吸血鬼の憂鬱(魔法使いの消失)   作:NeoNuc2001

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───ついてこれるか?


第六話 伝説の証明 (下)

伝説の証明

 

───レミリア・スカーレット───

 

「さて、どうしたものか。」

 

目の前ではフランが手を精一杯広げ、壮絶ながらも可愛らしい笑顔を浮かべる。

 

周りには本来ならば部屋にあったはずの一切の遮蔽物となりうる物は存在しない。

 

そして、フランのあの手の中には()()()()()()がある。

 

フランがここであの核を握り潰せば、ほぼ間違いなく私の心臓は破壊されるだろう、運命を操ることができる私が相手ではなかったなら。

 

しかし、それでも現状のピンチは変わらない。

 

「さぁ、お姉さま。」

 

フランが可愛らしく私に声をかける。

 

「あの人を早く連れてきて?」

 

さて、本当にどうしたものか。

 

───パチュリー・ノーレッジ───

 

書庫の方で爆発が起きた。

 

それと同時に消えたレミリア

 

この一連の出来事によって弾き出される可能性は一つ。

 

フランは重傷を負っている。

 

レミリアは自身が多少の物理的、精神的ダメージを受けようと許してくれるだろう。だが、その矛先が彼女の妹であるフランに向けば話は変わる。加害者の価値と危険性、主にフランに対する、を秤にかけ、近くに置けないと判断した時、文字通りクビになるだろう。どれほどレミリアと親しかろうと、その秤の匙加減に変化はない。

 

さらに今回の爆発騒ぎ。館内部、フランのいる地下牢に繋がる書庫での爆発。

 

これはとてもまずい。

 

監督責任ということもあるだろうが、それ以上にこの爆発には心当たりがあった。

 

「侵入者用のトラップ...」

 

トラップはアリスが解除したため入り口付近には少なく、逆に守りを固めるために地下牢入り口付近には多い。仮にトラップが原因の爆発なら、爆心地は地下牢付近の可能性が高い

 

冷や汗が走る。

 

しかし、トラップはレミリアの指示で行ったもの。そもそもトラップ程度ではフランは傷つけられないだろうし、私には狂気を抑え込めるという役割がある以上...

 

「...」

 

隣を見る。アリスが真剣な面持ちで前を睨む。

 

聡明な魔法使いと共に書庫に進む。しかし、冷や汗は止まるどころか一層勢いを増してるように感じた。

 

 

 

 

 

───アリス・マルティーク───

 

私たちの道を示すかのように灯る蝋燭が照らす薄暗い廊下を通り、やがて木製の重苦しい書庫の扉の前に立つ。

 

「さっきの爆発から不気味なぐらいに何も起きてないわね。やはり事故かしら。」

 

「わからない...取り敢えず中に入ろう。」

 

扉の取っ手に手を掛ける。扉は軋む音を上げながらも、殆どの抵抗をなくして開かれる。

 

パチュリーが一歩中に入って、こちらに振り向いて、

 

「取り敢えず、書庫内のトラップを解除しておきましょう。」

 

と言った。

 

いや、というかまだトラップを放置してたの....

 

そう思いパチュリーを見ると、

 

「そんあジト目で見ないで、片付けしようと思ったら貴方が当たり前のように転移の神秘を操るものだから気になって飛び出してきたのよ。」

 

そう言い訳するパチュリーは頰を赤らめ、恥ずかしそうに手を口に当てていたのだった。

 

可愛い。

 

じゃなくて、

 

「えぇ、それなら仕方ないわね。とりあえず罠の解除をしようか。」

 

 

 

 

 

 

そして、私たち二人は書庫内に点在するトラップを解除する。

 

やがて、先ほどの爆音の原因と見られる場所、地下牢(フランの部屋)と記されたプレートが飾ってある扉の前に辿り着いた。

 

「...勿体無いわね。」

 

先程の面影を一切感じさせないほどの冷徹さ、静けさを内包したパチェリーが静かに呟く。魔術を扱う者として感情を抑えることは巧みのようだけど、それでも僅かな怒りがその表情に見え隠れしていた。

 

そう...そこには、木っ端微塵にされた本棚や書物があった。

 

私が見た限りでは棚や本には防御の術式が込められている、それもかなり強力な。中には本そのものにも何かしらの神秘が付随していてパチュリーが展開したトラップでは、方向性が違うこともあって、こんな派手に破壊は出来ない、せいぜい軽い跡が付くだけだ。それも魔術で簡単に綺麗にできるが、それでも尚このような惨状になっているということは...

