銃撃戦シーンが中々書けなかったので、花蓮ちゃんの強化フラグでお茶を濁します。お待たせしたのに、本当に申し訳ない(メタルマン並感)
花蓮の忍法について、かなりの独自解釈が含まれます。
「忍法の使い方を教えて欲しいだぁ?」
「はい」
とある日の昼下り。たまの休日を満喫していた俺に、真面目くさった顔で花蓮はそう言った。課題として渡したアサルトライフルの整備を完了し、手に付着した油汚れを取り除いた後の事である。
「いやお前……俺が異能持ってない事承知の上で言ってんの?何、嫌味か?」
「違います。何でわざわざそんな事しなきゃいけないんですか」
いかにも心外ですという表情で呆れたように言う。それにしても、言っていいことにも限度があるわ。異能使えない事、こちとら結構気にしてんのによぉ?
「手札を増やそうと思って忍法のバリエーションを考えていたのですが、中々思わしくなくて……宗次さんの意見を参考にしたいな、と」
「あー、そういうことか」
なるほど、わざわざ忍法の話を俺に振ったのはそういう理由か。手札、つまり『自分に出来る事』はあればあるだけいい。札が一つ増えれば、問題に直面した時に取れる択が十も二十も増える。
「でもなぁ……俺、異能使う感覚とかちんぷんかんぷんだからなぁ。やっぱり忍法持ちに聞いた方がいいんじゃね?」
「能力を応用するためのアイデアが欲しいんです。宗次さんなら実際に似たような能力と相対した経験も、対処法も知っているでしょう?」
何か凄く買い被られてる気がする……。
「氷属性の相手とか、そこまでした事ないぞ?いくつか対処法は考えてるけど漫画とかの知識ベースだし……」
「それでも構いません。」
えぇ……?そこまでして俺に聞きたいか?
「まあ、俺はパスで。せめて分類が近い水遁使いでも探して聞いてみれば……?」
あまり役には立てなそうだし、現実的な打開策を提案しようとした俺を、小さく袖を引かれる感覚が引き留めた。
「そ、その……宗次さんと一緒に考えたい、じゃ……だめですか……?」
そう言いながら、ちょんと控えめに摘んだ服の袖口を引いている。理由として自信がないのか、指の力で軽く動かしている程度だ。若干頬を朱く染めながら上目遣いで見つめてくる。
「……分かった分かった。でも、あんま期待すんなよ?」
「……っ!」
途端、ぱぁっと花蓮の表情が明るくなる。全く、このくらいでそんな嬉しそうな顔するなんてな。
……何か俺、花蓮に対して甘くなってないか?
△ ▼ △ ▼
「さて、まずはお前の忍法を分析するぞ」
「はい!」
どことなく喜色が漏れている花蓮の返事を聞きながら、俺は紙に彼女の忍法について、思い付いた端から情報を記述する。勿論、最終的にこの紙は一片も残さず消去します。
「『氷遁』系忍術、『氷花立景』。能力は接触物のエネルギーを吸い取り凍らせる事。お前が直に触ってる物や箇所と接触している部分を経由することで10mの範囲なら能力を行使出来る……合ってるか?」
「はい、私が把握しているのも概ねその通りです」
彼女の了解を確認し、再度紙面に視線を落とす。
花蓮の能力は、謂わば『フィクションにおけるテンプレートな氷系能力』と言える。しかも、どちらかといえば悪役とかに多いタイプだろう。触っただけで相手を凍らせる……例えばそう、魔女とかにありがちだ。
そういう奴等は大概、天候操ったり巨大な敵を凍らせたりでやりたい放題なんだよなぁ。
「相手に触って凍らせる以外にどんな使い方してる?」
「そうですね……氷の剣を作ったり、壁を張って盾にしたり、でしょうか。変則的ですが、前に宗次さんに作らされたみたいに大きな物も生み出せますよ」
「あ〜……あったなあ、そんなこと」
「えっ、そんなふわっとした記憶しかないんですか!?」
そう言えば氷で武器とかも創ってたなあ、とぼんやり思い出す。盾にも使えるのか、『
改めて考えると、『物を凍らせる』という範囲内なら結構フレキシブルな運用出来るんだなあ。何か凍らせるだけじゃなくて、ある程度形弄って道具とかも作れるんだから。
……接触物凍らせて、氷の武器とか建造物作る?何か、まんま能力被ってるキャラがいた気がするなぁ。拷問好きで、将軍やってた……ドS、エス───
「あ、エスデス将軍か」
「どうしました急に」
「いや、お前と能力ほぼ同じ漫画のキャラいたなーって」
「私と同じ……ですか?」
「何だ急にソワソワして」
「しっしてませんけど!?」
何でか変な素振りをしだした花蓮はさておき、俺は記憶からあの漫画を読んでた時を掘り出していた。エスデスはどんな能力の使い方をしていたか……答えは決まったようなものだった。
「ふっふっふ、喜べ花蓮。お前の力を活かす方法を思い付いたぞ!」
「本当ですか!?まだ話し始めて10分も経ってないのに……やはり宗次さんは頼もしいですね」
「おいおい、よせやい」
部屋に穏やかな雰囲気が漂い始める。異能に関する相談……難題だと思ったけど、俺にかかれば簡単だったな!
