やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
では続きをどうぞ。
「お兄ちゃん!早く行こうよ!」
「小町、焦らなくても十分間に合うぞ」
「お兄ちゃん。自転車漕ぐの滅茶苦茶早いじゃん!」
「学校の行き帰りはゆっくり走ってるぞ」
俺は玄関で靴を履き、小町は既に玄関の扉に手を掛けていた。
「お父さんとお母さん。また後でね~。では小町、行ってきます!」
真新しい総武高校の制服の冬服を着た小町が玄関の外に出て、家の中で見送る親父とかーちゃんに元気いっぱいに敬礼をする。
そう、今日は小町の入学式
小町は今年の春から、俺と同じ総武高校に通うのだ。
かーちゃんは手を振り、親父は既に涙ぐんでいた。この後、俺の両親共は小町の入学式に出席する予定だ。社畜の親共だが、この日ばかりは小町のために有給休暇を取り、その晴れの姿をその目で収めるつもりだ。
俺の時はこんなに気合入ってなかったような……、親父は普通に会社行ってたし、まあ、かーちゃんだけは出席するつもりだったようだが、入学直前に俺は交通事故で入院に……、だから親共は、小町の高校入学が、年頃の子を持つ親としての高校入学式という一大イベント初参加ということになる。
「親父達と一緒に行かなくてよかったのか?」
俺はチャリを駐車場から出し際に小町に聞いた。
「えー、お父さんと一緒だとめんどくさいし、入学式を見にきてくれるだけでいいよ」
確かにな、あの親父は小町にかまいすぎるからな、ウザがられても仕方がない。
まだ、お兄ちゃんと一緒に行く方がましだと言う事だな!勝った!哀れ親父!
「じゃあ、行くか」
「そんじゃお兄ちゃん。案内頼んだよ!」
「任された」
俺が先頭で、その後に小町が続く。
小町は、入学祝として親父から最新型の自転車を買ってもらっていた。しかもだ。某大手メーカーのオシャレな電動アシスト付き自転車だ。
俺も入学祝はチャリだった。自転車というよりもチャリだ。普通のママチャリだ。
何この違い?まあ、初日に交通事故で大破してしまったがな。
雪ノ下家に弁償してもらったのだが、結局同じようなママチャリだ。
うちの家から、総武高校は意外と近い。
普通に漕いで自転車で30分ちょっとだ。
雨の日はバスを使うが、逆に時間が掛かる位だ。
何事もなく小町を連れ、学校に到着し駐輪場に自転車を置く。
「おおー、なんか高校生になったっぽい感じ!」
「まあ、そうだな」
小町は高校の雰囲気を肌に感じ目をキラキラさせてはしゃいでいた。
「入学案内状によるとだ。受付で自分のクラスと入学式で座る席順を案内してくれるらしいぞ」
入学式は体育館で執り行われる。体育館の入り口付近にテントが張ってあるから、あれが受付だろう。
「お兄ちゃん。まだ、時間あるよね!ちょっと見に行っても良いかな!」
「後にでも十分見れるだろ?先に受付を済ましておいた方が良いぞ」
「お兄ちゃん。案内ご苦労!ではでは、小町は受付に行ってくるであります!」
小町は俺に元気いっぱいに敬礼する。
「俺も受付まで、ついて行くぞ」
「え~、お兄ちゃんと~、だってお兄ちゃん中学の時と一緒で、どうせ悪い噂しかたってないでしょ。ここでいいよ~」
なぜ、バレてる?まあ、そうなんだけど……
「小町ちゃん。ひどくない?」
お兄ちゃんなんだか目から鼻水がでてくるよ。
「兄思いの小町なので、一緒についてくることを許します!どうぜお兄ちゃんの妹って直ぐにバレるんだしね。でも、悪い事ばっかりじゃないよ。中学の時も小町はお兄ちゃんと比較されて、先生や先輩達に『お兄さんとは全然違うのね』って、お兄ちゃんのマイナスイメージ分、小町が余計に良く見えるみたいなんだよ!これもお兄ちゃんのお陰だね!」
屈託のない笑顔を俺に向ける小町。
「………」
あれ?おかしいな。雨や霧も出てないのに、両目が霞んで、小町が良く見えない。
新入生受付ブースに小町が先行して、俺が後に付いて行く。
その受付には一色と生徒会の面々が忙しなく対応していた。
「いろはさんだ!おはようございますって、これからは一色先輩ですね」
「受付たのむわ一色」
「あっ先輩と妹さん。おはっ……こほん。入学おめでとうございます。そして、ようこそ総武高校へ。生徒会長の一色いろはです。ここで過ごす三年間は貴方にとって、人生の通過点として最良の日々となる事を心からお祈りします」
一色は咳ばらいをし、いつものあざとい笑顔から、澄ました顔で小町にこんな事を言う。
……お前誰だよ?キャラが変わり過ぎだろ。普段からその方が良いんじゃないか?
