やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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前回の続きです。


(99)惚れ薬とかテンプレ展開は嫌いだ。

 

 

俺は今とても困っている。

 

俺の正面から小町が抱き着き、俺の顔を潤んだ目で見上げてくる。

……いや、嬉しいけどもだ。ここは学校でしかも余所様も見てる所ではやめようね。

しかもがっしり掴んで、誰にも渡さないと宣言される。

なにこれ?行き過ぎた兄妹愛は流石のお兄ちゃんも看過できませんよ。

 

更にだ。俺の右手の平を両手で握って、潤んだ目で俺を見つめてくる女子が……意外も意外、あの女番長三浦優美子だ。

しかも、何故か彼女にしてほしいと上目遣いで恥かしそうに告白される。

なにこれ?乙女あーしさんに?いつもの三浦とは180度異なる姿だった。なぜ俺?葉山はどうした?

 

そして、後ろから物凄い力で抱きしめられている。いやこれはベアーハッグではなかろうか?

しかも、何か柔らかい二つの感触が俺の背中で押しつぶされてる。……結構なものをお持ちの様だ。いやいやいや言ってる場合じゃない。平塚先生勘弁してください!

しかも、直ぐに挙式だ。ワイハに行くぞ!とか、真実の愛はここだ!とか叫んでるし。

なにこれ?横島師匠から乗り換えるのは俺も賛成だけど、俺は勘弁してください!

 

正面には家の小悪魔。右には乙女番長。後ろには発情した三十路女教師が………

これ?どういう状況だ?

 

由比ヶ浜と雪ノ下に助けを求め、由比ヶ浜が必死に三浦と先生と引きはがそうとしてくれるが……元々の腕力の差があり、一行に好転しない。

 

雪ノ下は何かを考え込んでいた。

「……この3人は由比ヶ浜さんのクッキーを食べてからこんな状態に。クッキーに何か入っていたと考えるのが妥当かしら?……惚れ薬…オカルトアイテムで発売禁止になった惚れ薬についての記述を見たことがあるわ。その中でも強力な物はオカルトGメンの検挙対象に……」

 

そう、この三人は由比ヶ浜が焼いてきた手作りクッキーを食べてからこんな状態になったのだ。

しかし、惚れ薬なんてまさしく販売製造禁止オカルトアイテムだ。そんなもん普通に入手できるルートなんてないぞ。闇市とかそんなんで売ってるかもしれんが、大概は偽物だ!

しかも、なんで由比ヶ浜のクッキーにそんなものが………由比ヶ浜?んんん?

あった!いや、居たぞ!

こんな事が出来る人物が!!

しかも身近に!!

迷惑極まりない人物がいた!!

 

「ゆ、由比ヶ浜!!ドクターだ!!ドクターに聞いてくれ!!」

 

「えっ、お爺ちゃん。うん分かった」

由比ヶ浜はスマホを取り出し、電話をする。

 

そう、こんなとんでもない事をやってのける人物は世界広しともこの人しかいない。

ヨーロッパの魔王の異名をもつ天才錬金術師ドクター・カオス。今由比ヶ浜の家で居候している人物だ。確かに天才だし、物凄い錬金術師だ。だが、頭のネジが30本ぐらいぶっ飛んでるのだ!!付き合いだしてよくわかった。世間では天災錬金術師と揶揄される意味がよーくわかった。とりあえずとんでもない事を起こして、周りを巻き込まずにはいられない人物なのだ。

由比ヶ浜親子は良くこんな飛んでも人物を居候させていると思う。

よっぽど人が出来ているのだろう。

 

その間に雪ノ下は、合気道の体術だろうか、いとも簡単に3人をひっぺ返し、椅子に座らせ縄で拘束した。

縄で拘束って……なんでそんなに手慣れた感じなんだ?もしや、2月末のあの温泉事件で美神さんに仕込まれたんじゃ?

