というわけで、対魔忍+魔女vsヤクザ(チンピラ)
ふぁい!!
「私の名前は、リリスと言います!魔女ですっ!」
この危機的状況にも関わらず、その少女───リリスは、燦々とした笑顔でそう言った。
いや、この状況で自己紹介とか剛毅だなおい。でもそうか、マジョってやつなのか……うん?『マジョ』───え、今コイツ魔女って言った!?
「おまっ、お前魔女ぉ!?コスプレ女じゃなく!?」
「んなぁ!?誰がコスプレですか!これは、お婆ちゃんも着てた伝統の衣装なんですよ!?」
「知るかそんなことっ! よりにもよって魔女って、お前厄種にも程があるだろ…!」
「ななな、何て事言うんですか貴方!?」
魔女。
魔界でその名を轟かせる、理外の存在。魔法を操り世界の法則を軽々と乗り越える異能力者。
聞いた話では、魔法使いの中にはあらゆる化け物に喧嘩を売り、尽くをその武力で薙ぎ払ってきたというとんでもやべーやつもいるらしい。魔界にすら悪名を轟かせた化け物の中の化け物だ。
そんで、この頭ふわふわ女がその魔女だって……?これもしかしなくてもめちゃくちゃ厄ネタ案件なのでは……!?
……と、困惑している俺だったが、事態は俺を放ってはくれない。何せ大声を出し合っている状況。言い争っていると、当然声も響くわけで……
「おい!見つけ───げばっ!?」
「ちっ!追い付かれたか……逃げるぞ!」
「ひぃ……って、え、あっはい!」
声を上げようとした追手を咄嗟に撃ち殺し、銃を構えたまま狭い路地を再び駆け出した。
「何か、変な、持ち方ですねっ」
僅かに息を乱しながら、リリスは俺の手元を見てそう指摘した。
まあ、そう思うのも無理はないだろう。腕は直角に曲がっており、両手で祈るように銃把を握り込んでいる。銃も斜めに傾け、目前のサイトを片目で覗きながら他方の瞳で全体を見る。
Center Axis Relock───C.A.R Systemと呼ばれる近接戦用の射撃スタイルだ。
『ジョン・ウィック』でも大々的にクローズアップされたその戦闘方式は、閉所における取り回しの良さに加え射撃精度の高さやリコイルの軽減、更に武器の強奪防止や照準を付ける目を容易にスイッチング出来るといった利点がある。
表通りと対称的に、裏通りは狭く入り組んでいる。その上横道が多く、いつ何時敵が出てくるか分かったものではない。閉所においても行動が制限され辛く、不意の接敵にも対応出来るこのスタイルはまさに最適だった。
───例えば、こんな風に。
「こっちから銃声がしたぞ!絶対に逃がす……なっ!?」
「っ!」
すぐ前の横道から、ガタイのいい男が銃を構えて飛び出してくる。彼我の距離は目と鼻の先と言えるほど近く、一瞬の後に互いが敵に対処しようと動き出す。
その男は即座に身体を動かし銃口をこちらに向けようとしている。しかし相手の腕は真っ直ぐ伸び切っており、その長さが再照準までの時間を引き伸ばす障害となった。
一方、俺は簡単だ。腕を僅かに動かし、銃口を少し上げる。これだけで俺の右目とアイアンサイトの直線上に、奴の頭部が重なった。
即座に引鉄を引く。少し指を戻し、もう一度引く。
放たれた二発の弾丸は、まるで引力に惹かれるように頭蓋に吸い込まれた。頭が仰け反り、後頭部から血と脳漿が撒き散らされる。
着弾の衝撃で男……いや、肉袋が動きを止めている隙に俺は屈んでその陰から飛び出す。こいつの発言からして、単独行動ではないはずだ。共に動くチームで動いているだろう……ほら、やっぱりいた。突然死んだ仲間に驚愕し、足を止めた間抜けが二人。死体の血に注意が向いており、姿勢を低くした俺に気付いてもいない。一発、二発。死体が二つ。
「M1911……いや、
後続がいないことを確認してから、連中の武装に視線を向ける。彼らが所持していたのは、所謂コルト・ガバメント、そのコピー品だった。幾らここらを縄張りに持つとはいえ、所詮木っ端ヤクザ……いや、油断するべきではないな。下手したら、ヤバイものを所持しているかもしれない。
「……よし、行くぞ」
「うぇ?あ、はい……っ」
リリスに声をかけ、再び進む……いや、勢いで同行させてるけど、ホントに大丈夫かこれ?流石にこいつまで守ってる余裕はねえぞ?
