その対魔忍、平凡につき   作:セキシキ

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中継ぎ回、というか状況整理がメインなので少し短めです。

執筆途中に『虐殺器官』読んだせいで、若干世界観混ざっちゃったので少し注意。


FLY ME TO THE MOON

『……そう、厄介な事になったわね』

 

俺からの報告を、井河アサギは通信越しにそう締めくくった。

 

不意の遭遇戦を何とか切り抜け、一先ず近隣にあった自然公園へと撤退した後、俺は真っ先に状況報告を行った。ただ単にガイノイドを相手取るだけでは済まなくなったからだ。

 

「サイボーグを始めとした機械兵装の運用に特化した米連内の特務機関。それが、今回暴走したガイノイドを確保しようと動いたようです」

『そのガイノイド、それ程の価値があるの?」

「そこまでは。完全自律型の人工知能を搭載しているそうですが、わざわざ戦力を出して追いかける価値があるかは何とも」

 

事前に貰ったデータは確認したが、その『G機関』とやらがわざわざ手を出す意義があるとは思えなかった。とはいえ、それは俺の考える問題ではない。

 

『米連内の特殊部隊を動かせる程の影響力を持っているのね。厄介だわ……』

「いえ、そこはまた別口だそうです」

『別口?G機関ではないと?』

「正確には、G機関に唆された勢力の仕業だそうで。G機関単体で特殊作戦群(タスクフォース)を動かす権限は、流石にないと」

 

所謂特殊部隊は、1組織の思惑で簡単に動かせる程軽くはない。そもそも戦争状態にない国に許可なく部隊を送り込む事自体重大な越権行為であり、非常に高いリスクを有する。

 

更に言えば、それらの部隊は全て特殊作戦軍(SOCOM)の管理下にある。特殊部隊を運用するには、最低でも陸海空に加え海兵隊と情報軍を合わせた5軍のいずれかと特殊作戦軍を動かす権限が必要となってくる。高度な訓練を積んだ精鋭と最新鋭の兵器を運用する事は、そうやすやすと出来ることではない。例え1機関の長だとしてもだ。

 

勿論、特殊部隊という体を装った私兵集団の場合はこの限りではないが、今回遭遇したのは米連が管理している正規の軍人で構成された部隊だ。正規の手続きを踏まねば運用出来ない以上、私兵として使えるとは思えない。

 

『つまり、それを可能とする魔法があるというわけね』

「はい。どうやら彼らは、()()復権派と手を組んだそうです』

『……米国?どういうこと?』

「これが、少々面倒な話でして……」

 

まず前提として、米連はアメリカと太平洋諸国によって構成される連邦国家だ。南米アメリカ大陸に東南アジアの一部、台湾や朝鮮半島の一部などが同盟を組み超巨大国家として成立している。

 

米連のトップは当然全ての構成体を束ねる連邦政府だが、その下である各地域はそれぞれの自治体ーーー政府と言い換えてもいいーーーが統治運営している。米連という国家の規模は絶大だが、その下は幾つもの国家の寄り合い所帯というわけだ。そしてその中で、様々な思惑を持った派閥や勢力が存在する形となる。

 

米国復権派とは、そんな勢力の中でも『アメリカという国こそが世界を諸国を統べるべき』と考えを持つ懐古主義者共の集まりだ。『世界の警察』であったアメリカ合衆国時代を忘れられない老人達が主な構成員で、米連の構成国家をアメリカとして支配する事を夢見ているらしい。

 

こいつらの厄介な所は、構成員に政府や軍の要職を務める奴が多いせいで、多少の無茶でも押し通す権力があることだ。

 

馬鹿な話だ。人種も宗教も異なり海に隔たれた国々を、たった一国で支配し切れるわけがなかろうに。

 

更に言えばそれを実行する段階で、多大な時間や資金、下手したら人材が失われるのだ。その隙を魔族に突かれてみろ、絶対に大惨事だぞ。

 

