その対魔忍、平凡につき   作:セキシキ

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皆さん、明けましておめでとうございます(激遅)。

更新めちゃくちゃ遅れてすみませんでした。まさか年どころか年度が明けてしまうとは…マスターデュエル、面白いよねっ(目そらし)

本当は今章を一気に投稿したかったんですが、筆が全く進まなかったのでストックある分だけ投下します。


Dirty Worker

浮遊感と目まぐるしく移り変わる視界から、どこか他人事のように自分が吹き飛ばされた事を理解する。

 

次いで、激痛。

 

「ガッッ」

 

背中がコンクリートに叩きつけられ、肺腑から空気が漏れる。痛みと痺れが全身を覆う感覚に眉を顰めるが、瞬間ゾクリと怖気が走った。脳が判断するよりも早く脊髄が隷下の肉体に逃避を命ずる。右手を使って身体を押出し、近くの遮蔽物へ滑り込ませる。

 

「ぐ、うぅ……何……が、起こった……?」

 

遮蔽物に隠れ身を伏せながら、クローンアサギの思考はようやく急転する状況へと追い付く。

 

敵からの攻撃、狙撃だ。意識の外から完全に不意を突かれた。それにあの威力、通常のライフル弾ではないだろう。ガイノイド用の武装と考えれば、恐らく対物ライフル……。

 

「……チッ。左手がやられた」

 

思考と並行し身体をもぞもぞと動かしていた彼女は、思わず舌打ちした。自慢の左腕が、肩付近まで無くなっていたのだ。

 

引き千切られた跡が残る外装と火花を散らし垂れ下がるコードを見れば、原因は明らか。敵の狙いは精確に彼女の頭部を捉えていたはず。尋常ならざる思考速度と、本能的に動いた左手が彼女の命運を分けたのだ。

 

「……HQ、聞こえる?」

『此方HQ、作戦行動は可能ですか?』

「ええ、まだ行けるわ。状況は?」

 

右腕、損傷なし。左腕、全損。右脚、関節部に軽度の破損。左脚、接合部に痛みがあるものの駆動に支障なし。

 

『長距離からの狙撃により、目標は撃墜。現在A、B両小隊が交戦中ですが、敵部隊の妨害に遭い、膠着状態です。敵狙撃手は先の射撃後沈黙を保っています』

 

各部演算能力、50% まで回復。左腕欠損と併せ【ネメシス】の再使用は出来ないが、高速機動は可能。

 

「狙撃地点の割り出しは出来てる?戦術マップに反映してちょうだい」

『あ、えぇ……了解しました。しかし……』

「何よ、言いたい事があるならはっきり、と……」

 

クローンアサギの網膜へ、戦域を俯瞰した戦術マップが表示される。更に追加される形で、予測される狙撃地点を表す点が打ち込まれる。問題は、その点が遥か先にある事だ。

 

「3kmも離れてるじゃない……これ、本当に合ってんの?」

『計算通りならば、この位置で間違ってないはずです……』

 

それでも自信はないのだろう、オペレーターもどこか懐疑的な返答になる。当然だ。それは携行火器の中でも超大な射程を誇る対物(アンチマテリアル)ライフルの攻撃範囲すら超えているのだ。恐らくはガイノイドの索敵を逃れるためだろうが……

 

そこまで離れた距離から人間大の目標に、しかも戦闘中の高速機動下で当てる……?

 

「相手になるのはガイノイドくらいだと思っていたけれど……ふふっ、骨のある奴もいるじゃない。それで、どう動くのかしら?目標の確保、それともスナイパーの排除?」

『……いえ、貴方は此方の部隊と合流し、至急目標を確保して下さい』

「あら、いいの?貴方達の飼い犬が、大口径弾の餌食になるわよ?」

『貴方に狙撃手狩りをさせた処で、目標を確保できなければ意味はありません。先の接敵時、敵方には()()アイナ・ウィンチェスターが確認されています。幾ら精鋭とはいえ、我々では越えられないかもしれないのです』

 

アイナ・ウィンチェスター。二丁拳銃の名は米連内では知らぬ者もいないほどに轟いている。間違いなく、情報軍が出した切札だ。先の戦闘でも、発生した死傷者の過半数は彼女の放った弾丸によって生成されたのだ。

