吸血鬼の憂鬱(魔法使いの消失)   作:NeoNuc2001

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アリスとパチュリーの会話に注目&伏線まみれの回


第五話 伝説の証明 (中)

───レミリア・スカーレット───

 

謁見の広間から抜け、フランに会うために地下への入り口のある書庫に向かう途中、一人の少女がこちらに歩いてきた。

 

「パチュリーか。わざわざ書庫から出てきてどうした?」

 

一人の少女、パチュリー・ノーレッジは用がないにも関わらず読書をやめ、書庫を出るような気楽者ではない。つまり、何か用事があるのだろう、恐らく私に。そう推測したからこそ私はパチュリーに用事を聞いたのだ。

いやしかし、それ以前にアリスを紹介しないといけないのでは?フランの狂気の件に関してもアリスは関与するだろう。ならば──

 

「アリスについては既に知ってるわ。昨晩ずっと話してたし、私が来たのは彼女についてのことだし」

 

と心を読んだかのようにパチュリーは言った。そしてそのままアリスにスタスタと歩いていき、

 

「さぁ!あなたの知ってることを全部教えてもらうわよ!!」

 

と満面の笑みで、アリスの肩を掴み、目に星を描きながら七曜の魔女はアリスに言ったのだった。

 

 

 

 

 

───パチュリー・ノーレッジ───

 

それは昨日の早朝のこと。

 

私は三日三晩続けられていたレミリアとアリスの戦闘を使い魔を通して見ていた、声は使い魔の都合上聞き取れなかったが。

できれば私もレミリアの応援したかったが、多対一の戦闘ならばともかく一対一の戦いに乱入できるほど私は強くない。だからこそ“静観”が私にできた最善手であった。

 

そのような一切の隙を許さない戦闘の最中、レミリア・スカーレットは私に念話を飛ばし、

 

「書庫に罠を張れ」

 

と短く私に指示した。

 

なぜという質問には答えてもらえそうになかったからあくまで推測だが、状況から見て、負けを確信していたのだろう。ならばトラップを張る意味とは一体?

 

守りたいのは蔵書?私?いや違う、それらは彼女にとって死してなお、守りたい()()()()()ではない。恐らく、彼女がトラップを利用してでも守りたかった存在は───

 

「フランドールね」

 

そう推測した私は戦闘を時折監視しながら即死級のトラップを書庫の幾所にも、特にフランドールがいる地下牢への入り口がある書庫の奥を重点的に設置した。半分、私の魔術工房と化し、トラップを多量に設置した書庫は、レミリアを倒した強者であっても、無傷で通り抜けられるものではないだろう。

 

私はあの時、そう思っていた。

 

「さて...」

 

トラップの設置が一通り終わり、木製の椅子に座り休憩する。木の軋む音と共に一呼吸の間ができる。

そして水晶越しにレミリアと挑戦者の戦闘を覗いたら、レミリアが倒れ伏し、戦闘は終了したところだった。

 

やはり勝者は、レミリアの予想通り、挑戦者となった。

 

本来ならこの時点で、いや戦闘が縺れた時点から逃げる準備をすべきだった。蔵書の特に重要なもののみを回収し、フランドールを放置すればいい。

 

一つ私の研究を手伝って欲しい。それさえしてくれれば、本は好きにして構わん。

 

悪魔の契約。本人をも含めた契約者全員に契約の遂行を強制させる神秘の一つ。しかしこれは、フランドールの死で研究は()()をもって終了となり、実質解除される。したがってこれもまた私を拘束する理由にはならない。

 

しかし、私はそうしなかった。

 

 

 

 

 

 

「どうでるかしら」

 

戦闘が終わった今、挑戦者はこちらに来るはずだ。魔力検知、霊的検知、その他様々な結界を利用しており、気付かずに書庫を通過することは出来ない。そしてトラップも含め、書庫を通過したとしても、それなりののダメージを負ってフランドールと対面するはずだ。フランドールの力はレミリアが認める強さ。無傷ならともかくそれなりにダメージを背負っているならばフランドールには勝てない。

 

そう思ってた矢先、

 

「ふ~ん、水晶は結構いいかもね」

 

