僕らヒーローアカデミア 作:グレート・ジェイ
ヒーロー達の体育祭
1
二〇一八年、世界は実に荒ぶっていた。
ある時から生まれ始めた『個性』(人権問題的観点からこのような名称がなされた)と呼ばれる超能力を持つ者達の存在によって、人々の平穏は脅かされている。というのがサイレントマジョリティーの意見であった。つまるところ、政府が兵器になりうる超能力者達をどうにかしてほしい、そのような風潮があったのだ。されど相手は人間、害獣のように駆除するわけにもいかない。政府が対応に追われているうちにも、個性を使用しての犯罪行為はその数を増すばかりだった。
結果当然の流れとして、個性を持った自警団が生まれた。ヒーローの誕生である。
だが悲しいかな、個性を持つものは圧倒的マイノリティー、ヒーローもまたマイノリティー、故にヒーローは――多少の例外はあるものの――己の身分を隠して活動していた。
この物語の舞台である日本屈指の偏差値を誇る雄英高校の一年A組にもヒーローは存在する。
というよりも一年A組全員がヒーローだった。別にヒーロー養成校とかそういうわけではない―――そんなものあるはずもない。
ほとんどが違った場所、違った時、違った理由でヒーローとして生まれ、全くの偶然ここに集まったのだ。
もはや、あほらしくさえある奇跡であった。
2
緑谷出久は焦っていた。かつてヒーローとしての力を受け継ぎ、今日まで活動してきた彼をもってしても困難な任務―――体育祭だ。
出久の個性はかなり単純な身体能力強化であり、その強化の上限は果てしなく高い。日本全体を見ても最もパワフルな力。それが彼が受け継いだ個性であった。もっとも、今の出久では力量が足りず、全力で使用すると自分自身を傷つけてしまうという致命的な欠陥があるのだが。その事実を考慮しても、出久の身体能力は通常のそれをはるかに凌駕している。そんな身体能力を持つ出久が体育祭など出ればどうなるか。当然、自分が個性持ちだということがばれる。
手加減はできる。そのための練習はしてきたから。問題は疲労だ。出久は思った。自分で言うのもなんだが、出久は非常に真面目な少年である。そんな真面目な少年が、明らかに手を抜いているとしか思えないくらいにしか疲れてなかったら、怪しまれるのは火を見るよりも明らかである。
「いいかい? 私たちは正体を隠さねばならない。なぜなら、周りに危害が及ぶ可能性があるからだ。……それにできれば個性持ちだということも気が付かれない方がいい。悲しいことだが、人類が個性という力を受け入れるにはまだ少し時間がかかるんだよ」
自分に個性を与えてくれた先代の言葉が思い出される。まずい、このままでは絶対にまずい。
出久は助けを求めるように爆豪勝己の事を見た。彼もまたヒーローの一人、出久と同じく日本政府直属の秘密機関、個性犯罪対策機関に所属するヒーローである。
爆豪は熱心に柔軟体操をしていた。その顔からは勝利への渇望が見て取れる。
「か、かっちゃん?」
「なんだよ」
「まさか、体育祭、本気でやるつもり?」
「はっ! 当たり前だろ」
まじでか、かっちゃん。
その言葉を発さずとも答えはわかった。爆豪は明らかに勝つ気だった。彼は手のひらから爆発する液体を出すことが出来る個性を持っており、さらに身体能力も個性を持たぬ者と比較して高いレベルにある。これは個性を発現した者の体が、その個性に合わせて強化されるという性質によるものだった。とどのつまり、爆豪の身体能力を披露する=個性持ちだとばれる。ということになりかねない。
出久は以前悪の組織の幹部と戦った時と同じくらいの速さで、心臓が走っていることに気が付いた。
3
うまく走れた。それはつまり速く、ではなく自然にということだ。飯田の個性はエンジンと呼ばれている。高速で走ることが出来、いつだって頼りになる個性だが、思い切り走る(もしくは走ろうとする)とふくらはぎ辺りにマフラーのようなものが出現してしまう。それを出現させないように走るには独特なコツがいり、そのための訓練は積んでいたが、飯田はこれが苦手だった。どうしても走ると気が昂っていって、制御が難しくなるのだ。
「やっぱり飯田くん、足速いね」
「あ、ああ、小さいころから訓……走るのが好きだからな」
危うく口を滑らせ、訓練というところだった。友達の緑谷くんに嘘をつくのは心苦しいが、訓練なんてとてもヒーロー的すぎる響きだ。
