やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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(97)現代に生きる魔女

昨日の某私立大学での悪霊退治で、異界の歪みを生成する魔法陣を見つけた事を、オカルトGメン東アジア統括管理官の美神美智恵さんに話したら、何故かオカGに借り出され、その件の調査をオカG日本支部の部長の西条さんと一緒にすることに……。

 

美智恵さんから指示で、まずは西条さんと『レストラン魔鈴』に行く事になった。

オカルト事案で、しかも異界の歪みみたいな特殊なケースの調査に、何故レストランに行くかって?

別に西条さんと打ち合わせをするためじゃない。そんなんで美智恵さんがわざわざ指定してこない。

効率重視の美智恵さんだったら、むしろ現場に行かされるだろう。

 

『レストラン魔鈴』は俺も西条さんに数度、連れて行ってもらった事がある。

こじんまりした店構えだが、中世ヨーロッパの民家をイメージしたようなオシャレな雰囲気のレストラン。

そこで出される料理は美味しいのは勿論、ハーブなどの薬草をふんだんに使い、滋養健康促進、美容、ダイエットにも効果あると、女性が足繁く通う超人気店。予約で一杯でなかなか入る事も難しいらしい。

 

ここまでだったら、どこかにありそうな巷で流行りの健康志向派のオシャレなレストランだ。

あの美智恵さんがわざわざこんな所に行くようになんてことは言わないだろう。

 

このレストランには裏の顔がある。

ここはただのレストランではない、魔女が経営するレストランなのだ。

オーナー兼料理長の魔鈴めぐみさんは現代に生きる魔女と言われてる人だ。

魔女と言ってもあれだぞ。

一般的なイメージの紫のローブとつばの長い帽子をかぶった陰険そうなバーさんじゃないぞ。

若くて美人だ。温厚そうな顔立ちの優し気なの美人。服装も魔女っぽさを損なわない程度にオシャレな服装を纏っているし、陰険さとは対極だな。まさしく現代に生きる魔女という感じだ。

まあ、若いと言っても西条さんのイギリス留学時代の後輩らしいから……年は平塚先生と同じぐらいかちょい下ぐらいか……それは置いておこう。

 

魔女と名乗って言ても、魔鈴さん自身魔女の家系でも、魔女の弟子でもないらしい。

そもそも、現代には魔女は存在しない。いや、世界のどこかで身を隠し、ひっそりと生き残っているかもしれないが……魔女は根絶したとされている。

中世から近代にかけ、西洋では、魔女は弾圧され徹底的に排除された歴史がある。いわゆる魔女狩りだ。

その頃に、魔女はすべて謂われも無い罪で処刑されたとされている。

その時に一般に世に広められた魔女のイメージがあの陰険そうな悪そうなバーさんの姿だ。

悪いイメージでしかない。まあ、排除したい側のイメージ戦略の一環だろう。魔女は悪い奴だから弾圧して、排除していいという意識を刷り込むために……

 

そもそも魔女とは何か、西洋における魔女とは……

魔女という呼び方自体悪いイメージが付きまとう。

本来魔女:ウイッチとは自然信仰、シャーマニズムを体現する人々を差したものだった。日本では魔女と翻訳されるが、男女ともにウイッチと言われる。

日本で言うと、巫女や祈祷師などがそれにあたる。

ウイッチは一般的に自然科学に優れ、特にハーブなどを使った薬学の造詣が深い。自然と共に生きると言う事で、しばしば深い森の中で集落を形成していた。まあ、街や村に住んでいた人も多かったらしいが、そう言う人たちは、町や村の薬剤師や医者などの役割を果たしていたとか……また豊穣儀礼や雨乞い祈祷なども、庶民にとって欠かせない存在であったらしい。

その中でも優れたウイッチは魔法を使い。人々のためにその力を振るう。

ウイッチが使う魔法は、生活魔法が主であり、有名なのは、箒で飛ぶあれだ。大きな壺で魔法を使い薬を生成したり、動物と会話ができ、時にはカラスやネコなどの動物を使役する。

 

そんな魔女達が時の権力者達は邪魔だった。

支配したい側からすると、下々からは慕われ、敬わられる存在であり、さらに魔法や薬学など自分たちには無い高度な技術を持ち、自分たちが信仰する神を信じず、自然信仰なる得体の知れない宗教観を持っていたからだ。

そして、遂に弾圧が始まり、根絶するに至ったという歴史がある。

 

魔鈴さんは、文献や研究の末、魔女が使っていたとされる魔術や薬学を復活させる事に成功させたのだ。そして年若くして現代の魔女とまで呼ばれるようになった。

 

因みにだ。このレストランには裏メニューがある。

魔法を使った料理だ。ハーブや薬草を使った料理にさらに絶大な効果をもたらす料理だ。

元々このレストラン。魔法を使った数々の効能がある料理を提供していたのだが、3年前の規制で魔法を使用した料理は、ヒーリング等の霊能治療の範疇に組み込まれる事になり、一般の食事として出すことが出来なくなった。