挑戦者が突如、私の隣に現れた。私はその瞬間意識を思わず彼女に向けてしまう。さながら彼女を除いた全てが()()()()かのように。

 

「..!、アグニシャイン!」

 

だからだろうか。私は席を立ち、慌てて魔術を発動させる。しかし───

 

「ふふっ、駄目でしょう。こんな場所で暴れちゃ」

 

と言いながら私の魔術を帰した。すなわち、一瞬にして私の魔術の構造を理解し、如何なる力か私が行使した魔術をマナに変換し、私に帰したのだ。ついでに私が倒した椅子も元通りにしてあった。

 

「うそ...信じられない」

 

私の魔術は、一工程(シングルアクション)であるものの、精霊を媒介とした大魔術。それを理解できたとなれば、仮に相手が魔術師であろうとなかろうと、私は魔術の知識面においてはこの人には勝てない。その上、私が設置したトラップの一切を検知、発動をさせずに無効化したことも追い打ちをかける。

 

すなわち、この刹那に発生した情報、獲得した情報は、魔術師である私ではこの人に戦闘で勝つことは絶対にできないことを示す。

戦闘を諦め、私は心を落ち着かせて言う。

 

「参ったわね。さあ、煮るなり、焼くなり好きにしなさい」

 

美味しくないけど。そう私は心の中で付け加えた。

 

「別に食べないわよ。まぁ、もう少し運動したら美味しくなるかもだけど。」

 

「別に食べられるとは思ってないわよ。最後のささやかな反抗..って、何で私が美味しくないって...?」

 

私の心を読んだ?

 

「そうなるわね。私には千里眼があるの。強引に変性でもしない限り自然と心が読めちゃうから」

 

静かに理由を告げる。

 

「だとすれば、私の魔術も千里眼で?」

 

驚きはしない。むしろ安心した。千里眼でアグニシャインの魔術構造を把握したならば先程のようなことも、特異的な性質を保有している、という仮説で納得できるものになる。どちらにせよ最後の足掻き、ノーレッジ(知識)の名において、せめて目の前の未知は死ぬ前に理解してみせる。

 

「自分を卑下しないで。あなたの精霊魔術は内容を知った(見た)からといって、理解に至れるほど簡易な構造をしてないわ。膨大な魔術知識を持ってさえいなければね」

 

下から覗くかのように私を満面の笑みで見る。間違いない、挑発されてる。

 

「つまりあなたは膨大な魔術知識を持っていると?」

 

「知りたい?」

 

「もちろん」

 

しかし、未知があると言われれば聞かざるを得ない。

 

「そうだ!まず自己紹介をしないと。私の名前はアリス、アリス・マルティーク。あなたは?」

 

「私の名前はパチュリー、パチュリー・ノーレッジ」

 

そして私とアリスは死の実感を遥か彼方に押しやり、雑談を始めたのだった。

 

 

 

 

────────

 

「置換魔術は使い方次第ではすごいことになるらしいよ」

 

「あの錬金術における劣化が?私には想像出来ないわね」

 

置換魔術は錬金術を発展させた魔術、と言えば聞こえが良いが実際には何も産み出さない偶像(贋作)の魔術。そのような魔術に何の力があるだろうか。

 

「ある領域を一つ丸ごと連続的に置換してその座標を悟らせなかったり、世界のテクスチャを置換して無理矢理自分勝手なルールを敷いたりする事もできるらしいわね」

 

テクスチャの張り替え、強力な結界。結果だけみれば実に素晴らしい。しかし───

 

「でもそれ、割には合わないんじゃない?」

 

そう、割に合わないのだ。魔術の大原則である等価交換の法則をアリスが述べた置換魔術に成り立たせるにはどう考えてもリターン以上のコストを支払わなければならない。その莫大なコストを払うには私のような生粋の魔術師か、今となっては世界に5、6人しかいない魔法使いがそれなりの魔力(マナ)を抽出しなければならない。やはり割に合わない。

 

