やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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(98)なぜこんな事に?

………俺は何をしてるんだ?

仕事で除霊に来たんだよな……

 

『聞いてくれよ。なんで俺がさ、リア充の彼奴を持ち上げないといけないんだよ!!しかもっ、俺が好きになった子がさ!!主人公が好きでさ!!しかもその恋愛相談を俺にするんだぜ!!あまりにも酷くない?』

『くそっーーー、俺だってモテたいのに!!これが主人公の三枚目友人枠の宿命か!?』

『くっ!!ラブコメマンガの友人枠は!!振られフラグか!!引き立て役フラグか!?死亡フラグしかないのか!?』

『俺だって!!勉強が出来て、スポーツ万能の眼鏡イケメンなんだぞ!!なぜ、主人公を引き立て役をやらなきゃならん!!俺の方が彼奴より劣ってる所はひとつも無いのにだ!普通俺の方がモテるはずだろ!?おかしいだろ!?』

 

俺は2次元の幽霊……原稿やグッズのイラストやアニメのセル画に描かれた若い男どもに囲まれ延々と愚痴を聞かされているのだ。一応悪霊の類なのだが……

 

そう、ここは某ラブコメマンガの巨匠の20周年展示会会場。要するにマンガやアニメの原画展だ。

俺もこの作者の作品は何作か読んだ事がある。

俺を囲んで愚痴を言ってるこいつらは、そこで描かれたマンガやアニメのキャラクター達、しかも全員脇役キャラ、主人公の引き立て役だった奴らだ。

どうやら、彼らの幸薄い扱いと無念に、読者の男どもの主人公への嫉妬心が集まり、しかも例の悪霊に瘴気を送る異界の歪みの影響で……こんな悪霊に変貌してしまったようだ。

 

即退治したいのだが……原画やセル画など一品物らしくて、それらを損傷させずに退治しなくちゃならない。

吸引札で原画から引っ張り出して、祓えばいいようなものだが、この手の悪霊はキャラクターから生まれたものだから、無理矢理それをやってしまうと原画に描かれたキャライラスト絵も消えてしまう恐れがあるのだ。

 

くそっ、完全に人選ミスだろ。

この手の悪霊はキヌさんだったら一発で皆幸せそうな顔をさせて、あの世に送る事が出来るのにだ。

 

俺は取り合えず、相手の不満を聞いて、穏便に自らあの世に逝ってもらおうと試みたのだが……

出るわ出るわ……主人公の引き立て役になった幸薄い脇役だらけだ。

おい某作者、いくら主人公を引き立てないといけないからって、こんなにも幸薄いキャラを量産するなよな!

 

「……お前らの言い分は分かった。確かにそうだな。しかし、それは宿命だと思って諦めろ。そういう設定なんだよ!」

 

『ああああ!!言ってはいけない言葉をーーーーーー!!』

『設定という言葉は聞きたくなーーーい!!」

『タブーだぞ!!それは禁句だ!!』

『一層、俺があいつを殺して、俺が主人公になるーーーーー!!』

『くそっ!!わかっていても!!それを言うんじゃね―――――!!』

二次元の悪霊共は設定という言葉に過敏に反応し、全員半狂乱になり叫び出す。

設定とは奴らにとって、作者が決めた予定運命、絶対に逆らえないシナリオ。

いくら優れていようが、かっこよかろうが所詮主人公の引き立て役という枠からは逃れられないのだ。

俺は、穏便に説得してあの世に送るキヌさんとは、まったく逆の方法でこいつらをあの世に送ろうとした。

要するにだ。絶望よりも何よりも、心を完膚なきまでに叩き折る作戦に出たのだ。勿論美神令子流だ。

この世に残っても、無意味だと言わんばかりにだ。

 

「それにだ。お前ら、主人公ばっかり恨んでるようだが、ヒロインも尻軽過ぎないか?俺もお前らが出てる作品を読んだことがあるが、むしろあのビッチ共とくっ付いた主人公は将来間違いなく不幸になるぞ。10年後20年後の将来を考えたらあんなヒロイン共よりも、地味な学級委員長とか、三十路の女教師とかの方が良いんじゃないか?」

 

しかし、悪霊共は立ち直り、俺の事を哀愁の目で見てくる。

 

『そ、そうか。お前もきっと、俺達と同じ立ち位置……いや、もっとひどい役割を強いられてるんだろうな。そのゾンビみたいな目は、ヒロインをストーカーするいじめられっ子とかボッチ役とかで』

『そうそう、ヒロインに淡い恋心を抱いて、その子を見ていたのだけのゾンビ君は、ヒロインにストーカー呼わばりされて』

『そんで、主人公が颯爽と現れて、殴られる役だろうな』

『主人公はそれでヒロインと結ばれる。……一番嫌な役回りだな。友人枠以下だ。……俺、こいつの役回りじゃないだけましか』

『俺……ゾンビ君より、まだましだった』

『うんうん。強く生きろよ』

 

なんか同情されてるんだが!!……こいつら、好き勝手言いやがって!