 

 

『幸いな事に現在の戦闘地点は遮蔽物が多く、有効な狙撃地点は限定されます。推定されるポイントは此方で監視しますので、貴方の様に不意を打たれる事はありません』

「へえ……言ってくれるじゃない」

 

生真面目な声音から放たれる皮肉に、クローンアサギは思わず口角を引き上げた。幾ら敵が索敵範囲を遙かに超えていたとはいえ、不意打ちを喰らった事実は変わらない。その皮肉に言葉で返すのは、自分自身で泥を塗るようなものだった。

 

とはいえ、指示自体に否やはない。現在目標が存在しているのは四方をビルに囲まれた場所。敵の狙撃手が如何に優秀であろうとも、この条件下であれば近接戦闘を得手とするアイナ・ウィンチェスターの方が脅威となるだろうという判断だった。

 

了承の意思を示し、クローンアサギは仰向けからうつ伏せに体勢を変え、手足に力を込めて身体を地面から浮かせる。それはまるで、引き絞られた弓弦のよう。

 

「───ッッッ!!!」

 

鏃が、放たれる。

 

 

△ ▼ △ ▼ △

所変わって、とある高層ビルの正面玄関前。広々としたロータリーがありちょっとした広間になっているそこは今、フルメタルジャケットが飛び交う戦場と化していた。

 

「クッソ! アイツらここ迄来て邪魔しやが───ガッ!?」

「ジョエル!?このアホが、γ7が被弾した!とっとと下がらせろ!邪魔になる!」

「伏せろぉ!20mm弾の斉射が来るぞぉ!」

「クソ!誰か手を貸せ!数が多過ぎて、敵部隊を抑えきれない!」

 

s分遣隊員の怒号が発砲音に掻き消され、血と硝煙の臭いが混ざり合う。

 

彼等の状況は、かなり瀬戸際と言える所まで来ていた。

 

対象ガイノイドと敵サイボーグへの狙撃によって何とか土俵に引き摺り下ろす事は出来たが、ガイノイドの武装は健在な上にG機関と思われる連中の増援まで到着してしまった。

 

乗ってきた装甲車やビルの支柱を盾に使いながら凌いでいるが、ガイノイドに所属不明部隊との三つ巴により部隊員の消耗が激しい。

 

「さて、どう出るべきか……」

 

身を隠したまま、大尉は独り呟く。このまま手をこまねいていてもガイノイドには武装の性能、敵部隊には数で劣るs分遣隊は早々に潰されてしまうのは目に見えている。純粋にジリ貧なのだ。

 

「CP、コチラγ1。δ3の状況は?」

『コチラCP。δ3は現在次のアンブッシュポイントへ移動中です』

「次?こんな高層ビルに囲まれた場所を狙撃できる場所はあるのか?」

『狙い撃てる射角は狭いですが、2ヵ所程ピックアップ出来ました。あと5分程で到着する見込みです』

 

オペレーターから齎された朗報。あの大火力による直接火砲支援(ダイレクトカノンサポート)の再開を前に、しかし大尉の内に湧き出す焦燥感は止まらなかった。

 

何故だ、と思わず自問する。

 

射角が狭い事?───(NO)、その程度、我々で幾らでもカバー出来る。

 

ならば時間か?───(NO)、時計の針が味方になる以上、それは希望だ。

 

ならばならば、狙撃地点が少ない事か?───(NO)、射線が通るだけで十二分、逆算出来た位置の少なさなど問題、外……?

 

(逆算……計算?)