「普通に考えたらそうだけど、ネタは単純だよ。自分の魔力(マナ)大魔(オド)を少しずつ置換して、獲得した魔力(マナ)を元に魔術を並列展開する。スピードにこそ技量や魔術回路の差が現れるけれども、得られる結果は、いい意味で()()()()()()

 

「!」

 

確かに()()()()ならば先程の馬鹿げた大魔術も行使可能。魔力の流れ関連は魔術師一般が最も得意とするもの。何せ日頃から感じているのだから。魔力(マナ)大魔(オド)の置換を工房等の大規模な魔術礼装を利用すれば比較的低コストで発動可能だ。後は置換した大魔(オド)が溢れないように何かしらの魔術を発動すればいい。確かに、()()()()()()。だからこそ、

 

「ズルをしてるわね」

 

「!...よく気がついたわね」

 

魔術において等価交換の大原則は何にも曲げられない。仮にそう見えるなら何か裏があると考えるべきだ。

 

「それで、(オチ)は?」

 

「実はね───」

 

 

────────

 

「精霊がどうかしたのかしら?」

 

「ううん。あなたが得意な精霊魔術の精霊じゃなくて、(ほし)(れい)と書いて()()と読むほうだよ。星の代弁者、原初における最初に生まれしもの。だから、原初の一(アルテミッド・ワン)とも呼ばれてるわ。それで、今その地球の星霊が存在しないらしいの」

 

「そうなのね...」

 

「興味ないの?」

 

「そうね。なにせその、星霊、がどのようにして役に立つかわからないもの。むしろいないほうがましだと思うわ」

 

()()()()なら何も問題はなかったけど、これからもしかしたら宇宙人とかやって来たら交渉とかしなきゃいけないのよ」

 

宇宙人...気にもしていなかった。

 

「確かに、人類(アラヤ)はともかく、地球(ガイヤ)には交渉役が必要かもしれないわね。それで、候補は誰なの?地球(ガイヤ)だって馬鹿じゃないだろうし、あなたほどの博識なら一人ぐらい知ってるんじゃないのかしら?」

 

「それが、まだ会ったことないのよ。原初に生まれなかったら、力があることが次の条件なんだけど...」

 

それなら知人に一人いる───

 

「ならレミリアじゃないかしら。私が知る限り、あんなでたらめに強力な力を持つのは彼女だけよ」

 

「ううん。星霊になるにはあと三倍ぐらい強くなってもらわないとダメかな」

 

「そんなに...」

 

 

────────

 

 

私の精霊魔術から、世界の(からくり)まで様々なことで雑談を、討論を、教授をし、その過程でアリスが敵ではないと知った。

そして気付けば一日が過ぎていた。

 

「そろそろ行かないと」

 

「どこへ?」

 

「レミちゃんの介抱に。昨日は色々とイジめちゃったからね」

 

アリスとの親交を深めた結果か、敵である可能性を思い起こさせるその言葉に対して私は最早、緊張感を抱かなかった。私にとってアリスは敵というより、お茶目な賢者のように思える。これ程なら根源にも到達しうるのではないだろうか、と思うほどの凄腕の賢者だが。

 

「いじめたって...」

 

だからむしろ、あの壮絶な戦闘を「イジメ」程度に評価したアリスに私は呆れ返ってしまった。

 

「まぁ、いいわ。行きなさい。どうせフランドールに会いに行くのにまた私に会うだろうから」

 

「そうだね!それじゃあ、またね!」

 

と彼女は言ってこの大図書館から去っていった。

 

「───さてと。」

 

アリスが去ったのを確認したら、水晶で広間を確認する。そこには珍しく眠っているレミリアがいた。いや二十四時間失神していた、という表現が正しいか。そういえば、私はレミリアが寝る姿どころかその素ぶりすら見たことだろうがない。吸血鬼といえども睡眠は必要なはずだが───

 

「まぁ十数年単位の過労働だと思ってればいいでしょう」

 

そう自身を納得させた。

 

そして時はアリスとの再会に帰る。

 

───レミリア・スカーレット───

 

「全てとは大きく出たな、パチュリー。魔法使いであるアリスに全てを聞くのはそれなりの覚悟必要だぞ」

 

