前回は久しぶりの投稿だったにも関わらず、沢山の方が見て下さったようで、日刊&週刊ランキングに載ることが出来ました。ありがとうございます!誤字脱字をしていただいた方も助かってます。
というわけでストック投下します。受け取れ、最後の弾薬だ!
端的に言えば。
俺がわざわざ戦闘中の前線へと馳せ参じたのは、そこが一番安全だからである。
勿論最前線は現在進行系でドンパチの真っ最中であるため、『比較的に』という但し書きが必要だが。当社比と言う奴だ。
CPより改めて伝達された情報から考えれば狙撃に使えるポイントは多く見積もっても3,4箇所程で、敵にも把握されているだろう事はすぐに想像出来た。どう考えても囲まれて袋叩きしか未来が見えない。
だからといって、逃走を選択する場面でもない。戦況は五分であり、攻勢を誤らなければ有利に立てる盤面だ。
ここでガイノイドがG機関に渡り、回収した何らかのデータで新兵器が開発される可能性がある以上、後々の禍根を低リスクで排除出来る現状を投げ出す必然性は薄い。
狙撃は危険、逃走は無意味。故に、あえて近付く。
監視の目が狙撃可能地点に集中している?逆に考えるんだ。それ以外の監視は薄くなっていると。
目論見はドンピシャリ。途中でバイクを乗り捨てこっそり接近したお陰で、バレずに戦闘へ介入することに成功したわけである。
まあ、アサギモドキが復活したのは予想外だったが。無線封鎖していたせいで情報が届かなかったんだよなぁ。本来ガイノイドへ撃ち込む筈だった初撃をそちらに使ってしまったのは手痛い誤算だった。
まあそれでも、何とかウィンチェスターが抑えられる程度には消耗しているらしい。今回の作戦、アレが一番ネックだったからな。正直ウィンチェスターとの戦力比は五分とは言い難かったが、俺がガイノイド確保してトンズラするまで保てばいいから何の問題もない。
それはさておき。
俺の参戦で天秤が傾いた事を理解したのだろう、ガイノイドは逃走を開始。まあこれは予想通りではある。姿勢制御用スラスターのリミッターを解除し一目散に逃げる姿はいっそ賞賛する他ない見事な逃げっぷりだった。
躯体の状況から逃走能力も長持ちしない事は想像に難くない。それ故に『敵の殲滅』という方針を取ったのだろうが、奴の装甲を貫ける俺が到着した事でその目論見も御破算。『ガイノイドと敵勢力の分断』に成功した。
後はウィンチェスター達にアサギモドキ含めた敵部隊を足止めしてもらい、その間に俺がガイノイドを追い回して限界になった所で確保───するつもりだったんだが。
何でサイボーグが俺を追撃してきてるんですかねぇ!?
△ ▼ △ ▼ △
夜が深まり、人通りがなくなった国道を1台の大型バイクが疾駆する。赤々と輝くテールランプはまるで彗星のように光の尾を引き、エンジンは高々と咆哮を撒き散らしている。
法定速度を明らかに超過している二輪車の主たる仮面の男───田上宗次は、雄々しき疾走を披露する反面内心では怯懦に打ち震えていた。
(いやいやいやむりむりむりアサギモドキが相手とか俺死んじゃうんですけどぉぉぉぉ!?!?)
一瞬サイドミラーに目をやれば、豪速で過ぎゆく街灯に紛れちらちらと人影が映り込む。観察する余裕があれば、その人影が跳躍しながらこちらに近付いているのが見えるはずだ。
現在の速度はざっと時速200km、新幹線の表定速度より若干下回る程度だ。それでも、黒い影は一切離れる事なく、逆に少しずつ彼に迫っていた。
(クソッ、この!おま、ふざけ……この速さに追い付いてくんじゃねえよ!こちとらビビリながら走ってるってのに!)
高速で走る新幹線の窓から手を出そうとする者はいない。それが危険か、誰かに教えられるまでもなく理解出来るからだ。だが彼は今、その危険性を理解しながらも全身を烈風の中に晒している。
もし間違って転倒しまえば、幾ら対魔忍と言っても碌な忍法すら使えない彼に命などない。それを承知の上で、彼は全身全霊で肝っ玉を冷やしつつ
そしてそれ程のリスクを犯してさえ、振り切れない強敵が彼の背に追い縋る。
(何で奴が井河アサギに似てるかは置いておく。問題は、どうやって逃げ切るか)
意識はハンドルとミラーの向こうへ集中させ、現状の打開へと思考を廻す。尚、打倒出来る可能性は最初から考慮しないものとする。
(現在の装備は肩に固定したバレットM82と
車上でも扱えるようにと
(s分遣隊は全戦力を目標に投入してるから援軍はない。対魔忍は……動いてくれるか分かんないから当てに出来ない!次!)
