その対魔忍、平凡につき   作:セキシキ

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お久しぶりでございます。前話から半年以上経ってるってまじか。

卒論書いたり社会人になったり部署に配属されたりとてんやわんやしていたのもありますが、正直遊戯王にハマったのが一番マズかったと思うの。SS書くよりデッキ構築優先してたからなぁ……それでも勝ちたい奴がいるんだ、絶対に許さねえ!サラマングレイドォォ!!

そして時間がかかっておいてなんですが、今回は中継ぎ回ですのでご容赦をば。

あ、ようやくPS4買いました。シージ難しいんじゃ…


The Stranger

翌日。俺は都内某所にあるオフィスビルへと足を運んでいた。校長から貰ったメモに書いてあった住所だ。

 

表向きには小さな清掃業者のオフィスだが、実際は米連の部隊が潜伏するための隠れ蓑。6階建てのスペース全てが、米連の所有物である。より正確に言うならば、米連の情報軍(インフォメーションズ)が日本における活動拠点として保有するフロント企業だ。

 

そのうちの一室で、暴走したガイノイド捕獲作戦のミッションブリーフィングが開始されようとしていた。ずらりと並べられた席に座る総勢21名が今回手を組む特殊作戦コマンド(SOCOM)、情報軍特殊検索群s分遣隊と呼称される部隊だ。

 

「さて諸君、ミッションを説明する」

 

部屋の前方、運び込まれたであろうホログラムディスプレイの側に立つ壮年の男性が声を張った。彼がこの特殊部隊を率いる部隊長だ。確か、階級は大尉だったか。

 

「今回の作戦目標は、研究施設から脱走した試作ガイノイドタイプM-3を捕獲若しくは破壊する事だ」

 

その言葉に続いて空中に投影された画像が切り替わる。映し出されたのは小柄な少女の写真だった。どうやら、こいつが今回の目標らしい。だがそれはプロフィールというには些か趣が異なっていた。作業台の上に横たわっている所を撮影された少女には一切の生気が感じられない。恐らく、稼働前に撮影されたものなのだろう。幾ら機械で出来た人形といえど、一度動き出してしまえばここまで空っぽにはならないからだ。

 

「目標が施設を破壊して逃亡したのが三日前。突如周辺にいた研究員を昏倒させ壁をぶち破って逃げたらしい。またその際、配備直前の強襲打撃ユニットを強奪、基地からの追撃部隊を蹴散らしたようだ」

 

ディスプレイに映し出されたのは、手足を被うような形状のパワードアーマーとそれに付随する武装ユニット群だ。強襲打撃戦用なだけあって、殲滅力と機動力に特化した装備のように見受けられる。いや、これはキツくね?どう考えても歩兵が相手取るものではないよね?

 

「だが彼らが取り付けた発信機のおかげで奴の追跡は問題ない。GPSの信号が確かならば、目標はここ数日トウキョウ都中心部を徘徊しているようだ。奴の目的は不明だがこのチャンスを逃す手はない。都内から出る前に強襲し、これを撃破する」

「たいちょー!流石にコイツの相手するのは荷が重いんですけどー!うちの部隊サイボーグとかいないですよ?」

「そのために助っ人を用意した……まあ、あまり期待出来そうにはないがな」

 

その言葉と共に、全員の視線が俺へと集中する。まあ俺が対魔忍からの援護要員だからなのだが、そこに込められているのは不信感や猜疑心など決して良いとは言えない感情だった。彼らからすれば対魔忍とは敵そのものであり、マイナスの感情を向けるのは至極当然の話で―――。

 

「それにしたって、こんなけったいな格好した奴信頼出来ませんよ……せめて顔見せてくれよ、対魔忍さんよぉ」

 

先程発言した隊員が煽るように俺を見る。どうやら対魔忍だからではなく、俺の恰好が問題だったらしい。今現在の俺の装備は、全身黒に統一され所々に銀の装飾が施されたシンプルなバトルスーツに、鬼の意匠を象った鉄仮面だ。髪も青と白の二色で染色している。気分はまるでコミケのコスプレイヤーだぜ。勿論、これは俺の正体隠すための処置だからな?趣味でもおふざけでもないからな?

