やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
というわけで決着です。
GS資格試験編はこれで終わりです。
俺は溢れ出す霊気を体外に放出する。
俺の霊気は勢いよく周囲の空間に染み込むように浸透していく。
生き物はすべて霊気を保有している。
霊気をなくした生き物は生命力を失い死に至る。
霊能力者はすべてこの霊気を通常の人間の数倍保有している。
霊気は霊力を生み出す燃料のようなものだ。
霊能力者は霊気を霊力という力に変換し、数々の奇跡を生み出す。
俺はあの事故で、この霊気を多量に生み出す体質になり、霊気を放出し続けていた。
その結果、エネルギー体である霊気に惹かれ、浮遊霊などが集まってきた。
霊気を貯める器も小さく、霊力をコントロールもできない俺は、霊気を消費すること無く、放出し続けていたのだ。
そして、この1年半。横島師匠の元で修行し、霊気を貯める器の拡張と霊力コントロールをある程度ものにした。
霊気には一人一人異なる色を持っている。その人だけのものだ。霊気の色によって他者を識別することも可能だ。
また、霊気の色によって、霊能の得意分野の個人差が出ることもある。
俺色の霊気……それは、他者とは違う。自分だけの霊気だ。
自分の身体を組織する一部であると行っていいだろう。
その霊気を俺はこの結界内の意図的に空間に満たした。
俺の霊気は霊視能力と合わさり、目、耳、鼻、触覚の役割をする。
俺の霊気に相手が触れれば、相手の動向も手に取るようにわかる。
俺の霊気が満たされた結界内では全方位の霊視が可能になる。
俺の霊気が満たされたこの結界内では俺は3次元的にすべてを把握することができる。
いわば、霊視空間把握能力………。
これが俺の戦い方………。
そして、再び戦いの火蓋を切った。
陽乃さんの式神、雪刃丸の眼前に、先程の倍ほどの大きさの氷の礫が10数個生成され、俺に向かって放たれる。
俺の霊視空間把握能力はその氷の礫のすべてが何処を狙い何処に着弾するのか、角度、速度も手に取るように視える。
俺は着弾場所を縫うようにゆっくりとした足取りで確実にすべて回避する。
そして、次弾の氷の礫もすべて回避。
「全て避けられた……さっきとはまるで動きが違う………こちらの動きが読まれてる?」
さらに、氷の礫が放たれるが、俺はそれもすべて回避しながら、陽乃さんに迫る。
雪刃丸は陽乃さんの前にでて、俺の進攻を止めるがごとく口から猛吹雪を吐く。
俺はそれを大きく回避し、陽乃さんの左側に出て、サイキックソーサーを雪刃丸の頭に向かって投げつける。
雪刃丸はサイキックソーサーを左腕でガードする。
俺は更にサイキックソーサーを生成し、更に雪刃丸の頭に投げつけた。
これは目くらましだ。雪刃丸がガードすることによって、左から後方は陽乃さんの死角になって俺が見えない。
雪刃丸自身もガードして俺の動きを捉えられないだろう。
俺は更に後方に周り、陽乃さんの後方を取ろうとするが……
「甘いわ!氷雪陣!」
陽乃さんは印を結び術を発動させる。
陽乃さん半径5メートルに氷の結界陣が床に浮かびあがり、氷の刃が次々と床から飛び出す。
俺は既にその術の発動範囲を把握し、大きく後方に飛び退く。
俺が大きく後方に飛び退くと同時に雪刃丸が動き出した。
デカい巨体に似合わずかなりのスピードで、飛び退いた俺に追いすがり空中で捉え、殴りつけてきた。
俺はその動きを読んでいたが、空中では避けられない。身体を捻らせながら、サイキックソーサーを最大限に強化してガードする。
「ぐっ」
雪刃丸にサイキックソーサーごと俺は殴りつけられ、大きく吹っ飛ぶ。
この式神パワーも桁違いだ。やはり十二神将に匹敵するか………
何とか直接ダメージだけは避けたが、サイキックソーサー越しに衝撃が俺の体に届いた。
くそ、霊能者じゃなきゃ今ので死んでたぞ。
霊能者は霊力を体内に巡らせることで、力、防御力、スピード等の基礎身体能力を高めることができる。
一般的に霊力が高ければ高い程、基礎身体能力アップ幅も大きくなるが、得意不得意もある。
これが出来なきゃ、妖怪や悪霊の攻撃に耐えることが出来ず。一撃でお陀仏だ。
