休暇を貰った宗次の日常(?)回です。
さ↑て↓。
ブラック企業も真っ青なレベルでダーティー&ブラッディな対魔忍という職業でも、休日は存在する。俺達はまだ学生なので、現役の対魔忍よりも多い……あれ、ほんとに?
まあとにかく。機密文書の漏洩阻止を完了させた翌日、任務の報告を済ませた俺はそのまま数日間の休暇へと移行したのである。軽い任務とはいえ、病み上がりに仕事を振り続けたせめてものお詫びだそうだ。
では、その貴重な休日に何をするのか?
撮り溜めたアニメを見る?折角の機会に街へ繰り出す?部屋で花蓮と過ごすのも一興だろう。訓練に明け暮れるのもありかもしれない。
その中で、俺が採った答えは───
「はい、M240機関銃と、7.62x51mm NATO弾500発。後はM84 スタングレネード10個にM18 クレイモア5個……間違いないね?」
「……ああ、問題ない。相変わらずいい物揃ってるな、店長」
「当たり前さね。それがアタシの信条だからね。あと、アタシの事はソムリエと呼べって言ってるだろ」
「料金まけてくれるなら考えるよ」
木製の円卓に並べられた武器弾薬を見聞しながら、俺はここ───『ピストレット・ソムリエ』の店主と軽口を交わしていた。
『ピストレット・ソムリエ』は、ダイソ港付近に存在するスラム街に居を構える銃砲店だ。銃砲店と言っても闇ルートの品を扱う違法な店であり、品揃えも闇市の状況によって全く異なる。だが、店主である彼女の強いこだわりで質が低い物は仕入れないため、商品の信頼性はバツグンだ。
五車からの補給物資で火器弾薬の補充は出来るとはいえ、十分ではない。俺みたいな下っ端に回ってくる武装は種類が限られているし、何より
もう一つの補充先である第八技研も、物資をちょろまかす都合上月に一度あるかないかだ。更に言えば余り自分用に確保すると利益が下がるという問題がある。定期的な補給先としてカウントするのは難しい。
そういった事情から、俺は敢えて『ピストレット・ソムリエ』から武装を調達することにしている。違法であるが故に足が付きにくく、状態の良い装備が手に入る。店主や従業員は口が堅く、贔屓にしても問題がない。実にいい店だ。
……職人気質なのか、謎のこだわりが強い部分に目を瞑っても良いほどには。
「しかし、また随分と重武装だねぇ。ど派手にドンパチする予定があるのかい?」
「次の仕事相手が、どうやらいかつい相手ばかりらしくてな。どうせだし、機関銃でミンチにしてやろうと思って」
「ふーん、どこの傭兵も大変だねぇ。アンタはそういうの、嫌いかと思ってたけど?」
「大嫌いさ。けどまあ、選り好みもしてられねえからな……ほれ、代金だ」
この街では、俺は『流れの傭兵』ということになっている。依頼を受けながら日本各地を転々としながら二束三文のため命を掛ける大馬鹿野郎……そういう触れ込みだ。実際に依頼を受ける事もある。俺の経歴に説得力を持たせるためだ。
「よしよし、きっちり揃ってるね。まいどあり!荷物は何時もの通り郵送でいいのかい?」
「ああ。今回はここに頼む」
適当な紙の裏面に、とある住所を書き込む。この街から幾つか駅を跨いだ先にある廃ビルだ。ここに購入した火器を運んで貰い、その後重いものは近場のセーフハウスに。小銃等はガンケースに入れ替えて五車まで運ぶ予定だった。
手間はかかるが、俺の情報を隠すにはこれくらいしてもやりすぎと言うことはない。
取引も済ませ、手続きも完了した。用事は終わったから帰ろうと、俺は腰を上げる。
「おや、もう帰るのかい?折角だし、もうちょっと見ていきなよ」
「いや、必要なもん買い終わったし。そんなに懐に余裕ねーんだよ」
「いーじゃないか、安くしとくからさ!ね?もう一品だけでも!」
「そんなこと言われても、他に欲しい物なんて……」
「───例えば、護身用の拳銃をもっと良いもんにしたい……とかね?」
「……」
彼女の言葉に、思わず視線が左の脇……ジャケットの下に吊り下げられたショルダーホルスターへと落ちる。
「別にソイツが悪いとは言わないけどさ。アンタの事だし、もうちょっと頼りがいの有る武器が欲しいんじゃないかと思ったんだけど……どうだい?」
「……何で分かるかなあ」
呆れた半分恐ろしさ半分といった内心を隠しながら、俺はホルスターから一丁の拳銃を抜いた。