 

「言葉を慎め、ジョエル。彼は外部の人間だ。軽薄な態度は問題になるぞ」

 

隊長の脇に控えていた副隊長の男が隊員の発言に苦言を呈する。注意された方は肩をすくめ黙るものの、反省した様子はなくにやけ面はそのままだ。そのやり取りを見届けてから、隊長が再び口を開いた。

 

「だが、ジョエルの言葉にも一理ある。顔も名前も明かそうとしない相手を仲間として信用することは出来ん。せめて、どちらかだけでも我々に預けてはもらえないか」

「……今の私はこの鉄仮面こそが顔であり、作戦用の呼称こそが名だ。それ以上でもそれ以下でもない」

「それでは信用出来ない。経歴や人相の問題ではなく、『自分を一切明かさない』という姿勢を示している者は、仲間とは言えない」

「……否。勘違いしてはいけないよ大尉、私は貴方達の仲間ではない。共通の敵を前に手を組んだ共闘関係だ。ならば信頼出来るかは態度ではなく、実力で判断すべきだ」

「それは、自分が強者であるという自信から出た言葉か?」

「……それこそ否だ。私は他の対魔忍と比べ疑いようもなく弱い。だが、それと任務の達成は別だ。そうだろう?」

 

仮面に装備された変声機によって、男とも女ともつかなくないように変更された俺の声が彼らへと届く。キャラクターのロールプレイを行うように意識的に口調や一人称を変更することで、外部に出力される『田上宗次』という存在を限界まで薄れさせる。これで、謎の助っ人=田上宗次であると判明する可能性を潰すことが出来る。

 

出来ればDNA情報も書き換えられればいいんだけど、それを単体で行うのは異能の領域だ。そればかりは俺にはどうしようもないから、髪の毛一本残さない気概で何とかするしかないな、うん。

 

「フッ、そうだな。君の言うとおりだ、ミスター」

 

コミュニケーションを放棄するかのような俺の態度は間違いなく不愉快なものだろうに、大尉は愉快そうに口角を引き上げた。

 

「さて、続けよう。作戦決行は今夜、ビルの地下駐車場からバンに乗り分けして確認された現在地へ強襲を掛ける。但し目標は機動ユニットを装備しているため、接敵後移動する可能性が非常に高い。よって部隊をδ分隊とγ分隊に分け、それぞれが強襲と追撃の役割を交代交代で行う。何か質問は?」

 

はいはーい!と先程の男が調子良さげな声を出す。

 

「作戦開始って、準備も時間もあるからって明後日になるんじゃないですっけ?ほら、本部が増援のサイボーグ寄越すとかなんとか―――」

「諸事情により開始時刻は前倒しになった。これは作戦本部からの勅令だ。我々は現有戦力のみで状況に対処する」

 

うへ~まじかよー、と愚痴を零す男の言葉を聞き流しながら、俺は急ぎ思考を回す。

 

……作戦決行が今夜?何故前倒した?数週間単位ならまだ分かるが、二日も待てないほど事態は切迫してるのか……?

 

いや、校長からそんな話は聞いてないし、例のガイノイドの動向は優先して回して貰っているが特に異常はないらしい。つまりそちらが原因ではない。残る原因は……外部からの介入か?

 

もしそうなら、対魔忍への早期接触も納得がいく。外部勢力が介入する状況を嫌ったのだ。横から割り込まれるくらいなら、いっそ状況に引き入れて予定内へ組み込もうという腹積もりか?