現状、ここは敵地のど真ん中と相違無い。増援の底は見えず、土地勘は向こうの方がある。しかもこちらは単独行で、補給の当てがないと来た。
「急がねえと挟み打ちされるな……っ」
思わず思考が漏れる。遠くから聞こえる喧騒から察するに、敵の数はどんどん増えている。入り組んでいるとは言え裏路地は狭い。すぐに敵が殺到して押し込まれるだろう。それを避けるなら、走り続けるしか道はない。
「そ、そうですよっあなたの、なまえ!聞いてない……ですっ」
「え、それまだ続くの!?」
「もちろん、です!」
息も絶え絶えになりながら、リリスは尚食い下がる。この切迫した状況で、それよりも大事なものであるかのように。
……ど、どうしよう!?
下手すると延々言い続けそうだから黙らせないと……でも魔女とか魔法使いに名前教えると魂支配されるとか何とか戦記で見たし……えっと、えっと……!
「ビショップ!」
「え?」
「チャールズ・ビショップだ!」
気が付けば、咄嗟に脳裏に浮かんだ名前を口にしていた。こないだ見た映画で主人公が名乗った偽名である。
……いや、自分で言っといて何だけど流石に無理では!?どう考えても欧米の方の名前じゃん!?100%日本人の顔してる俺じゃこんなんで騙せるわけが───
「ビショップさんですか!よろしくお願いしますっ」
騙せちゃったよ……。
「と、とにかく!無駄口叩いてないで、とっとと行くぞ!」
「ま、待ってくださいよ〜!」
無理矢理話を切り上げ、気の抜けた声を置き去りにして前へ進む。もはや、それしか出来ることはないのだから。
───脚を動かす。
背を向けた男の後頭部を撃つ。
───地を蹴りつける。
後ろから迫ったチンピラ共に1マガジン分鉛を叩き込む。
───風を切るように。
横から飛び掛かった愚者を背負い投げの要領で地面にぶち込む。
───前へと突き進む。
集団の内一人に組み付いて盾にして、姿勢を変えて拘束しながら順番に射殺する。
そう長くはない裏路地に、次々とヤクザ共が飛び込んでくる。仲間を殺した俺を血祭りに上げるために。そんな奴らに弾丸を叩き込み、一人また一人とお仲間の元へ送り込んでやる。
冷静に、着実に、容赦なく、しかし殺意もなく。これは単なる作業だ。俺が死なないためのライン作業。余計な感情にリソースは割かず、淡々と手足を動かし殺していく。
そうして死体の山を作りながら前進すること数分、俺達は目的地───縄張りの境までやって来た。確かこっちが、別の組織が持つ縄張りだったはずだ。そこに入ってしまえば奴等だってそう簡単に手は……っ!?
「んだてめえら!さっきから人シマん前でうろちょろとよぉ!喧嘩売ってんのか、あぁ!?」
「ぅるっせぇぞ!俺達は命令に従ってるだけだっつうの!ピーチクパーチク喚くならてめえの頭に穴開けたんぞ!」
「んだとごらぁ!」
「やんのかおらぁ!」
見張りが立ってる!?しかも
「ど、どうしましょう……!?」
後ろに控えたリリスが小声で囁く。俺が聞きてえよそんなこと……!