 

「ここで戦闘が起きていた?」

 

まさしく台風のようなレミちゃんの力なら、その余波だけで図書館をボロボロにすることはできるだろう。その妹も同じく。だから納得こそはいくけど、それでも動機が判らない。

 

姉妹喧嘩だろうか、よくあるどうでもいい理由から始まるアレ。

 

「多分レミちゃんはこの地下室にいると思う。」

 

とにかく、下へ降りよう。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

「えぇ、そうね」

 

 

 

 

 

 

階段を一段ずつ降りていく。私とバチュリーの履いている靴と石の階段が音を響かせる。階段では一切の戦闘の痕跡はなく、先ほどの書庫の惨状が嘘のようだ。

 

「...本当に地下牢の方にいるのかしら?」

 

「えぇ、いるはずよ。私の千里眼がそれを裏付けている。」

 

一歩ずつ階段を降りる。ジメジメとしたその薄暗い雰囲気は女の子にとってはあまり入りたくないところだ。

 

だけど、何故か言い知れぬ高揚感と不安感が湧き起こる。これは───

 

「もしかして、私...期待してる?」

 

なら、何に?

 

───レミリア・スカーレット───

 

「お姉ちゃん!」

 

「なんだ、フラン。」

 

「問題出すよ!私が次に何しようとしてるか、わかる?」

 

フランが私に問題(Question)を出す。理不尽なその問題(Question)、本来なら、当てようがないが私の場合は別だ。なにせ、私はその問題(Question)の答えを既に知っている。運命を覗けるが故に一歩先を観れる私が既に知っていて当然であろう。しかし、私の問題(My Problem)はそこではない。

 

「...そうだな。」

 

思案する、という演技をする。それ以前に現状を打開するために解決策を模索しているところだが、フランが癇癪を起こさないように大げさにフランの話に乗る必要がある。だから演技。無意識(本音)有意識()のどちらにおいても「私が考えている」必要がある。

 

故に大きな間違いを犯す。

 

なんて皮肉だろうか、考えていたのに、探していたのに、その行動故に見逃すとは。

 

静かに、されど重々しく後ろの扉が開く。(刻限に至る)

 

───パチュリー・ノーレッジ───

分かれ道、右は観測室への道、前は地下牢への入り口

 

「パチュリーは観測室から援護して。パチュリーの能力だと近接戦闘は無理だから。」

 

「わ、わかったわ。」

 

私は慌てて頷き、右の道を登っていく。

 

近接戦闘は出来ない、その評価は正しい。精霊魔術を行使する結果には強大な力が纏う。前に炎の球をレミリアに、そして無数のトラップをアリスに無効化されたものの、それでもしてこの世界においては強力な力だ。その自信に一切の揺らぎはない、何故ならその揺らぎの無さこそが私の力の源、精霊を行使する上で必要最低限な資源(リソース)なのだから。

 

しかし、その傲慢や油断ともとれる自信(制約)があるが故に戦闘時における瞬間的な選択、反射神経を要する行為はできないのだ。

 

私がアリスに驚いたのは、異常なまでのそのスピード性。

 

フランに作る予定の拘束具のようにあくまで非戦闘的な魔術具を作ってきたが、そろそろ戦闘用のそれも作る時が来たかもしれない。

 

やがて観測室に辿りつく。

 

一つの古びた木の椅子、長机、そして机に置かれている水晶があるのみ魔法陣などなく、とても部屋の観測などできる様子ではない、だが準備は既に終わっている。

 

魔力を込める。

 

すると、水晶から地下牢の映像、各種計器の数値が空間に投写される、さらに地下牢に音声を伝える魔術も発動している。

 

このシステムの起動において詠唱はいらない、部屋の構造そのものがシステムの起動、操作するための回路となっているのだから。

 

「さて、部屋の様子は...!」

 

部屋の様子を見て気づき、驚く。フランは、アリスの言動からなんとなくわかってたけど傷は負ってない。でもフランとレミリア、双方は内部に少しずつ妖力を溜めている。そしてフランは「なんでも破壊する程度の能力」を既に発動し、レミリアの心臓の急所を手の中に収めているのも分かる。あれを潰されればレミリアの心臓も跡形もなく破壊されるだろう、しかしその程度ではあの吸血鬼は倒れない。故に問題は別にある────

 

フランの本当の狙いはレミリアのではなく、アリスの心臓にあるということ。

 

状況を把握し、考察し、それに気づいたのが、たった今。映像の端を見れば地下牢の唯一の扉は開き始めている。音声で警告しないと────

 

地下牢の扉が開く。

 

───アリス・マルティーク───

 

魔法とは奇なるものだ。知恵ある者が考えもつかないことを為す技、力ある者の不可能を可能にする術、ありとあらゆる現象の限界を突破するための鍵、それが()()だ。だからこそ、私が未熟だからその魔法の行使は嫌だった。それは誰かが死ぬのを見るより次に嫌いなこと。

 

だからこそ!