美神さんに縄を使わせたら天下一品だ。どんな体勢からでも、どんな状態からでも、横島師匠を正確に確実にぐるぐる巻きにして、吊るすことが出来るのだ。

 

「ふぅ、雪ノ下助かった」

 

「私も見ていて気持ちのいいものではなかったわ」

雪ノ下はそう言いつつも、拘束されつつも騒ぐ3人の口をタオルやハンカチでふさぐ。

まじ手慣れてるな。これは2月末の温泉事件の際に、相当仕込まれたな。

 

「いや、でも、ここまでする事はないんじゃないか?」

 

「騒ぎを聞きつけて誰かに来られでもしたら大変よ。貴方もだけど、彼女たちの名誉のためにも、この教室から出さない方が良いわ」

なるほど、そうだよな。小町が超絶ブラコンだと噂されても困るし。平塚先生なんて生徒に手を出したなんて知られたら、間違いなく免職だろうな。……三浦も、葉山にこれを知られたら後が大変だ。

 

「ヒッキー!!」

由比ヶ浜がスマホを俺に掲げてきた。

スマホのスピーカーから叫び声が聞こえてくる。

 

『ギャーー、マリアーー、わしは小娘の事を思ってじゃな!グボバッ!?やめ、やめてーーっ!!』

どうやら、ドクターは絶賛折檻中のようだ。勿論マリアさんにやれているのだろう。

暫くして……静かになる。死んだかな?ドクターは体だけは丈夫だから大丈夫だろう。

 

『結衣さん・すみません・ドクター・カオスが・強力惚れ薬を・生成し・昨日の晩に・出来上がったクッキーに・ふりかけた・ようです』

今度はマリアさんの声が聞こえてくる。

 

「えーー、おじいちゃんがなんで?」

 

『……そ、そのじゃな、お主がガリレオの小僧に、惚れておるからな。ちょいと手伝いをしてやろうと思ってじゃな』

死にそうな声でドクターがそれに答える。

 

「おじいちゃん!!ヒッキーの事は自分で何とかするって言ったでしょ!!」

 

『……す、すまんかった。そんなに怒らんでもいいじゃろ?』

なんかドクターが素直に謝った。なにこれ、まるで孫に怒られた普通の爺さんみたいだ。

 

「ドクター、惚れ薬の効能と解除の仕方を教えてください」

 

『なんじゃガリレオ、お主食べてないのか?残念じゃのう!解除の仕方だと!!そんなものは無い!!』

堂々と言ってのけるドクター・カオス。

ぬけぬけとこの爺さんは!

 

「おじいちゃん!!」

 

『……そ、そのじゃな。惚れ薬入りのクッキーを食した人間は一番近くに居る異性に対し、強力な暗示が発生するんじゃ、そして恋に目覚める仕組みじゃ。クッキー1個で約3時間~6時間程度の持続時間じゃ。この惚れ薬は時間経過するごとに、思いが徐々に高まる仕組みじゃ!20分~30分もすればもう我慢できずに、襲い掛かるじゃろう!奥手のお主を想定して作成しておる!!普通の惚れ薬じゃヘタレなお主じゃ耐えてしまうからのう!!』

なに自信満々に言ってんだこの爺さん!そんな強力な惚れ薬を俺に食べさそうとしたのか!!

強力な惚れ薬をこの3人が……まてよ。副作用とかあるんじゃないのか?

 

「副作用とか有るんですか?」

 

『副作用じゃと!このカオスが作ったものじゃぞ!!そんな物が有ろうはずがない!!まあ、追加効能で身体能力が一時的にチョロッと上がるだけじゃ!!激しい愛も時には良かろう!!』

おいーーーー!!爺さんの性癖だろそれ!!それを副作用って言うんだよ!!

 

「……はぁ、どうするんだよこれ」

 

「ヒッキーごめんね。おじいちゃんがまた変な事をやって」

 

「由比ヶ浜が悪いわけじゃないだろ?」

 

『そうじゃ!小娘が悪いわけじゃないわい!!ガリレオ!!ヘタレなお主が悪いんじゃ!!』

 

「あんたが原因だろ!!」

「おじいちゃん!!もう!!」

 

「ひ、比企谷君逃げた方が良いいわ」

雪ノ下は俺の手を軽く引っ張り、拘束した3人の方に向ける。

 

縄で椅子に固定されていた平塚先生がブチっという音と共に、その縄を引きちぎり、口を押えていたタオルを噛みちぎったのだ。

「ひーー、きーー、がーー、やーーーー、きょーしーきーーー!!ケッーーッコン!!」

目がギラついてらっしゃるんですが………物凄い迫力で俺に襲い掛かるように構える。

いや、なにがチョロッと身体能力が上がるなんだよ!!ゴリラ並みな力があるぞこれ!!