前進は選択出来ない。ヤクザが銃を向けてくるだけならまだしも、釣られてマフィアまで敵対してきたら目も当てられない事になる。下手をすれば、マフィアが収める勢力地域が丸々敵になるのだ。
「……別ルートで行くしかない。急ぐぞ」
急いで引き返し、別の道へと脚を向ける。他の組織の支配域と隣接している場所はここだけではない。何とかして完全に包囲される前に、ここから離脱しなければならない。
だが───
「見つけたぞっ!こっちだ!!」
「くっ、しまった……!」
「わきゃっ!?」
復路には既に数人の男が陣取り、此方に銃口を向けていた。リリスの腕を掴み咄嗟に身を隠す。直後、連続した発砲音が響き渡る。その間隙を縫って慌ただしい足音が耳に届く。
まずいまずいまずい!このまま時間をかければ、際限なく増援が来る!一人一人はチンピラに毛が生えた程度とはいえ、数揃えて囲まれれば磨り潰される……!
予備の弾薬もそれなりに消耗している。敵から奪えば消費は緩和出来るとはいえ、
「増援が到着する前にこいつ等突破して逃げ切る……キッツいなぁ……!」
思わず愚痴が溢れる。条件はかなり厳しい。武器はハンドガンのみ、これで正面からの銃撃戦を制さなければならない。しかも後ろに控えるお荷物を護りながら、後方からの挟撃を警戒しながら。増援が到着するというタイムリミット付きだ。
クソッ、あのときこの女と出会さなけりゃ、こんなことには……いや、待てよ?何でコイツのお守りまでしなけゃなんないんだ?
「おい」
「ひ、ひゃい!?」
「お前魔女なんだよな?なら、自分の事は何とか出来るよな?」
「えっ……え!?ど、どういうことですかぁ!?」
「もうお前の事は護らないから、自衛くらいしろって言ってるんだよ!」
「うぇぇぇぇ!?」
俺の発した言葉に、素っ頓狂な声が返ってくる。いやなんだその反応は。当たり前の事しか言ってないだろ。というか、この状況でどうして緊張感がないんだ。もしかしてコイツ結構図太いタイプか?
「何だったらアイツら全員ぶっ倒して欲しいくらいなんだけどな!」
ひとまずそう吐き捨て、意識を戦場へ引き戻す。弾薬を無駄に使えない以上、乱射による牽制という択は取れない。何とか間隙を見つけ出し、確実に射殺していく必要がある。
マガジンの残弾数を確認して再度装填し、スライドを引いて
さて面倒だ、と銃を構え直し───
「わ、分かりました!私が何とかすればいいんですね!?」
「は?……って、おい!?」
丁度意識を前方へと向けたタイミングだった。まるで見計らったかのように、リリスは物陰から一歩踏み出した。
思わず漏れ出た静止の声も間に合わず、彼女はその身を鉄火の只中へと曝す。暴力的な殺意はその穂先を豊満な肢体へと向け直し、鉛の牙がその柔肌を喰い破る───当然訪れるはずの未来は、条理を覆す『魔女』の手によって、容易くひっくり返された。
「光よ!ええーい!」
彼女の口から放たれた呪文と思われる言葉。それと同時に溢れた碧い閃光が、路地を焼き払うかのように真っ直ぐ世界を埋め尽くしていく。
発射された弾丸は全て塵へと還り、銃口を向けていた男達はその身体を中空に漂わせた後、大きな音を立ててコンクリートに激突した。
静寂。
あれだけの怒号と炸裂音で満たされた路地裏は、静かになっていた。
「ふふんっ!どうですか?これが魔女の力ですっ」
ほよんっ、とその双丘を揺らしながら自慢気な顔を見せる。成る程たしかに。俺はその
弾丸は全て光と消え、銃も拉げて二度と機能しないだろう。だが、人間には一切の外傷が見受けられない。落下による打ち身はあるだろうが、彼等の意識が月まで飛んだのはそれよりも前……つまりあの魔法を食らったから。
彼女の魔法は同じ効果範囲でありながら、傷を与える対象すら選別が可能なのだ。物理攻撃ではまず不可能で、対魔忍の異能ですら困難な所業。それをいとも容易くやってのけた。
これが魔女の一端か、と真に納得しつつ、俺は彼女に投げ掛けるべき言葉を決めていた。
「……いやそれ出来るなら初めからやれよっ!?」
「はひぃ!?」
……っといけねえ。思わず叫んじまったが、そんな事をしてる暇はねえんだ。
倒れ臥してる男達を跨ぎ、来た道を引き返す。本当なら全員撃ち殺して後顧の憂いを絶っておきたいところだが、それほど残弾に余裕がない。全てスルーして先を急ぐ。
この街の裏路地は、重ねられた違法建築の結果複雑怪奇な迷路と化している。『一度入ると出られなくなるから、迂闊に足を踏み入れないように』なんて揶揄されるくらいだ。横幅が狭く、出鱈目に入り組んでいる。その上薄暗く、経路を判別出来る目印や特徴が少ない。
さて、そんな場所で大人数相手に鬼ごっこしたらどうなると思う?