その回転式拳銃を見て、彼女が驚いたように目を瞬かせる。
「へえ、ニューナンブM60使ってるの?アンタの好みじゃないと思ってたけど」
「手持ちで残ってるのがこれくらいしかなかったんだよ。そうでなきゃ、こんな使い辛ぇもん持ってこねえよ」
ニューナンブM60。戦後、武装を米軍のお下がりに頼っていた警察組織が調達した国産拳銃であり、海上保安庁や皇居警察など多くの公的機関を支えてきた銃である。交番のお巡りさんが装備する拳銃として知名度は高く、ある意味日本人には一番馴染みがある銃と言える。
とはいえ、その性能は日本の警察機関にとって分相応が求められたためかなり控えめだ。そもそもの装弾数が5発しかなく、使用弾薬も.38スペシャルで、拳銃に多く用いられる9×19mm弾薬よりも低威力。犯罪者の鎮圧が主となる警察官にとっては十分でも、魔族を相手取る俺にとっては役不足にも程がある代物だ。
まあ、日本人の使用を想定しているためグリップが握りやすいのと、シングルアクション───撃鉄を起こした状態での射撃───での精度が高いのは評価点と言えるが。
「というか、よくそんなもの持ってたわねぇ。日本の警察は装備の横流しが殆どないはずだけど?」
「以前受けた仕事中に、やむを得ず使った事があってな。その時から手元に置いてたんだよ。使う機会はなかったが」
いや、あの時は大変だった。手持ちの武器が全部尽きて流石に死を覚悟したからな。こいつがなければ今頃……いや、だからって護身用には心許ないけど。
「ふーん……じゃあ折角だし、ウチで買っていきなよ。安くしとくぜお客さん?」
「……何企んでやがる?」
「失礼だねぇ。アタシはただ、大事なお得意様に素晴らしい銃をご提供しようってんだからさ」
「おいおい押し売りはゴメンだぞ!?」
今の言葉で理解した。この女、自分の好みの銃を布教しようとしてるぞ!?多分俺に好きな銃を選ぶ権利がねぇ!
「アンタがドイツ産をお好きなのはよく知ってるけどね、オーストリア産の新しいおすすめの品があるよ」
「だーれが
こちとら先立った妻もいなけりゃ形見の犬もいないし、復讐のために銃を取ったこともねえよ。後別に生産元の会社にこだわりもねえ。
俺の冷ややかなツッコミに対し、コイツはニマァ……と頬を歪ませただけ。オタク丸出しはキチぃぜ……。
「まあそう言いなさんな……これとかどうだい?」
そう言って店主は天板に一つの拳銃をゴトリと置いた。直線的な形状は漆黒を身に纏い、大きさも拳銃の中でもかなり大きい。グリップも太く俺でもギリギリ握れるといった程度だが、持ってみると存外持ちやすい。指の形に合せて凹みが付いているお陰か、手に吸い付くようだ。
「……グロック34か」
「御名答〜!こんな場末の店に回ってくる事はそうない一品さね!あ、バレルとスライドはロングタイプにカスタムしてあるけど、値段には入れないから安心してね!」
「まんまジョン・ウィックじゃん」
彼女の蘊蓄を適度に流しつつ、構えたりマグチェンジしたりしながら具合を確認する。重さは大体700gちょっと、装弾数は9mmを17発……やっぱりバレルが長いな。ベースのグロック17Lよりロングバレルに換装してるのか。引金はかなり軽めに調整してある。元が競技用ってだけあるな。マグリリースもスムーズ、問題なし。
「……うん、いいんじゃないか」
「へへ、そうでしょ?」
思わず首を縦に振ってしまうくらいには良い銃だ。ケチの付けようがない。彼女の言う通り、入念なカスタマイズと調整が施されている。正直、護身用に調達するのが勿体ないと思う程だ。
「で、値段は?」
「そうさね、予備のマガジンと弾薬も含めると……これくらいかね。あ、ホルスターはサービスしとくよ」
そう言って、彼女はサラサラとペンを走らせた紙を見せる。確かに流通価格よりは高いが、これだけ整備されている事を考えればまだ安いと思えるくらいだ。
「いいのか?こんだけ弄ってるのを売るなんて。気に入ってたんだろう?」
流石にこれは俺でも分かる。どれだけのこだわりをコイツに注ぎ込んだか。彼女は仕事人だが、同時に酔狂な趣味に生きる人間でもある。趣味のために金と手間を浪費する事を厭わず、その見返りで得られる自己満足だけを良しとする。それだけ愛した銃を、手放していいのか?