「それで?どう使うんですか?」
「くくっ、それはな?」
「それは?」
「───時を、止めるのさ」
「おバカ!!」
「いたい!?」
痛みと共にパシーン!と乾いた音が響く。
「な、何するんだ!?せっかくアイデア出してやったのに、後頭部叩くやつがあるか!?」
「こっちの台詞です!自慢気に何無茶苦茶なこと言ってるんですか!?」
「何を言う!氷結系の能力と時間停止は切っても切れない関係にあるんだぞ!エスデスだってやってたもん!」
「あってたまるものですかそんな関係なんか!そんな可愛い語尾付けたって、騙されないんですからね!」
「…………えっ、お前これを可愛いとか思っちゃうのか?嘘でしょ……」
「───ッ!!あぁぁぁぁもぉぉ!!宗次さんのばかぁ!」
「いた、いたたたた!!」
何だかんだで、花蓮を宥めるのに十分くらいかかった。その間俺は、ノートで頭をパシパシと叩かれ続けたのである。
「……続けていいか?」
「はい……」
不承不承といった感はあるものの、花蓮が頷いたので話を戻す。
「でも、漫画とかだと結構オーソドックスなんだぜ?何かを凍らせる能力で、最終的に時間を停止させるのって」
「それは先程も聞きましたけど……どういう理屈なんですか、それ?」
「細かいとこは俺も知らんけど、あれじゃね?空間を時間ごと凍らせる〜とか、熱量全部奪って動きを止める〜とか」
「何かふわふわしてますね……もっと具体的な理論とかないんですか?」
「そう言われてもなぁ……バトル漫画とかだと理屈は置いてきぼりだし、時間操作って概念的な干渉が多いし」
「駄目じゃないですか……」
う〜ん……行けると思ったんだけどなぁ。時間停止って定番中の定番だけど、めっちゃ強力だし。DIO様や刹那殿などなど、使い手を上げればキリがない程だ。
使われた場合の対処方法も限られており、同等の力に目覚めて『入門』するか、同位階の能力を
……いやまあ、そこまで強力な力を花蓮が身につけられるのか、という点は微妙だけどさ。
「他のでお願いします。もっと現実的なので」
「……………しょうがないか」
「沈黙長くないですか?」
しかし、現実的な使い方か。正直、氷で物を創り出せば十分な気がするけど……あれ?