 

「……そうか。奴らにも位置は割れてしまう、ということだな」

 

それは、閃きのような連想だった。今δ3が向かう狙撃地点はCPが戦闘地点から逆算して導き出したものだ。敵も彼らと同じ米連所属の特殊部隊ならば、其方も同様に予測できていると見るべきだ。恐らく既にその場所は敵の手の内、下手をすると死地になっているだろう。

 

しかし、一つ疑問が残る。今狙撃地点に向かっているのは人一番警戒心が強い対魔忍だ。この程度の事、すぐに気付きそうなものだが───そこまで考えた所で、一つの可能性に思い至る。

 

「CP、δ3に我々の現在地点は直接伝えたのか?」

『…?いえ、次に向かう地点を指示しただけですが?』

「ああクソッ、そういうことか!」

 

つまり、情報の齟齬だ。彼は戦場を直に見ていない。何処へ向かうべきか、という情報しかなければ危険性に気付くことすら出来ないのは道理だ。

 

このままでは、彼は確実に死地へと飛び込むだろう。それだけは避けねばならない。現状、あれは貴重な戦力だ。そんな事で失う訳にはいかなかった。

 

「いいか、目標地点は破棄しろ。そして我々の位置と状況を再伝達しろ。直ぐにだ」

『よ、よろしいのですか?』

「構わん、そうするのが正解だ」

 

急ぎCPに指示の再伝達を命じる。これで、あの対魔忍は敵の目を搔い潜り状況を打破する方法を考えるはずだ。

 

彼は弱い。貧者で劣等であるからこそ、あれは全てをひっくり返す切札(ジョーカー)足り得るという事を、これまで積み重ねた経験が彼に告げているのだ。

 

(ならば、ここは様子を見つつ時間稼ぎに徹するべきか?)

 

現状、互いに大きな損耗がないまま膠着状態にある。対物ライフルによる支援が加われば、間違いなく天秤はこちら側に傾くだろう。ならば、δ3の到着を待ち、それから攻勢を仕掛けるのが一番確実な方法だろう。

 

(だが、些か消極的すぎる。あちらが先に仕掛けた場合、後手に回る可能性があるな)

 

問題は、敵の底が未だ見えない事。もし敵にまだ予備戦力が存在したら、もしくは強力な装備を持ち込んでいたら───考え出したらキリがない。

 

更に言えば、δ3が配置完了するまでの時間も読めない点もマイナスに作用するだろう。アレの能力は信用に値するが、対処方法や手段を丸投げしている以上、速度は望めない。数分か、十数分はかかると見ていいだろう。

 

課題は積載し、まるで薄氷の上を歩むようなギリギリの状況が続く。だが、それを考え、可能な限りの対策を用意するのが、部隊長である彼の仕事だ。

 

出来るだけ顔を出さない様にしながら、大尉は前線へと目を向けた。隊員達が遮蔽部に身を隠しながら敵勢力へ反撃を行っている、更にその向こう。銃弾のカーテンの先。

 

 

独り突出したアイナが、機械人形へ鉄火を巻き上げる姿があった。

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △

「おおおぉぉぉぉッッッ」

 

雄叫びを上げると同時に、アイナの両手に収まる拳銃───ベレッタM92Fが銃声を轟かせる。彼女は絶えず引鉄を引き続け、怒涛の勢いで弾丸を叩き付ける。

 

対するガイノイドは、眼───アイボールセンサーを庇うために左手を顔の前へ翳すのみ。それだけの動作で、皮膚を模した複合装甲が9mm弾頭を全て弾いてしまう。

 

「チッ!頑丈な人形だぜ、9mmじゃ傷も付かねぇ!」

 

思わず愚痴が零れる。ここまで接近出来ても、攻撃が通らなければ意味がない。いっそ小気味の良い音を放ちながら地面へと転がる弾頭を目の前に、彼女に出来る事はそれでも銃弾を放ち続ける事だけだった。

 

この戦場にいるのが彼女達のみだったら、だが。

 

「今だ!撃て、撃てぇっ!」

「ちっ!」

 

アイナの右方から怒声、続いて多数の銃声が鳴り響く。咄嗟に地面へ身体を投げ出し、回避。左腕に走る痛みを無視して地面を転がりながら、ビルの影へと転がり込む。

 

「あぶねぇあぶねぇ……流石にタイマンしてる余裕はねえか」

 

慎重に覗き込んでみれば、アサルトライフルの一斉射をレーザーブレードで凌ぐ姿が見える。圧倒的な熱量で弾頭を弾いているのだ。

 

こっちの(9mm弾)は装甲を抜けねえ、かと言ってあっちの(5.56mm弾)はあの剣で焼き切れちまう。さて、どうしたもんか)