「……なにそれ?気持ち悪」
「せんぱーい!酷い……こほん。比企谷小町さん。1年C組です。体育館に入り右手に進んでください。それと、私の事はいろはで良いですよ。先輩の妹さんですから」
「ありがとうございます。いろはさん!じゃあ、行ってくるねお兄ちゃん!」
「ああ、行ってこい行ってこい」
俺は俺に手を振って体育館に入って行く小町を見送る。
「先輩!気持ち悪いって何ですか!女の子になんて事をいうんですか!セクハラですよ!デリカシーのかけらもないんですから!」
一色は先ほどの澄まし顔から、ちょっと頬を膨らませて、いつものあざとい仕草で俺に文句を言ってくる。
「悪い。いつものお前と180度違うもんだからつい口にでた」
「つい口にって、私を何だと思っているんですか?それにこれぐらい普通です。こう見えても出来る女なんですから」
一色は胸を張ってどや顔をする。
え?何だと思ってるって、あざとい後輩。俺に仕事を押し付けてくる小悪魔。
「そうだな。実際よくやってるよ一色は」
一色は上級生の生徒会役員達を良くまとめ、生徒会長として十分やってる。俺の予想を軽く超えるぐらいにな。
去年の生徒会選挙時には、ここまでやれる奴だとは思っていなかった。
「急に何ですか?気持ち悪。先輩が私を褒めるなんて?んん?もしかして、アピールですか?そうなんですね。何時もの先輩らしくないところを見せて、私に何のアピールですか?ギャップ萌えなんですか?そうなんですね。生憎そんな手には引っかかりませんよ。でも先輩に褒められて悪い気がしませんし、いや、むしろ褒めて、褒めちぎってください。でも、先輩がインドア派と見せかけて、実は体を鍛えてるとか、そのギャップはやられちゃうんで、今は勘弁してください」
一色は早口でまくし立てるように一気に俺に何か言う。
「お前、何が言いたいの?もしかしてまた俺は振られたのか?」
……これはいつもの振られパターンか。ちょっとニュアンスがおかしかったが。
「い、いえ何でもないです。ギャップといえば、先輩って、兄妹仲が良いんですね」
「そうか?普通だと思うぞ」
俺はこの後、直ぐに教室に戻る。
俺達は普通に授業がある。
まだ、由比ヶ浜も来てないか。
今日は結構早めに学校に来てるからな。
クラスメイトもちらほらとしか居ない。
川崎はいつもギリギリだからまだだろう。
俺が教科書など今日の授業分を鞄から出し、机に入れていると、不意に声を掛けられる。
「比企谷だっけ。お前……その、由比ヶ浜さんと、どういう関係なんだ?」
見るからに体育会系の男子3人が俺の机を囲み、そのうちの一人が俺に声を掛けたのだ。
ジャージを着てるところから、朝練か自主練の後なのだろう。
まさか、クラスメイトから声を掛けられるとは思わなかった。
男に戸塚以外で教室で声を掛けられたのは久しぶりかもしれない。
内容は俺の事ではなく。やはり由比ヶ浜の事か。
クラスに居た他の連中も、興味深そうにこちらを伺っている。
「ああ、自己紹介の時に彼奴が言ってた通りだ。クラスと部活が一緒なだけだ」
「だけだって、お前。随分親しいというかだな」
「由比ヶ浜さんを彼奴呼ばわりかよ」
「そうだ。なんて言うかだな、なれなれし過ぎるぞ」
3人は一斉に口々に俺に言ってくる。