 

「鬼ーチャン?妹の愛を受け止められないなんてないよね!?」

「ヒキオ!覚悟は良いわね。あーしを惚れさせた責任をとってもらうし!!」

小町と三浦も縄を強引に解き、ゆらりと立ち上がる。

2人はまだ人語を話しているが、平塚先生はもはや獣のようだ!

先生はクッキーを二つ食べた影響か?

 

 

「逃げるしかなさそうだな。雪ノ下と由比ヶ浜この場は頼んだ!!」

俺は自分の鞄を肩に背負いながら、急いで扉から出て行く。

 

窓から一気に飛び出して校外に逃げればいいが、他の生徒に見つかると色々と面倒だ。

ここは学生らしく、振舞いながら逃げる!!

 

彼奴らの狙いは俺だ。俺が上手い事逃げ切れば、何も問題無いハズだ。

確か惚れ薬の持続時間は3~6時間と言ってたな。

今は15時半を回った所か……長くとも21時半まで逃げ回っていればいいってことだな。

 

「ケッーーッコン!!」

「まてー、鬼いちゃん!!」

「ヒキオ!!」

追いかけて来たか……

 

幸いにもここは別棟だ。

放課後の別棟は文化部がメインで使用している。

廊下も人も殆どいない。目撃者も今の所は居ない。

なまじ目撃者がいたとしても、俺が何かやらかして、追いかけまわされてると思われるだけだ。

 

とりあえずだ。彼奴らを学校から引き離す必要がある。

学校内で逃げ回るわけには行かない。いずれ何らかの被害が出るだろう。

特にこんな姿の平塚先生を学校の晒し物にしておくのは可愛そう過ぎる。

なぜ、この人はこんなに間が悪いのか……

とにかくだ。学校の外になるべく目撃者が少ない方法で脱出だ。

 

俺は廊下を駆け上がり、屋上を目指す。

当然、あいつらも追って来る。

 

俺は屋上に登りそのまま、屋上のフェンスを乗り越え、グラウンドから見えない角度の、縦に伸びる雨樋の配管を伝いスルスルと降りて行った。

 

屋上では……

「ケッッコーーーーン!!」

「鬼いちゃん!!どこに行ったーーー!!」

「ヒキオーーーー!!あーしから逃げれると思ってるか!!」

俺を探してる3人の声が聞こえてくる。

 

俺は地面に降りて叫ぶ。

「俺はここだ!!」

何故わざわざ見つかるような真似をするかって、あいつらを学校の外に誘導するためだ。

そして付かず離れずを繰り返して、あいつらを人気の無い場所に誘導するつもりでいる。

 

俺はわざと彼奴らに見えるように裏門を走って出て行く。

 

 

それからは、計画通り付かず離れずを繰り返し、誘導していく。

2時間程経過して、20㎞以上は走っただろうか山すその公園まで到着する。

普段人気が居ない公園だ。俺は一応人払いの札を張り、人を寄せ付けないようにした。

彼奴らは普通に俺に追い付いてきていた。俺はシロの散歩や小竜姫様の修行でこれぐらいはどうってことないが、……どうやら、惚れ薬の副作用で身体能力だけじゃなく、体力も相当強化してるようだ。

ドクターめ、なんていう薬を作り出すんだ。惚れ薬じゃなくて、身体能力薬を普通に作って売った方が良いんじゃないか?