『でも、何でそんな連中が今回の件に手を出すの?何もメリットもなさそうだけれど』

「例のガイノイド、アジア圏の構成国が主動したプロジェクトだそうです。暴走した躯体を抑えれば、スキャンダルの種を一つ作れるとかなんとか」

『曖昧な物言いね。貴方にしては珍しいわ』

「全部又聞きですから。何せ今回は事前調査の時間がなかったもので」

 

本来なら介入してくる可能性がある勢力まで調べる所だが、残念な事に作戦前の準備時間がなかったためノータッチだ。全部米連と通話相手(アサギ)のせいである。

 

『とにかく、状況は理解したわ。それで?これからどうするつもり?』

「ガイノイド一体なら兎も角、サイボーグ集団相手は分が悪過ぎる。増援を要請します」

 

わざわざ復権派にアプローチを掛け特殊部隊まで動員させたというのなら、確実にガイノイドを確保する体制を整えていると見るべきだ。そうなると、相手の切り札は専門分野であるサイボーグ兵である可能性が非常に高い。

 

手足か、場合によっては脳幹まで機械部品に換装した外法の化物たち。ある意味SFとかの定番ではあるが、そんな物に対抗する力は俺にはない。感知圏外から狙撃で仕留めるか、罠で嵌め殺すか……どちらにせよ今の装備では厳しいし、何よりガイノイドを確保する余裕などない。敵を倒せたとしても、目標を逃したでは本末転倒だ。

 

『いいえ。すぐに援護は出さないわ』

 

しかし、アサギからの返事は無慈悲な否定だった。

 

「……何故です?私の戦闘力はよくご存知の筈ですが」

『ええ、よく分かっているわ。でもここで対魔忍が大きく動けば、G機関も対抗して戦力を出して来るでしょう。そうなれば、大規模な正面戦闘が行われる事になる……東京の被害を抑えるという本来の目的が果たせなくなるわ』

 

なるほど、確かに最もな話だ。今、相手にとっては対魔忍は静観しているという認識なのだろう。つまり現状、表向きには米連内部の派閥争いに終始しているわけだ。もしここで対魔忍が動けば、G機関は横槍を入れられたと考え部隊を動かすことになる。

 

戦闘に長けた対魔忍とサイボーグの部隊による衝突、下手すれば民間人まで被害が出るだろう。俺としては、俺が安全になるなら別に構わないんだが……まあそうもいかんわな。

 

「とはいえ、現状の戦力で対処しきれない事には変わりません。どうするつもりで?」

『敵が複数の場合のみ、増援を出します。少数ならそちらで足留めしている間に、紫にガイノイドを潰させるわ』

「……八津先生を出すんですか?こういっては何ですが、他の上忍でも十分なのでは?」

『何とか任務の間を見つけて待機させてるわ。他の戦闘を専門してる対魔忍が、敵を前に大人しく待ってられると思う?』

 

嫌な説得力だった。ぐうの音も出ねえや。

 

「……基本は現有戦力のみで対処、敵増援がある場合のみ支援が動員される。了解しました、友軍と合流し行動を開始します」

『頼むわ』

 

咽頭マイクの電源を切り、通信を終了する。同時に、マスクの消音システムも解除する。これが有るからこそ、聞き耳を気にする事なく通信出来るのだ。

 

「おう、戻ったか。どうだった?」

 

茂みから歩み出た俺に、ワゴンに寄りかかっていたウィンチェスターが声を掛けてくる。俺は、それに対し首を横に振った。

 

「状況は説明したが、敵の出方が分かるまで増援は出せないと。下手に介入した結果、対処出来ない事態へ移行する事を厭ったのだろう」

「おいおい、マジか。こりゃ本格的に被害が出る事も念頭に置かなきゃならんな」

 

縁起でもねえ、とウィンチェスターは頭を掻く。被害と書いて犠牲と読むのは言わずもがなだ。

 