 

使う対象が()()なら構わない。

 

扉が開く、そして間もなくフランちゃんはレミちゃんのではなく、私の心臓の急所を素早く、確実にすくい上げるだろう。それがフランちゃんの狙い、扉の前に立った時に彼女の感情、密かに私に向けられた興奮、期待、そして溢れんばかりの殺意を千里眼をも用いて感じ取ったことだから間違いがない。故に、私は────

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

あらゆる物体には急所があって、それを潰せはなんでも破壊できるだって?そんなものは知らない、私の魔法の前では全てのルールは無意味になるのだから。

 

「えっ?そんな?なんで!」

 

フランちゃんが周囲の壁を破壊しながら発した、苛立ち、不安、悲しみを含んだ言葉はフランちゃん自身の能力に対する信頼を裏付ける。ならば行ける。

 

「レミちゃん!パチュリーの準備もできてる、フランちゃんの能力を封印する魔道具、そのためのデータを集めるなら今だよ!」

 

「何故それを、いや愚問だったか。パチュリー、準備はできてるか?」

 

視線はフランに向けたままレミちゃんはパチュリーと会話を取る。

 

「えぇ、もちろん。この時のために一年間準備しつづけたのだから」

 

パチュリーが発動した魔術の作用で空間にパチュリーの声が響く。この場にはレミちゃんと私で2対1、だけどこの状況ですら安堵はできない。なにせフランちゃんはレミちゃんと同じく◼️◼️◼️の一翼を担う◼️◼️の一人なのだから。

 

息を吐き、再びフランちゃんを見つめる。

 

───レミリア・スカーレット───

 

フランの戦闘能力は、生い立ちを考えると、信じられないほど高い。戦闘の運び方、爪の一振り、それらのフランの一挙動は...長きに渡る生活を鑑みるに最早習得し得うる機会のなかっただろう長年の経験を基にしたかのようなスキルを思わせるようなものだった。そう、彼女の戦闘スキルは正しくプロフェッショナルの領域にある。

 

私はフランを見つめ、されどフランはアリスを笑顔で見つめ返す。妖艶でもあり、恐ろしくもあったフランの笑顔は吸血鬼としては及第点であったが、それでも私に向けられてないのは若干の妬みを感じる。

 

一瞬の空白

 

その引き伸ばされたような無音の刹那を以って戦いの火蓋はきって落とされた。最初に動いたのはフラン。暴力的な嵐のごとく力、花をも殺さぬそよ風のごとき力、その相反する二つの力による超加速、超停止を以って接近する。その相手は私、ではなくアリス。右手の()が必殺の一撃として襲いかかる、一般においてその速さと威力は必中でる以上に避ける意思すらも起こさせない。されど、ここに()るのは異常のみ。それぞれが異なる理に居座る者、すなわちその力と速さを常とする者。

 

揺れ動くような甲高い重低音が鳴り響く。

 

杖から現れ、必殺の一撃(フランの攻撃)を食い止めたのは銀色に輝く隠し刀。溢れ出る神秘性は並々ならぬ業物であると表し、フランの爪を正面から受け止めた、尚折れぬことが尋常ではない名刀であることを証明する。

 

一瞬目を合わせた次の瞬間にフランが左から突き刺すような形で手をアリスにねじ込もうとするも、防がれる。わずかな一瞬における刃同士の攻防が三度繰り返された直後、アリスとフランが同時に部屋の端まで吹き飛ばされる。フランが爪の攻撃の勢いそのまま足蹴りをアリスの頭にかましてきたのだ。しかしアリスは好機ありと見たかのように同じく足技でカウンターをいれたのだった。

 

刃と格闘の応酬、その結果としてフランはかなりの傷を負った様だがやがて治癒されるだろう。対照にアリスは息をそれなりに上げているものの、ほとんど傷を負ってなく、彼女の巧みな体の運び方が再び見てとれる。

 

フランがダメージを負った今、好機か。

 

「さて、次はこちらの番だ、フラン!」

 

神槍(勝利の槍)を取り出し、低空滑空しながら突撃する。さながら特攻兵のように。

 

───アリス・マルティーク ───

フランちゃんに蹴り飛ばされたけどその勢いのまま起き上がる。ジェット機のように隣をレミちゃんが走り抜ける。かくいう私は部屋の端で息を軽く整えながら半分本業の魔術を詠唱する。

 

レミちゃんはフランちゃんの狂気(◼️◼️)を封じ込めたい。そのためにはフランちゃんの能力を解析してそれに合った封印用の礼装を用意する必要がある。仮にそれがもう一つの人格(◼️◼️◼️)を無視する行為だとしても、そして私はそれを許容する。だって、封印されようと無視されようとそれは()()()()から。だからこそ、私はこの作戦(未来)に協力する。