「……足音複数!反響してどっちから聞こえるのか分からん……っ」
「やぁっ!……ってうぇぇ!?も、もう後ろから来てます!」
「そのまま抑えろ!挟撃されたらマズい!」
「は、はい!」
そうだね!不期遭遇戦だねっ!
ああもう、あっちこっちからむさ苦しい奴らがぞろぞろ湧いてくるぅ! 数多いしばったり遭遇しちゃうから、全然気が抜けねぇ!
「……っと!言ってる側か、ら!」
「───うわっ!なん……ぎぼぁっ」
考えてる最中から、横道から拳銃を構えたガタイがいいあんちゃんがエントリーだ。咄嗟に腕ごと銃を弾き、こめかみに銃口を突き付け発射。反対側から血と脳漿が噴き出ている。
「ついでに、っとぉ!」
「ぐぁ!?」
「なん……ぎゃっ!?」
駄目押しに、死体となった男を横道に思い切り蹴り出す。予想通り、後続に激突。いい足止めになってくれる。その隙に一発一発、的確に脳天へぶち込む。脅威を排除し、再び走り出す。
一瞬遅れて、構え直したG34の
───つまり、弾倉に眠る計34発の9x19mmパラベラム弾が俺に残された最後の財産というわけだ。
「いや流石に捌ききれんわ!」
思わず絶叫しながら、俺はホルスターにグロックを突っ込む。マガジン一つ分とはいえ、手持ちの弾薬は最後の切り札として温存しておきたい。これでも急所を狙うことで消費は抑えてきたつもりだが、如何せん敵の数が多すぎる。
「後ろは任せる!こっちからは援護出来ないからそのつもりで!」
「わ、分かりました!『魔女リリス』の名に誓って、一人だって通しませんとも!」
「任せたぞマジでなッ!」
幸いな事に、俺の後ろに控える魔女はきちんと仕事をしてくれている。敵が来るたびに魔力が奔り、弾丸は甲高い悲鳴を上げて弾ける。何時まで保つか分からないが、彼女のお陰で背後の守りは鉄壁だった。
腰に装着した鞘からナイフを引き抜き、地面に放置されていた大きい布を掴み上げる。視覚と聴覚に意識を集中させ、接敵に備える。
敵はいつ来る?今か、今か、今か、今か───来た。
直線の終点、T字になっている道の左側から飛び出して来た男。その目に驚愕の色は無く、真っ直ぐ此方に銃口を向けて来る。
だからこそ、俺の方が早い。
引き金が引かれ撃鉄が落ちるより数瞬早く、俺は手に持ったボロ布を叩き付けた。
「うぉ!?なんだ……!?」
唐突な衝撃と視界を潰された事で、男は発砲を中断し状況を確認しようと咄嗟に障害物を剥ぎ取ろうと動く。こんな子供騙しな手でも、訓練を受けていないチンピラの死因としては十二分だ。
布の下を潜るように姿勢を低く肉薄し、ナイフを両脇へと突き立てる。
「ギャッ」という悲鳴共に取り落した
「右へ抜けて走れ!後ろは俺が抑えるっ!」
「は、はいぃ!」
リリスを先に走らせ、前後衛をチェンジ。拘束した男を追手達へ向けながら相対する。コイツは今から敵ではなく、俺用の肉壁兼人質となる。躊躇して出足が鈍るならよし、無理でも銃弾を防ぐ盾の代わりになる。
「か、カンタぁ!!」
「何してるんだ!?早く撃てよ!」
「で、でもカンタに当たっちまうだろ!?」
どうやら連中、両腕をだらんと下げ首元に刃を突き付けられた仲間を見て動揺を隠せないらしく足並みが乱れている。だが、こちらはそれに構う理由はない。
全身を盾で隠しつつ、肩をフォアグリップ代わりにして射撃。奴らの出足を止めるように、弾丸が空気を切り裂いていく。序でに肉盾が持っていた弾倉をベルトから調達……2つかよ、ケッ!