米連の連中は宗次の援護より任務を優先してガイノイドを狙うだろう。宗次のピンチは、彼等にとってチャンスでもあるのだから当然の選択と言える。
逆に唯一の友軍と言えるはずの対魔忍は、敵が少数の場合戦力を出さないという確約を出されただけに期待が出来ない。状況が変わった今なら援護してくれるかもしれないため連絡を取って確認を取りたいところだが、悠長に無線を使っている余裕などない。
(事前の仕込みも意味がない以上、足止めする手段もない!つまり───敵が後退するまで逃げ切る以外に解決手段がないな!?)
彼が作戦開始前に打った布石は、逃走手段である車や二輪車の配置と経路の確保のみ。現状では実質無意味だ。
打倒は不可、援軍もなしとなれば、残る手段は戦域から遠退いて敵が後退を選択するか、敵味方の何れかが目標を確保し作戦自体が終了し撤退するまで逃げ延びる事。どちらも判断が敵任せで、確実性があるとは到底言えない。
更に言えば、それまで追い付かれずにいられるかという問題もある。今は整備された直線道路だからここまでの速度を出せているが、日本の道路は狭く入り組んだ場所の方が多い。そんな所で時速200kmを維持しながら走れるドライビングテクニックなど持ってないし、ビルの上を跳ねてショートカット出来る敵の方が圧倒的に有利だ。
(いかん、完全に詰んどる……)
敵を倒す手段も増援の見込みもなく、逃走の成功率も絶望的な状況に、思わず冷や汗を流す。
(ワンチャン賭けて高速に乗るか?いや、それなら幹線道路に出るべきだな。そこに辿り着くまでが問題だが。ええっと、一番近くの大型道路は……)
それでも、微かな可能性を求めて思考を回す。事前に把握していた周辺の地図を脳内に広げ、近場の大型道路に向かう道を思い浮かべた所で、ふと気付く。
サイドミラーから、先程まで追撃して来た人影が消えている。
(奴が消えた? 一体どこに……!?)
宗次が思わず周囲に目を向けるが、それらしきものは見当たらない。
諦めて引き返したのだろうか、とサイドミラーに視線を戻しながら考える。『井河アサギ』が宗次を撃破出来る可能性は確かに高いだろうが、大なり小なり時間がかかるだろう。それを厭ってガイノイドの確保を優先した可能性は高い。これ以上宗次に時間を浪費するよりは、余程現実的な回答だろう。
だが。
(嫌な予感が止まらねえ……!勘頼りだが間違いない!奴は、俺を狙い続けているっ!)
宗次は決して油断せず、感覚を研ぎ澄ませる。彼には探知系の能力などないため、頼りになるのは彼自身の五感と、鍛え上げた生存本能だけなのだ。
周囲のビル、跳ね回る人影なし。
前方、クリア。先回りされたわけでもない。
再びサイドミラー、何もな───いや、何か光った!
スロットルを全開にし、速度を更に上げる。後方に『井河アサギ』がいるのはほぼ確定だ。問題は、姿を消した僅かな間に何をしていたか。
(何かを準備してたってのが妥当だが……いや、精々十秒程度だ。追加装備の確保は出来ない……はず!)
楽観的な推測を建てることで精神の安定を図りつつ、後方への警戒を強化する。
『井河アサギ』の機動力から考えれば、宗次の駆るバイクに接近して攻撃を仕掛けるまで数秒はかかる。それだけ時間があれば、目視してからでも対処は容易だ。
何時でもホルスターのMP7へ手を伸ばせるよう意識しつつ、僅かな兆しすら見逃さないよう神経を研ぎ澄ませる。その甲斐合ってか、宗次の視界は敵の攻撃を確かに捉えた。
それは、最初は小さな点だった。だがどんどんと大きくなりながら空を裂き、追い縋る。
そして、すぐに鏡越しで姿を晒す。横倒しでぶん投げられた電柱が、今まさに宗次に喰らいつこうと───!?