 

アイナは両の掌に収まる銃へ目を向ける。M9拳銃、アメリカ軍で広く採用されていたベレッタ92Fだ。

 

使用弾薬はオーソドックスな9x19mmパラベラム弾で、アイナの細腕でも問題なく扱うことが出来る点、更に利き手を選ばないマガジンリリースボタンを標準装備し、採用年数の長さから部品が豊富に流通し換えが効くという点等から、アイナも普段使いしている傑作銃の一つだ。

 

しかし、幾ら優秀であっても相手が悪過ぎる。ガイノイドの防弾装甲の前では、拳銃のみで戦車に立ち向かうのと同義であった。

 

その解決手段として用意した対物ライフルはこの局面では実質無力だ。四方を遮蔽物に囲われた狙撃に適さない地点で交戦中の上、尚且狙撃手は未だ移動中ときた。これで仕事しろというのは、土台無理な話である。

 

とはいえ、この盤面まで追い立てた段階で彼は役目を果たしている。部隊の切札(エース)として、あれはアイナが打倒すべき相手なのだ。

 

(チマチマ撃ち合っても埒があかねぇ。無理にでも近接戦に持ち込むしかねえか)

 

生身のアイナにとって、ガイノイドの武装は全て脅威だ。ガトリングの弾丸一つ掠れば身体の一部がもぎとられ、ブレードの一閃で容易く溶断されるだろう。だからこそブレードが届かず、ガトリングも取り回し辛い距離で立ち回っていたのだが───

 

(ほぼゼロ距離で弾丸を目玉か、破壊されてる右腕に直接当てる………これしかねえな)

 

ガイノイドの装甲は頑強だが、一皮剥けば精密機器の塊だ。小口径の拳銃弾だろうと、内部に撃ち込めれば致命的な損傷を負うだろう。

 

アイナからの銃弾から(カメラ)を庇った以上、その部位に防御能力がないのは確定的だ。また、サイボーグとの戦闘で引き千切られた右腕はケーブルが剥き出しで、応急処置すらされていない。明確な弱点は、その2箇所だけだ。

 

「ヘヘッ、こういう時アイツのリボルバーが欲しくなっちまうんだから、我ながら現金だな」

 

大口径こそ正義と称する仲間の顔を思い出し、笑いが漏れる。そんな中、唐突に無線にノイズが走りイヤホンから音が吐き出された。

 

『───此方γ1。δ1、生きているか?』

「此方δ1、ピンピンしてるよ。横からちょっかいかけられたにしちゃ上々だぜ。で、わざわざ何の用だ?」

『状況の確認と、伝達事項が一つある。目標の確保は出来そうか?』

「正直、今のままだと厳しいな。9mm弾じゃ圧もかけられねぇ。()()()()はまだ温存すんのか?」

『もう少し待て。せめて横槍を抑えられる状態まで持って行きたい』

「あいよ。で、伝達事項ってのは?」

 

会話を続けながら、ガイノイドと敵部隊の隙を伺う。

 

突撃銃では埒が明かない事に気付いたのだろう、一人がグレネードランチャーを構えているのが見えた。だが、構えたと同時にガトリング砲の斉射を浴び、付近で射撃していた兵士と共に細切れになる。

 

(何でわかったんだ……そうか、索敵用のユニットは残ってるのか。遮蔽物に隠れただけじゃ行動は筒抜けってことだな)

 

アイナは即座に、初動を見抜いた理由を看破する。彼女からは見えないが、上空では数機のドローンが周囲の状況をガイノイドに伝達し続けているのだろう。屋内に入るか、せめて天井がある場所でなければ、ガイノイドの()から逃れる事は不可能だろう。

 

煙幕張っても無駄だろうしなぁ、とカタログスペックから推察してから、大尉との会話に意識を戻す。

 

『δ3への指示を変更した。少なくとも数分は火力支援が行われない』

「あぁ?何だ、狙撃地点の目星は付いてんじゃなかったのか?」

『最適地点が限定されているからな。敵にも悟られている可能性が高い。下手をすれば、δ3が鴨打ちにされる』

「あー……そりゃマズイなあ。んで?どうするつもりだ?」

『奴に任せる』

「ハァ!?」

 