「そういえば、お前戦う時って剣しか使わないよな」
「? そうですね。基本携行している打刀か、能力で作った長剣で戦闘してますけど……それが?」
「いや、他の武器は使わないのかなと思って。槍とか、弓とかさ」
「あー……考えたい事はあるですが、他の武器はあまり使えなくて」
どこか申し訳なさそうに、花蓮は理由を告げる。まあ、コイツの能力というか才能って、身体能力特化ではないからなあ。だが、だからといって妥協すべきではない。
「それは流石に勿体無いんじゃないか?限定的とはいえ物体の創造が出来るんだから、そのアドバンテージは活かさにゃいかんだろ」
「……やっぱり、そうですよね」
「前線指揮だけやるってことなら問題ないだろうけどな。今の主題は、能力の用途を増やす事だ……嫌なら、辞めるか?」
「いえ、やります。宗次さんに助言を求めたのは、私ですから」
俺の目を真っ直ぐ見て、きっぱりとそう言った。全く……俺が逃げ道提示した途端に覚悟決めやがって。
「とりあえず修練する武器を絞るぞ。まず槍か薙刀系の長物と短刀、後は弓……はちょっとムズいか。遠距離は、そうだな、槍投げか投石辺りか?」
「投石……
「いや、投石器を使う。スリングでもいいけどな。そこらの石か、氷の礫作って布に包んで振り回す。せっかく投げ物が上手い生物なんだから、存分に活用させて貰おう」
原始的な手段ではあるが、投擲とは進化の過程で人類に与えられた最強の武器の一つだ。身体能力で劣る相手に対し、人類は『物を投げる』事で対抗してきたのである。
「……それ、魔族相手に効きます?」
「何も考えず使ったら無意味だな。調達はお手軽、仕組みは単純、当たるかどうかは訓練次第。それが有効打になるかどうかは、どのタイミングで札を切るかだ。」
「……ふふっ。宗次さん、そればっかりですね?」
「そういう戦い方しか出来ないもんでな……俺だって、もっと分かりやすいやり方が出来ればとっくにやってる」
「……それもそうですね」
銃にしろ、爆弾にしろ、投石にしろ、俺には全て等しく手段。大小強弱関わらず、最終的にはどのタイミングでどう使うかに帰結する。忍法が使えず、チート能力もない俺に出来る事なんてそんなものだ。
だからこそ、どんなものであれ手札として使えるなら構うもんか。生き残るためなら、何だって使ってやる。
「私は、宗次さんのそういうところ、好きですよ?」
「……そりゃどうも」
柔らかく微笑む花蓮から、思わず目を逸らす。何だろう、言いようのない気恥ずかしさが……。
……いやいや、主題からズレてるぞ。カットカットカットぉ!
「よし、とりあえずこれで創造する武器は決まりだな!」
「……ふふふっ」
「……え、何」
「ふふ……いえ、別に?分かりやすく仕切り直したなあ、何て考えていませんよ?」
「ほぼ自白じゃねえか!くそ、次だ次!」
思わずそう吐き捨てながら、再度会話を軌道修正する。本題はあくまで能力の方向性を模索することだからな!?
「氷で武器を創る、相手を凍らせる……他の使い方は?」
「いえ、余り。精々が地面を凍らせるくらいだったので」
「せっかく融通効きそうだし、上手く使えないもんか……とりあえずそれっぽい能力片っ端から出してみるか」
「お願いします」
下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、ということで思い付いた作品の能力をひたすら並べて検討してみた。エスデスが使ってた氷の兵士や天候操作、オーソドックスに氷塊の射出、DIO様と作品繋がりで氷の鎧などなど。オタク知識の粋を尽くした会議が開催されたのだが、結果は芳しくない。
大体は能力のキャパを超えていて再現不可、若しくは能力の機能外であるため制御が出来ず。氷の兵士や鎧は形状の再現こそ出来たものの、攻撃を防ぐ強度と操縦性の両立が出来ずお蔵入りとなった。
見た目は完璧だったから行けると思ったんだけどなあ、ホワイト・アルバム。まあ、剣撃や銃弾を防ぐ装甲の厚さを持たせながら着込んで動かすとなれば、そりゃ厳しいか。一点特化のスタンド使いが如何に凄まじいか思い知ったわ。