「ば、バカやろうがぁぁぁぁぁ!?!?」
演技すら忘れて、絶叫。ちょうど道路の横幅と同じ長さに圧し折られた電柱は、二輪車で逃げる彼に取って必殺の一撃だ。どんな軌道で走ろうと、その道路を直線で走る限り、彼にニ秒後の未来はない。
だが、田上宗次は、己の命を諦める事は決してない。
即席の処刑装置が到達するまで一秒。宗次は思考をすっ飛ばして、咄嗟に頭に浮かんだ無茶を肉体へ命ずる。
「──────!!」
声を出す暇すら惜しんで、声なき絶叫を発しながら彼は敢えて地面へ倒れ込むように身体のバランスを崩す。同時に、車体を進行方向に対し垂直にする。
ギャギャギャギャ!!とタイヤから発せられる物凄い異音を無視し、彼の身体とバイクの車体は、地面に接触するギリギリまで横倒しの状態となった。
そして。
空気を切り裂く轟音をあげ、真上を電柱が通り過ぎる。その位置はちょうど宗次の頭があった地点。正真正銘、間一髪で命を拾ったのだ。
(あっぶなっ、あっぶな!あと少しでミンチになる所だったぞちくしょう!!)
今更に全身を駆け巡る恐怖を必死に追い出し、車体を元の走行姿勢に戻す。無理な回避方法を取ったせいで速度が落ちてしまったが、命あっての物種。これくらいの代償なら安いものだ。
とはいえ、まだ危機が去ったわけではない。攻撃を避ける事には成功したが、敵は未だ健在だ。例え偽物であっても世界トップクラスの戦闘能力を誇る、『井河アサギ』が。
(最悪だ……今の回避でスピードは落ちてる。何処からかは判らんが、絶対に今!ここで仕掛けてくる!俺ならこの機は逃さない!!)
電柱を避ける為の一連の動きで、バイクは先程よりも減速している。少しのミスで大事故が起きる事には変わらないが、それでも遅いものは遅い。確実に追い付かれるだろう。
間に合うかは判らないが、再度スロットルを引き絞る。鋼鉄の心臓が獣の如き咆哮を上げ、その身に秘めたポテンシャルを引き出しながらぐんぐんと速度を増していく。
視界の端で景色が後ろに流れて行く。マスク越しに空気が常に叩き付けられ、身体が圧される。速度は既に時速200kmを超え、その身体には多大な負荷がかかっている。だが宗次は、決してその手を緩める事はしなかった。恐怖に負けず前へ進まなければ、ここが彼の墓場になると、本能的に理解していたからだ。
前へ、ひたすら前へ、可能な限り早く。
その時だ。宗次の全身に、冷水を被ったかのような悪寒と寒気が奔った。彼は、その感覚が生存本能の警鐘である事を知っていた。
そして、それと全く同時。宗次の視界外───頭上のビルから、一つの影が飛び立った。宗次が警戒していた『井河アサギ』が、猛禽類のように獲物へ強襲を仕掛けたのだ。
当然宗次はその事実を知覚する事が出来なかった。ただただ、自らに迫る危機を理解しただけだ。だから彼は、引き絞ったアクセルを元に戻した。更に全力でブレーキをかける。
これだけ速度が出ている状態でブレーキを全力でかければ、バランスを崩れ転倒する可能性がある。事実、タイヤとブレーキパッドから火花が飛び散り、激しい金切り音が鼓膜を破らんと悲鳴を上げる。宗次は、それらの危険を全て呑み込み、ブレーキを掛け続ける。
『井河アサギ』の射程に宗次が入り込むまでおおよそ一秒。それ程の短時間では減速出来たとしても僅かだろう。それでも、その僅かこそ彼が求める物だった。
確かに、『井河アサギ』の身体能力は驚異的だ。単純な膂力だけではない、超人的な肉体を意のままに操り、秘めた能力を100%扱う技術が完璧に備わっている。戦闘特化の上強襲用の重装備を施したガイノイドをあと一歩まで追い込んだのも、骨身に刻まれた経験と執念じみた精神力の賜物と言えるだろう。
だが、彼女にも欠点は存在する。その内の一つが、単独飛行能力を持たない点だ。
大半の対魔忍すら凌駕する脚力による跳躍は飛翔と見紛うばかりだが、決して空を飛んでいるわけではない。あくまで地を蹴って空にその身体を投げ出しているに過ぎず、途中で軌道を変えることは出来ないのだ。発射後は直線にのみ進む銃弾のようなものであり、発射後も軌道を変更し標的を追跡出来るミサイルではないのだ。
当然、『井河アサギ』は彼我の移動速度を計算した上で、着地点と着地時の敵位置が重なるように行動している。
逆に言えば。その何方かをズラしてしまえば───!!
