その対魔忍、平凡につき   作:セキシキ

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お久しぶりです。まーた前回投稿から半年空いてしまいました。もう2022年が終わるってマジ…?

とはいえようやく今章も終幕です。長くなってしまったので、Epilogueを前後編に分割したので、あと2話ですね。

今年が終わるまであと3時間切りましたが、年越しまでに1章を終わらせます。


Epilogue 1/Shape Of You

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【米連極東第二支部より脱走したTypeM-3ガイノイドに対する最終報告】

 

20██年█月██日、極東第二支部第五研究棟にてTypeM-3ガイノイド(以下対象)の逃走インシデントが発生。装備試験中だった強襲打撃ユニットを強奪し東京都心へと脱走した。

 

極東第二支部は即日対象の回収もしくは破壊任務を発布、情報軍が当任務を請け負う。

 

インシデント発生より三日後、情報軍は特殊検索群s分遣隊を派遣。現地にて対象及び【閲覧規制】と交戦。対象は回収不可能と判断され、破壊された。

 

尚、数度の交戦により発生した損害に加えガソリンを用いた爆破による処分だったため、躯体の大部分は廃棄、電脳を含めた頭部は回収出来ていない。

 

 

 

△ ▼ △ ▼

「あぁ〜〜、シャバの空気は美味いぜ〜!」

 

天高く伸びをして、俺は一人で歓喜の声を漏らす。一瞬振り返った先には病院の正面玄関が構えている。そこから離れるように歩き出した俺の足取りは、きっと跳ねるように軽やかだろう。

 

先のガイノイド回収/破壊任務が今から三週間前。回収時全身に重傷を負った俺は即座にここへぶち込まれた。当然一般の病院ではなく、五車が保有する特殊な施設だ。主に負傷した対魔忍や政府直属の特殊部隊員などの治療に利用される。

 

俺の診断は全身の重複骨折と内外への出血、特に右腕の粉砕骨折など。まあ控え目に言っても超重傷である。医師の診察では傷の完治に半年、リハビリを入れると一年はかかるとの事だった。

 

え?経過した期間と診断結果がズレてるって?おいおい、ここは対魔忍世界だぜ?治療系の忍法持ってる対魔忍がいて当たり前だろう?

 

……いや、正直もうちょっと入院してたい気持ちがないわけではないんだけどさ。任務も授業も出なくていいし。いつの間にかアサギが手配してて、寝てる間に施術されたみたい。しかも聞いた所によると、自己治癒力の強化とかそういう類らしい。寿命削れてそうだなぁ……(戦慄)

 

「まあ、桐生に手ぇ出されるよりはましか……」

 

五車が飼い殺しにしてる(飼い慣らしたとは言ってない)魔界医師を思い出し、思わず呟く。下手に身体弄らせると、何されるか分かったもんじゃないからなあ。

 

「さて、と。退院したし、まず何するかな」

 

記憶を辿り、やるべきタスクを頭の中で一覧に纏めながら足を動かす。と、そんな中後ろから声がかかった。

 

「あ、いたいた。おーい!宗次くーん!」

「ん?……ああ、井河先生」

 

俺に声をかけてきたのは、井河アサギの妹で現役の対魔忍兼五車学園の教師、井河さくらだった。俺の後ろ、恐らく病院の方からこちらに駆け寄ってくる。

 

「もうっ、どうして一人で行っちゃうの?迎えに行くって連絡したよね?」

「すみません、久々の外だったので。一人で歩きたい気分だったんですよ」

 

開口一番、文句を言ってくるさくら先生に適当な言い訳を返す。まあこの場合、事前の通達を無視した俺が悪いんだろうけど、わざわざ一緒に行動する義理はない。やらなきゃいけないこともあるし。

 

「気持ちは分かるけど、だからって勝手に動いちゃだめ!病み上がりなんだからまだ危ないでしょ?」

「ご尤もですね」

「とにかく!私も付いてくからね?」

「はーい」

 

私怒ってます!と顔に出しながらさくら先生は俺の隣に並び、歩を合わせた。寮までそこまで距離はないとはいえ、本当に俺の御目付け役する気なのかこの人……もしかして暇なのか?

 

「先生、もしかして暇なんですか?」

「何でそうなるの!?別に私、暇人じゃないけど!?何方かといえば忙しいほうですけど!?」

「なら、俺の送迎なんて他の人にやらせればいいじゃないですか。一応五車の主力ですよね?」

 

井河さくら。言わずと知れた対魔忍頭領、井河アサギの実妹。『対魔忍アサギ』シリーズにおいてもサブヒロインを務め……ヒロイン?あれはヒロイン扱いでいいのか?負けて犯される奴が、ヒロイン……?