「……くっそマジで当たらねえ!粗悪品じゃねえかボケが!!」
「こ、この野郎……!俺の銃に何て事言いやがるっ」
「事実しか言ってねえよ三下ぁ!」
……とカッコつけたは良いものの、弾頭が狙い通りの軌道を見せず思わず吐き捨てる。照準を頭に合わせているはずなのに、弾丸は右に左に上に下に。命中弾があっても肩や腿など。致命傷には程遠い。やっぱり安い銃は駄目だな!
「こっち!こっちならまだ安全でーす!」
リリスの声を聞き、牽制射撃を重ねつつ、確保出来た逃走路へ急ぐ。命中精度がゴミな以上、大事に温存していても意味はない。確実な足止めのため、奪い取った弾丸をありったけ叩き込んでいく。
敵との距離を保ったまま、指し示された道に到着。俺は首元に向けていたナイフの切っ先を、男の横っ腹に突き入れる。時間がないので、手早く刃を下げ傷を広げた。
「ぎぃぃぃぃやぁぁぁァァァァぁぁ!!」
激痛にのたうち血を撒き散らすソレを無視して、俺は走り出す。後ろで喚き声が大きく、しかし遠ざかるのを確認して足止めが効果を発揮したことを理解する。
敢えて殺さず放置することで救助に人員を割り振らせる。流石ゲリラ屋の古典的な戦法、効果覿面だ。
使い切ったM1911A1をグロック34と入れ替え、走り出す。増援の気配はない。後ろで騒いでいる奴らの声が誘蛾灯の役割を果たしてくれるだろう。今の隙に───
「この後はどうするんですか!?」
「さっきと変わらねえ! このまま突っ切ってアイツらのナワバリから抜ける!」
敵の動員できる数に底が見えない以上、真っ向から戦うのは無理だ。初志貫徹、敵地からの脱出を目指す。
走る。走る。走る。俺達の位置を見失ったのか、敵と遭遇すること無く俺達は薄闇を駆ける。
脚を動かし続けて数分、何とか入り組んだ裏路地を抜けれると思ったすんでの所で、けたたましい騒音が再び姿を表した。
「あわわわ…!ま、また来ました〜!」
「纏めて吹き飛ばせるか!?」
「もう魔力が限界ですぅ!」
「なら防御に専念しろ!俺の弾丸はすり抜けるように!」
「無茶苦茶ですよぉ!?」
短く指示を飛ばし、俺は銃を構える。正面から突撃してきたのは、およそ10人の団体客。奴らが手にした武装は遂に拳銃だけではなく、短機関銃も追加されていた。
「何秒保つ!?」
「と、とりあえず5秒でお願いしますっ」
「上等ぉっ!」
俺の声を聞くやいなや、眼前に迸る閃光。白色の輝きが方陣を描き、一枚の盾を紡ぎ出した。同時に、魔法陣を挟むようにしてマズルフラッシュが瞬き炸裂音が空を裂く。
鏡合わせのように放たれた弾丸は、しかし全く異なる結末を辿る。俺の弾頭は一人の脳天を掻き乱したが、相手の鉛は白い光に絡め取られ地に墜ちた。
「なっ!?」
まさかの光景に、前方から動揺する気配が伝わる。まあ無理もない。言い出しっぺの俺ですら、驚愕を隠しきれないのだから。
これが、悪名高き魔女。独自の法則で世界を捻じ曲げる、理外の力を行使する存在。
───と偉そうに宣ったものの、5秒しか続かないんだよね、これ。そんなに猶予はないんだわ。
だから、とっとと死んでくれよ。
間髪入れずに腕を動かし、頭に照準を合わせ、引金を引く。光を越えて弾丸が飛翔し、頭蓋を穿孔する。
更に続けて腕を動かし、頭に照準を合わせ、引金を引く。弾丸が脳味噌を抉り、膨大な神経ネットワークをしわのついた肉塊へと変貌させた。
只管、ただ只管にこの動作を繰り返す。反撃はなく、回避を考える必要がない。真っ直ぐに立ち、上半身だけを忙しなく駆動させ処理を続ける。出来るだけ精確無比に、しかし電光石火の如く。
どれだけ急ごうと、時間は淡々と針を刻む。1秒……2秒……3秒……早く、早く、早くっ!