「───チッ!」
『井河アサギ』は敵の狙いを瞬時に理解し、舌打ちする。高速で移動する大型バイクの加速に合わせて跳躍したはずが、肝心の標的が減速し目論見が外れた───いや、外してきたのだ。
彼女の戦士としての観察眼が、奇襲の不発を告げている。それどころか、着地から体勢を立て直す暇なく二輪車の体当たりを喰らう事まで予想出来てしまった。例え手足を換装したサイボーグであれど、時速100km超えの鉄塊と衝突すれば致命傷は免れないだろう。
「舐───めるなぁぁっ!!!」
故に、彼女は吠えた。僅かな誤差で何方にも傾く命懸けの綱引き。その【命運】という名の綱を、此方へ引き戻す為に。
『井河アサギ』は残された刹那で、身を切る覚悟を決めた。機能不全を引き起こす為封印していた【ネメシス】を再起動したのだ。
まず残された右腕と両肢に眠る重力場発生装置のリンクを解除、スタンドアローンとなった右腕の【ネメシス】を起動する。
単機の運用で出力不足な上、一度は限界まで酷使した後だ。現状で引き出せる能力等高が知れている。そのため、範囲を『井河アサギ』のみに限定、使用時間は一瞬のみ。細かい計算をする暇はないため方向と加速度は勘任せだ。大まかでも標的へ軌道を修正出来れば問題ない。
「……ぐぅッ」
瞬間、『井河アサギ』は強烈な圧迫感に襲われた。ぐん、と彼女の身体が軌道を変える。移動先は本来の予定よりも後方。目算で、大型バイクが通り過ぎた地点に着地する事を理解する。
しかし代償も高く付いた。無理な使用に耐え切れず右腕が機能を停止したのだ。【ネメシス】だけではない。義手としての機能も、完全に喪失している。
その上、轢殺を免れても敵が健在である事に変わりはない。敵の後方に着地してしまっては、そのまま逃げられてしまうだろうことは想像に難くない。
(だが───問題は、ないわ!)
『井河アサギ』は残った両脚と胴体を動かして空気抵抗を利用し、身体に回転を加える。そして、右腕に残された唯一の機能を開示する。右肩部に爆発が起こり、肩から先の義手部分がパージされた。非常時の為に搭載され、制御系統を腕部でなく本体に持つ自切機能である。
爆砕ボルトの爆発により生まれた推進力に回転運動で加わった遠心力が合わさり、切除された右腕は弾丸のように射出された。勢いよく飛翔した鋼鉄の腕は、『井河アサギ』を背に走る宗次の方向へ向かい───
───次の瞬間、紅蓮の炎と共に爆ぜた。
サイボーグアームに搭載された機密保護機能───俗に謂う自爆装置が起動したのだ。堅牢を誇った鋼の外殻は内部から発生した圧力と衝撃でいとも容易く砕け散り、外部へと拡散した。
「ぐがあぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
宗次の背中に、散弾のように破片が突き刺さる。次いで強烈な衝撃が叩き付けられ、火炎がボディスーツを舐め上げる。
突然の衝撃と激痛に脳を支配されながら、それでも宗次はハンドルを握り続けた。痛みで思考を焼かれながら、命を守る為に最善の行動を取る。彼が血反吐を吐きながら積み重ねた鍛錬の結実だ。
だが、叩き付けられた衝撃と圧は彼が跨がるモノに対しても例外ではない。爆発に煽られ、車体がバランスを崩し始めたのだ。
「クッ……ソガァ!!」
神経を直接針で刺されるような痛みを無理矢理押さえ付けながら、必死にハンドルを操作し車体を立て直そうとする。車輪の方向が安定せず車体は右往左往を繰り返す。ブレーキを掛け減速を試みるが、元々の速度が高すぎたせいで中々落ちない。ブレーキパッドから火花が飛び散り、金属のフレームが耳障りな悲鳴を上げる。
危うく滑りそうになる車輪を必死に制御しようと試みるが、ついにその時は来た。
バキっ
短い断末魔
「しま───」
宗次が目にしたのは、車輪と車体を繋ぐフレームが圧し折れ、パーツを撒き散らしながら吹き飛ぶ一時の相棒の姿。
あれ?自分はアレに乗っていたはずだ。ハンドルなどならともかく、全体が視界に映るのはおかしい。なら、自分は今どこに居る……?