 

何か、一気にきな臭くなってきたぞぉ?想定よりも作戦決行早すぎて準備する暇がないのも痛いし、今のうちにとんずらするか……?ああでも、それして後々倍になって帰ってくるのは嫌だなぁ。

 

……仕方ない、今回は流れに任せるとしよう。上手くいけば御の字、乱入されてもそいつらにガイノイドかち合わせて疲弊した所を漁夫の利。なんて完璧な作戦なんだぁ……(思考停止)。

 

「……以上だ。各員はこれより準待機に入れ。22:00からオペレーションを開始する。解散っ!」

 

隊長の鋭い号令と共に、全員が一斉に立ち上がる。おぉ、これがホンモノの職業軍人か。ウチの学生共とはわけが違うな。

 

「っと、そうだお客人!」

 

さっさと準備せにゃ、と遅れて立ち上がった俺を副隊長が呼び止めた。

 

「悪いがあんたはこの敷地から出ないでくれ!こっちから頼んだ事とはいえ、俺らはあんたをまだ信用しちゃいないんだ!」

「……了解した。指揮系統はそちらに委任したのだ、命令に従おう。だが、武装は全て用意してもらうぞ」

「勿論だ。経費は精算済みだ、ガンガンバラまいてくれ」

 

そう冗句を飛ばし、彼はその場から立ち去った。会議室には、もう誰もいない。

 

しかし参ったな。僅かな下準備どころか、武装の調達も出来ないとは。一応米連が用意してくれるから調達費用こそ浮くけど……他人が用意した武器、あんまし使いたくないんだよねぇ……。ほら、何かトラップ仕掛けてるかもじゃん?

 

とはいえ、今からでは十分な物を揃えることは出来ない。ここは大人しく支給品貰って、出来る限り精査するしかないか。

 

「おっ、まだいたか。おーい、対魔忍ー!」

 

席を立とうとした瞬間陽気な声を投げかけられ、思わず上がりかけた腰が止まる。何事かと思えば、会議中にさんざん煽り倒して来た若い男が此方へ向かっているのが見えた。わざわざ俺に用事何てあるのか……?

 

「……何か用か?」

「そりゃ勿論、同じ任務に参加する仲間に挨拶をと思ってな。よろしく頼むぜぃ」

 

ソイツは気軽な口調でそう言うと、スッと手を差し出してくる。俺はそれを一瞥し、当然のように手を()()()()()に「よろしく」とだけ返した。

 

「……んだよ、つれねぇな。もうちょいと信用される努力をするべきじゃねえの?後ろから刺されても知らねえぞ?」

「チームであっても仲間ではない。馴れ合いは不要だろう」

「ふーん、まぁいいけどよ」

 

彼は口を尖らせながらつまらなそうにそっぽを向いた。

 

 

「急な作戦だから武装とか持ち合わせないだろ?倉庫に案内するから、そこで使う装備見繕ってくれよ」

「……随分と気前がいいんだな」

「そういう契約だからな。ほれ、こっちだ」  

 

付いて来いと言って歩き出した彼の後ろを少し離れて付いていく。エレベーターに乗って向かった先は地下二階、日の光が一切届かない文字通りのアンダーグラウンドにこそ彼らの生命線はあった。幾つかのオフィスをぶち抜いたであろう部屋の中には所狭しとガンラックが並べられており、数えるのも億劫になるほどの武装やオプションが丁重に引っ掛けられていた。

 

「この中から好きに選んでくれ。分からないことは質問してもいいが、怪しい素振り見せたら怖~い奴らから鉛がプレゼントされるからな」

 

その言葉を聞くや否や、俺は足早に棚の間を練り歩き始める。可能な限り最小の時間消費で今回の任務に最適な武装をピックアップしていく。

 

しかし、よく見て分かったけど種類自体は少ないんだな。突撃銃はM4、短機関銃はMP5かMP7ばかりが並んでる。まあ秘匿部隊とはいえ、軍隊内に存在する一部隊だから規格が統一されているんだろう。同じ部隊で装備が全く違うなんてことは正規軍の性質上ありえないからな。我らが自衛隊はオプションパーツ自腹らしいけど。

 

まあいいか。選択肢少ないならその分悩まなくていいから構わないし。というかマジモンの特殊作戦群(SOCOM)仕様使うの初めてだからwktkが止まらんわ。おぉ、整備用の工具もめっさ充実しとるやん!これはバラしがいがありますねぇ……!