「下手すりゃフル装備のガイノイドにサイボーグ集団相手にしなきゃいけねえのか……気が滅入るぜ」

「同感だ」

「お前、実はサイボーグ倒す秘策とか持ってたりしない?」

「ないな。サイボーグから逃げる手段なら兎も角、倒す手段は持ち合わせていない」

「んだよ、頼りになんねえなぁ」

「最初にそう言ったはずだが?」

 

先の遭遇戦では何とか被害を出さずに済んだが、ここからはそうは行かないだろう。さっきのはあくまで前哨戦なのだ。

 

「それより、そろそろ合流予定時間のはずだ。γ分隊は?」

「おう、さっき来た連絡じゃあもうすぐ……っと、来た来た」

 

ウィンチェスターが視線を向けた先を見ると公園の入口から一台のバンが此方へ徐行してくる。作戦前に見たγ分隊の車で間違いないようだ。車体はそのまま吸い寄せられるように、俺達の横へと停車した

 

「全員揃っているな」

 

スライドドアが開き、部隊長である大尉が待機していたδ分隊を見渡す。それだけで、弛緩していた面々の表情が一気に引き締まる。続けて降車したγ分隊が車体に隠れながら周囲に円陣を敷く。

 

「手短にブリーフィングを行うぞ。こちらの分隊への説明はもう済ませてある」

 

その言葉を受け、俺達は大尉の元へと近付く。

 

「まず現状だ。対象は現在逃走中、敵特務部隊はそれを追撃している。散発的に発砲が確認されているが、牽制程度だ。恐らく本命へ追い込むつもりだろう」

 

本命……つまりサイボーグ部隊。彼等の切り札にして主力だろう。特殊部隊はそのための当て馬……下手をすれば捨て駒の可能性すらある。

 

「対して我々の状況だが、正直芳しくはない。先の戦闘で被害はないが、敵戦力が増大している以上彼我の戦力差はかなり厳しい」

 

大尉の言葉に、無言の首肯を返す。此方の戦力がここにいる22人で打ち止めなのに対して、彼等の戦力はまだ底が見えていない。

 

先に接触した部隊がただの斥候として、総動員数はどれほどか?装備の質は?本命のサイボーグの戦闘力は?もしや他に部隊がいるのでは?不透明な情報が多過ぎる。

 

「そこで此方としては、対魔忍の助力を請いたい所だが……δ3、どうだ?」

「確認はとったが、直ぐには動けないという回答だ。敵サイボーグが複数確認出来た時点で動くが、少数の場合は動かないだろう」

「厶……確かに、イタズラに戦力を動員して状況を混乱させるのは我々としても避けたいが……」

「逆に聞くが、そちらには追加戦力の宛はないのか?」

「本来なら増援の用意があったのだがな……作戦決行を早めたためにそれも間に合わん。敵勢力の介入を避ける為に前倒しにしたというのに、結局この始末だ」

 

険しい表情をしつつ、大尉は額に手を当てた。詰まる処、情報軍側の戦力はこれで全部なのだ。そんな状態で、サイボーグと特殊部隊の相手をしつつガイノイドを確保する?いや無理だろ、何で無駄に難易度高いんだ。これそろそろ撤退していいよね?ね?よし、戦闘が始まるどさくさに紛れてトンズラするか!幸い逃走用のバイク隠した場所近いしな!

 

俺が具体的な撤退方法を思案し始めた所で、ウィンチェスターが挙手で発言の意を示した。

 

「やべぇ状況なのは分かった。それで?具体的にはどうすんだって話だよ。そこだろ一番大事なのは」

「……先に情報共有が必要だと思ったからこそこの話をしたのだがね。相変わらず、お前はせっかちだな」

「うっせ!余計なお世話だ!」

「まあ、一応筋道は立てたがな。必要な物も、用意した……おい」

 

……え?こっから何とか出来る方法あんの?『各人の奮戦で補う!』みたいな事言われたらヤダよ俺。

 

大尉がγ分隊のうち数人に合図をすると、彼らは後部座席から黒いケースを引っ張り出した。大きさは丁度成人男性だろうか。

 

「さて、δ3。君は銃火器の扱いに慣れていると見たが……これは使えるかね?」

 

