やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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誤字脱字報告ありがとうございます。


では続きを……


(95)黒い悪魔な二人?

俺は悪霊退治の依頼で、シロとタマモと某私立大学に来ていたのだが……

 

『あああ!!何が充実したモテモテキャンパスライフだ!?カップル率97.2%の大学だ!!ふざけるな!!ナンパで25回も振られたんだぞ!!俺のガラスのハートが傷つきまくりだ!!こんな学校壊してやるーーーーっ!!』

悪霊は訳が分からない事を吠えながら、校内でポルターガイスト現象を起こし破壊していた。

そう、この悪霊は元はここの生徒の地縛霊の成れの果てだった。ナンパに失敗した腹いせに、校内のごみ箱に放火して自分も巻き込まれて死亡したのだ。自業自得だ。

この悪霊は学校に対して恨みを持っているようだな。学校の売りがカップル率とかモテモテとか、そんなのに騙される方も騙される方だ。……しかし、よくこの大学はそんなキャッチフレーズでこの世知辛い世の中に生き残れたものだな。もしかしてその訳が分からんキャッチフレーズで、大学を決める奴が世の中には大勢いるってことなのか?

怒りを向ける対象は大学のようだが、一応嫉妬系の悪霊の一種なのだろう。

まあ、地縛霊が嫉妬で悪霊になったなんてものは、よくあるパターンだ。

 

だが、この悪霊の様子がどうにもおかしい。

この程度の理由で悪霊になった割には力がかなり強い。Cランク相当はある。

普通ならばこんな感じで地縛霊が悪霊化した場合は、Eランク程度。よくてもDランクに掛かるかかからないか程度だ。相当恨みを持って自殺してようやくこのレベルに達するか達しないかだ。

本来はデジャブーランドに現れたバレンタイン嫉妬悪霊トリオ程度のものだと思ってもらっていい。

それ以外では一般的には雑霊を多量に吸収して強力な悪霊に変化することはあるが、その雑霊もこの大学周囲には少ない。

 

よくよく霊視してみると、この大学の体育館辺りに、空間の歪みみたいな物が発生して、そこから悪霊に霊気が送られているようなのだ。しかもだ。悪霊が好むような陰質の霊気をだ。

何か嫌な予感がする。

 

悪霊本体をシロに任せ、俺とタマモはその空間が歪んでる場所に向かう。

 

 

「八幡。あれ」

「ああ、術式だな。……西洋の魔法陣……召喚魔法陣に似ているが……」

体育館の2階に位置するこの部屋はトレーニングルームだろう。

筋トレやランニングマシンなどが所狭しと置かれている。

 

この部屋の大きな姿見鏡に魔法陣のような術式が浮かび上がり、その鏡の前に空間の歪みが生じ、そこから陰質な霊気が漏れ出ているのだ。

この魔法陣が空間の歪みを生成してる事は見て取れる。明らかに人為的なものだ。

なぜこんな事を…誰が?

 

……召喚魔法陣にも一部似ているが、異なるな……。かなり複雑な術式で出来上がってる。

なるほど鏡を利用してる感じだ。

確か鏡を使った異界の門を開く術式があったな。まあ、実際に使えるのかは疑問だが。

異界の門とは、魔界と呼ばれる悪魔が存在する異世界から、悪魔や魔獣などを直接呼び寄せるための大術式だ。魔界とやらとアクセスして、障害なしに呼び寄せる術式なのだ。しかも多量に呼び寄せる事も可能らしい。

通常の悪魔召喚と違い、契約無しに、悪魔を現世に呼び寄せることが出来る。一見、有用のように見えるが、契約をしていない悪魔はコントロール不能だ。そんな事をすれば、悪魔は好き勝手に暴れる。