 

「……それ、今から全部バラすのか?」

 

俺が一通りの装備を選んで整備台に持ち込んだところで、壁に寄りかかっていた彼が呆れたように声を発した。

 

「一応こっちのプロフェッショナルがきっちり整備してるんだけど。そこまでやる必要あるか?」

「一つのミスで作戦が破綻する。自分の目で確かめないと安心出来ないだろう」

「……おいおい、ほんとに対魔忍か……?」

 

失礼な。これでも一応(所属は)対魔忍やぞ。

 

「へぇ、なかなかどうして、様になってるじゃないか。いつも自分でやってんのか?」

「こればかりは他人に任せるわけにはいかない。肝心な時に故障なぞされても堪らないからな」

「だからってパーツバラすか普通?」

 

ひぇぇ、何て呆れた素振りを見せながらも、彼は隣に腰を下ろし俺の手元へ視線を向け続ける。いや、見られながらでも作業に支障ないからいいけどさ。面白いかこれ?

 

カチャカチャとパーツを弄る音だけが響く。見張りの歩哨も彼も一言すら発さず、ただただ静謐な時間が流れていく。そうして、一通りの点検を終えて部品を組み立て直し始めた頃、軋むような扉の開く異音が俺達の意識を引き戻した。

 

「おいジョエル、何時までかかってんだっ。さっさと会議室に……ぁん?」

 

がなり立てるような扉の音と共に入ってきたのは、作戦会議の場にも顔を出していた白髪の女だった。右目は黒い眼帯によって塞がれ、何だその、ボディコン?みたいな丈の短い服を着てコートとタイツを着込んでいる。それ何か意味あるのか……?

 

「おお、アイナ!何だよお前が来るなんてな。暇なのか?」

「ちげぇよ!ついでに顔見せしておけってパシられたんだよ……!」

 

何やら口汚い言葉を放っているようだが、ちょっと聞き捨てならない名前が出てきたぞ。米連の情報群所属で眼帯……まさか、アイナ・ウィンチェスターか!?

 

「……こんな所で、まさか二挺拳銃(トゥーハンド)にお目にかかれるとはな」

「何だ、俺の名前ってタイマニンのNard(陰キャ野郎)にも広まってんのかよ。」

「米連屈指のガン=カタ(玉遊び)使いだと聞いた。お手玉が趣味何て女の子らしいじゃあないか。あぁ、それとも男のタマを転がす方がお得意なのか?」

「て、てめぇ……!」

「まあまあまあ!二人ともその辺にしとけって!これからお手繋いで仲良く戦うってのに、煽ってどうすんだよ!」

 

アイナ・ウィンチェスター。二挺拳銃という二つ名で恐れられている米連所属の名有り(ネームド)だ。二振りの大型拳銃を手に、能力値的に格上である魔族や対魔忍と渡り合ってきたエースだ。

 

身体能力こそ人の域を出ないが、その巧みなCQB(近接戦闘)で苛烈に敵を屠る姿は米連のみならず敵である魔族や対魔忍にその名を轟かせるには十分だった。どんな世界でも、拳銃二丁ぶら下げてる奴はヤバいやつしかいないんだな……。

 

何か煽られたからとりあえず煽り返したけど、正直コイツとはやり合いたくない。負けが見えてる勝負しなきゃいけないとかどんな罰ゲームだ。

 

「ちっ……おい対魔忍、だったら(コイツ)で白黒付けるぞ。てめぇら好きなんだろ?西部劇に出てくるガンマンみたいな決闘ごっこがよぉ。それとも、負けるのが怖いか?」

「ああ、怖いな。だから私の負けで構わん」

「……何だよ、本当にタマナシかよ」

 

今度は吐き捨てるような舌打ちを響かせ、彼女は部屋の壁へと寄りかかる。俺は見ていないが、きっと凄い表情になっているだろうことが伺える険悪な雰囲気である。

 

「おいおい……悪いな、アイナの奴気が立ってるみたいでよ。面倒だとは思うが、多めに見てやってくれ」

 

こそっと耳打ちされた言葉に無言の首肯で返答する。正直、罵倒や僻み妬みは慣れてるからあんま気にならないし。

 