俺の問いに目を瞬かせ、彼女は視線を俺の手へと向けてこう言った。
「そりゃ、勿体無いな〜とは思うけどさ。銃は芸術品じゃない、武器だ。手元に飾って眺めるだけってのは、銃に失礼ってもんだ」
それに、と彼女は続ける。
「どうせなら、ちゃんとソイツを活かしてくれる奴に使って欲しいのさ」
だから任せたと。本分を全うさせて欲しいと。視線でその意思を語っていた。
「……うむぅ」
正直、そう言われても困るというのが本音だ。
俺には銃に対して、そこまでのこだわりはない。どれだけ使い易いか、どれだけ殺しやすいかという尺度しかない。昔の俺なら銃にロマンを求めたかもしれないが、今の俺にはそれがない。
銃は敵を殺し身を守るための手段。それ以上でも以下でもないのだ。
だから、そんな俺に期待をされても応えようという気概はない。強いて言葉を返すとすれば───
「俺は何も変わらない。何時もと変わらず、ただの拳銃としてコレを使う……それでいいなら」
何の確約にも、返事にすらなってない俺の言葉。
それを聞いて、彼女は満面の笑みで肯定を表したのだった。
△ ▼ △ ▼ △
用事を済ませた俺は、ふらふらと市を物色しながら帰路へ着く。まあ必要な物は専門店で買い揃えるようにしてるので、殆どウインドウショッピングだが。
行き先は街の中心近くにあるビジネスホテル。今回の休暇……もとい物資調達に際し確保した寝床だ。スラム街にしては治安の良い中央区に店を構え、小綺麗に整っており値段もそこそこ。数日間過ごすだけならば丁度良い。
今通っているエリアは露店が両脇に連なる市場だ。一般的な食料から
その市場を抜けた先がこの街の中央、メインストリートだ。ブティックや飲食店が軒を連ね、ちょっとした歓楽街の様相を呈している。その中に結構な割合で風俗店が混ざってるのは対魔忍クオリティと言うべきか……。
そして何より、スラム街の中でも中央通りの治安は格段に良い。理由はここだけ警察が機能しているから……ではない。その真逆だ。
メインストリートは全て、この街に根付く裏組織───暴力団やら海外マフィアやらの縄張りとなっている。幾つもの組織がひしめき合いながら、それぞれの土地や店舗を管理運営しているのだ。そのため、誰かがトラブルを起こそうものなら組織の連中が火消しにやってくる。彼らの存在が抑止力として機能しており、アウトローといえどここでは大人しくするしかないのである。
店先の商品をチラ見しつつ、俺はのんびりと歩を進める。今日やるべき用事は全て済ませたので、非常に気楽だ。後残っているのは、シャワー浴びて夕飯を食べて部屋でのんびりするくらい。仕事の準備ばっかで忘れそうになるけど、休暇だからねこれ。
思いっきり休むぞー!なんて内心ウキウキになっていると───
「こ、来ないでくださ〜い!」
「……ぁん?」
甲高い女の悲鳴が響き渡る。思わず立ち止まり振り向くと、奇っ怪な衣服を纏った金髪の女が此方に走っていた。何だあの服……コスプレか?
「待てゴラァ!」
「逃さねぇぞこのアマッ」
よく見れば、その後ろからどう見てもカタギではない男が二人。恐らくここにナワバリを持つヤクザなのだろうが、どうやら金髪の女を追い掛けているらしい。
危ない組織に追われる女……在りがちな展開だが、どう考えても厄介事のニオイがぷんぷんするぜ!俺には関係ないし、とっととトンズラ───
「あっ!そこの方、助けて下さい!」
「は!?え、ちょっ!?」
こ、この女俺を盾にしやがった!? 急いで背中から引き剥がして……いや力つよっ!?全然離れねえんだが!
「ハッ、ハッ……ようやく追い詰めたぜぇ、嬢ちゃんよぉ?」
そうこうしている間に、ヤクザが追い付いてしまった。
「あん?何だお前?」
「もしかして、オジサン達からその女護ろうとしてんの?かっくいーねぇ?」
やばい、何か変な勘違いされてる!?