「うーん、やはりネックになるのは能力の適応範囲か……『触った物を凍らせる』という範疇から外れると途端にキツくなるな」
顎に手を当てながら、試行錯誤の末に得た結論へ思索を巡らす。能力の範囲なら結構融通効くと思ったが、逆にそこからはみ出た途端に制御が困難になる。ファンタジー系でよくある氷の弾丸を発射するアイデアも、弾丸を『作る』ところまでは良くてもそれを『浮かせて』『飛ばす』段になると全く駄目だ。
「やはり、私の忍法は接触物を凍り付かせる事に特化しているのでしょうか?」
「まあ、鎧が作れるのは確認出来たし、攻撃に合わせて部分的に展開すれば……ん?」
「どうしました?」
「いや、違うだろ。お前の能力」
「はい?」
そうだ、物を凍らせるという部分に重点をおいていたから忘れてた。
「正確には、『生命力を奪って』凍らせる能力のはずだ」
「……?ええ、そうですけど……でも、殆ど変わらないのでは?」
「いや、全然違う。視点を変えなきゃいけなくなる」
「視点、ですか」
ここまで俺は、何かを凍らせる能力をどう活かすか、という観点から解決方法を探っていた。
勿論、そこで出たアイデアは無駄ではない。だがそのまま解を探していても、満点には辿り着かないのだ。
氷室花蓮の忍法『氷花立景』は、『生命力を奪い』『氷結させる』───二重の能力を内包した術なのだから。
「だから、前提として何方がメインなのかを考えないといけないわけだ」
「つまり、忍法の本質を見極める……ということですか」
「ああ。」
花蓮の言葉に首肯で返す。
生命力を奪った副作用として物体が凍るのか、物体を凍らせるために生命力を奪うのか。結果として起こる現象が同じでも、過程が違えば意味が丸っきり変わってくる。
そして、今回それがどちらなのかという点だが……
「俺の私見だが、生命力を奪う……正確には『熱量を奪う』のがメインだと思う」
「熱量……物質が持つエネルギーを奪って、その結果凍結が発生するということですか?」
「ああ。氷結がメインなら、奪ったエネルギーを本体であるお前に還元する必要はない。全部能力の糧にする方が効果的だろう」
なるほど、と花蓮は頷きながら顎に手を当てている。恐らく俺の言葉を検証しているのだろう。俺は珈琲を啜り、その作業が終わるのを待つ。
ややあって、花蓮は再度口を開いた。
「宗次さんの意見は理解しました。忍法の効果範囲が限定的だったのも、リソースをそちらに割いているから……ですね?」
「多分な。あくまでお前の作る氷は、忍法の効果を及ぼすための媒体だろう。端末である氷を接触させ、エネルギーを奪取する……エナジードレインの選択肢が追加されるから、使い方の幅も広がるぞ」
「ですが、効果範囲が10mしかない上に接触が大前提です。オーク程度なら兎も角、
……え、こいつ二つ名が出回るレベルの奴とガチンコする気なの?確かに生真面目な奴だけど、何でそんな格上に喧嘩売ろうとして……あ。
「もしかして、キシリアに負けたの気にしてる?」
「ッッ!?!? そ、そんなわけないじゃないですか!?」
「めっちゃ気にしてるじゃん……」
どうやら当たりだったらしい。こんな露骨に動揺を露わにする花蓮も珍しいな。
「あいつと同レベルの連中相手する気なのか?やめとけって。ああいうのは現役の上忍クラスに任せときゃいいんだよ。こういう時、臆病な方が丁度いいんだぜ?」
「ぅぅ……でも、女には負けられない時があるんです……」
「なんだそりゃ」
思わず呟くと、キッと睨んでくる。なんだその目は、俺が悪いみたいな……。
溜息を吐く。どうやら変える気はないらしい。まあ、コイツが格上相手取ってくれれば、俺も楽になるしな。少しは手伝ってやるか。
「なら、どうやって対抗するか考えないとな。何処から手を付ける?」
「…………。忍法を相手に当てる手段から」
「あいよ。まあさっきお前が言ったみたいに、射程と接触前提がネックになるんだが……」