「しっかし、自動拳銃(オートマチック)ってのは中がごちゃごちゃしててわけわからんな。よく弾詰まりす(ジャム)るし、そんなもんわざわざ使う気がしれんわ」

「そりゃあ、お前みたいに作戦中一回は必ずトラブル起こす加護なんざ誰も持ってねえからな」

「いーや!誰も解ってない!男は黙ってリボルバー!これこそが真理だということをっ。てゆうかお前も同じ穴のムジナだろうが!」

「俺はお前と違ってロマンなんぞ求めてねえよ。習得した技術に一番合致してたのがコイツだった、それだけの話だ」

 

また始まった、と言わんばかりにウィンチェスターは話を切り上げようとする。多分いつもの光景なのだろう。

 

会話に釣られてチラリと目を向けてみると、男の手にはその文言に違わず一丁のリボルバーが握られている。あれは……S&W M500?50口径のマグナム弾が撃てる大口径リボルバーか。典型的な威力重視か……というかテンプレ過ぎないか?

 

「なあ対魔忍!アンタ、サイドアーム変えてみる気はあるか?」

「断る。装弾数も継戦能力もオートマチックの方が有利だ。わざわざ変更する必要性がない」

「えぇ~?でもパワフルだぜ?あのオーク(クソブタ)共も一撃で脳漿ぶちまけられるのはたまんねぇ!」

「生憎と、そう言ったロマンとは無縁でな。他を当たってくれ」

「おいジョエルぅ。誰彼構わず勧誘する癖いい加減治せよ。それで武装変えた奴なんて一人もいないだろ」

 

しつこく食い下がる彼に対してウィンチェスターは呆れたように窘める。ていうかいつもこんな事してんのか。

 

そしてそんなやり取りすらいつも通りなのだろう、彼はいじけたような口調で更に続ける。

 

「でもよぉ……せっかく日本に来たんだから、『いいセンスだ』とか言ってみたいじゃん?」

「だからお前の趣味には誰も付いていけないって……」

「確かに、私なら『ツーマンセルで二挺下げても弾詰まり(ジャム)が怖い?』にするだろうな」

「だ・か・ら!アンタの好み(オタク趣味)が解る奴はウチにはいない……あれ?」

「え?」

「ん?」

 

知っている台詞が出たので、思わず横槍を入れてみたら返ってきたのは自らの耳を疑うかのように響く疑問符だった。次いで困惑したような声を出したので、俺も思わず顔を上げてそちらを見た。

 

 

一瞬の沈黙。

 

「お、おおおおおぉぉそうそうそうなんだよそういうのが欲しかったんだよ周り誰も同じ趣味の奴いないしリボルバー使い始めたのにどいつもこいつもバカを見る目で見てくるしよおでももう逃がさねえせっかく巡り会えた同士よ語り合おうひたすら語り合おう寝る間も惜しんで朝までずっと!!!!」

「おおおおぉぉぉぉおおおおおお!?!?」

「うっわ、こんなにテンションたけえとこ初めて見た。きしょ……」

 

同好の士と出会ったオタクがどれだけパワフルで、面倒くさくて、そして死ぬほど気持ち悪いのか、俺はその日文字通り身体で実感するのだった。

 

 

△ ▼ △ ▼

 

「悪い、遅くなった」

「うぉぉお……せっかく楽しいお話しようと思ったのにぃ……」

「まだ言うのかよ。仕事だ仕事」

 

カシュッという空気の抜けるような音と共にアイナとジョエルはとある部屋へと足を踏み入れる。そこは最上階にある特務部隊のみが入室することを許されるブリーフィングルーム。同じ米連の職員や戦闘員すら耳に入れることが許されない機密事項が、この部屋では我が物顔で飛び交うのだ。早い話、堂々と内緒話出来る部屋である。

 

「よく戻ったな。では、どうだった?彼は」

 

薄暗い部屋の最奥で、大尉が労いと問いを投げかける。それに伴い、部屋にあった全ての瞳が彼ら二人に向けられた。

 

そう、現在この部屋の人数は21名。今回の作戦要員が()()()()()()()全員揃っている。そんな彼らが話し合うべき議題はただ一つ。

 

