1話 扇風機と私
「ふう・・・今日はこんなものか」
スーツの女性が背を伸ばす。このGM研究所研究員、的井玲。周りを見るとすでに外は真っ暗。時計は12時を指していた。
「あまり熱を入れすぎるのは良くないな。そろそろ帰るか」
オフィスを見渡せば周りにいるのは警備員のみ。さっさと準備を終え、帰ることにした。
「お疲れ様です」
「そちらこそ」
警備員に軽く挨拶を返し、ロッカーへと向かう。そんな中、突然照明が赤くなる。
遅れて警報。侵入者だ。
「・・・行ってきます。ここに居て動かないでくださいね」
侵入のあった入口へと向かう警備員の背中に任せたぞと一言。ため息ののち、再び椅子へ腰を下ろす。
「・・・はあ、帰りたいな」
コーヒーのペットボトルに手を伸ばす・・・が、ない。
「探しているのはこれかな」
突然聞こえた声から離れるように玲は飛び退いた。白スーツの男、アッシュがそこにいた。
「貴様か。何の用だ。消えろ」
「相変わらず連れないねえ・・・付き合っていた頃を忘れたのかい?」
「できるものなら・・・忘れたいね!・・・あちら側の侵入はダミーか」
アッシュの投げ渡すペットボトルを蹴り返し、再びアッシュがキャッチ。今度は投げ捨てた。
「俺たちの仲間になる気は」
「ないね!芸術は無害でなければならない。当然だろう」
「はあ・・・君は昔から変わらないな」
「お前は変わったな。昔は優しかったというのに」
アッシュは名前の無い芸術団体の一員である。最先端の技術や、神格の力さえ使う狂気の芸術家たち。人の迷惑を気にしない彼らは、テロリストと同一視される。
高校時代に玲の恋人だったが、その活動を許容出来ず、別れた。
大学時代を卒業した玲はもう彼のことは気にしないで生活することにしていた。
「それを言う為に来たのか?」
「ああ、問題でも?・・・・・・ま、その気がないならこうだ」
拳銃を向け、発砲。どうやら本気で殺す気らしい。すんでのところで避け、逃げるべく非常口へ走った。
だが、開かない。扉は開いた横の研究室へととっさに逃げ込む。
「・・・くそっ!いや、まあ不幸中の幸い・・・スーツさえあれば!」
室内に置かれた神格接続器を拾い、左腕に装着した。
だが、玲は装着者ではない。使われていない12個のスーツどれかを来て戦わなければならない。
「どれだ・・・どいつだ!」
だが、適合というものがある。スーツ呼び出しキーを片っ端から接続器につなぐがどいつも応えてくれない。
そしてアッシュも銃撃の手を止めない。かわしながら12個目のガネーシャを差し込む。
・・・・・・反応はない。
玲は青ざめた。同時に死を覚悟した。
「ハハハ!君のその才能はやはり外に出てはいけないものなのだよ!さようなら。君はとても面白かった」
銃声。つかの間の静寂が流れる。
玲は健在だった。銃撃を食らったのは扇風機。壁に固定されたものが落ちて来たのだった。
「あ?扇風機が・・・なにっ!」
驚くアッシュの脇を扇風機を抱えた玲が抜ける。左腰の拳銃を奪い、発砲。アッシュには当たらないが、動きを止めることには成功した。
そのまま開発室に突入。鍵を閉めて機会の電源を入れた。
「開けろ!・・・と言って開けるわけもないか・・・」
バコン
鈍い音を立ててドアが歪む。無理矢理ドアを外したそいつの姿はさっきのスーツの男ではなかった。
妖怪を模した禍々しい鎧、『臨海』をまとったアッシュがそこにいた。
「今から作る気?どうして俺が入ってこれないと思ったんだい」
近づく臨海に発砲しつつ逃げる。廊下の先はトイレ。逃げられない。覚悟を決め、窓から飛び出た。
中庭は行き止まりであった。
「ハハハハハハ!もう逃げられない!」
走ってくる臨海。だが、玲にもう恐れはなかった。諦めなどからくる感情などではない。
「鎧はできていた。神格の依存物の回収にさえ成功すればよかった・・・こんな近かったとは。属性はグランド」
起き上がり、神格接続器にキーを差し込む。キーは奥へと飲み込まれ、差し込み口が完全に閉じる。
「私用に作っていただけあるな。逃げていた?違うな。
『1!2!3!』
「何・・・?」
「誰が入ってるかは知らんが・・・行くぞ!装着!」
『4!Ready go!armor the god!his name is…』
けたたましい機械音。砂嵐が巻き起こり、玲の体を包む。そして集まった土が、鎧を形成する。
『TAKEMINAKATA!』
「負け犬の鎧」、カザツチがそこに現れた。
「はあああああ!」
臨海に飛びかかり、パンチ。同時に右拳のファンを回転させ、臨海に傷をつける。
「うおおお!」
さらにキックで追撃。跳ね飛ばされた。臨海が起き上がる前に、接続器のスイッチを全て下げた。
『crash!ground element!』
「グランド・・・スワストオオオオオオオム!!」
ファンを外し、空中に投げる。ジャンプでそれに追いつくと、キックでそのファンを飛ばした。
大きな風となり、最後は竜巻となり臨海を襲う。とっさの防御のおかげか、吹き飛ばされ、壁を破壊して室内へ叩き戻される。
「そろそろエージェント達が来ているか」
装着が解け、土の塊が無造作に地面に落ちる。
カザツチの初陣はせわしく、雑なものであった。