「氷を全方位から伸ばすとかどうです?」
「
さっき話に出たキシリアも、周囲の同時攻撃を一撃でいなす程度朝飯前だった。せめて、それを布石に一撃入れるくらいは出来なければ話にもならない。
現状の花蓮の戦闘スタイルは刀剣で近接戦しながら隙を突いて忍法で相手を氷結させるのが基本。最近はそこに銃火器が加わり、かつ使える武器を増やす事を加味すると……
「忍法の射程以上だと銃くらいしか有効な手段がない上、不意討ちも威力が弱いから有効打になりにくい。問題はそこだろうな」
「忍法を当てる以前の問題、ということですか?」
「白兵至上主義な連中の土俵にわざわざ上がる必要はない。可能なら、アウトレンジから一方的に殴りたいな」
「まあ、理想はそうですが……」
格上と対峙した時の前提条件は、相手の得意分野で戦わない事、これに尽きる。敵が最大限能力を発揮出来る状況では、葱と鍋を背負っている鴨と同義だ。故に、戦う時は自身の得意かつ相手の不利な領分に引き込む事が大前提となる。
剣士には狙撃を。弓兵には格闘を。戦士は戦術を持って封殺し、策士は暴力を持って叩きのめす。
言うは易く行うは難し。現実で相対した時、そう簡単には引き込めないだろう。名が売れているということは、そういった手合を跳ね除けて来たはずだ。
それでも、勝ちたいならば。生き残りたいならば。
「仮想敵をキシリアとしてだ。10m程度、あいつ軽く超えてくるぞ。氷で壁作っても、一瞬稼ぐので精一杯だろ」
「地面から氷伸ばしても、地面毎砕かれて潰されましたし……」
「能力の射程内で戦闘するのは、最後の手段にしたほうがいいな」
「ですね……でも、そうなると私に出来る事なんて……」
歯噛みしながら、微かに俯く。自分の能力では太刀打ち出来ないと言われてしまえば、さもありなんといった感じだ。
だが、それでは駄目なのだ。『自分では出来ないのでは』『どうあがいても無駄なのでは』何て考えても、解決策が見つかる事は決してない。逆に、自分の思考に縛られてしまうだけだ。
だからこそ───
「『ポケットの中には何がある』、だ」
「……ポケットの、中?」
「出来る事をやれ、全て出し切れ。そういうことじゃないか?」
「何で曖昧なんですか……」
「解釈は人それぞれだからな」
俺が尊敬し、参考にしているキャラクターの一人。
「……よし!とりあえず試すか!」
「試すって……何をですか?」
「決まってんだろ?」
ベッドから腰を上げた俺は、にやりと笑って言葉を返した。
「お前がアイツラと戦える可能性を、だ!」
△ ▼ △ ▼ △
「準備出来たかー?」
「はい、何時でも」
場所を変え、現在俺達は森の中にいた。この一帯は訓練場に指定されているものの、学園からは少し距離があるため学生対魔忍からはハズレ扱いされている場所だ。つまり、誰にも見られず訓練するにはうってつけなのである。
「しかし、こんなもの創らせて何をする気ですか?」
花蓮は不思議そうにしながら、手中の短剣───投擲用のダガー───を弄ぶ。当然、能力で作成した氷の剣である。
「んー……ちょいと仮説の確認したくてな。ま、物は試しだ。とりあえずやってこーぜ」
「はぁ……」
納得は出来ていないようだが、
「そうだな……まずはそこの木に投げてみろ」
俺は花蓮の近くにある木を一本指定する。俺が突き出した指の先を目で追い、花蓮はその線をなぞるようにダガーを放った。
小気味良い音を立てて、鋒が樹の幹に潜り込む。
「よし。そのまま能力を起動して、あの木を凍らせてみろ」
「え!?この状態で、ですか!?」
「そうだよ。というか、それも含めてのテストなんだから。自分から離れた氷で能力を発動出来るか試したことは?」
「そりゃ、ありますけど……」
「じゃあいいだろ。とりあえずやってみ」
「……分かりました」
何でか花蓮はゆっくりと瞼を閉じる。音が途絶え、静寂な時が流れた。風に木々が靡き、葉擦れの音のみが微かに耳を揺さぶる。