「銃火器に関する知識は豊富、恐らく特定の武装に対するこだわりはなし。一々武装を完全分解するほど徹底的で油断なく、かつ必要な技術も習得済み。天賦の才ではなく努力と経験の積み重ねで戦うタイプと見た」

 

パッと解るのはこの程度だな、と付け加えて、アイナは口を閉じた。

 

彼女だって職業軍人、しかも銃使いのプロフェッショナルだ。銃の扱いを見れば、その人がどういう考え方でその銃を手に取っているかなど簡単に見抜ける。例えば自分のような戦闘者は、その腕が立てば立つほど、特定の武装―――例えば聖剣や魔剣等のような―――にこだわる事が多い。使い続けたことで、それらが手に馴染み肉体の延長線上になるからだ。

 

そして、彼はその真逆のタイプ……自分が使う物に一切拘らない人間だ。決して()()()が起こらないよう細心の注意を持って万全の状態を維持するだろうが、それはあくまで道具として、手段としてに過ぎない。もしそれらが邪魔になったら即座に切り捨てるだろう。そんな手付きだった。

 

「ジョエル、お前はどうだ?手筈通りにやったんだろう?」

「勿論、いつものようにやりましたよ。いやー全然だめっすね、全く隙を見せやしねえ。あんな手合い初めてっすよ」

 

ジョエルは呆れたように肩をすくめる。どこか疲労感漂う姿だった。

 

彼ら特殊検索群s分遣隊が対魔忍などの外部勢力と共闘するのは初めてではない。それどころか数十を数えられるほどだ。これは彼らの主任務が『日本国における米連部隊活動権確保のための障害排除及び機密情報流出の阻止』というものであり、活動範囲が日本に限定されているためである。

 

表向き武力行使が禁止されている国家であるため無用なトラブルを避けるべく現地勢力との折衝は不可欠であり、その上で共闘という名目の監視が発生するのは必然なのだ。

 

とは言え、派遣される戦闘員が信用出来るかは完全に未知数であり、下手をすれば背中から撃たれる事態もザラだ。そこで一計を案じた結果が、隊員複数名による抜き打ち検査である。

 

今回の場合は、精神的な敵役としてアイナが批判的な対応をし、ジョエルがそれを庇うというロールを行う心理学的アプローチだ。こうすることで『共通の敵』という概念を作り出し、ジョエル=味方という意識を刷り込ませ本心を引き出す隙を見いだせる。ネームバリューがあり男勝りなアイナとお調子者でジョークが得意なジョエルの二人にはピッタリな配役であり、今までもそれなりに成果を出している方法だった。

 

しかし。

 

「会話はちゃんとするしこっちに合わせて冗句とかも言うから表向き普通に話せるんだが、絶対に警戒は解かず懐に入り込ませない。常に不意打ちされた場合を想定してそれと分からないように身構えてるし、トラップ対策なのかこっちが触ったものに触れない。身体接触も避けてるらしいから、こっちからアクション取ってもそれとなく避けてるし。俺が触れたの一回だけだぜ?」

「あれはお前が突然発狂したからだろ」

「日本に来て数年、漸く趣味会う奴と会えたんだぞ?そりゃああもなるだろ!」

 

ある程度話も出来たから俺は満足だ、とジョエルは本当に嬉しそうに頷く。ちなみにアイナがジョエルを呼びに行ってから(というフリをしたロールプレイだが)一時間は経っている。

 

仕事中は慎めよ、と副隊長を勤める少尉は一言だけ注意してから、更に確認を重ねる。

 

「それで、戦闘能力はどの程度だろう。ブリーフィングでは大したものではないと発言していたが」

「あー……実際見てはいないが、事実だと思う。少なくとも、自分の能力に自信を持っている感じではなかったな。俺の挑発も『負けでいい』とか言ってスルーしてたから力の優劣とかどうでもいいと思ってそうだ」

 

そこで言葉を切って、アイナは顎に手を当てしばし黙り込む。どう結論を出すか慎重に考えてから、再度口を開く。

 