あんまりな発言に、アイナは思わず目を剥く。この極限の状況下で、唯一と言える予備戦力に指示を出さず遊ばせる等正気の沙汰ではない。コイツ頭可笑しくなったのか?とアイナは眉を顰めた。

 

「おいおいおいおい……まじか。正気か?」

『大マジだし、私は正気だ』

 

アイナの疑心に対し、大尉は大真面目に答える。対面で話していたならば、胸を張っているのが容易に想像出来るような自信に満ちた口調だった。

 

『現状、奴に狙撃を行わせるリスクが大き過ぎる。かと言って、我々に合流させて純粋な戦力として加えた所で旨みがない。だから、奴自身に決めさせるのさ。奴の能力を100%活かす選択を』

「……随分アイツを買ってるんだな。良いのか?こんな土壇場でギャンブルする事になるんだぞ?」

対魔忍(あそこ)に置いておくには惜しい人材だと思っている。それに、お前も好きだろう?ここ一番での大博打は』

「……ハ」

 

思わず、呼気が漏れる。付き合いは短いが、本当に食えない男だと思った。

 

「当たり前だろうが!いいぜ、その賭け乗った!」

『フッ。決まりだな』

 

ああ、なんて大馬鹿なんだろう。自分も、コイツも。わざわざこんな博打を、よりにもよってこのタイミングで打って。

 

楽しそうに笑うだなんて───!!

 

「よし、そうと決まればもう一仕事だ。行ってくるぜ」

『了解した、敵部隊は何とか抑えよう。お前にはやってもらわなければならない事が残っているんだ。死ぬんじゃないぞ』

「了解!!」

 

意気揚々と言葉を返し、アイナは立ち上がる。リリースボタンを押して弾倉を引き抜き、残弾数をそれぞれ確認。掌を使ってガチンと叩き込む。

 

直後、銃声が圧を増した。見ればガイノイドを攻撃していた部隊に、大尉率いるs分遣隊が攻撃を仕掛けている。アイナは物陰から飛び出した。

 

「!!」

 

右手の銃を乱射しながら全速で突撃。レザブレの射程ギリギリでガイノイドの右手側へ周り込む。この近距離なら機関砲なぞ無用の長物であり、そちら側のブレードは破壊されている。狙わない手はない。

 

ガイノイドは冷静に此方の動きを読み、砲身を盾に弾丸を弾く。アイナに背後を取らせまいと、アイナと向き合おうとする形で回転を始める。

 

ガチンッ!とスライドが後退して停止する。弾倉の残弾を撃ち切ったのだ。それと同時に、逆の手に持っていた銃口が閃光を放つ。

 

ガイノイドを中心に走りながら、アイナは片手で冷静に装弾作業を行おうとした。空になった弾倉を破棄し、ベルトのマガジンポーチに入っている弾倉を抜き取り、器用にも片手で装填を行おうとする。

 

その瞬間だった。アイナの動きに追随していたガイノイドの躯体が一瞬ブレる。ワルツを踊るかの様に逆方向へ身体を回転させ、左腕のブレードを放ったのだ。ちょうど、アイナが自分からブレードの軌道へと飛び込むような位置に。

 

その動作をアイナの知覚が捉える事はなかった。だが彼女の身体は、迫りくる死を理解していた。生き残る為に最適な方法を、彼女の思考とは別の領域で、彼女の本能が選択する。

 

完全な無意識下の選択の結果として、アイナの脚は地を蹴る。置いてけぼりだった彼女の理性が全てを理解したのは、その身体が白刃の上を舞う、その只中であった。

 

刹那、一人と一機の視線が交差する。互いに必殺の間合いでありながら、何方も行動を止めることは出来ない。ガイノイドは腕ごとブレードを凪いでいる最中であり、アイナも側宙のため身体の全機能を集中させたばかりである。

 

 

ただ、兵士としての本能だろうか。跳躍しながらであっても、アイナの掌に収まるそれは、銃口を真っ直ぐ敵へと向けていた。

 

 

彼女のみに許された、ただ一回きりの権利。アイナはそれを逃さず、機を余さず、人差し指を引いた。

 