まあ、正式に霊能治療の一環として、魔法料理は提供できる。

その分金額ははるが裏メニューの方も結構人気だとか、レストランの奥の別室で提供しているのだとか。

魔鈴さんもGS協会の会員で、魔法料理から一歩踏み込んで、霊障の解消など、現場に行く事もあるそうだ。

 

 

 

俺と西条さんはそんな『レストラン魔鈴』に入るが、店はやはり料理を楽しみに来たお客で一杯だ。

使い魔なのだろうか、箒が忙しそうに店中を駆け回り、客席に料理を運んでいる。

 

「あっ、先輩(西条)!いらっしゃい。あら、比企谷君も」

調理場からニコっとした笑顔の魔鈴さんが顔をだす。

 

「やあ、魔鈴君。相変わらず忙しそうだね。もうちょっと後で来たほうがいいかな?」

「こんにちは、魔鈴さん」

 

「先輩と比企谷君ならいつでも歓迎ですよ。先輩、自宅の方で待っててください」

魔鈴さんが店の奥のスタッフオンリーと表示された扉を指さす。

 

「すまないね。魔鈴くん」

西条さんはそう言って、客席通路を通り、奥の扉を開ける。

俺はその後に続くが、客席奥側には、魔法料理を提供する別室がある。

そこには見た顔があった。

 

「これで私も魅力ある女として横島さんを誘惑出来る!!ふははははっ!!ジャンジャン料理を持ってきてくれ!!」

……平塚先生……多分あれだ。男を引き付けるとか、魅力がアップするとか、そう言う魔法がかけられた料理を頼んでいるんだろう……。魔法料理を食べたからと言っても……元々のマイナスが大きいから。プラスマイナスで言うと……まだ、マイナスなんだろうな。

その努力を、もっと別の方へ持って言った方が良いんじゃないでしょうか?その荒れた生活を正すとか、まともな料理を作れるように料理教室に通うとか、女らしい振舞を身に着けるとか……

 

俺は何故か涙で目が霞む。

そっとしておこう。

 

 

スタッフオンリーと書かれた扉を開け中に入ると、狭い通路の奥にもう一枚扉がある。

その扉のノブに西条さんが手を掛けると……俺の霊視能力が違和感を感じる。場の霊的雰囲気が一気に変わった。

 

そして……、その扉の中に入ると魔鈴さんの家のリビングへとつながる裏口へと……

魔鈴さんの家の中のインテリアは独特だった。

店のオシャレな雰囲気とは全く別物だ。髑髏の置物や、生きてる絵画とか、生きてる動物のはく製とか、少々おどろおどろしい。……あの魔鈴さんの笑顔とは一致しない。

レストランは数度も西条さんと来た事があるが、自宅は初めてだ。

 

「この趣味の悪さは相変わらずだな。レストランの方はオシャレにしてる所をみると、自分の趣味は世間では特殊だと言う事を認識はしてるようだけどね」

西条さんはそう言って、ソファーに腰を下ろし、俺を隣に座るように促す。

……魔鈴さんにこんな趣味があったのか……人は見かけによらないとはこの事だな。

 

「……そうですね西条さん……しかし、ここは異界ですか?」

俺は窓の外を見る。明らかに日本の風景とは異なり、深い森の中にこの建物があるようだ。

あの扉がレストランとこの異界へ繋がる門なのだろう。あの違和感はそういう事だったか。

 

「やはり君にはわかるんだね。その鋭い感覚とずば抜けた霊視能力には驚かされるよ。そう、ここは限定された異界だ。魔鈴くんが過去の偉大なる魔女が構築した平行世界である異界チャンネルを見つけ、レストランとこの異界を繋げたんだよ。誰も読み解けなかったその魔女が残した文献と彼女の魔女としての勘と努力でね。この限定された異界とをつなぐ魔法を復活させたんだ。彼女は現代に生きる魔女として最高峰なのは間違いない」

なるほど、あの優し気な笑顔の魔鈴さんからは想像できないが、西条さんも認めてるぐらいだ。凄まじい使い手なのだろう。確かに魔鈴さんも並外れた霊気量を持っている。

それとは別に魔鈴さんの霊気は他の霊能力者とは雰囲気が異なる。少々独特だ。それは魔女に特化したと言う事なのだろうか。

 

「だから美智恵さんは魔鈴さんを訪ねろと……異界の歪み…いえ、異界の門について何か心当たりがあるかもしれないという事ですね」

 

「そういう事だ。……ふぅ、君を今すぐ部下に欲しいぐらいだよ。霊能力もそうだが、それ以上にその理解力と認識力、そして知識欲。何よりも仕事に紳士的であり、霊能力者にありがちな傲りもなく、一般的な感覚と常識を持ち合わせている。しかも、その若さで何事にも動じない理性を持っている。………能力至上主義のこの業界において、それは何よりも得難い。先生(美智恵)も言っていたが、本当にオカGに来る気はないかい?」

 

「その、西条さんに褒めて貰うのは嬉しいんですが、それは買いかぶり過ぎですよ。俺なんか大したことはありませんよ」

 