最初に声を掛けてきた奴は、戸惑ったような表情だが、後の二人はちょっと感情的だな。
やっかみか。はぁ、まあ、そうだろうな。由比ヶ浜は人気ものだしな。
俺みたいな明らかに、学校の底辺野郎と親し気に……
ん?俺の方からは話しかけてないぞ。あいつがずっと構ってくるだけだから。
一昨日も昨日も、クラスメイトの誘いを断ってだ。昼食は奉仕部でだし、放課後は俺を引っ張って部室にだしな。
「まあ、同じクラスの奴が少ないし、俺が同じ部員だから、話しやすいだけだろ」
面倒だが、ここは穏便に済ますのが良いだろう。
「……由比ヶ浜さんがお前の事好きだって言ったのを、聞いた奴がいるんだけど。どうなんだ?」
「聞き間違いじゃないのか?俺はこの通りだ」
俺はワザとおどけて見せる。
「比企谷……お前の事はよく知らないが、いい噂は聞かない」
「由比ヶ浜さんと同じ部活だからと言って、調子に乗るな」
「そうだ。由比ヶ浜さんが誰にでも優しいからって、勘違いするなよ」
俺に最初に声を掛けた奴はどうやら冷静に物事を判断できそうだな。こいつなら話してもわかるだろうが、後の二人はダメだな。完全に俺を敵視してる目だ。
「覚えておくよ」
俺はそう言って、首をすくめる。
うーん。なんかまずいな。
俺が由比ヶ浜に告白されたなんて知られたら、混乱だけでなく、俺刺されちゃうかも。
「ヒッキー、やっはろー!って、ヒッキーが男子と話してる!?」
「ん、なんだヒキオか」
「ハロー、ハロー、ヒキタニ君。うわっ!?なにヒキタニ君。葉山くんと戸部ッちから乗り換えたの?まさか、ヒキタニ君と体育系男子3人とくんずほぐれつ!?キマシタワー――――コレ!?」
由比ヶ浜だけでなく、なんか派手なの来た!見た目派手な女番長三浦優美子に、言動が派手というかいっちゃってる海老名姫菜だ。
三浦は相変わらずだな。そのヒキオってあだ名。マジでお前しか使ってないし、多分殆ど奴は俺の事だとわからないぞ。
海老名さん?まさか俺って、お前の頭の中じゃ葉山×ヒキタニとか戸部×ヒキタニとかになってるの?マジやめてほしんだけど。しかも鼻血吹き出てるぞ。
「はぁ、海老名擬態しろし。鼻、血でてる」
三浦は海老名の鼻血を吹いてあげていた。
ああ見えて三浦はおかん気質だからな。仲間に対しての面倒見がいい。
因みに、由比ヶ浜が聞いてもいないのに話してくれたのだが、三浦は文系で念願の葉山と同じクラスになったらしい。よかったな。
海老名も文系だが三浦とは別のクラスに、しかも戸部が同じクラスとか……戸部はよかったな。
海老名はどうするつもりだろうか?意外といい奴だぞ戸部は。やかましいし、声が大きいし、面倒くさい奴けど。戸部への評価は俺の中では高い。一色の我がままに付き合ってやれる稀有な奴だ。
しかも、一色は戸部の前ではあざとい笑顔をあまり出さないどころか、言葉は丁寧だが舎弟のように扱ってる節がある。何ていうか……戸部には親近感がわく。
後のクラスの連中は知らん。
しかし、めちゃくちゃ気にいらないのが、材木座が戸塚と同じクラスになった事だ!!しかも隣の席だと!!材木座からどや顔付き戸塚とのツーショット写メが俺に送られてきた時には、怒りでスマホを真っ二つに折るところだった!……今度、横島師匠に呪いの藁人形の作り方を教えて貰おうか!!