悪魔自身が自らの意思で現世に存在するにも幾つもの制約(ギアス)が必要だ。……しかし異界の門は制約すらもせずに呼び寄せられるらしいのだ。

そんなコントロール不能で制約もない悪魔を呼び寄せれば、真っ先に術者は抹殺されるだろう。

そして、現世に多大な影響を与える事になる。

但しだ。鏡による異界の門の生成は、まあ下等な魔界生物や低レベル悪魔が限度だろうな。

過去には、極大魔獣を呼び寄せたなんて、伝承があるが真偽は定かではない。

 

目の前に展開してる物は異界の門ではなく、唯の空間の歪だ。悪魔だけでなく、インプなどの小悪魔や魔界生物も呼び寄せる事はできない。ただ……この陰質な霊気だけが漏れ出ている。

 

魔法陣をかき消す事は、困難そうだ。俺は先ほどから、霊視で魔法陣の作りを調査しているが、魔法陣は鏡の裏に直接刻印されてる上に、トラップが仕掛けられてる。

……俺は、去年のクリスマスイブの事件を思い出す。あれは触れたものの霊気を使って起動させる魔獣を召喚する魔法陣群だった。あれと同質の臭いがする。

 

「魔法陣が消せればいいんだが、周りに別の術式が刻まれてる。巧妙に隠されたトラップだ。魔法陣が起動し続けている状態では、無理矢理凍結させることもできないし……横島師匠か美神さんに来てもらった方がいいようだな」

かなり面倒な事になってるぞ。術式が入り組んでるしな。鏡を破壊すれば止まるかもしれんが、空間の歪を生成していると言う事は、この魔法陣で空間制御をしてるという事だ。変に破壊すると暴走してとんでもない事になる可能性もある。下手するとこの辺一帯の空間毎吹っ飛ぶなんてこともあり得る。

乱暴な方法だと、離れた場所からこの鏡を破壊して、空間毎吹っ飛ばすってこともできるが……そんな事をすれば、間違いなくこのトレーニングルームやこの校舎棟は目茶苦茶になって、依頼料から高額な賠償金がかなり引かれるだろう。

 

「この魔法陣を消せばいいの?」

タマモは軽い感じで聞いてくる。

 

「ああ、そうだ。トラップの術式は解除できるかもしれないが、俺では空間の歪みを生成してる魔法陣を止めることが厳しい。変に触ると暴走するかもしれないしな」

やはり、横島師匠か、美神さんを呼んだ方がいいな。それとも、悪霊だけ倒して、この件は後で調査してもらうかだな。

 

「ふーん。じゃあ、はい」

タマモはそう言って、指先に灯した青い炎を揺らめかし……魔法陣が浮かび上がった鏡に向かって放つ。

 

「お、おい!?」

 

すると魔法陣にタマモの青い炎が灯り、燃えるように魔法陣が消えていく。

それと同時に魔法陣によって生成されていた空間の歪みも消えた。

 

「あれ?……タマモさん?何をおやりになったんでしょうか?」

 

「なんか面倒臭そうだから、魔法陣だけを燃やしたのよ」

 

「………そ、そうなんですか」

……まじですか。何それ、魔法陣を燃やすって何?そんなの聞いたことが無いんだけど。

流石は元大妖怪九尾の狐、玉藻前。俺の常識が通じない。

 

「八幡、終わりでいいわよね。私、早く帰って本の続きを読みたいのよね」

 

「あ、ああ。シロの方もどうやら終わったようだしな。とりあえずシロの所に行くか」

うーん。タマモの奴。またパワーアップしてるな。いや、元に戻って行くと言った方が良いか、どんどんありし頃の玉藻前に戻って行ってるようだ。

 

シロにしては珍しく悪霊を倒すのにちょっと手こずったようだ。設備破損が200万位出てたか。まあ、それで収まったのなら十分すぎるんだけどな。

シロも無傷だし。依頼料から差し引いてもまったく黒字だし、美神さんに何か言われるレベルではなかった。

 