「すみません、もう……!」
リリスの悲痛な声が鼓膜を揺さぶり、意識が現実へと帰還する。丁度5秒が経過したタイミングだった。光が輝いていた白色は翳り、寿命を迎えた蛍光灯の様相を呈していたが辛うじて健在だった。
魔力的にもギリギリの所を、何とか保たせてくれていたのだ。その事実に感謝しつつ、俺は声を張り上げる。
「よくやった!壁に寄って身を隠せ!」
それだけ伝え、銃把を強く握り直す。
「くそっ!撃て、撃てぇ!」
「このクソ野郎がッ」
最後に残った、大声で喚き散らしながら銃を向けている男二人。指を素早く動かし撃たれる前に射殺する。脳天に風穴が開くと同時に、ガチンッ!とグロックのスライドが後退した状態で停止した。
「ちっ、残弾が───」
自ずと弾切れを悟った俺はリリースボタンを押し込み、リロードを行う───という丁度その時、倒れる死体のすぐ後ろから敵が銃を抜く姿を視界に収めた。最悪のタイミングだ、くそったれっ!!
「死ねよやぁぁ!」
「───っ!!」
マズイマズイマズイ!グロックの弾はない、予備弾倉には手を掛けられてすらいない。距離は5m程、詰める……前に撃たれる!何か、何か、今俺の手元にあるもの……左のホルスター!
右手に握る銃を手放し、左脇に吊るしたホルスター……その中に納めていたニューナンブM60のグリップを掴む。後はこれを引き抜き、射撃するだけ───ダメだ、一手間に合わない!
一瞬、一瞬だけでいい!引き金を引く時間さえ稼げれば……!頼む動いてくれよ俺の身体……ッッ!!
───がくんっ。視界が落ちる。
───脚の力が抜け切り、膝が地面に激突する。
───頭上を通り過ぎる、衝撃と音。
───ヤツの頭と俺の目玉の間に、黒いレティクルが割って入った。
───
「あぐぁっ」
.38スペシャル弾が頭蓋骨を強打し、男の体が大きく揺さぶられる。
だが、これではまだ油断出来ない。この弾丸の威力は9mm弾より劣っている。確実に、息の根を、絶つ。
仰け反っていた上体を戻し左手を右手に被せて強く握り込む。射撃態勢は整った。倒れ行く男の頭へ再度エイムを合わせる。引金は4回、弾倉に残った弾を全て叩き込む。
1発目、ハズレ。
2発目、肩に着弾。衝撃で動きがズレる。
3発目、再照準、発砲。側頭部に着弾。
4発目、倒れ掛けた所を口腔内にヒット。角度的に上顎から脳へ抜けるコースだ。
バタン、男が倒れる。手首のスイングでシリンダーを出して排莢を行う。腰の弾薬箱から弾薬を2発取り出し装填、再度構える。
……。
…………。
「……死んだか……?」
銃口は向けたまま、立ち上がって男の方へ向かう。警戒しながら、脈を確認。
……うん、死んでるな、これ。
「う、うわ〜〜ん!!もう駄目かと思いましたぁ〜!」
「ぐえぇぇ!?」
リリスさん!?いきなり飛びついて来ないでくれますか!?