魔法使いであるアリスは既に根源に到達している存在だ。根源とは霊長の起源、ゆえにその霊長の起源に到達しているアリスはおよそ全てを知っていると言っても過言ではない。様子から見て、未来や過去の全てを知り尽くしているようではないようだが、膨大な魔術知識や魔力はその根源から供給されているとみて間違いがないだろう。そのアリスに全てを聞くというのは、すなわち自身の(時間も地位も)全てを以て(もって)彼女の知識を受け取るということだが、

 

「えっ...え!?」

 

パチュリーは一度キョトンとした直後に赤面しながら驚く。その切り替えまで、僅か一瞬。瞬きしか許されないほどの回転の早さ。しかし、いつもの理知的なイメージに反したその一瞬のキョトン顔が何とも可愛らしかった、というのは内緒にしておこう。

 

「なんだ、知らなかったのか?」

 

「し、知らなかったわよ。まさかア、アリスが魔法使いだったなんて。ど、道理でレミリアが負けるわけね」

 

パチュリーの言葉から動揺とはまた違う、そう、畏怖と驚愕を感じる。さすがと言うべきか、アリスに対するそれは()()()()()()()()()()()()。おそらくパチュリーはアリスを同格もしくは格上の()()()として接していたのだろう。確かにパチュリーの実力を鑑みればそれだけで凄いことなのだが、それでも魔術師と魔法使いの差は無視できないものである。だからこそ、()()使()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がパチュリーに表れたのだろう。無論、推測の域は出ないものだが。

 

「全て..ね。別にいいけど、精神がすり減るのが先だと思うよ」

 

アリスがさらりと恐ろしいことを言う。

 

「いえ、ごめんなさい。取り乱してしまったわ。私はあなたが使用した奇怪な魔術について聞きたかったのだけど、あんなに話してもらって未だに知らなかったことがあると思うと..」

 

「う、うん!わかったよ。でもその話はまた───」

 

アリスが述べる言葉が最後まで紡がないうちに爆音が響く。その原因は地下───

 

 

 

 

───アリス・マルティーク───

 

何かの爆音が響いた刹那の瞬間、否それすら置き去りにする程の限りない無遅延でレミちゃんはここではないどこかに行ってしまった。

 

「音の方角からして地下の方ね。私の結界が、恐らくレミリアによってだけど、強引に破られて地下に入っていったわ。姉思いのレミリアのことだから、きっとフランドールに何かあったと考えるべきね。」

 

パチュリーが答えをくれた。確かに千里眼で確認してみればレミちゃんとフランちゃんが向かい合って何かを話してる。今は大丈夫みたいだけど───

 

「時間がないわ。急いで向かわないと」

 

何か嫌な予感がする。何かに吸い込まれるような。私の千里眼ですら見通せない何かが...

 

「えぇ、そうね。さっきの爆風で本がやられているかもしれないなら早急に対処しないと」

 

パチュリーはレミちゃんとフランちゃんではなく本の心配をしている。それも考えてみれば当たり前。館を破壊するほどの規模ならともかく、館を揺らす程度の爆発でレミちゃんとフランちゃんが重傷を負うことはない。そう考えるとやはりの私の杞憂?どちらにせよ今は地下に向かうのが先だ。

 

パチュリーは精霊の力を借りて、私は私が愛する神秘なる力を現して地下に向かう。




長い、長い。でも評価高い人は長いらしいから多少はね。

本当はフランを出したかったんだけど、がまんか。

という訳でここまで読んでくれましてありがとうございました。
評価は評価欄に、感想は感想欄に、誤字報告は誤字報告欄に是非お願いします。

次回は戦闘回かな?

解説
星霊
Rewriteに出てきたワードを拝借。本家様と全く同じ意味なのかは不明

書庫
色々とあれすぎて、それ自体が神秘性を纏い始めた大図書館。気づいたら本が増えてたり、そうでなかったり。

パチュリーのフルネーム呼び
レミリアとは実はまだ親密な関係ではないが、アリスの呼び方は...

置換魔術
エインズワースの特権じゃないよ。

原初に生まれて(ry、
アリス、何s...

もう少しやs(ry
アリスは脂身が好きではない、多分。

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