「えーっと……あ、赤ボス! ここどこ?」
「ココハ、ヘイゲンチホ―ダヨ」
平原……かばんちゃんに聞いた話によると、
ライオンとヘラジカが合戦ごっこをしていた場所だったよね。
今は仲良くやってるみたいだけど、どうしてここに……?
「ふわぁ~……あれ、どうしたんですか?」
かばんちゃんが起きた。
「あ、かばんちゃん。ここが、へいげんちほーって赤ボスが……」
「え……?」
まだ少し寝ぼけている様子だったけど、
バスの外を見ておかしいことに気づいたみたいだ。
「あれ、なんでここにいるんでしょう……?」
「昨日、何があったか覚えてる?」
「昨日は何事もなく寝て……その間に何かあったのかな……」
とりあえずバスの外に出て周りを歩いてみることにした。
サーバルは起きる様子がないから赤ボスに見ていてもらっている。
「といっても、何かあるわけじゃないよね……」
見渡す限り静かな緑の大地が広がっているだけだ。
「まずは、図書館に戻った方がいいかな」
バスに戻ろうと振り返ったとき、
じっと見つめるような視線を感じた。
「…………?」
視線のする方を見ると、灰色の服装が目立つ女の子と目があった。
「あ……」
こっちを警戒しているのか、
少し仕草がぎこちない。
「はじめまして、僕はコカムイ…人間だよ。君は?」
「わたしは……ハシビロコウです、はじめまして……」
「「………」」
どうしよう、会話が続かない。
何を話そうかな…と迷っていると、後ろから草が揺れる音が聞こえた。
後ろにはかばんちゃんとサーバルと赤ボスがいた。」
「サーバル、やっと起きたんだ」
「夜行性だから! ……あ、ハシビロちゃんだ!」
「二人とも、久しぶりだね」
「ハシビロコウさんも元気そうで何よりです」
「……そうだ、せっかくだからヘラジカ様に会ってきたら?」
「それもいいね! かばんちゃん、行ってみようよ!」
「でも、図書館に戻った方が……」
と言いかけて、かばんちゃんは僕の方を向いた。
「……行ってみてもいいんじゃない?」
「ね、コカムイくんもそう言ってるし、行こ行こ!」
みんなでバスに乗って、
ハシビロコウの案内でヘラジカのいるところまで向かった。
「やあやあ二人とも、元気そうで何よりだ! それで、そちらは?」
「はじめまして、人間のコカムイです」
「おお、ヒトなのか……! ………ふむ」
なぜかヘラジカは全身をじっくりと観察している。
「お前………オスか?」
「えっ? あ……はい」
どこかで聞いたやり取りだ。
ヘラジカは自分の考えが当たって得意そうにしている。
「どうかしました?」
「いや、珍しいものでな。できるなら、一度手合わせ願いたいものだ」
「て、手合わせって……勝負?」
「その通りだ!」
そんなに戦いに慣れている訳じゃないし、
立派な角を見ても歯が立つとは思えない。
どうやって断ろうかと考えていると
緑の忍者っぽいフレンズが紙風船と棒を持ってきた。
「あ、あの………どうぞ」
「……どうも」
曰く、紙風船を体につけて戦い、
風船を割られてしまった方の負けらしい。
危なくないようにとかばんちゃんが考えた戦い方と聞いた。
「まあ、危なくないなら……」
付ける場所は自由だったから左腕の手の甲の側につけた。
詳しく言えば手首とひじの中間あたり。
なんとなく動かしやすい方がいいと思ったからだ。
対するヘラジカは頭のてっぺん。
立派な角で守られているからかなり理にかなっていると思う。
そこまで考えているかは疑問だけど。
「いざ、尋常に勝負!」
「お、お手柔らかに……」
結果だけ言えば当然だけど負けた。
左腕を隠すように半身になって構えたけど、
ヘラジカの力に片手では1秒も持たず、
左腕も使おうとしたところをやられてしまった。
決着まで10秒もかからなかったような気がする。
「まあ、仕方ないよね」
「だが、面白い発想だ! それに、私は感じるんだ……」