そのまま待つこと数秒。パキッ、パキッという小さな音が聞こえ、花蓮が目を開けた。
「出来、ました……」
ほぅ、と息を付きながら花蓮はそう告げた。俺は結果を確認するため、脚をダガーの刺さった樹へと向けた。
一見すると何も変わった様子がない。とりあえず状態を確認するため、腰からナイフを取り出して幹をガツガツと削ってみる。
「お、いけてるいけてる。しょぼいけど」
「人の努力をしょぼいって言わないでくれます……?」
だからやりたくなかったんです、とぶつくさしてる花蓮をスルーし、削れた箇所を覗き込む。するとそこから、幹へと喰い込むように延びた氷の根が確認出来た。数cm程度だけど。
「とりあえず、これで直接接触してなくても能力が使えると」
「労力と見合ってない気がしますが……」
「まあ本来の用途から外れてりゃそんなもんだろ。恐らくだけど、お前の能力って奪取したエネルギーを本体に還元するのが前提なんだと思う」
ぼんやりとではあるが、『氷花立景』の全貌が見えてきた。恐らく、能力発動のプロセスが特殊なのだ。
まず第1段階で対象の氷結と熱量の奪取。ここは花蓮か媒体である氷の接触が不可欠だろう。
氷結の完了と同時に第2段階。恐らくここで、奪取したエネルギーを本体に還元する、という行程が入っている。当然、そのエネルギーの伝達路は忍法で精製した氷水だ。
そして本体───花蓮にエネルギーが伝達されたら第3段階だ。つまり、吸収したエネルギーを用いた能力の再発動。これにより再度氷結とエナジードレインが行われる。後はこれを繰り返すことで、氷を拡大していくのだ。
この理論ならば、遠隔で発動した場合の範囲が極々小さい事にも説明が付く。恐らくエネルギーを還元する事が出来ず、プロセスが第1段階で停止しているのだろう。
よって熱量の回収も能力の再発動も出来ず、最初に込められた分のエネルギーを使い果たして機能を停止する。氷の根が殆ど伸びていない原因はこれだろう。
「つまり遠隔での発動は可能、しかし範囲は小さく効果が薄いというわけだ」
「……でも、ゼロではない。そう言いたいのですか?」
「その通り!良く分かってんじゃーん」
たかが数cm、されど数cm。全くの不可能である事と僅かでも可能である事の差は非常に大きい。これで彼女は、自身の能力が遠隔発動出来るという知見を得たのだ。
「それじゃあ次。あっちの木に向かって、同じようにやってくれ」
「え!?でも、あの木は10m越えてますよ!?」
「いいからいいから」
次に俺が指差したのは、『氷花立景』の射程距離である10mよりも離れた木だ。勿論花蓮は困惑を示すが、構わず押し切る。
「ほらほら早く〜。花蓮さん、ちょっと良いとこ見てみたいっ」
「ああ、もうっ!」
お手本通りの無駄のないフォームで投擲された刃は、その距離をものともせずスコンッと音を立てて突き刺さる。
次いで、能力を起動する。距離が遠いせいか、先程よりも呻き声は長く深く続いた。
待つ事10秒、花蓮はゆるゆると溜息を吐いた。
「で、出来、ました……」
「おう、お疲れ」
「……範囲外での発動は、出来ないものとばかり……」
「まあ、効果範囲の意味を取り違えてただけって事だろ」
「効果範囲の意味……?」
疲労を隠せない彼女に労いの言葉を投げ、俺はダガーが突き刺さった樹へと歩み寄る。先程と同じように幹を削って行くと、やはり氷剣から数cmの根が牙を突き立てている。
「どうでしたか?」
「さっきと同じさ、ちょっと伸びて終わり。まあ想定通りだけどね」
息を整えた花蓮が近づいて来たので、俺は手でその様子を示す。
そうですか、と花蓮は落胆の声を出して……一拍ののち、違和感に気付いた。
「え、ちょっと待って下さい。さっきと同じ、ですか……!?」
「そう、
驚愕に目を見開き、花蓮は能力の痕跡を見つめる。そう、先程と───
「ど、どういう事なのでしょうか……何故、能力の範囲外で発動したものと、範囲内のものが同じ結果に……?」