 

フランちゃんが次々と能力を発動させていく。レミちゃんの体の至る所の急所がフランちゃんの手の内側の集まり、あっさりと潰される。しかしそのいずれもレミちゃんを倒す決定打にはならず、それどころか私の魔術とレミちゃんの自己修復能力でほぼ無意味にされる。

 

レミちゃんが思い描いた作戦(未来)は簡単。私がフランちゃんを弱体化させて、レミちゃんが弱ったフランちゃんの能力を受け続ける、そしてパチュリーがそれを解析する。フランちゃんの能力を無効化できる私とフランちゃんの能力を受け続けられるレミちゃんと安全に確実にフランちゃんの能力を解析できるパチュリーのまさしく適材適所。さながらワクチンのごとくこの作戦は上手くことが運ぶはず。

 

レミちゃんの槍による牽制を大きく避けるフランちゃん。

 

「...来なさい、レヴァーティン」

 

ふとフランちゃんは一言何か発した。

 

───フランドール・スカーレット───

 

呼び寄せるのは神話における破壊、歴史に終焉をもたらる絶対の剣、その模造にして空想。

 

壊すの?なにもかも?

 

えぇ、ここにある全てを壊す。ことはそれから、だから。

 

でも、

 

わかってる。この程度でお姉ちゃんは壊れない。

 

だからこそ、この熱い、溶岩のように溢れんばかりのこの気持ちは()()()に投げつける。

 

だって、こんな気持ち、たかぶり、初めてだから。

 

───レミリア・スカーレット───

 

背中に感じたのは熱と痛みと嫌悪感。私が見た運命にはなかった現象。そして肌で感じる、続く二撃目の熱、そしてありえないはずの圧倒的な死の気配。

 

思わず右に避ける。後ろの攻撃に気を取られすぎて、目の前にいたフランの能力で槍を破壊されるも構わない。

 

そしてすぐさま後ろを確認し、確信に至る。

 

「そうか、そんな技まで身につけていたか」

 

後ろにはもう1人のフラン、変わらず凄惨な笑みを浮かべる。すなわちは分身、それも基本性能をほとんど落としていない状態の。そして、

 

「レヴァーティン、と言ったな。フラン。」

 

レヴァーティン、私が持つ槍とは北欧神話においてはおそらく対極に位置するだろう剣。全てを破壊し、全てを燃やし尽くす。太陽の権能を持つレヴァーティンは絶対の破壊を生み出す。

 

そう、太陽の権能だ。それが嫌悪感の正体、吸血鬼の天敵とも言える太陽の光は、しかしながら真祖の力を保有する私には効かないが、それが伝説級のものならば話は変わる。恐らくは私と同じく、模造品であろうが、正確さで言えば間違いなくあちらの方が上だ。フランをフランだと知らなければ、本来の持ち主であるスルトではないかと疑うほどに。

 

「驚いたな。フランもここまで成長してたとはな」

 

賞賛の言葉、その文字通り私は驚いた。なにせ魔術にしろ、何にしろ、フランがここまでのものを作り出すとは思わなかった。真祖である私を畏怖させるだけの炎の具現。私が空想具現化で、瞬時とは言え、作り出すものよりも数段格上というのはある種の才能すら感じる。

 

さらにはそれを分身を以ってして複数作成するというのは最早感銘を覚えてしまうほどだ。妹の成長がよもやここまで来ていたとは。

 

「しかし、やっとこれで人数差は同じというわけだ。妹相手に数の暴力で押さえつけるのは気に食わなかったからな」

 

しかしまだ余裕はある。私もまだ本領(空想具現化)は発揮してない上に、魔法使いであるアリスとの連携を以ってすれば十分に対抗可能な状況である。ならば計画は変えずに───

 

「ふふっ。それはどうかな、お姉ちゃん?」

 

ふと、愛しいフランが囁く。いや、囁き声が聞こえる距離にはいなかった筈だ。ならば、声を発したのは───

 

「レミちゃん!」

 

アリスの声が響く。途中までの考えで得た違和感とこれまでの戦闘経験によって得た直感、それ頼りに反射で右にグングニルを───

 

目の前のフランの燃えるような笑顔が私を打ち伏した。

 




解説
アリスとレミリアがお互いに未来を認知できる能力がある上に、アリスはレミリアの思考を千里眼で覗き放題なので、阿吽の呼吸で戦闘が始まるというなんともわかりずらい展開に。魔法使いと真祖、それに対抗するのはフランが一人、いや四人ですね。

まぁ既に原作のレールを大幅に脱線してるのですが、どうなるんですかね。

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