飯田は個性がその名前を得る以前から脈々と続く、ヒーローの一家に生まれた少年だった。飯田家の人間は代々速さに関わる力を持ち、幼少期よりその力を磨かれる。そして、実力がある基準を超えたと判断されるとヒーローとしての名を名乗ることが許されるのだ。『インゲニウム』という栄光ある名を。
「それに俺よりも爆豪くんの方が速いだろうな。全く驚くべき脚力だったよ」
「そ、そ、そうだね! や、やっぱりかっちゃんはすごいなぁ! あは、あはははははは……そ、それよりも常闇くんとかもすごくなかった!?」
「あ、ああそうだな。どうしたんだい? なんだか顔が引きつってるような」
「そ、そんなことないよ!」
「すごい汗だぞ?」
「走ったからね!」
そう言うと緑谷くんは笑いながら(なんだか固い笑いだった)水を飲んでくると言って、歩いて行ってしまった。
全くおかしな友達である。
4
体育祭というものは思ったより面白い行事だった。下界の祭りと侮っていたが、同級生とともに汗を流し、熱中して競技に臨むというのは実に楽しかった。何より元神でありヒーローとして活動している自分が勝てる。それが何より面白い。
月夜見、いまは常闇踏影と名乗っている少年(もっとも肉体の年齢が十五歳相当というだけで、月夜見の年齢は三千歳を超えている)は思わず口元を緩める。
「インチキだ」余計な声が水を差す。「インチキだぜ踏影」
「うるさいぞ、ダークシャドウ」
「さっきの玉入れは俺がいなかったら勝ててないぞ、これはインチキだ」
「お前は俺の一部だぞ? それを使って何が悪い」
「インチキだ、インチキ」
「うるさい」
ぶつぶつと言っていたダークシャドウは同級生の一人である芦戸が近づいてくると黙った。どうやら個性持ちだとばれるのはまずいと判断するだけの頭は健在らしい。
複雑な(これは常闇の主張であって、客観的な見方をするなら、愚かなもしくは馬鹿らしい)理由で下界に人間として転生させられた月夜見は、神として持っていた権能のほとんどを失っているが、その一部をダークシャドウという月夜見とは別個の人格を持った生物として、その身に宿していた。頼もしい反面、非常に鬱陶しい同居人である。
故郷である高天原へ帰りたいと思う気持ちはもちろんある。しかし、意外にも天上の存在は今の生活が気に入っていた。もちろん、善性を持った同級生の事もかなり。
「芦戸―――」
その名を呼ぼうとした時、常闇は異変を感じ取った。
5
さすがに徒競走はごまかしきれないんじゃないだろうか、もう適当に理由をつけて逃げ出してしまおうか。そう考える程度には、芦戸は追い詰められている。彼女の個性は制御が難しい。暴走してしまう危険性は十二分にあった。
彼女が持っている最初の記憶は鉄格子と注射針だ。最初から二番目の記憶はつぶれた死体、その次が解けた死体だった。二番目と三番目をクラスメイトたちのものに更新するのは真っ平だ。
「原理はわからないですが、とにかく興奮しすぎないでください。そうしないと、またどこかの機関につかまってしまいますよ」
それが彼女の恩人――もしくは共犯者とも――の言葉だった。彼女は個性が暴走した芦戸と対面して、生き残った数少ない人物である。その彼女の言葉に従うのが最も賢明それはわかっている。わかっているのだが、つらいものはつらい。
せっかくの体育祭を楽しめないなんて、最悪だ。だが彼女が災厄になるよりは数十倍ましだろう。
芦戸は意を決した。残念だけど帰ろう。その時だった。クラスメイトの常闇が声をかけてきた。
「芦戸―――」
しかし、常闇はその場で硬直する。日ごろから浮世離れした人であるが、それにしたって奇妙な行動であった。
「常闇?」
「チッ、興ざめだな」
「え?」
何か変なことをしてしまっただろうか? それとも個性の事がばれた? 一瞬、心臓が跳ね、すぐに杞憂だとわかった。
6
ポツポツいった感じだったのに、あっという間に大雨になった。雨天中止の旨が放送される。
よかった。一年A組の多くの生徒がそう思ったが、誰も口に出さなかった。
こうして今日もヒーローたちの秘密は守られたのである。
最近アベンジャーズ見たけど楽しいですね。
結果生まれたのがこのSSです。アベンジャーズ参戦キャラの設定(ぽいもの)を持っているヒロアカキャラがいますが、そうでないのもいます。今回は全員アベンジャーズですね。
次回からそれぞれの単独作品になりますが、アベンジャーズをなぞるのもあれなので、登場順は一部を除いてランダムにします。