横島師匠は多分、防御に関してはめちゃくちゃ得意なはずだ。
じゃないと説明が付かない。前の依頼の時に、東京スカイツリーで美神さんにセクハラして、頂上から地面に落とされても生きてたし………下手すると、大気圏突破できるかもしれない。いや、流石に無理か…………
それはさておき、俺は今も、霊力で基礎身体能力を上げているが、それでも、サイキックソーサー越しにダメージを受けたのだ。
くそ、いくら空間を把握し、相手の攻撃情報をすばやく手に入れたところで、俺自身の身体が動きについていけてない……
俺は何とか空中で体勢を立て直し地面に降り立つが、既に雪刃丸が迫り俺に重い拳打のラッシュを放ってくる。
これを後方に下がりながら避ける。
さらに、陽乃さんから、氷の礫、土遁の術が俺に迫るが、俺は霊視空間把握能力をフルに活用しながらサイキックソーサーとフットワークで避ける。
さっきまでと一緒か、防戦一方だ。
お互いの能力をさらけ出したところで、地力は陽乃さんの方が上か………
攻撃のチャンスも無い。
………しかし、勝負はこれからだ。
俺の防戦一方の状態が、10分も続いた。
観客からもヤジが飛ぶ。
攻撃しろとか、守ってばっかりするなとか、横島と一緒で逃げるのだけはうまいなとか………
俺の霊視空間把握能力もそろそろ限界が来る。
そりゃそうだ。いくら霊気量が多いからと言って、無限ではない。しかも、この結界内空間をカバーするだけの霊気を放出し続けているからだ。自然に放出する量の10倍は消費している。
霊気量を食い過ぎるのがこの能力の最大の欠点だ。放出する濃度とかも調整の余地があるな。
まあ、他にも欠点はあるんだけど………
この能力。まだまだ、改良の余地があるということだ。
しかし、これは陽乃さんも同じだ。
陽乃さんだって、あの強力な式神を全開で仕掛けながら、術を行使している。
霊気を多量に消費しているのだ。
俺は避けながらも陽乃さんに霊視をし、様子を伺っていたのだ。
澄ました顔をしているが、陽乃さんも相当きついはずだ。
陽乃さんも気がついているはずだ。
俺が持久戦を挑んでいる事を………
霊気量だけならば俺の方が上だ。
俺は霊視空間把握能力を使い。陽乃さんや雪刃丸の攻撃情報を得て、避けたり逃げたりだけしていたわけではない。陽乃さんの霊気や霊力を測り相手の状況を把握しながら、自身のダメージ・コントロールを行っていた。
俺は、霊能による情報戦を陽乃さんに仕掛けていたのだ。
観客は汚いとか、卑怯だとか言うかもしれん。
俺にはそんなことは関係ない。
美神さんは俺によく言う。
「セコかろうが何をしようが、最後に勝てばいいのよ。勝てばすべて正義なのよ!!」
横島師匠は敵によく言う。
「うはははははっ!!卑怯で結構、メリケン粉!!命あってのものだねじゃい!!」
うん。俺の師匠共は良いこと言う!
陽乃さんは焦れて、ついに自らが前に出てきた。陽乃さんの霊気が底を尽き掛けてきたのだ。
まあ、俺も尽きかけてるんだけどな。
「比企谷くん。やるわね。持久戦とはまんまと嵌められたわ」
「俺にはこれしか無いんで………」
「後で、どうやって私の攻撃をこれだけ避けられたのかも教えなさい!」
「俺に勝ったら教えて上げますよ」
「言うわね。でも、嫌いじゃないわ」
陽乃さんは数枚呪符を取り出し言霊を紡ぐ。
雪刃丸の霊圧が上がってくる。
全霊気・霊力をつぎ込んだ最大攻撃が来る!?
雪刃丸は雄叫びを上げる。
式神の能力が爆発的に上昇する。
これは、雪刃丸の身体強化術式だ!
六道冥子さんの式神暴走に近い!
こんなものをコントロールできるのか?
こんなものの攻撃を食らったらひとたまりもない。
本当に最後の攻撃ということか!
術者である陽乃さんを倒せば、雪刃丸も止まる!
俺は雪刃丸の身体強化術式が完全に完成する前に、陽乃さんに突撃をする。
しかし、陽乃さんの眼前に迫るも雪刃丸の身体強化術式が完成してしまった。
雪刃丸が俺に右拳を振り上げる。
先ほどとはスピードも桁違いだ。
俺の突撃も途中で止めることが出来ないほどスピードがってる!
これは避けられない!
くそっ!これを出すつもりはなかったが!
