も体内に留めることができるようになったのだ。
その溢れ出る霊気を今俺は、体内に留めること無く、外に向かって開放したのだ。
会場がまたしてもどよめく。
「あははははっ、比企谷くんいいわ。やっぱり雪乃ちゃんには勿体無い」
陽乃さんはあのギラついた目で笑っていた。
差し詰め第2ラウンド開始と言ったところか。