確かに元ボッチだし、学校一の嫌われものだしな、腐った目とかゾンビやなんやと言われる……あれ?全部あってる?

 

 

そこで俺のスマホにメールが来る。

立て続けに3件。

 

……由比ヶ浜と雪ノ下と陽乃さんか……

 

由比ヶ浜は……写メ付きだ。

台所でマリアさんと一緒にお菓子を焼いてる姿だ。

【♡クッキー作成now♡あした放課後食べてね♡】

 

雪ノ下も写メ付きだ。

目が濁ってるネコを抱きしめる笑顔の雪ノ下。

【比企谷君に似てるネコを見つけたわ。目元なんて貴方にそっくり。また明日】

 

陽乃さんはと……ショート動画なんて送ってきた。

『5月末には千葉に戻るね。待っててねはーちまん、チュッ♡』

パジャマで投げキスかよ……

 

何故か二次元の悪霊共は俺のスマホを覗き見ていた。

『ぎゃーーーーーーーーーーーーース!!』

『こ、こいつーーーーー!!主人公だーーーーーーーーーーーーーー!?』

『こんなゾンビみたいな奴がーーーーーあああああーーーーーーーー!!』

『超美少女・美女を同時に3人って!!超絶主人公だ!!!!!ぐはーーーーっ!??』

『か、神(設定)は死んだ!!!!!!』

『こんな奴がなぜだーーーーー!!俺はもう、生きていけない!!!!!ぐおはーーー!!』

 

何故か全員。頭を抱えて、のたうち回り、発狂し、絶叫し、涙を流し……悪霊共は次々とあの世に召されて行く……

 

俺を囲み先ほどまで騒いでいた原画やらイラストの展示物は、生気が亡くなったかのように床に落ちる。

 

静寂と共に一人取り残される俺。

 

 

……………おい、なんで俺に彼女がいたらそうなるんだ?まあ、彼女じゃないが。

 

 

 

俺が行く除霊案件って、こんなの多くないか?

気のせいか?

また、報告書に困るんだが……

どう書けばいいんだよ?今回も何もしてないんだが……

二次元の悪霊が俺のスマホに届いた嬉し恥かしいメールを見て、勝手にあの世に召されましたとでも書けと?

 

脱力感が半端ない。

 

……一応……依頼は終了だよな。

俺は静けさを取り戻した夜の展示場を重い足取りで出て行き、鍵を閉め後にする。

 

 

 

 

 

 

その頃。とあるマンションの一室では……

「ふはははははっ!完成したぞい!これであ奴も!!くふふふっふははははははっ!!」

世紀のマッドサイエンティストが怪しげな陶器の瓶を片手に、自己の研究結果に満足したのか、高笑いを響かせていたそうな。

 

 

 

 

 

4月も末。

某展示会会場の悪霊退治の翌日。

放課後の奉仕部部室では……

「ヒッキー!クッキー結構うまく焼けたんだ!」

 

「おお、見た目まともだ」

 

「そうね。普通に出来てそうね」

雪ノ下はそう言って、紅茶の用意をする。

 

「ふふんだ。見た目だけじゃないし!結構いけるよ!ヒッキー、ゆきのんも食べてみて!」

由比ヶ浜は嬉しそうにクッキーを紙皿に並べ、机の上に置く。

 

 

「こんちはーーーです!」

そこに制服姿の小町が元気よく現れる。

 

「小町ちゃんやっはろー!」

「小町さんこんにちは」

「来たか小町」

 

「なんか美味しそうな匂いがしますねーー」

小町は早速クッキーの存在に気が付く。

 

「小町ちゃん食べる?私が焼いて来たんだ!」

「結衣さん。お菓子作れるんですね!意外でした!」

「えへへ、それほどでも」

由比ヶ浜は皿に盛りつけしたばかりのクッキーを小町に差し出し、小町は1個受け取り、口にする。

由比ヶ浜、褒められてないぞ。それに小町ちゃんさり気なく酷くない?

 

「どう?小町ちゃん」

由比ヶ浜は返事に期待しながら聞く。

 

しかし、小町からの返事が無い。

ぼーっとした感じで俺を見つめてくる。

 

「……小町?やはり、超絶不味かったのか?」

「えーー?そんなはずないよ。ちゃんと味見したもん」

おお、味見を覚えたか由比ヶ浜。

 

そんな時だ。また来客だ。

「諸君。部活動は順調かね」

顧問の平塚先生だ。

 

「先生、ノックを」

雪ノ下が先生にいつものように注意をする。

 

「まあ、いいではないか。うん?クッキーか。どれ私も頂こうか。酒の肴に甘いものもいける口だぞ」

そう言って、ぼーっとしてる小町の横まで歩み。クッキーを2つ口にする平塚先生。

しかし、口に含んでもう1枚手にしようと手を伸ばしたところで、ピタっと止まり、小町同様ボーっとした表情になり、俺を見つめてくる。

 