空間の歪みがあったトレーニングルームを出入り禁止処置をし、美神さんに連絡する。

明日改めて、現場検証するとの事だ。

俺の予想では、オカルトGメンも来るだろう。

……今回の悪霊にあの空間の歪み。空間の歪みは明らかに何者かが、仕掛けたものだ。複雑な魔法陣群……そして、人を嘲哂うように施されたトラップ魔法陣。少なくとも高度な魔法知識が無くて位はあれは構築できない。空間の歪み自体は大したことはないが、もしあれが異界の門であったならばとんでもない事になっていた。状態にもよるが、低級な悪魔や魔界生物がわんさか押し寄せていただろう。

俺はどうしても思い起こしてしまう。去年から多発してる愉快犯的な人為霊災を……やり口がどうも似た感じがする。

あの犯人は未だ捕まってないどころか、しっぽも掴めていないらしい。

 

俺は現場に必要な処置を施した後、事務所に戻った。

 

 

 

 

 

「ただいま、戻りました」

「戻ったでござるよ!」

俺とシロは四階の事務所に、タマモは直ぐに自室に戻っていた。

 

「……なんだ、比企谷君とシロか」

美神さんはまだ事務所を落ち着きなくうろうろと歩いていた。

 

「八幡、シロお疲れだ。結構大変だったみたいだな」

横島師匠は俺とシロを労ってくれるが、やっぱりどこか変だ。

新聞紙をスナック菓子を食べるかのように、むしゃむしゃと食べていた。

 

「先生!新聞紙は食べるものではござらんですよ!それよりも!ごはんがまだでござるか!?」

シロは横島師匠にまとわりつく。

 

「依頼自体はそうでもなかったんですが……電話で美神さんに話した通り、例の霊災の犯人と手口が似ていたんで………って、もしかしてキヌさんまだ帰って来て無いんですか?」

俺は、先ほどの事件について話そうと思ったのだが、二人の落ち着かない様子に、キヌさんが居ないのに気が付く。

 

「そ、そうなのよ!電話にも出ないし、あの子どこで何をやってるのか……」

「そ、そうなんだーーー!!おキヌちゃんに何かあったんじゃ!!?」

美神さんも横島師匠も心配そうだ。

22時を回ったところだ。流石に心配になって来る時間帯だ。

 

 

ん?この霊気はキヌさんか……俺はキヌさんが事務所に帰って来る気配を感じホッとする。

 

しばらくして、キヌさんが事務所に顔を出すのだが……

「ごめんなさい、遅くなって……その、ちょっと」

申し訳なさそうに、頭を下げる。

 

「キヌさん。こんばんは」

俺は普通に挨拶をするが……

 

「おキヌちゃん、無事でよかった!」

「何よあんた。ちょっと遅くなった程度で心配して……」

「えーー!?美神さんも滅茶心配してたじゃないっすか!!」

「そ、そんな!心配して何かないわよ!わたしは!!」

横島師匠と美神さんはこんな感じで、ホッとした空気感を出していた。

美神さんは相変わらずのツンデレだ。

 

「おキヌ殿!お腹がすいたでござる!!」

シロは空気を読まずにキヌさんに駆け寄る。

 

「ごめんね。シロちゃん。直ぐにごはんの用意するから……」

そう言ってキヌさんは、目のあたりを両手で抑えながら事務所を飛び出し、自室のある三階へと行く足音が響く。何か様子がおかしい。笑顔は笑顔だったけど……疲れ果ててるような?

 

その後をごはん目当てのシロが嬉しそうについて行ったのだが……

 

キヌさんが去った場所の床には……雫が二つ。

……あれ?キヌさん……さっきの部屋を出て行き側に確かに、目から涙を……どういう事だ?

 

俺がそう感じた瞬間。

この部屋全体に霊気の渦が起こり、爆発的に霊圧が上がった。

コオオオオオオオオオオオッ!!