(拙───飛ん───!?死───!!)
単語がバラバラのまま脳内を駆ける。だが次の瞬間にはバイクが視界から消え、漆黒の夜空と高層ビルの一部にシーンが切り替わる。更に次はそのまま走るつもりだった道路の先。
どうやら宗次の身体はバイクから放り出され、空中をグルングルンと回転しながら猛烈に吹っ飛んでる途上のようだか、彼自身にそれを理解する余裕はない。彼が理解しているのは、このままでは地面に激突して死ぬ。ただそれだけの摂理だけだ。
当然だが、宗次に異能はない。身体能力や耐久も対魔忍として並以下だ。このまま地面に衝突すれば、耐えられるはずもない。そしてこの状況に対処する手段など、彼は持ち合わせていなかった。つまり今、この瀬戸際どころか今際の際と言っても差し支えない段階で生き残る術を閃かなければ、彼は誠に残念ですがミンチとなってコンクリの染みになってしまうでしょう。南無。
どうすればいい何とかしなければ(死にたくない)このままじゃでも時間がない(死にたくない)ダメージが少ない所にそうゴミ袋の山とかに着地を(死にたくない)駄目だどこにもない体勢を(死にたくない)建て直して駄目だ意味が(死にたくない)ない何かで衝撃を相(死にたくない)殺して駄目だ間に合(死にたくない)わないどうしようどうしようどうしようどうしようなんとかしないとなんとかしないと死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない───!!!
迫る死に脳内は思考ではなく願望で占領される。視界はコマ送りにされたテレビのようにゆっくり、一瞬一瞬を切り取った写真のよう。身体中はひたすら痛い。痛すぎて何処が痛いのかもう解らない。
諦められなくて、でももう何を考えてるのかも解らなくなって、それでも諦め切れなくて、前を見るしか出来る事がなくて、だから目を閉じる事だけはしなかった。
だから、死ぬちょっと前。
スクリーン一杯に映し出されたコンクリートだらけの視界の中で。
その視界の端に映るM82アンチマテリアルライフルを、彼は見逃さなかった。
「────!」
宗次が装備していた対物ライフル。先の強襲後、バイクに乗ってガイノイドを追跡するつもりだった時、ガンケースに仕舞っている暇もなく投げ棄てるのも勿体無いとスリングで肩に固定したまま移動したのだ。そのスリングが衝撃で切れたのか緩んだのか、こうしてM82は彼と共に宙で翻弄されていたのだ。
『井河アサギ』を迎撃するのに使えなかったので思考から完全に外していたそれは、宗次にとって天から垂れ下がる蜘蛛の糸だった。
役立たずの脳味噌をすっ飛ばし、身体に力を入れる。必死に手を伸ばし、
「ぉ、おッッ!!!」
瞬間、無意識のうちに咆哮。身体が地面に着弾する瞬間に合わせて、右腕に持ったM82を叩きつける!!