 

……話が逸れた。とにかく、原作においても重要なポジションにいる実力者なのだ。その上、色々な要因で組織がガタガタな対魔忍勢力を纏めるためにトップを張ってる一人でもある。

 

現役対魔忍と教師、更に組織の重役という三足の草鞋を履いて忙しい彼女が、わざわざ俺のような学生のために時間を割くのはおかしな話だ。時間はかからないとはいえ、無駄に使える時間など彼女にはないはずなのに。

 

「そりゃあ、病み上がりの子を一人で行動させるわけにはいかないでしょ?何かあったらいけないし。でもお姉ちゃんは今五車を空けてるから、代わりに私が来たんだよ」

「……は?元々校長が来るつもりだったんですか?何で?」

「だって君、お姉ちゃん以外の言うことなんて聞かないでしょ?」

「そんなわけないんだが!?」

 

何でそんな、反骨精神溢れたキャラ付けされてるの俺!?こんなんでも一応組織の人間なんだから、上司の言うことは聞きますよ!?

 

俺のツッコミに笑いながら、さくらは付け加えるように言った。

 

「でも、病院から帰るくらいでわざわざ……とも思ってるじゃない?」

「……確かに、思ってますね」

 

理屈は分かる。病み上がりを一人にして何かあれば───例えばよろけて転んだ拍子に再度骨が、なんてことになっては面倒だ。だからしばらく様子見も兼ねて単独行動をさせないようにする、という考えは理解出来るのだ。

 

だが病院の診断も良好でリハビリも完了している。杖などの補助器具等無くても、歩行は一切問題ないのだ。その状態でわざわざ、組織のトップにそんな雑事をさせる必要があるのか?というのが素直な感想だ。

 

「実際さ、私の事も待たずに帰ろうとしてたわけじゃない?他の人にお願いして喧嘩しちゃっても嫌だからね」

「あ〜……」

 

言われてみれば確かに、という感じだ。誰が迎えに来ようとやることは変わらないだろうから、下手をすれば反発し合い険悪になるだけだ。

 

まあ実害がなければそんな事気にならないからなぁ、俺。そもそもとして役に立たない奴に気をかける余裕などありはしないのだ。

 

「それに、今回はかなり負担かけちゃったからね〜。お姉ちゃん、結構気にしてたんだよ?」

「だからですか?わざわざ先生が来たのって」

「まあね。後はどれくらいで復帰出来るか確認しないといけないし」

「うへぇ……もうっすか?正直、しばらく任務は遠慮したいんですけど」

「あははっ、大丈夫大丈夫。お姉ちゃんもそこらへん分かってるから。最低でも、調子が元に戻るまでは仕事は回さないつもりだよ」

 

その言葉に、思わずほっと息を吐く。幾らリハビリで身体は動くとはいえ、実戦レベルにはまだまだ戻っていないのだ。鍛錬の時間は不可欠……いや、それ以前に任務行きたくないんだけどね?

 

「そういえば、あの状況でよく八津先生を出撃させましたね。確か増援は出さないって話でしたよね?」

「うん?私もよく理解してないんだけど……『主戦場から離れてて単騎なら、戦力は出さないだろう』って」

「ああ、なるほど」

 

それは理解してなければまずいのでは?というツッコミはさておき、アサギの意図は理解出来た。

 

あのタイミングでは、主戦場はあくまでガイノイドとその周辺。俺とアサギモドキが戦闘していたエリアとは大分離れていた。

 

もし敵が予備戦力を抱えていたとしても、作戦の性質上アサギモドキではなくガイノイドを優先する、と予想したんだろう。そしてそれはドンピシャだったわけだ。

 

「ごめんね。ホントはもっと早く助けられればよかったんだけど。もし相手が増援出してきたら街への被害抑えられないからさ」

「いいですよ別に。本気で死ぬかと思ったんで、助かりました。それに、状況は校長から聞いてましたから」

 

あの死地へ俺を送り出したのはアサギだが、それを言い出してはキリがない。アサギモドキが脚を振り上げたあの瞬間、俺に成すすべがなかったのは事実なのだ。

 

だから、今俺が言うべきは毒にもならない愚痴ではなく、心からの感謝だろう。

 

「ハハハ、あの宗次君がお礼を言うなんてね。紫ちゃんにちゃんと伝えとくよ」

「はい、お願いします。後、井河先生もありがとうございました。マジで助かりました」

「……何の話かな?」

 

俺の言葉にさくらは惚けるような仕草をとる。分かりやすいなこの人……。

 

この反応でほぼ確信したが、一応言質は取っておこう。今回の目標でもあったしな。

 

俺が死を覚悟したあの時。身体はズタボロだったが、一挙手一投足を逃すまいとしていたから覚えている。確かにアサギモドキを吹き飛ばしたのは紫の蹴りだったが、俺への攻撃を防いだのはクナイだった。しかも、激突した鉄脚は()()へ弾かれていたのだ。

 

これが意味する事はつまり、クナイを投げた下手人はアサギモドキより下方に存在していたということ。だが実際は俺以外にそんな人間はいなかったためこの図式は成り立たず───この矛盾を解消する術を持った人物が、今目の前にいた。

 

「井河先生ですよね?校長が言ってた『いざという時の保険』って。俺の影に潜んでいたんでしょう?」

 

【影遁の術】。井河さくらが持つ特異な忍法で、文字通り影の中に潜む事が出来る強力な異能だ。生半可な方法では探知出来ないため、潜入や奇襲作戦において高いアドバンテージを誇る。

 

恐らく作戦開始前には俺の影に潜んでいたのだろう。土壇場まで行動しなかった点を見るに、目的は俺の保護と、緊急時に俺を戦域から離脱させること。

 

「……すっごいねぇ。大正解っ」

「……もっと早く出てきても罰は当たらないと思いますけどねえ」

 

どこか愉快げに笑うさくらに、俺は思わず溜息をついた。

 

いや、分かってるんだよ。援軍出せなかったのと同じ理由で援護しなかったのは。でもこれくらいは言わせてくれ。

 

───死ぬほど痛かったんだが!?!?