 

俺は振り返ると

吹き荒れる嵐のようなどす黒い霊気の渦が起こり……

中心には

「……横島……わかってるわね」

「……当たり前ですよ美神さん」

今迄聞いたことが無いような、ドスの聞いた低い声の二人の声が聞こえてくる。

 

俺はその凄まじい霊圧と霊気の嵐に晒され、立っていられるのがやっとだった。

 

「おキヌちゃんを泣かせたのはどいつだーーーー!?純粋無垢なおキヌちゃんに、きっと野獣の皮を被ったチャラ男共が新入部員歓迎会だとか偽り、酒を飲まし、そして眠った所をホテルに連れ込み!!あんな事や!!こんな事をーーーーーーーっ!!許さ――――――ん!!東京湾に沈めてやるーーー!!」

 

「殺すだけでは足りないわ。ありとあらゆる苦痛を与え続け!精神を浸食し!懺悔と後悔の念を一秒たりとも忘れさせず!生まれて来た事を後悔させてやるわーーーーーっ!!」

 

二人の目は異様な光を帯び、全身どす黒い霊気の渦が二人を包み込み、地獄の底から吐き出したようなおどろおどろしい声が響気渡る。

今の二人の姿はまるで絵画等に描かれた魔神のようだ。

 

「ちょ、落ち着いてください二人とも!!」

ちょ、あの涙は多分二人が考えているようなものじゃ……

俺は慌てて、2人を止めようとするが……

 

「シニサラセ――――――!!」

「イキジゴクヲアジアワセテヤル!!」

 

もはや人間の言葉を発していなかった。

 

その怒りの権化と化した何かは……凄まじい勢いで四階の事務所の窓を突き破って行ってしまった。

 

…………………

………………

……………

 

「………………っ!!不味い!!怒りで完全に我を忘れてるぅぅ!!下手すると死人どころか!!街が一個吹き飛ぶぞ!!」

呆けてる場合じゃない!!やばいやばいやばい!!キヌさんの涙を見てキレた!!しかしあの涙は!?たぶん……

 

 

俺は慌ててキヌさんの部屋に行く。

「比企谷君。凄い霊圧が四階から、何があったんですか?」

キヌさんが丁度着替えて、部屋から出てきていた。

 

「いえ、それよりも、キヌさんさっき涙を……」

 

「え?目にゴミが入ってしまって、なかなか取れなくて、それで慌てて部屋に戻って洗ってたんです」

やっぱりか。キヌさんからは悲しみとか嘆きのような霊気は感じなかった。少々疲れは見えていたが……

 

「……その、今日、大学のサークルの歓迎会に行ったのでは?」

 

「説明を受けただけで、直ぐに出ました。新入生歓迎会に誘われたのですが、丁重にお断りしました」

 

「じゃあ、この時間まで何を?」

 

「帰る途中に大きな荷物を持ったおばあさんが困ってたので、荷物を持ってお家まで送ったんです。それで遅くなって」

そうか、それで疲れを……

 

「携帯に出なかったのは?」

 

「その、うっかり大学のロッカーに忘れてしまいまして、取に戻ったんですが、学校は既に閉まってまして、それで余計に遅くなって……そのごめんなさい。皆に心配かけて」

 

……という事は、キヌさんは酷い目にあった分でも何でもなくて……目にゴミが入っての涙と、人助けと、うっかりで遅くなったと言う事だよな。

 

「………キヌさんは、ごはん作って待っててください。美神さんと横島師匠がちょっと勘違いで出て行ってしまったんで、呼び戻してきますから」

 

「え?何かあったんですか?さっきの霊圧も凄かったですよ。美神さんと横島さんのですよね」

 

「いえいえいえ、何も無いです。ちょっとした手違いです。キヌさんは何も心配しなくて大丈夫です」

 

「そうですか?」

 

「因みにです。そのサークルの歓迎会ってどこでやる予定だったか聞いてますか?」

 

「確か、大学近くの魚が美味しい居酒屋さんとか、あとカラオケボックスとか言ってましたね」

 

「そうですか……では、ちょっと行ってきますね」

俺はそう言って、ゆっくり、キヌさんから離れ、階段に差し掛かると、慌てて降りて行き、事務所のチャリに乗る。

 

やばいやばいやばい!!完全に勘違いだーーーー!!ちょっとした手違いで人が死んじゃうし!!下手をすると街が吹っ飛ぶ!!