「魔力切れで私は援護出来なかったから撃たれちゃうかと…ほんとうによかった〜〜!!」
「う……ぐぉっ……は、離せって!後うるせぇって!」
耳元でキンキンと響く声に思わず語気が強まる。敵地のど真ん中で、こんな騒いでる暇なんて……
『おい、こっちだ!』
『好き勝手殺しやがって! アイツらぜってぇ許さねえ! ズタズタに引き裂いてやる!!』
「「あ……」」
四方から聞こえる足音と怒号。どうやら、完全に囲まれたらしい。しかも結構数が多い。なんでヤクザがこれだけの戦力抱えてるんです?
……さて、状況を整理しよう。今の俺に残されたのは、弾切れ間近のグロック34と、火力不足のニューナンブM60。後、魔力的に限界のお荷物が一人。
んで、敵から奪おうにもコイツラ予備の弾薬とかあまり持ち歩いてないっぽいんだよね。しかも四方から波状攻撃受けるから、拾ってる暇があるかどうか。
おっと、これは詰みなのでは?
「あわ、あわわわわ」
「えっと、あの……大丈夫ですか!?」
「もうだめだあ、おしまいだぁ……勝てる訳がない……」
「ちょっ!?急に諦めないで下さいよ!?しっかりしてくださ~い!」
ぐわんぐわんと俺の身体をリリスが揺する。だが残念だったな…その程度じゃ、絶望に包まれた俺の心を動かす事は出来ない──ぜっ。
まあ、そそくさと死体から銃と弾倉剥ぎ取ってるから、まだまだ抗う気満々ではあるのだが。
さてどこまで行けるだろうか、と溜息が漏れる。接敵まで後何秒か。嫌じゃ嫌じゃ死にたくないんじゃと内心ぐちぐちしながら、引き金に指を掛けて身構え───
───物凄い力が、俺を引っ張った。
「ぐえっ」
「きゃんっ」
……いや、訂正する。途轍もなく一切の加減がない力で雑にぶん投げられた。だってめっちゃ痛いし!頭ぐわんぐわんするし!
余りの痛みと衝撃に目を回していると、壁一枚挟んだようにくぐもった声が聞こえてくる。
『おい!奴らはどこ行った!?』
『そんなバカな……逃げ場なんて無いはずなのに』
『探せ!絶対に逃がすんじゃねえぞ!俺たちがぶっ殺されちまう!』
ドタドタドタッ!慌ただしく響く足音が、少しずつ遠くなる。頭の痛みが引いたときには、辺りは静寂を取り戻していた。
「た、たすかった……のか?」
「『助けられた』が正しいわ。私が偶然通り掛からなかったら死んでたんだもの。運がいいわね?」
横から、女の声が呟きに応える。聞き覚えがあるそれに、思わず振り向いた。
呆れを帯びた表情の半分をマフラーで隠し、ジトっとした半眼を此方に向けている。服装は白いブラウスにジーンズと休日の若者そのものだが、指に弄ばれたクナイがそれを否定する。
「はぁ……何やってるのよ、こんなに大騒ぎ起こして。目立たないようにしてるんじゃないの?信条変えた?」
「お……お前は……!」
以前戦い、捕獲した元対魔忍。組織を裏切り、しかし再度敗北し、俺の所有物となったその女。
その名は───
「お前は……ごめん、名前なんだっけ」
「……鷲田明梨よ。自分が飼ってる狗の名前くらい、ちゃんと覚えておいたら? あ、もしかしてネコの方がよかったかしら。にゃん?」
やっぱりジョン・ウィックって…いいよね…(描写出来るとは言ってない)
うちのオリ主に無双って似合わないかなぁとは思いつつ、流石にスラムのチンピラ風情にガチ訓練した兵士が負けるわけがないので…
次の話は大体完成しているので、近々投稿出来ると思います!そこから先?知らんなぁ
正直な話プロットふわふわしたままノリで書いてるけど、きっと大丈夫でしょう!対魔忍だから!(慢心)