 

『あぐっ……!』

 

ガイノイドが呻き、僅かによろめく。その隙にアイナは着地。銃を構え直して、先程まで乱射していた銃のスライドが後退している事に気付いた。

 

(あっぶね、ちょうど弾切れだったか)

 

後一発足りなかったら好機を逃していた事実に冷や汗をかきつつ、それをおくびにも出さず弾倉を再装填する。

 

『……』

「おいおい、せっかく一発ぶち込んでやったってのに反応薄いなぁ。」

 

左手で損傷箇所を押さえるガイノイドを揶揄しながら様子を見る。ダメージが通る部位を破壊出来たとはいえ、所詮一撃だ。小口径の拳銃弾では内部への影響なぞたかが知れているし、(カメラ)を一つ潰した程度でしかない。重要なのは、ここから如何に立ち回るかだ。

 

大目標は単純だ。ガイノイドの確保、もしくは破壊。

 

そのためにアイナが出来る事は何か。残った眼を破壊する。破損した腕から弾丸を中に叩き込む。左腕の発振器を壊せば戦いが有利になるだろうし、生命線であろう脚部スラスターが使えなければ逃走を封じられるだろう。

 

用意された()()()を使う事が視野に入って来た事を理解しつつ、どう詰めていくか検算する。後一歩、後一歩で届くところまで来たのだ……!

 

間近に迫った勝利への高揚感で、心臓の鼓動が早くなる。ドクドクと血液が全身を駆け巡り、同時にエネルギーが細胞一つ一つに供給されるような錯覚すら覚える。身体中が燃えるように熱い。

 

この得も言えぬ全能感こそ、戦場でしか得られない生の実感───!!

 

「さあ、もう一踊り付き合って貰うぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、それなら私も混ぜて貰おうかしら」

 

 

「!?」

 

研ぎ澄まされた戦士の勘が、アイナの身体を横へと投げ出させた。直後、彼女の頸があった空間を鋼鉄が薙ぐ。

 

「チッ!今度は何だ!?」

 

地面に転がった状態から全身をバネのようにして立ち上がる。刹那の内に体勢を立て直し銃口を闖入者へと向ける手際の良さは、流石と言うべきだろう。

 

だが、その先に立つ姿───正確にはその顔に、驚愕する。

 

「な、井河アサギだとぉ!?」

 

何故か四肢が鋼鉄の義肢であり、更に言えば左腕が中途から引き千切れているものの、その顔形は間違いなく対魔忍の頭領『井河アサギ』その人である。

 

「そうよ。私こそ『井河アサギ』。その名を名乗るべき、唯一の人間よ」

 

違和感のある言い回しで、その『井河アサギ』は自らをそう称する。だが、アイナはその言葉を聞いて嘲り笑った。そもそも前提条件が間違っている。井河アサギ含め、対魔忍は()()()だ。

 

「はんっ、そんなチャチな嘘に俺が騙されるとでも?どんなバカだってな、井河アサギの腕が鉛で出来てねえ事くらい知ってんだよ!」

「……ッッ」

「わざわざ自分で『私は井河アサギです』って名乗るなんざ、どんだけ意識してんだよ!もしかしてあれか、クローンのアサギさんか何か?」

「黙れぇ!!」

 

激昂した『井河アサギ』が神速の手刀を繰り出す。だがその攻撃は既に予想済み。接近に伴い身体が移動する線上に、敢えて頭部に向かうように弾丸を撃ち込む。

 

『井河アサギ』を名乗るだけの事はあって、至近で放ったはずの弾丸はその鉄腕を翳すだけで全て弾かれる。だがそれも狙い通り。勢いを僅かに失った隙を逃さず、隻腕へ飛び付き、肘を極めて動きを封じる。

 

「へっ、お前みたいなのも引っ張り出して来るとはな!G機関は数の暴力ってか!」

「チィッ!情報軍の玩具(おもちゃ)がぁ!」

「うぉ!?」

 

『井河アサギ』は苛立たしげに声を荒立たせると極められているはずの腕を大きく振るった。ほぼ完璧に近い極め技を、圧倒的な膂力で無理矢理抜け出したのだ。

 