「ち、違いますよ!こいつがいきなり背中掴んで……くそ、離せぇ!」
「い、嫌ですぅ!離したら逃げるつもりでしょう!?」
「当たり前だろ!?」
そこにはヤクザの目の前だというのに、ギャーギャーと騒ぎ続ける男と女の姿があった。まあ俺達なんだけど。
流石に俺が女を引っ剥がすまで待てなかったのか、二人の男は薄っぺらい笑みを貼り付けて話しかけて来る。
「ほら坊っちゃん、とっととそいつ置いて帰んな。痛い目に遭いたくなけりゃなぁ?」
「そうそう!オジサン達、これでもこわーい人達なんだぜ?」
「だから、俺もそうしたいんですけど……!こいつが離れなくて……」
「はぁ、めんどくせえなあ……とりま脅す?」
「そうだな。おらクソガキ!このチャカが目に入らねえってか!」
この女もそうだが、このおっさん共も人の話全然聞かねえな!?女を引き渡したい意思を見せても取り合ってくれないどころか、懐から拳銃を取り出してこっちに───お前俺に銃を向けたな?
「い"っ!?がっっ!?ぶっ───」
「な、何───ギャッ!?」
数発の発砲音と、汚い断末魔。一瞬響き渡った騒音が鎮まった事を確認し、
「……あ、やっべ」
直後、自身のやらかしに思わず声が漏れる。
本当に咄嗟の行動だった。銃口を向けられた俺は腰のホルスターから銃を引き抜き、抜き撃ちの要領で脚に1発。次いで構えを取りながら腹に2発発砲し、衝撃で前のめりになった
その結果、俺は6発の弾丸を喪失し、相手は二人とも死んだ。
───正直に言えば、「銃を向けてきたから撃ち返してやろう」という意志は全くなかった。一応、銃を向けてきても最初は脅しにしか使わないという事も理解していた。それにビビったふりをして女を引き渡してしまえば全て終わっていたはずだし、俺もそうするつもりでいた。
その上で、身体が動いてしまったのだ。無意識ですらない、現象に対する反射行動だ。まるでカエルの死体が、電極を刺されると痙攣するかのように。
……あ〜、やっちゃったぁ。うっかりヤクザ殺しちゃったよ。やっべぇ、ついやっちった〜……。
周囲のざわめきが、徐々に大きくなっていく。このままでは、この肉塊共の仲間が到着するのも時間の問題だろう。よし、逃げるか。
「……え?あ、あの───ってちょっと!?」
何か言いかけていた女をスルーして、一目散に駆け出して裏路地へ飛び込む。この街は無計画な建造が多いため、整備された表通りは兎も角裏路地はしっちゃかめっちゃか。まさに迷路の様相を呈している。逃げるのにはうってつけだ。
後は適当な所を見付けて暫く身を隠していれば……
「あーー!!やっと追い付きましたっ!!」
「んな!?」
大きな声がしたと思ったら、あの金髪女が追い掛けて来やがった!?何で!?
「な、なんで付いて来た!?」
「だ、だってぇ……助けてくれたのに、お礼も言えてないじゃないですかぁ!」
「そんな理由で大声出してるんじゃあないよ!もし追手に気付かれたら……」
「おい!こっちから声がするぞ!」
「……ほれみろぉ!」
「今の、私悪くないですよねぇ!?」
「お前が追ってこなけりゃバレなかったんだから、お前が悪いに決まってるだろ!」
「そもそも、あそこで撃たなければ良かったじゃないですか!」
「は!?正論で人を殴って楽しいか!?」
「ぎ、逆ギレ……!?」
追手らしき声とは逆の方へと駆け出す俺と、何故かそれに追随してくる女。
付いてこなきゃいいのに、という思いと裏腹に、喧騒は徐々に大きく広がっていく。厄日だなと悪態を付きながら、ホルスターから再度グロック34を取り出した。
まさか手に入れてすぐ使う事になるとは思わなかったが、こうなったらコイツの重みだけが頼りだ。
「あ、そういえば!自己紹介がまだでしたね!」
「え!?今!?こんなデッドチェイス繰り広げてるタイミングでやらなきゃいけない!?」
「はいっ!おばあちゃんが言ってました!「一蓮托生になった相手の名前は知らなきゃいけない」と!」
「ほ、ほんとに!?お前のばあちゃんホントにそんな事言ったの……!?」
俺の横に並んだ元凶が、いけしゃあしゃあと宣う。
こんなピンチの中であるはずだが、そんな事は知ったことではないと女は笑う。初対面の人に挨拶する気軽さで、朗らかに。
「私の名前は、リリスと言います!魔女ですっ!」
選ばれたのは、リリスでした。
というわけで今章のメインヒロインであるリリスちゃんです!甘ったるい声の金髪巨乳っ子、いいよね…
しばらく先にはなってしまいますが、ちゃんと魔法バトルしてるところも書いていきたいですね
ちなみに、グロック34を試しているシーンは、まんまジョン・ウィック2のテイスティングをイメージして書きました