ゴトン、と重い音をたてて地面へと置かれたケース。大尉は蓋を開けてその中身を俺に見せながら問い掛けた。

 

「バレットM82か」

「ああ。それも魔術処置で消音性を高めた特務仕様だ」

 

開発されてから30年近く経った今でも、世界中で使用されている対物(アンチマテリアル)ライフルの代表的存在。それが組立られた状態で、梱包材の中から牙を剥く瞬間を今か今かと待ち焦がれていた。

 

マウントレールにはどでかいスコープのような筒が設置され、下部には折り畳まれたバイポッド、銃口のサプレッサーはマズルブレーキに上から被せるように装着されている。ということは、バリエーションのM107A1か。

 

「マウントされたスコープは、対象の挙動を解析し予測される動きを投影する精密射撃支援システムを搭載している。目標は飛行しているが、これがあれば少しは狙いやすいだろう」

「……予測精度は?」

「反復動作なら非常に高い精度でトラッキング出来る。例のガイノイドとて回避行動はプログラムに従っているにすぎん」

「機械的な回避運動なら予測出来る、か」

 

最新技術の塊に、思わず俺も息を飲む。数秒とはいえ解析と計算での未来予知が、ライフルにマウント出来るサイズで可能なのか……恐ろしや、米連の技術。

 

「おい待てよ。確か目標の索敵範囲は2kmあっただろ。M82の射程でも探知されんじゃねえか?」

 

ウィンチェスターの発言を聞いて、俺は数刻前に確認したガイノイドのカタログスペックを思い起こす。

 

本体の探知能力は並み程度だが、オプションとして専用のUAVが搭載されていたはずだ。上空で本体に追随するそれが半径2kmを監視し、敵対行動を取る物体を捕捉する仕組みだ。携行武装の中で最大火力である対物ライフルでも射程は2kmほど、バレットM82といえど例外ではない。

 

本体を攻撃しようとすれば必然UAVに察知され、先にUAVを叩こうとすれば警戒される。まさに盤石な体制と言えるだろう。

 

部隊員の視線が集中する中で、大尉はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「それを超える為に、わざわざこれを接収したんだ」

 

そう言うと、彼はガンケースの中からマガジンを一つ取り出す。更に悠々とした手付きでマガジンから弾丸を一発抜き出すと、俺たちに見せた……っと、この形状は!?

 

「日本支部第八技術研究所から調達してきたIAP弾。爆発のエネルギーを閉じ込めて炸薬代わりにするイカれた代物だが、専用にチューンされたコイツ(M82)とセットで使えば3kmまで狙撃可能だ」

 

それは、以前俺も使っていた試作品の特殊弾頭。あの時は通常のライフル弾を対物ライフル並みに強化するためだったが……あいつら、開き直って対物ライフルに手ぇ出しやがったな!?

 

「計算上では、3kmからでも有効打を与えられる。これを使って敵サイボーグを撃破、余力があれば目標を空から引きずり下ろす」

「しかし隊長。理論上それが可能だとして、それを誰がやるんです?これほどの長距離砲撃、我々とて容易ではないですよ」

「うむ、それくらい解っている。我々は市街戦が主で、マークスマンはともかく長距離狙撃は得手ではないからな」

 

そこで先程の問に戻るわけだ、と大尉は部隊員の疑問へ答える形で同じ問を投げ掛けた。

 

「対魔忍。お前、狙撃は得意か?」

()()()よりは得意だな」

 

俺はM4を揺らしながら答える。大尉は再び不敵に笑った。

 

「決まりだな。γ、δ分隊は同時に目標を追跡、δ3の狙撃に合わせて強襲をかける」

 

大尉はM82を俺に渡すと、隊員全員へと号令をかける。

 

「出撃する!γ、δ分隊は各位車両にて目標を追跡、δ3の狙撃に合わせ攻撃、確保する!全員乗車!」

 

その命令を聞くやいなや、周辺警戒を行っていた隊員たちが車内へと駆け込む。ブリーフィングを聞いていた奴δ分隊員も同様だ。

 