腕から弾かれたアイナは、空中で一回転し難なく着地。銃口を『井河アサギ』へ向け直す。

 

「さて、仕切り直しと行こうか?」

「雑魚が……!」

 

飄々としたその様子が癇に障ったのか、舌打ちを一つ。

 

『井河アサギ』が放った正拳突きに、右手に持った銃のスライドを当ててベクトルを逸らす。同時、放たれた鉄腕によって生じた死角に左手を置き、銃を撃ち放つ。まるで西部劇でガンマンが見せる抜き撃ちのように。

 

発射された弾丸は狙い通り鎧われていない胴体へと向かい、咄嗟に引き上げられた『井河アサギ』の膝で迎撃される。

 

視覚では捉えられず、聴覚では間に合わない。戦士として積み上げた直感が、その不意打ちを予感させ、彼女の身体を動かしたのだ。

 

攻撃の失敗を悟ったアイナは距離を離そうと脚に力を込める。完全な不意打ちすら防御された以上、インファイトでの撃ち合いでは勝ち目が薄い。この一瞬の攻防で、アイナはそう結論付けた。

 

それ故の後退であり、同じ結論を出した『井河アサギ』が追撃にかかるのは、寧ろ必然と言える。

 

防御の為に持ち上げられた脚を、水平に伸ばす。言葉にすればそれだけの行為も、空気を切り裂く程の速度で放たれれば話は別だ。

 

「────ッ」

 

驚愕、衝撃、恐怖───刹那に湧き出た感情を全て一息に乗せ、それでも兵士として練磨された肉体は最適な行動を取る。

 

後ろへ向けていた力のベクトルを無理矢理横へと変更し、更に首を同じ向きへ傾ける。

 

刹那、微かな痛みと共に真横を暴風が通り抜ける感覚。頬の肉が僅かに抉られた痛みと共に、アイナは辛うじて蹴撃から逃れた事を理解した。

 

そして、攻守は入れ替わる。無理な挙動の代償として地面に倒れ込みながら、アイナは残弾を全て吐き出す。禄に構えも取れていないため狙いは定まらないが、それでも大半が直撃コースに乗っているのは二丁拳銃の面目躍如だろう。

 

最初の正拳突きと追撃のために、『井河アサギ』の右手脚は伸び切って動けない。左腕が破損している以上、残るは軸として残した左脚のみ。

 

防御も回避も不可能。命からがら反撃を躱し、危険を冒した報酬に必殺を期した詰み手をもぎ取った。

 

それでも、アイナにはその牙が届くビジョンが一切浮かばなかった。

 

「───ハッ」

 

そして、短くもハッキリと放たれた嘲笑がその予感を証明する。

 

『井河アサギ』は軸足として接地させていた左脚を僅かに撓ませ、高々と跳躍した。その身体は刹那の内にキリングゾーンより抜け出し、鉛の弾丸達は虚空を切り裂きながら暗闇へ消えていく。

 

「ぐぅ……!?」

 

無理な体勢で射撃を行った代償だろう。ろくに受身を取る事が出来ず、アイナは吸い込まれるように地面に激突する。一方で、『井河アサギ』は音も立てずに着地した。

 

「……これがあのニ丁拳銃(トゥーハンド)?そんな鈍らじゃ、私に届きはしないわ」

 

何処か呆れたように、『井河アサギ』は無様に地に伏したアイナを嘲る。

 

(クソッタレが……好き勝手言いやがって)

 

素早く立ち上がりながら、アイナは内心舌打ちする。しかしどれだけ腹が立ったとしても認めなければならない。()()は、自身よりも遥か格上だ。逆立ちしても手が届かない程度には。

 

リリースボタンを押して弾倉を破棄し、鉛玉が満載された弾倉を装填する。スライドを引き弾丸を薬室に送り込む。『井河アサギ』は、その様子を見ているだけだ。思わず舌打ちが漏れる。

 

(どうする……アレで攻撃が当たらないなら、並大抵の事じゃ俺の弾丸は通じねえ。そもそも正面戦闘じゃ勝ち目は薄いか?クソが、片腕失くした状態でそれかよ……!)