 

やっぱ美神さんも横島師匠も電話に出ない!!

スマホでサークルの歓迎会場所を検索しながら、身体能力強化で全力でチャリを漕ぎ、美神さんと横島師匠を追う。

 

 

魚が美味しい居酒屋には居なかった!!

カラオケボックスか!?大学周りには3軒……なんだ?

 

凄まじい霊圧を感じる!?間違いない美神さんと横島師匠だ!!

俺はすさまじい霊圧を感じる場所へと駆けつける。

 

雑居ビルに入ってるカラオケ店か!

 

俺は屋上から侵入し、霊圧の中心となってる部屋に駆け込む。

 

そこで見たものは……

 

 

 

 

「オ前ワ……、オキヌチャンヲ、邪ナ目デ見タナ!!」

「死罪!!死シテ償イナサイ!!」

 

「次ノオ前ハ……、オキヌチャンヲ上カラ見下ロシテ、胸ノ谷間ヲ覗キ込モウトシタナ!?」

「死刑!!刑ハ死アルノミ!!」

 

「次ノ天パノオ前ハ……、オキヌチャンノ手ヲ握ッタダト!!アンナコトヤコンナコトノ邪ナ妄想ヲ!?」

「討チ首獄門!!ソッ首撥ネテ晒シテヤルワ!!」

 

「次ノオ前……、何ーーー!?アワヨクバオきぬチャンヲホテルニーーー!?貴様ーーー!!」

「即極刑!!窯ユデノ刑!!」

 

10人程の男どもが天井からロープで逆さまに吊り下げられ、黒い霊気を纏い目を怪しく光らせた横島師匠に文珠で頭の中を覗かれ、キヌさんとの接点を次々と暴露し、同じく黒い霊気を纏い目を怪しく光らせた美神さんに罪を言い渡されていった。

なぜ片言?

 

そして、その様子を目の当たりにし端っこで震える女子大生6人

 

なにこれ?………何処のイカレタ国の裁判?

 

 

ま、まずい。このままだと色々とまずい!

GSが罪もない一般人に手を出すとか!!

しかも、超有名人だぞ!美神さんは!!幸いにも、今の美神さんの姿は悪魔にしか見えないから、その辺は大丈夫だと思うが!!

目撃者(女子大生6人)も居る!?

 

「貴様ーーー!!コイツラの仲間カーーーー!?」

「アンタモ蝋人形シテヤロウカ!?」

2人は俺の事に気が付いたようだが、怒りで俺の事が認識できていない?

 

 

考えろ八幡!!この2年間で培った経験を生かす時だ!!

ゴーストスイーパーとして!!美神令子除霊事務所の一員として!!横島忠夫の弟子として!!

 

アレをやるしかないか……

 

 

「あっ!!屋上で裸のおねーちゃんが!!!!」

俺はその場で思いっきり叫ぶ!!

 

すると……

「なにーーーーーー!!どこだーーーーーーー、おねぇーーーちゃーーーーーーん!!」

横島師匠はいきなり、いつものにやけ顔に戻り、びよーんとジャンプし、ものすごいスピードで屋上へと駆けて行った!

 

よし!!

次だ!!

 

「この!!偽乳がたれてるぞおばはん!!!!」

俺は悪魔の様相の美神さんにそう叫んで、全速力で屋上へと逃げる!!