「盗聴を避けるため此方から直接指示はしないが、目標及び敵勢力の位置は随時報告する。戦況は指揮所(command post)のオペレーターから確認してくれ」

「気張れよ相棒、外したら承知しねえからな!」

 

大尉とウィンチェスターがそれぞれ俺の肩と背中を叩き、車へと乗り込む。2台のバンは高らかにエンジンを吹かし、夜の街へと消えていった。

 

「……好き勝手言ってくれるな、全く」

『ーーー……此方Command post。δ3、聞こえますか?』

「聞こえている。お前が大尉の言っていたオペレーターだな?」

『はい。戦況を貴方へと伝達、指示を送ります。宜しくお願いしますね、Mr.NINJA?』

「了解した。早速で悪いが、想定される戦闘域を教えてくれ。狙撃地点を策定する」

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △

「A小隊、呼称『ワルキューレ』と接敵(エンゲージ)。目標地点への誘導を開始、B小隊は追撃を継続せよ」

「C小隊の収容完了!救護班は負傷者の手当を急げ!」

「カーゴより連絡。現着まで、あと5分!」

 

蛍光灯とモニターで薄っすら照らされる密室。そこでは多数の電子音やオペレーターの報告、そして無線から聞こえるノイズ混じりの怒号が鳴り止まぬことなく縦横無尽に行き交っていた。

 

そんな中、一言も発する事なく後ろ手を組む初老の男性へ、壮年の男性が静かに声をかけた。

 

「不服ですか、隊長」

「当たり前だ。あの一瞬の会敵で、我々は7名の同胞を喪ったのだ。これが怒らずにいられるものか」

 

そう言って歯を軋ませる彼の視線は、死傷者が担ぎ込まれる様子を映すモニターへと釘付けになっていた。

 

「何故だ?情報軍が動いている事は掴めていた。逆に奴等が我々の存在を認識していなかった以上、アドバンテージは此方にあった筈だ。なのに蓋を開ければ、奴等は無傷。此方は一個小隊を無意味に撤退させねばならなかった……」

「隊長……」

 

初老の男はそう言って嘆き、それよりも強い自噴で拳を握り締める。

 

彼こそ、情報軍特殊検索群s分遣隊δ分隊と接敵した特殊部隊『404中隊』の中隊長であり、この密室は彼等を統括する中隊本部(headquaters)なのだ。

 

「……それを言うのなら、今回の作戦も強引です。急過ぎる作戦指令に加え、中隊総動員なんて……わざわざそこまでする意味が、果たしてあるのでしょうか?」

「結局我々とて、米連の歯車でしかないという事だ。米連の別組織と対立している時点で、派閥争いの駒でしかないことは自明の理だ」

 

現在の米連において、特殊部隊同士のブッキングというのは珍しくない。数多の組織や派閥がひしめく米連において、特殊作戦軍ですらその相関図を把握するのは困難な状況だ。

 

本来であれば特殊作戦軍の本部が所属する部隊の指揮を統括し、部隊の私的利用を避ける仕組みになっている。しかしそれを十全に機能させるには、余りにも内部派閥が複雑すぎた。

 

軍幹部にコネクションを持つ権利者、構成員が上層部まで食い込んでいる巨大派閥。特殊部隊を動かす『鶴の一声』を発する事が出来る人間は少ないが、いないわけではないのだ。

 

「裏で我々を利用している『G』とて、それ単体では国務省の1組織にすぎん。問題は、奴等が軍上層部を唆し抱き込んだことだ。今や我々も、『アメリカ』という国を夢想している連中も、奴等の狗に成り下がっている……滑稽だな」

「しかし、私達は私達の任務をこなさねばなりません。それが、軍人としての仕事ですから」

「解っている、仕事に私情は持ち込まないさ……それでも、こんな状況だ。愚痴の一つも溢れるというものだ。許せ、副長」

「何を今更。貴方と私の仲でしょう?」

 