さらに……

「結衣。ちょっと相談があんだけど」

三浦がやって来た。

この奉仕部に来る頻度が増えている。

由比ヶ浜とクラスが別になった影響だろう。

 

「あっ、優美子」

 

「ん?あん?先生とこの子何やってるし?クッキーじゃん。一枚頂き……」

そう言って三浦はぼーっとしてる先生と小町をしり目にクッキーに手を伸ばし口にすると……案の定、他の2人と同じく、ぼーっとして俺を見つめてくる。

 

「おい小町大丈夫か?先生も?」

「優美子どうしたの?」

俺と由比ヶ浜は3人に声を掛けるも返事が無く、ぼーっと俺を見つめてくるだけだ。

 

「……由比ヶ浜、クッキーに毒でも入れたのか?」

「えええ?私ちゃんと味見したし、ママもお爺ちゃんも食べてたし!」

「由比ヶ浜さんのクッキーを口にしてから様子がおかしいわ。でも毒では無さそうね」

俺も由比ヶ浜も雪ノ下もこの状況に訝し気に思う。

 

「……呪いとかではないな」

俺は一応霊視して、3人を確認したが、幽霊に取りつかれたとか、呪いに掛かったとかではない。体もいたって健康体だ。毒でもない。

 

「どどどどどどどど、どうしよう!!おお兄ちゃん!?な、なのに?」

「だ、ダメだ!!私には横島さんという愛を誓った人が居るのに!?なぜだ!?」

「ヒキオーー!!こっち見るなし!!あーしは隼人一筋なななな……」

何故か、三人とも顔を真っ赤にして、訳が分からない事を言ってくる。

 

「……ん?どうしたんだ小町、急に風邪か?」

俺は小町のおでこに手をやり、熱を測る。

 

「あわわわわ、ももう、我慢できない!お兄ちゃんえい!!」

小町は俺に思いっきり抱き着いてきた。

 

「おい、小町どうした?」

 

「くっ、なぜだ!!私は浮気者なのか!?それともこれが真実の愛!?こうせずにはいられない!!」

大声でこんな事を言いながら、背中から平塚先生が抱き着いてきた!!

 

「ええっ?」

ちょっ先生!?柔らかい二つのプリンいや、メロンが背中に押し当たってるんでやめてもらえないでしょうか!?

 

「なんでヒキオなんかに!!」

三浦まで俺の腕に抱き着いてきた。

 

「はぁ!?」

なんか良い匂いするし、その…結構なものが腕に挟まってるんですが!?意外とボリュームが!?

 

 

「ヒッキーーー!?なにこれ!!いつの間に優美子と先生を!?」

由比ヶ浜はプリプリしながら、怒り出す。

 

「……流石に実の妹はないわね比企谷君。……いいわ。私が貴方を日の光が当たる場所に戻してあげるわ」

雪ノ下さん?何をおっしゃってるんですか?いや、これは純粋に家族愛とかだぞ。きっと。

 

「いや、俺も何が何だか!?ちょ、小町離してくれ!先生も三浦も!」

 

「嫌!!お兄ちゃんは私の物なんだから!!誰にも渡さない!!」

ええーー!?小町ちゃん!?嬉しいけどなにそれ!?どういうこと!?

 

「比企谷!!私は真実の愛に目覚めた!!さあ、今から挙式だ!!」

ちょちょ、そんなに強く抱きしめないでくださいよ!!って、挙式ってなんだよ。真実の愛ってなんだ!?あんたの場合、愛とか以前の問題だぞ!!先生!!

 

「ヒキオ……その、迷惑かな?あーしみたいな子。頑張るから……ヒキオのその彼女になってもいーい?」

俺に潤んだ目で上目遣いとかおかしくないっすかね!!葉山はどこ行った!?

なに可愛らしくなってんだ?番長然とした三浦はどこ行った?乙女あーしさんになってるし!?ちょっと新鮮で可愛いい!?……言ってる場合じゃない!!

 

「ちょ、ちょ……みんな急にどうしたんだ!?ちょ、雪ノ下、由比ヶ浜もどうにかしてくれ!?」

 

「優美子!!ヒッキーから離れて!!先生も!!ゆきのんも手伝って!!」

由比ヶ浜は必死に、俺から三浦と先生を引きはがそうとする。

 

「……この3人は由比ヶ浜さんのクッキーを食べてからこんな状態に。クッキーに何か入っていたと考えるのが妥当かしら?……惚れ薬…オカルトアイテムで発売禁止になった惚れ薬についての記述を見たことがあるわ。その中でも強力な物はオカルトGメンの検挙対象に……」

雪ノ下は冷静に何かを考えこんでいた。

確かにあったな。しかし、霊視では術なんてものは……。くそっ、術式が仕組まれて無い物や霊気を宿していない純粋に薬としての惚れ薬であれば、霊視に引っかからないか!!

この状況は確かにそれっぽいぞ!

そんな物どうして由比ヶ浜のクッキーに!?

 

 




新たなコンプレックス悪霊誕生ですw
前後編の今回は前です。

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