 

「なーーーーーーーんですってーーーーーーーー!!この小僧っーーーーーーーー!!!!誰が偽乳で垂れてるとかーーーーー!!誰がおばさんだーーーーーーー!!」

般若のような物凄い形相の美神さんが俺を追って来る。

でも、いつもの感じの美神さんだ!!

 

よし!!

食いついた!!

俺は全身に冷や汗を吹き出しながら、必死に階段を駆け上る!!

 

 

まずは、二人を現場から離す必要があった。そうしないと何も始まらない。

この二人なら、こう言えば、必ずこうなると踏んでいた。

まあ、命がけだが……

 

 

俺は屋上への会談を登り切ったところで、屋上の鉄扉もろとも、後ろから屋上の外へと思いっきりぶっ飛ばされ、屋上壁に激突する。

「がはっ!?」

 

「何が垂れ乳の偽乳よ!!誰がおばさんですって!!!悪質なデマをーーーーー私はまだ23よ!!!!」

そして、吹き飛ばされてもんどりうってる俺の胸倉を掴みあげ、思いっきり揺する美神さん!!

 

「や、やめ、く、苦しい。お、落ち着いてください……」

 

「あれ?なんであんたが?ここはどこよ?」

美神さんは俺の胸倉を掴んだまま、周囲を見渡す。

どうやら正気に戻ってくれたようだ。

 

さらに……

「はちま―――――ん!!裸のねーーーちゃんなんて、どこにも居ないじゃねーーーーか!!嘘ついたなーーーーー!!」

美神さんに胸倉を掴まれたままの俺に涙をちょちょ切らせながら迫って来る横島師匠。

 

「し、師匠も落ち着いてください……」

 

「アレ?俺なんでこんなところに?八幡、美神さんに何やらかした?」

横島師匠も正気に戻ったようだ。

俺の様子に疑問顔をしていた。

 

 

俺は2人にキヌさんには何もなかった事と、ここに至るまでの話をする。

さらに事務所に電話にして、キヌさんに電話に出て貰う。

『美神さん、横島さん。ご飯が出来ましたよ。早く戻ってきてくださいね』

 

その明るい感じのキヌさんの声に、2人はホッとする。

 

「で、美神さんと師匠、どうします?……なんかパトカー来てますけど」

パトカーのサイレンがこの雑居ビルに近づいてくるのを聞きながら、二人に問う。

 

「あれは私と横島君じゃないわ。どこぞの嫉妬に狂った悪霊がやらかした事よ。いい、わかった!?そういう事よ!!」

美神さんが俺にそう言い含める。

……やっぱりか、全力で握りつぶすつもりだな。まあ、いつもの事なんだけど。

 

「そ、そう。それをたまたま通りかかった八幡が退治した。そ、それでいきましょう美神さん!」

横島師匠もそれに乗っかる。

 

「知らないわよ。私じゃないし。まあ、あんたが倒した事にしておいて」

美神さんはとぼけながらも、師匠の意見に同意する。

 

……まあ、今回は、キヌさんの事を大切に思ってる二人に免じて、そういう事にするか。

しかし、あのまま行ったら、あのチャラ男大学生達はどうなったんだろうか?

 

ふう、しかしながら、キヌさんの事になるとこの二人、完全にたがが外れるな。

俺達3人はこそッとここから離れ、事務所に戻った。

 

 

翌日、案の定俺は、昨日のカラオケ店での一件で、オカルトGメンというか美智恵さんに事情聴取される。

一応、ニセの報告書はGS協会とオカGに上げておいたんだけどな。Eクラスの悪霊を退治したって……

美智恵さんは疑惑の目を向けながらも、俺の報告書通りに処理をしてくれるようだ。

 

そして一言。

「君には苦労を掛けさせるわね」

……多分。何となくわかってるんだろうな。

 

 

この後、俺は昨日の某私立大学での悪霊退治の一件を報告するのだが……

美智恵さんの顔つきが一変した。

 

 

 




また、出てきました。一連の霊災の犯人らしき奴の痕跡が……

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