───それは再び爆発が起こったような音だった。
宗次の身代わりとしてコンクリートに叩き付けられた。対物ライフルは、彼が辿る筈だった未来をなぞるように轟音と共に木っ端微塵に砕け散った。そして、その刹那地面から受けた反作用力を銃身を通して宗次に叩き付けた。
地面からの反動と、ライフルの破片によって打ち付けられ宗次は大きく減速。再び低空に弾き飛ばされ、回転しつつ宙を舞う。そして更に数秒宙を漂い今度こそ、しかし先程より勢いを減衰させて地面に着弾した。
「ゴッッッ」
あまりの衝撃に、肺の空気が全て吐き出される。同時に硬い物に肉を叩き付ける異音と、骨が砕ける音。耳を覆いたくなるような痛ましいものだったが、肉が潰れる音だけは聞こえなかった。
宗次の身体は水切りの石のように何度か地面の上を跳ねて跳ねて、最後にはゴロゴロと転がりながら停止した。
「あ……が……?」
宗次は微かなうめき声を漏らしながら、ゆっくり目を開ける。視界に映った漆黒で、自分が仰向けに倒れてる事をぼんやりと自覚した。
身体中血塗れで、地面とぶつかった右腕を中心に骨が折れている。それでも辛うじて、彼の身体は原型を留めていた。
「ふーん……まだ生きてるの」
呆れたような声音で、『井河アサギ』は死に体のそれに歩み寄る。
確実な一手だと思った。爆風に煽られて転倒し、死ぬとのだと思っていた。
だが現実は違う。全身がボロボロとはいえ、彼は生きている。死が間近に迫るあの一瞬で、彼は生存への最適解を引き当てたのだ。
「強運なのか、はたまた生き汚いだけなのか……まあ何方にせよ、貴方がここで死ぬ事に変わりはないけれど。ここで貴方にトドメを挿して、確実なる安心としておきましょうか」
『井河アサギ』が、田上宗次の側で止まる。彼女が宗次を殺す事など、赤子の手を捻るより容易い事だ。
「ぐ……ぞぉ……!」
宗次は危機から逃れようと、必死に身体を動かそうとする。しかし、最早彼の身体にはその命令に従う余力など無い。激痛が神経を突き刺し、あらゆる動きを阻害する。
まるで虫のように藻掻く宗次を尻目に、『井河アサギ』はゆっくりと、鉄脚を宗次の図上で目一杯振り上げる。狙いは当然宗次の頭蓋だ。絶対外さないよう、今度こそ確実に仕留めるために。
「さあ、最期のトドメよ……!」
両腕を奪った怨敵へ、全身全霊の踵落としが放たれる。両腕が損なわれようとその体幹は崩れる事なく。その凶器は寸分違わず宗次の頭蓋へ振り降ろされ───
ガキィィィィィンンッッッ!!!
───その直前、何処からか飛来した
「な……ぐぅ!?」
「───ダァァァ!!!」
更に、驚愕で静止した『井河アサギ』の腹に強烈な蹴撃が炸裂し、その身体を吹き飛ばした!
「……だ……れ……?」
突如頭上で繰り広げられた戦闘に困惑しつつ、宗次は闖入者へ誰何した。だがその誰かはそれを無視してしゃがみ込むと、宗次の首元へ注射針を挿し込んだ。
「ぐぅ……!?」
「痛み止めと強心剤だ。少しは動けるようになるだろう。この場から離れて傷の手当をしろ」
その女は手短にそう伝えると、再び立ち上がった。一方、吹き飛ばされた『井河アサギ』は、その表情を驚愕へと歪めている。
「馬鹿な……八津紫だと!?何故ここにいる!?」
「ふん、アサギ様のクローンか……話には聞いていたが、まさか米連の狗に成り果てているとはな」
『井河アサギ』からの詰問を鼻で笑い、八津紫は獲物である大斧を構える。敵が既に臨戦態勢である事を悟り、『井河アサギ』も慌てて構える。
(マズイ……ここで対魔忍が、しかも戦闘能力No .2が出て来るなんて!!現在の装備じゃ、流石の私でも勝てない……何でこのタイミングでコイツが出て来るのよっ)
武装の内半分を喪失し、切り札も使えない現状に思わず歯噛みする。だからと言って背中を見せられるほど容易い相手でもない。正面戦闘で凌ぎつつ、撤退の隙を伺うしか選択肢はなかった。
そんな事を考えている内に、倒れていた宗次がゆっくりとだが立ち上がった。右腕は歪に圧し折れ片足を引き摺りながらだが、それでも彼は立ったのだ。投与された薬によって痛みが和らぎ、身体中に血液が行き渡ったからだ。
「あと、は……」
「ああ。任された」
短いやり取りを交わし、選手交代。宗次はゆっくりとビルの狭間へと消え、戦意を漲らせる紫が暗闇の中で瞳をギラギラと輝かせている。
「意外ね。対魔忍が米連の兵士を助けるなんて。お知り合いか何かかしら?」
「アサギ様のニセモノ風情に語る口など持たん。つべこべ言わずに掛かってこい!」
「───
「シャァァッッ!!!」
「ハァァァァ!!!」
気合一閃。鞭のように撓る鉄脚と、合わせるように繰り出される斧が、激突する。
超人達の戦いは、周囲の構造物を砕き切り倒しながら、夜明けまで続いた。
バクシンバクシーン!な回でした。
敢えて主人公を三人称視点にしてみました。特に意味はない。
前回のカッコいい引きから一転して逃げてるだけの話になりましたが、うちの主人公は無様晒しても生き残るのが似合うと思うので。まあ敵が強すぎるのもあると思いますが。