 

「……っと、着いたね」

 

俺の内心(さけび)を知ってか知らずか、さくらは話題を変えた。俺の前には、五車学園の校門が姿を見せている。

 

「それじゃあ、俺はこれで。やらなきゃいけない事が沢山ありますから」

「うんっ。私も仕事残ってるから行くけど、気を付けてね!」

 

にっこりと笑みを浮かべた後、さくらは小走りで校舎へと駆けていく。まあほぼ実働専門とはいえ、教師だからやることは多いだろうなぁ。

 

横目でそれを見送り、寮へと帰ろうと脚を向け───さくらの呼び声ですぐに止まった。止めざるを得なかった。

 

「あ、そうだ忘れてた!作戦で使ってた()()、部屋に置いといたからね!」

「……」

 

作戦時に使用した荷物。荷物?()()()()()()()()()()

 

あの時使った武器は米連からの貸与であり、仮面や戦闘服等は焼却処分してもらうように頼んだ。

 

つまり、あの時に持ち帰った物は何も無い。()()()()()()()()()

 

だけどそれは、帰還前に路地裏に隠して……いや、そうか。さくらは見てたのか。俺の影から。遠くに見えるさくらの顔が、にやりと笑った気がした

 

「……ピーピングとか、趣味が悪いですよ」

「私の目の前で勝手に作業してただけでしょ〜?ボロボロだったとはいえ、あんな雑な隠し方じゃすぐ見つかってただろうし。むしろ感謝して欲しいくらいだけど?」

 

……事実ではある。失神するかどうかの瀬戸際でやる作業に、どうして精度なぞ求められようか。だがそれはそれ、だ。

 

「……ありがとうございます」

 

悪感情を隠そうともせず、形だけ渋々礼を言う俺を、何故かさくらは満面の笑みで見ていた。

 

「……何ですか?」

「うん?いやぁ、何だか嬉しくってさ!」

「嬉しい?」

 

何をどうしてその結論に到ったのか理解出来ない俺に、さくらは本当に嬉しそうに、無邪気な笑顔を向けた。

 

「宗次君がようやく対魔忍らしい事をした所見られたからねっ。やっぱり、正義の味方は人助けしなくっちゃね!」

 

△ ▼ △ ▼

対魔忍らしいこと?敵に突撃して捕まる事か……?

 

さくらの言葉が腑に落ちず、首を捻りながらも久し振りの自室へ到着する。ドアに仕掛けてあったトラップを確認してみるが一切手付かずだった。

 

本当に中に入ったのか?……いや、さくらは影を移動出来るから、わざわざ扉を開けなくても侵入出来るのか?そうなるとこれ意味がないのでは……?

 

異能に対する耐性がゼロな我が家に愕然としながら、ほぼ一ヶ月ぶりに自室へ脚を踏み入れる───と。まさに玄関入って直ぐに小さなアタッシュケースが一つ。

 

「……これか?」

 

ケース自体に見覚えはなかったので、とりあえず開く。鍵はかかっていなかったものの、罠が設置されていないか分からないので入念にチェックしてから、解錠。中身は……うん。確かにこれだわ。間違えようもない。

 

早速これをPCに……いや、セキュリティから考えれば、五車の回線を使った方がいいか。

 

俺はケースを閉じると、最低限の武装を施し自室から出た。

 

早歩きで、出来るだけ人目に付かないように向かった先は、五車学園の電算室だ。

 

一般の学校でいうコンピュータールームといった所だが、その用途は大きく異なっている。外部へのハッキングや秘匿情報のやり取りなど機密性の高い作戦で使用されるため回線は暗号化され、セキュリティレベルもかなり高い。

 

ここならデータをやり取りしても、外部に漏れる心配はないだろう。

 

俺はケースを再度開いて()()を取り出すと、起動したPCとUSBケーブルで接続する。次いで、電源コードをコンセントに接続する。

 

電源が供給されたことで、()()から起動音が鳴り響く。待つ事数秒、保護のため閉じていた()が開き、人工の瞳が光を放つ。周囲を見渡すためアイボールセンサーを動かす事数度、視線は真っ直ぐ俺へと固定された。

 

 

『───お待ちしていました。タイマニンというのは、随分とお寝坊のようですね』

 

女性の声帯を模した合成音声が、俺を出迎える。予想していた皮肉に思わず苦笑いしながら、俺は言葉を返した。

 

「悪い、待たせたな。元気してたか?ガイノイド───いや、歌姫さん?」

 

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