「そこ邪魔」
三浦は俺の席を囲ってる体育会系男子3人に一睨みする。
すると、3人はヘビに睨まれたカエルの如く、ビビッてその場を三浦に開け渡し退散する。
流石は女番長。一睨みで体育系男子を追い払った。
あの男子3人も俺に威勢が良かったのに、三浦の一睨みで大人しくなるのもどうかと思うが、まあ、そのおかげで、険悪な雰囲気まで行かなくて助かったのは確かだ。
三浦は俺の前の席の椅子にドカッと座り、足を組み、俺の顔をジッと睨むように見据えていた。
由比ヶ浜は自分の席に座り、海老名は三浦の横に何時ものニコニコ笑顔で立っている。
「うす」
俺は三浦と海老名に軽く会釈する。
ジッと俺を見据えたまま三浦はボソッと小声でこんな事を言ってきた。
「ヒキオ……あまり調子のんなし、……結衣泣かしたら殺すから」
どうやら、由比ヶ浜は三浦と海老名には、俺に告白したことを話してるようだな。
「……善処する」
「あぁ!?」
三浦は俺にメンチ切って来る。
「もう、優美子!なんでヒッキーにそんなこと言うかな!!」
「結衣。こいつ即効で返事しないとかありえないし!!」
「それはいいの!それに、この教室見たいからって連れて来たのに、ヒッキーに絡まないの!」
「ええ!?だって結衣!」
「ヒキタニくんも大変だね。でもダメだよ!グフフフフフッ!ヒキタニ君は葉山君が居るんだから!?」
マジやめてくれませんかね。そんな噂たたれたら、俺だけじゃなくて、葉山にもダメージが行くぞ!
「はぁ!?海老名も何言ってるし!!隼人とヒキオなんてありえないし!!」
何だかんだでこの3人、チャイムが鳴るまで、俺の周りでいつものようにあれやこれやと会話を楽しんでいた。
その間、クラスの連中は俺や由比ヶ浜達には近づかない。
女番長三浦、その存在感はこの学校でほぼ頂点だろう。マジパナイ。
しかし、チャイムが鳴り、三浦と海老名が自分たちの教室に帰り際、丁度教室に入ってきた川崎と出くわしてしまった。
「あんたも、結衣とヒキオと一緒のクラスだったんだ」
「何?別のクラスの奴が何でいんの?」
「あぁ!?」
「はぁ!?」
あのやめてくれませんかね。マジで。
ここは80Sの不良マンガじゃないんで……
クラスの連中もビビッて、声も出ないじゃないですか?
元2年F組では見慣れた光景ではあるのだが……
しかし、困ったな。
由比ヶ浜のスキンシップが教室でもとなると、男子からのやっかみが面倒臭い事になりそうだ。
そう思いながらも、昼休みは奉仕部で3人で昼飯。
今日も雪ノ下が作ってくれた弁当を美味しく頂きました。
……こんな光景、今のクラスの連中には見せられない。
教室で由比ヶ浜と話してるだけで、あの反応だ。これは何とか考えないと……
新入生の小町は、今日の学校は午前中までで、先に帰っていた。
俺は部活を終え家に帰ると、見るからに高級寿司の出前が待っていた。
親父は酒が進み、終始涙を流していた。
俺は小町に入学祝だと言う事で、後日最新型のスマホを買ってやることを約束。
タマモからは本と、シロからは木刀を俺は預かっており、小町に渡す。
すぐさま、お礼の電話をタマモとシロにかけていた。
キヌさんからは、キヌさんの実家で作られてるお守りと筆と硯と和紙。そして横島師匠からは文珠を頂いた。その文珠をキヌさんのお守りの中にそっと入れ、小町に渡す。
たぶん。横島師匠からだと話すと受け取らないだろうからな……
文珠か……
どこの文献や古文書にも載っていない術具。世の中では全く知られていない。
性能は時価1億円以上する精霊石と、比べるまでもなく圧倒的に上の術具。
たぶん。世間には秘密なのだろう。こんなものがある事が知られれば、あの若返りの霊薬以上に争いの種となりうる。
何せ、あの文珠一つでありとあらゆる術儀を念じるだけで発動できるからな。
それを生み出すことが出来る横島師匠……か。
まあ、今考えても仕方がない。
小町。入学おめでとう。
次は、GS回かガイル回どっちにしようか