「言っただろ?効果範囲の意味が違ったって。お前が把握してる『氷花立景』の射程距離10mってのは、『端末兼導線である氷を伸長出来る範囲』って事だったんだよ」
本体に熱量をバイパスする氷水が伸びる限界が10m……つまり先程仮定したプロセスを実行し、能力を自在に行使出来る範囲がイコール射程距離ということ。熱量を本体に還元出来る範囲とも言い換えられるか。
勿論これは花蓮が訓練の中で見出したカタログスペックの一つで、間違いではない。ただ『遠隔で能力を使用出来るのか』という視点が欠けていただけであり、それが付け足されれば話は変わってくる。
「基点となる氷さえあれば、能力を発動する事は遠隔でも可能。遠隔の場合侵食範囲は極狭に留まるが……」
「効果範囲を越えても、発動は出来る」
「その通り」
俺の台詞を花蓮が引き継ぐ。
「遠隔発動で時間がかかるのは、まあ有線と無線の違いみたいなもんだろ。本体と直接繋がってる部分と、感覚に頼って全方位から探す必要がある場合とじゃ話が変わるのは道理だわな」
「はい、今までとかなり勝手が違いますね。しかも距離が離れれば離れるほど、感知に時間がかかります」
まあ、こればかりは仕方がない。射程距離を無視する、用法外の裏技みたいなもんだし。だが、遠距離で戦闘する手段を欲していた花蓮にとっては一番必要な答えでもある。
「咄嗟に使うのは厳しいですね……事前に罠のように準備しておく必要があります」
「それこそ、巻き菱みたいにバラ撒いておくとかな。上手く行けば、足裏に氷を喰い込ませる事が出来るから大分条件が変わるだろ」
「ありですね。どうやってバレないように踏ませるかも考えないと……これなら、先程話していた投擲がかなり有意になりましたね」
「な?一つ手札が増えるだけで、かなり変わるだろ?」
「はいっ!」
出来る事が一つ増えれば、連鎖的に選択肢が増えてゆく。例えそれが小さなものであっても、0と1では大きな違いだ。
「……ふふっ」
「どうした?やけに嬉しそうじゃん」
「ええ。これが宗次さんの見てる景色だと思うと、何だか嬉しくって!」
「……そんな大したものじゃないけどな」
大袈裟な物言いをする花蓮から、思わず目を逸らす……やめろ、わざわざ覗き込んで来るんじゃないっ。
「あ、あーあ!これで氷浮かせられれば、ホワイト・アルバムみたいに弾丸弾けたのになー!」
「相変わらず話を逸らすの下手ですね……氷浮かせるだけで、どうやって弾丸弾くんですか?防ぐんじゃなく?」
「まあこればっかりは、実際に見たほうが分かりやすいな……よし!とりあえずジョジョの漫画貸すから、全部読むように!能力バトルの参考になるから!」
「……え?宗次さん、あれ全部持ってるんですか?確か100巻超えてましたよね!?」
「え?当たり前じゃん。普通持ってるでしょ?」
「えぇ……」
本筋とは関係のない与太話を交わしながら、俺達は訓練場を後にする。勿論、訓練の痕跡は全て消した後でだ。
……さて、俺に出来るのはこの程度だ。所詮無能力者である俺がアドバイス出来る範囲には限度がある。劇的な改善案など出せるわけがない。せいぜいが、こうして視点を一つ追加する程度。
それでも───
「宗次さん」
「うん?」
「やはり、宗次さんに相談したのは間違いではありませんでした。ありがとうございますっ」
「……そうか」
───こうして彼女が前に進んでくれるなら、知恵を絞った甲斐があるというものだ。
「……そうだ、このお礼はちゃんとさせて頂きますから。今夜、楽しみにしていて下さいね?」
「それお前がヤりたいだけじゃね?」
執筆途中で、氷花立景とホワイト・アルバムが射程距離とかまで同じなのに気付きました。ギアッチョ強すぎねぇ?完全に上位互換やんけ
今回解説した氷花立景の仕様ですが、殆ど筆者の独自解釈です。
「一定範囲の物体を凍らせる…じゃあ凍らせて範囲外に出た物体はどうなんの?」
「対象からエネルギー奪えるんか…凍らせるのとドレインどっちがメインだ?」
みたいな疑問を詰めてった結果こうなりました。多分ガバ理論なので多めに見てね。