 

例え偽物であろうとも、()()井河アサギと同等な相手に対し渡り合えているのは、ひとえに彼女の左腕が破壊されているからに他ならない。

 

もし万全の状態ならば、アイナは先の攻防で死亡、良くて瀕死の重傷を負っていたことだろう。更に言えば重力場発生装置【ネメシス】により、そもそも同じ土俵に立つことすら不可能だろう。今二人は互角なのではない。辛うじて渡り合えているだけなのだ。

 

(だが、まだ負けた訳じゃねぇ。そもそも、俺達の目標はコイツじゃないんだ。勝てなかったからって、大した問題にはならねぇ)

 

岩壁のように聳える圧倒的実力差を前にして、それでもアイナの心は折れない。彼女()の勝利条件は、『井河アサギ』含む敵性勢力の撃破ではない。逃走したガイノイドの確保若しくは破壊だ。この戦闘そのものはあくまで障害排除の()()であり、大目標は以前変わらない。

 

アイナは腹の底に屈辱に対する怒りを仕舞い込み、冷静に自身の置かれた状況から道筋を立てる。 

 

(奴等をここで足止めして、その間に目標を確保するのが一番か。アイツとタイマン張るよりは遥かに目がある)

 

(だが、井河アサギモドキを抑えきれるか?俺が目標を確保する場合、残りの面子じゃ絶対無理だ。俺とδ分隊で足止めに回って……γ分隊だけであの装甲を抜けるのか?───クソッ、あと一手足りねえ……!?)

 

どう考えても、現状の戦力ではあと一歩届かない。格上を相手に二面作戦を展開するには、幾ら精鋭揃いと言えど数も質も足りなかった。

 

そして、時間すらも彼女に味方しえない。

 

「あら、だんまりかしら?ならこっちから行くわよ?」

「クソっ……!」

 

余裕の表情で、『井河アサギ』はそう宣う。そこには、先程までの苛立ちは欠片も感じられなかった。まるで、小動物の前で舌舐めずりする獅子のような目をアイナに向けていた。

 

『井河アサギ』はアイナへと足を踏み出し───大きく後ろへと跳んだ。

 

直後。轟音が鳴り響くと同時に、空気を両断しながらナニカが其処を突き抜けた。

 

「これは……まさか!?」

「ハ、ハハッ。あの野郎、そう来たか……!」

 

『井河アサギ』は驚愕の表情を、アイナは喜色の笑みを浮かべながら、同じ方向を見る。戦場と化したビルのエントランスに面した道路。

 

そこには、片膝を突きながら対物ライフルを真っ直ぐ此方へ向ける戦士の姿があった。

 

『───ジャストタイミングだな』

 

僅かなノイズの後、平坦な男の声が無線から聞こえた。思わず、アイナは笑みを深くする。

 

来たのだ、口数の少ない格好付け野郎が。状況を伝達され、瞬時に()()()()()()()()()()()()()という結論を導いて。狙撃手としてのメリットを打ち捨てることで、この戦況で足りない最後の一手を届けるという最適解を引き当てた。

 

最大戦力である『井河アサギ』、謎の敵対勢力、確保対象のガイノイド。全てを抑えるための駒が今、揃った。

 

それを直感して、アイナは敢えて叫ぶ。

 

「……何がジャストタイミングだ!来るのがおせーよ、バーカ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以前の戦闘シーンで書き忘れてたアイナの装備、どうするか迷ったのですが、リボルバー二丁持ちでリロード出来るビジョンが浮かばなかった(決アナイラスト)のと、デザインが近未来すぎて構造が想像出来なかった(RPGイラスト)ので、既存火器からそれっぽいのを見繕いました。

書き始めた時は考えてもなかったけど、ガイノイドとクローンアサギが強過ぎてアイナをどう立ち回らせるかが難しいですね…この戦場パワーバランス悪すぎん?

もう一話だけストックがあるので、数日中にそっちも上げられると思います。もう少々お待ち下さい。

あと、かなり前にご指摘頂いたので、序章4話に書いた銃器の説明を書き直しました。これで少しは読みやすくなってる……といいなぁ……
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