「多分戦闘能力は俺達と同等、対魔忍の身体能力分プラスってところだな。真っ向勝負なら俺の方に歩が有るだろうが、恐らく正面戦闘は全力で避けて有利な舞台を整えて殺しに来るはずだ。自分の弱さを理解した上で冷静に、油断なく、誇りを持たず、容赦なく敵を殺す。どちらかと言えば戦士(Warrior)ではなく兵士(Soldier)だな」

 

そこまで言い切って、アイナはうんと頷きを一つ。自分でも納得のいく結論だったと満足そうに。

 

「総評すれば」

 

彼女たちの言葉を聞き終えた大尉は、自分の中で解釈した内容を部隊に共有するようにゆっくり、所々を区切りながら話す。

 

「彼は共闘相手を敵として考えるほどに油断なく、対魔忍に関わらず誇りも持たない。戦う理由も愛国心や信念ではなく、あくまで任務遂行のため。そして、()()()()()()、と」

 

聞けば聞くほど対魔忍とは思えない人物像。どちらかと言えば米連の兵士のようだ。『凶悪な武装ガイノイドに対抗出来る戦力』を求めていた彼らにとっては最も不要な部類の人材だった……が。

 

 

()()()()

 

ニヤリ、と思わず笑いながら大尉は結論を口にした。

 

その言葉に、「違いない」「今までで一番の当たりですな」「こんなにジャパニーズニンジャらしくない奴は初めてだぜ」と同じような表情をしつつ同意する。

 

これまで共闘した対魔忍は力に任せた脳筋か、思考の凝り固まった正義中毒者ばかりで、当然元々敵であり自分達より根本的に弱い米連の兵士とは反りが合わず衝突することが多かった。しかし今回の彼は違う。

 

油断しないのは戦闘者として当然で、戦場に思想を持ち込まないのは好ましい。あくまで仕事として戦うのなら此方との衝突もないだろうし、何より能力差を考慮せず共同歩調が取れる。

 

敵との戦力差等、戦略と戦術でどうとでも覆せる。何せ彼等は幾多の格上と戦い乗り越えてきたその道のプロだ。高が武装したブリキ人形一体に臆するなど有り得ない。それが更に一人増えるのだ、頼もしい限りではないか。

 

「では、決議を取る。彼と()()することに反対の者は?」

 

あえて仰々しく、大尉は全員に答えを呼び掛ける。

 

 

沈黙。彼らの結論は決まりきっていた。

 

 

「よし。現時刻より、彼を我々の友軍(パートナー)として認識する。勝つためなら手段を選ばない心強い援軍だ。各員、後ろから撃たれないように気合いを入れてかかれ!」

『Yes、Sir!』

 

異口同音の怒号が部屋を震わす。彼ら2()2()()は既に運命共同体、共に生きそして帰るため鋼の意志と鉛の弾丸で繋がれた半身となった。天まで届けと言わんばかりの雄叫びは、その宣誓なのだ。

 

 

△ ▼ △ ▼

一方その頃。

 

「へっぷし!」

(な、何で急にくしゃみが……はっ!さては誰かが俺の噂をしているな!)

 

一人はぶられた宗次は、倉庫で寂しく工作に勤しむのであった。ちなみに、内心ハイテンションなのは意識的に自身を抑圧していた反動だったりする。

 

 

 




長い時間かけてチマチマ書いてたせいで書き方ごちゃごちゃっ。

というわけで特殊部隊、ロマンですね。分からない人もいると思いますが、情報軍は伊藤計劃氏の虐殺器官から設定を引用してます。対魔忍世界は非正規部隊色々いるからこういうのもちゃんといそう。ただ情報軍自体架空のアメリカ第五軍なので、資料とか殆どないのがネックです。

ゲストキャラ予想が多々見られた中、選ばれたのは、アイナでした。というか米連の人この人くらいしかピンと来ないんだよなぁ。

一応この後の展開は決まってますが、はてさて次はいつになるか…筆が乗るかどうかが全てなので。まあ戦闘とかあるから多分……大丈夫……。

ちなみに、今回の宗次君の服装はFGOのシグルド(第一再臨)のコスプレです。

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