 

「ひーーきーーがーーやーーーキョシキーーー!!」

「鬼いちゃん!!追いついた!!なんで逃げるかな!?小町的にポイント低いよ!!」

「ヒキオ!!ここでデートするし!!」

 

ここからが本番だ。あと最低1時間最大4時間の間。この公園の中で逃げ回っていればいい。

「さあ、行くか」

 

「ケッッコーーーーン!!!!」

「兄妹の垣根なんて何もないよね。鬼いちゃん!?」

「ヒキオにあーしの初めてを!!」

 

普通だったらこの情景は、男を取り合うリア充イベントなんだが……

とてもそうは見えない。

野獣化した三十路教師に、超ブラコン化妹と乙女番長。

しかも薬でこんな感じにだぞ。

 

次々と俺に襲い掛かって来る三人。

俺はひらりひらりと避けながら逃げ回る。

 

しかし、薬が切れた後の事を思うと憂鬱になる。

平塚先生は良いとして、まあ、小町も事情を話せばわかってくれるだろう。最悪1週間無視で済む。嫌だけど。

問題は三浦だ。……俺だけではどう説明すればいいのか見当がつかない。

由比ヶ浜のフォローに期待するしかない。

最悪俺がGSだと言う事を話さないといけないかもしれない。

それだけじゃない。惚れ薬なんて明らかにNGな薬品を口に入れさせられたんだ。

心に傷を負うかもしれない。

彼奴は本当に葉山の事が好きなのに、薬のせいで俺に心を動かされたのだ。

薬のせいだと理解しても、何らかのしこりは残るだろう。

 

あのじーさん(ドクター)。マジでろくでもない。

一度、オカルトGメンに突き出してやろうか。

 

そうこうしてる内に公園に逃げて来て1時間が経過した頃に、小町が電池が切れたように急に動かなくなり、その場に倒れる。

公園の外で待機してくれていた由比ヶ浜と雪ノ下とマリアさんに引き渡し介抱してもらう。

 

その30分後に三浦が倒れ、同じように公園の外で待機してる皆に引き渡す。

 

……平塚先生だけは、6時間たってもまだ、俺に襲い掛かって来ている。

「ケ、ケッーーーコン!!キョシキーーー!!」

 

そして…7時間が経過。

「け、結婚したい。寂しいのだ……」

そう言って力尽き、その場で倒れる平塚先生。

……誰か、早くこの人を貰ってあげて!マジで!

 

三浦のフォローは大丈夫なのだろうか?由比ヶ浜は上手くやってくれたのだろうかと、そんな思いを抱きながら俺は平塚先生を背負って公園を出る。

 

しかし、既に三浦はその場に居なかった。

由比ヶ浜が自宅まで送ったらしい。

小町も雪ノ下が送ってくれたらしい。

 

マリアさんがその場に残ってくれていた。

「ミス三浦・ミス比企谷は・惚れ薬の・効果中の・記憶は・ありませんでした・大丈夫です。マリアが後で・薬の・成分分析を・行いました・間違い・ありません」

 

まじで?なにそれ?副作用?

ご都合過ぎだろそれ?しかしそれは非常に助かる。

皆に特に三浦は心の傷を負わずに済むしな。

 

……惚れ薬としてはまずいだろう。惚れ薬の効果中の記憶が無いとか、完全に失敗作だろそれ。まあ、そのおかげで助かったのだが……ドクターはそんな副作用の事まで考えてなかったのだろう……惚れ薬を即興で作れるのは凄いが結果これじゃあな。

 

はぁ、脱力感が半端ないなこれ。

「マリアさん、助かりました」

 

「いえ・ドクターが・迷惑を・おかけしました」

マリアさんは深く頭を下げる。

 

「マリアさんが悪いわけじゃないですよ。まあ、ドクターにはきついお仕置きをしておいてほしいですが」

 

「了解です・ミスタ・比企谷」

 

俺はこの後、平塚先生が起きる前に、タクシーに乗り込み自宅へ送る。

途中で目を覚まさした平塚先生は、横に座ってる俺を見て……

「ま、まさか比企谷!私が寝ているのをいいことにい、いかがわしい事をしたんじゃないだろな?……なぜ、私は寝ていた?……まさか!比企谷!私に睡眠薬を盛って!ホテルに……」

なんてことをずっと言われ続けていた。惚れ薬の効果中の記憶は本当に無い様だ。

……逆なんですが……俺が襲われてたんですが。

何とか説得して丸く収める事ができた。

はぁ、早く西条さん辺りを紹介して、何とかしてあげたい。

 

そんなやり取りを聞いていたタクシーの運転手は苦笑していた。

 




次回で100話ですね。
ここまで長くなるとは……
100話でこの章を終わりにする予定です。
次の章で、かなり話の内容が進む予定です。



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