「謙虚なのは美徳と言っていい。だが過ぎると嫌味になる。君は自分をもっと知った方が良いと思うがね」

 

「師匠を見ていたらどうしてもですね……」

 

「横島君は……規格外過ぎる。彼を基準に考えるのはやめた方が良い。それだけではないか……令子ちゃんの所は皆一芸にとんだ規格外の集団みたいな所だ……中からでは認識は難しいが、君はそんな中でもバランス感覚を保ってられるのが何よりも凄い事なんだよ」

 

「そんなもんですか?」

 

「そうだね。君はどんな環境においても自分を見失わない。……ちょっと語るがね。過ぎたる力は身を亡ぼす。その力に魅入られ、傲り周りが見えなくなる。僕はそんな人間を沢山見て来た。人による霊能力犯罪の増加はそういった要因が大いにある。人よりも力を持ったからといって、所詮我々は人間だ。その範疇を超えてはならない」

西条さんが俺に語ってくれる話はいつも改めて自分の身の置き所を考えさせてくれる。

俺の周りには、西条さんのような大人が居るから、俺はこの力に溺れる事も無く、こうやって普通に高校に通い過ごすことが出来ている。

俺は恵まれた環境に身を置いているのかもしれない。

もし、俺が霊障を発生させたあの時、美神さんや横島師匠に救ってもらえなかったら、どうなっていた事か……

 

 

「お待たせしてごめんなさい。先輩」

魔鈴さんはクロネコを肩に乗せ、店から自宅に戻って来た。

 

「いやいい。君が忙しいのに、こっちが勝手に押し掛けたんだ」

 

「比企谷君はゾンビ化は解消されてないみたいね。私の料理で少しはマシになると思うのだけど」

魔鈴さんはそう言って、美味しそうな料理をテーブルに出してくれる。

 

「……あの、何度も言いますが、俺のこの目はゾンビでもなんでもないんで、生まれつきなんで」

魔鈴さんは意外と抜けてる所があると言うか……天然なところがあるみたいなのだ。

 

「そう?」

可愛く首を傾げられても困るんですが……

 

「魔鈴くんすまないね。早速本題に入らせてもらいたい」

西条さんは苦笑気味に話を進める。

 

「異界の門についてですね」

魔鈴さんは俺達の正面に座り、こうして話し合いが始まった。

 

この異界は、正確には異界の門のような異世界へをつなぐ転送装置ではないようなのだ。

次元の隙間に土地を形成したものだそうだ。その幾つかある土地とだけつなぐことが出来るだけ、元々過去の偉大な魔女が次元に穴を掘って作った土地を利用してるに過ぎないらしい。

だが、異界の門についての知識と検証はずっと行っていたと。

……魔鈴さんはどうやら異界の門を構築できる技術を持っているらしいのだ。小さな門程度、低級な魔界生物や低級悪魔を多量に転送できる程度のもなのだそうだ。

ただ、それは検閲され、ヨーロッパで研究してる際に大学や教会などから禁忌とされ、使用とそれ以上の研究は禁止されてるとか……さらに、神か悪魔かわからないが、そう言う存在が目の前に現れ、きつく忠告を受けたらしい。

 

魔鈴さんは魔女の魔法を復活させるために、古代の魔術師の魔法についてもかなり勉強し、実証実験を重ねたらしいのだ。特に魔法陣についてはかなりの知識を持っている。

 

俺が見つけた異界の歪みを起こした魔法陣について話すと、それはまず間違いなく異界の門を形成する魔法陣だろうと言う事だった。

条件付きの魔法陣……月の力を鏡に取り込み。それを利用して異界の門を開くものらしい。

その月の力の満ち引きで、異界の門の大きさが変わるとの事だ。

 

そこまでの話は俺が読んだ文献にも載っていなかった。

流石としか言いようがない。

 

しかし、魔鈴さん以外に何者がそんな物を構築したんだ。……一連の愉快犯はどこでそんな知識を得た?不完全ではあるが、異界の歪みは確実に出来ていた。

 

話は一段落ついたところで、魔鈴さんはお店でランチで提供してるハーブ料理をご馳走してくれ、店を後にする。

 

西条さんと魔鈴さんは仲の良い先輩後輩って感じだ。男女の関係という感じはしない。

そういえば、美神さんは魔鈴さんを物凄く毛嫌いしていたな。何故だろうか?

横島師匠も美人の魔鈴さんには手を出さないどころか、店にもあまり近づこうとしない。……これも相当おかしな話だ。魔鈴さんって何が有るんだろうか?

まあ、ちょっと天然というか、思い込みが大きいところがあるが、いい人なんだけどな。美人だし。あの悪趣味な自宅はちょっと引いたが……

キヌさんとはタマモ達と食べに行ったことはあるし、キヌさんとは仲が良さげなんだよな。

 

 

俺はしばらくオカGの仕事をメインに行う事になった。




魔鈴さんの設定は少しいじらせてもらってますので、悪しからず。

次回は……久々の除霊回
ほぼ出来上がってる状態ですが、明日に更新します。
実はこっちの方が先にざっと書いてたんですよね。

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