俺は全霊気を霊力に変換し左手に全集中させる。
そして、雪刃丸が振り上げる右腕に向かって、霊力を収束させ左手を突き上げる。
横島師匠から教わり、1年半掛け、ようやく物に出来た必殺技。霊力の刀。霊波刀が光輝く。
俺は霊波刀で雪刃丸の左腕を切り落とす。
雪刃丸は止まらない。右足で蹴りを放ってきた。
俺は返す刀で雪刃丸の右足を……………刀の振り下ろした先には………
霊波刀は雪刃丸の右足に届く前に消滅。俺はもろに雪刃丸の蹴りを喰らい吹っ飛ぶ。
「がはっ!」
かろうじて右腕で蹴りをガードしたが……強化された雪刃丸の蹴りの威力は凄まじく。
俺は空中に吹き飛ばされ、右腕が粉砕した音を聞き、意識は飛ぶ。
「………ひき……ひきがや…………比企谷くん!!」
眼の前には聖母、いや、キヌさんの顔があった。
「よかった。意識がようやく戻った」
「ここは……痛…」
「医務室です。まだ治療が終わってませんから動かないで」
どうやら俺は医務室のベッドの上に寝ているらしい。
ということは、負けたってことか……そりゃそうか。
身体の彼方此方が痛い。
右腕が今、温かい何かに包まれている。
キヌさんの治癒術、ヒーリングだ。
「無茶しないでくださいって言いました」
キヌさんは涙目で俺に怒ったように言う。
……怒った顔も素敵です。
「…すみません」
「まあ、死んでないから大丈夫でしょ」
頭上から美神さんの声がする。
「…美神さん…負けてしまいました。すみません」
「あんた。あれ程言ったのに。自業自得よ。最後の攻撃、あのまま振り下ろしたら陽乃って子に当たるからって躊躇したでしょ」
美神さんは呆れたように言う。
「いや、あれが俺の実力です。霊波刀の形状維持も短時間しかまだ出来ませんからね」
「師弟そろって、女に甘いんだから。……後で横島くんに車出して家まで送ってもらいなさい。今日はゆっくり休むのよ……まあ、それとGS免許取得、準優勝おめでとうさん」
最後にそう言った美神さんは気恥ずかしそうにしていた。
「ありがとうございます………あの、横島師匠は?」
「会場でナンパでもしてんじゃない?……でも、一応お礼を言っておくのよ。重症だったあんたを直ぐに駆けつけて、ここに運んだのは横島くんよ」
「師匠が?」
「それと、あんたしばらく休み。霊気も霊力も使い果たして、しかもボロボロになって、ヒーリング掛けて怪我を治したからって体力と霊気と霊的構造の回復に3日は必要よ」
「そうですか………」
しばらくキヌさんのヒーリング治療を受け、短時間で怪我を全て治してくれた。
凄まじい能力だ。
俺もキヌさんからヒーリング能力を教わって、ちょっとはできるが、擦り傷とかを治す程度だ。
キヌさんはもう一度可愛く俺に怒って、この後も打ち合わせがあるとかで治療室を後にした。
美神さんも打ち合わせがあるらしく、早々と治療室を出ていた。
治療室に残った俺は、車で自宅に送ってくれるはずの横島師匠を待つことにしたが、一向に現れない。
スマホはロッカーの中に置きっぱなしだな。取り敢えずスマホ取りに行って、横島師匠を呼ぶか………
「あーーめちゃくちゃ身体がダルいな」
俺はフラフラと治療室を出ると、扉の前には陽乃さんが立って居た。
「比企谷くん。結構元気そうね」
「あーー、おかげさまで」
俺は皮肉を言ったつもりだが、陽乃さんはそれには反応しなかった。
「……最後の攻撃、君は……………」
「何のことっすかね。俺はまだまだ未熟ものなんで、最後の最後にドジッたってことです」
「そう、そういう事にしておくわ。でも勝ちは勝ちなんだから、今度、お姉さんとデートね」
陽乃さんはいつもの調子でそんな事を言ってきた。
「げっ、それ、無効になんないっすかね」
「ダーメ!」
「というか、あんた俺を殺そうとしたでしょ。そんな人とデートなんて出来ないですよ」
「試合は本気でしないとね。ほら、男の子が過去のことでグチグチ言わない」
陽乃さんはそう言っていつもの調子で俺の頬を突っついてくる。
「はぁ、なんなんだこの人は」
「まあ、比企谷くんは頑張ったから、雪乃ちゃんにはGSだってことは言わないであ・げ・る」
「……そりゃ…ありがとうございます」
「そのかわり、デートよ!」
「………………はぁ」
俺は盛大にため息を付くしかなかった。
この後、横島師匠と連絡がつき、車で千葉の自宅に送ってもらった。
「八幡、最後のは良かった」
横島師匠は運転中、ずっとおちゃらけた話をしていたのだが、俺を自宅の前におろした後、一言こういった。
………俺はそれが何よりも嬉しかった。
八幡霊能追加分
八幡のオリジナル霊能力
『霊視空間把握能力』
霊気を満たした空間内を三次元感覚で感じることができる能力。
空間内にいる相手のある程度の霊視も可能。
相手がどのようにな攻撃をするかを予め分かる能力ではない。
攻撃が発動と共に把握する能力です。
但し、霊視も行っているため、相手がどの様な攻撃をするかを予測することも可能です。
霊能による情報戦を行うような能力仕様になってます。
欠点は霊気を常に撒き散らさないといけないため、範囲が広ければ広いほど、莫大な霊気を消費する。
練習に付き合ってくれた美神さんに試したが、あっさり弱点を見破られた。
空間に浸透している八幡の霊気を散らされたのだ。
経験値の高いGSには現状効果は薄いよう。
横島に見せたところ、発展する能力だと言われている。
この能力を磨くことを推奨していた。
『霊波刀』
八幡の霊力コントロールの一貫として、この訓練を行っていた。
本来、適正と才能が必要なものだが…………八幡は1年数ヶ月かけて、ようやく物にする。
但し、維持時間はかなり短い。
八幡の霊波刀の特製はまだ判明してません。
『基礎身体強化』
八幡はその中でもスピード系が得意。
『ヒーリング』
擦り傷を治す程度。おキヌちゃん直伝。