副長と呼ばれた男の戯けた様子に、ようやく中隊長の表情が柔らかくなる。

 

 

「中隊長!カーゴより連絡!『品物(パッケージ)を持ってきた』とのことです!」

「……来たか。カーゴへ返信しろ!『配達(デリバリー)は予定通り行われたし』とな」

「了解!HQよりカーゴ!配達は予定通り行われたし。繰り返す、配達は予定通り行われたし」

 

「……中佐」

「ああ。これまでの犠牲に意味があったのか……確かめさせて貰おう」

 

 

△ ▼ △ ▼ △

一方、東京上空。

 

大都会の闇を切り裂くかの如く、一機の軍用ヘリが飛翔していた。

 

正確に言えばヘリコプターではなく、回転翼の軸を自在に変更出来るティルトローター式の垂直離着陸機(VTOL)だ。離着陸時には回転翼を真上に向ける事でヘリコプターのように垂直に飛翔・着地する事が出来、飛行時には回転翼の軸を前方へ傾ける事で固定翼機のように高速で目的地へと向かう事を可能とするまさに夢の機体と言っていいだろう。

 

現在機体は回転翼を前面へと向け、固定翼機と同じような状態だ。通常のヘリコプターとは比べ物にならない、それこそ固定翼機さながらの速度で向かうのは東京の片隅。人知れず銃火が鳴り響く戦場だった。

 

『投下地点まで30秒!予定通り積み荷を降ろす、準備しとけよ!』

 

パイロットの通信に合わせ、機体後部のランプドアが解放される。眼下のビル群が発する光によって内部が(つまび)らかにされるが、本来小隊規模の部隊を輸送できるキャビンの中は伽藍洞だった---否、そこには一人分の人影が、戦場を今か今かと待ち望んでいたのだ。

 

「ようやくの出番ね……待ちくたびれたわ」

 

人影はそう呟くと、トループシートから腰を上げ強風が吹き込むランプドアへと歩を進める。眠らない街によって照らされるのは、豊満な身体のラインを強調する特殊ボディスーツ。そして、鋼鉄の手足だ。

 

その女は、煌々と光を放つ街を見下ろす。その先に在るであろう闘争、自身が価値を示す事が出来る唯一の場所を。無線が垂れ流すカウントダウンすら届かぬほど、彼女の意識は吸寄せられる。

 

そして。

 

『投下地点到達!良い旅を(good luck)!』

 

送られた激励を合図に、彼女は自身の身体を宙へ投げ出す。一瞬の浮遊感の後、重力に捕らえられた肉体は地表へ吸寄せられるように落下を始めた。

 

ぐんぐんと落下の速度が上がる。普通に考えれば、コンクリートにミンチ肉をぶちまけてもお釣りが来る高度。しかし彼女の顔には焦りの色など微塵もない。

 

当然だ。彼女の意識は既にその先にいる。身体がそれに追付こうとしているだけなのだから。

 

「さあ、行きましょう。私の戦場へ……!」

 

着地までの短い時間すら惜しいと、その女は感情を声へと乗せる。

 

獰猛な笑みを浮かべるその女の顔は、対魔忍頭領、井河アサギそのものだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも皆さん、お久しぶりです。私です。何とか月1ペースで投稿出来ました…え?もう12月?ハハハご冗談を。

今回は中継ぎ回なので状況説明が多かったですが、次回からはガンガン戦闘シーンに入ると思います。特殊部隊周りは一応調べて書きましたが、間違いがあったらすみません。虐殺器官の世界観ベースに「正規兵大事に!」って感じに書いてしまいましたが、どうなんでしょうかね?対魔忍てバリバリ特殊部隊動いてた気がするけど。


あと突然ですが、皆さんに一つお願いがあります。これから増えるであろう銃撃戦描写の参考に、銃が登場するおすすめの作品を教えて欲しいです!活動報告に枠を作りましたので、そちらに募集をかけています。『この作品の銃撃戦すごかったよ!』というのがあれば、是非教えて下さい!


大人ユキカゼ欲しかった……(白目

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