「感じる?」
「ああ、お前の中にある、強いものの魂を!」
「は、はあ……」
「次に勝負できる時を楽しみにしているぞ!」
「じゃあ、またここを通ることがあればその時に」
ほんの少しの間だったけど、
勝負の緊張とヘラジカの気迫で少し疲れてしまった。
「そうだかばん、せっかくここまで来たんだ、ライオンのところにも
顔を出してやるといい」
「……そうですね、コカムイさんも…」
「うん、行ってみよっか」
「またな、コカムイ! 次も楽しみにしているぞ!」
「あ、あはは……それじゃあまた…」
かばんたちがライオンの城に向かっているころ
図書館にて
「博士、コカムイはどうするのですか?」
「今は放っておくのです、そうすれば、あいつの本心を見極められるのです」
「本心……ですか?」
「昨夜のあいつがコカムイではない誰かだとすれば、
コカムイはそのうち……まあ数日のうちにここに来るのです」
「もし来なければ、あれが……」
「私は、コカムイを信じるですよ、例の件で分かったこともありますし」
そう言って、博士は昨日驚いて木にぶつけた左腕をさすった。
「それにしても、あの青い炎はなんだったのでしょうね」
「とうちゃーく!」
「これがお城……思ったより大きいね」
「入口はこっちですよ」
すぐ近くに来ると、遠目で見た時には感じなかった迫力をひしひしと感じた。
周りを見ると、迷彩柄の服を着たフレンズがいた。
「赤ボス、あれは?」
「アレハ”オーロックス”ダヨ」
「オーロックス……聞いたことないな」
「オーロックスハ野生種ガ絶滅シテシマッタ動物ナンダ」
「……そう、なんだ」
少し沈んだ気持ちになってしまったが、
挨拶しようと近づいた。
オーロックスもこっちに気づいたらしく振り向いて……
「動くな!」
槍を向けられた。
「怪しい奴め、一体何者だ?」
「に、人間のコカムイです……」
「ヒトだと? まあいい、大将のところに……」
「ま、待ってください! コカムイさんは悪い人じゃありません!」
かばんちゃんが事態に気づいて助け舟を出してくれた。
「か、かばんの知り合いなのか、すまない……」
「いえ、お気になさらず……」
かばんちゃんの顔の広さを感じた瞬間だった。
ライオンのところまでオーロックスが連れて行ってくれた。
「大将、かばんたちが来ました」
「入れ」
中から凄みのある声が聞こえてきた。
百獣の王というくらいだ、相当な大物なのだろう。
「失礼します」
「……オーロックス、下がれ」
ライオンがそう言うとオーロックスは礼をして
部屋から出て行った。
緊張する。下手な振る舞いをしたら
ガブリとされてしまいそう……
「はぁ~何回やっても疲れるなぁ~」
「え?」
「よく来たね~、楽にしていいよ~」
いきなりの変わりっぷりに面食らったが、
とりあえ楽な姿勢にした。
「それで、そこのキミは?」
「はじめまして、人間のコカムイです」
「ヒトなんだ……見たところオスみたいだけど、かばんとは”そういうの”なの?」
「え、どういうのですか?」
「なんだ違うのか~、面白そうなのにな~」
ライオンは案外親しみやすいとわかった。
野生動物のイメージはほとんど当てはまらないのかもしれない。
「そういえば、ヘラジカは元気にしてる?」
「はい、さっきまでヘラジカさんのところにいましたけど、とっても元気でしたよ」
「元気なのはいいけど、ヘラジカは元気が有り余って大変なんだよね~」
「わたしだっていつも元気だよ!」
そんな会話をしばらく続けた後、図書館に戻ることにした。
「またね~」
「またね、ライオン!」
「平原も、いろんなフレンズがいるんだね」
いつの間にか太陽が真上まで昇り、昼になっていた。
「……そういえば、なんでへいげんに来てたの?」
「……なんででしょう」
「二人も、分からないんだ」
「博士たちならきっと知ってるよ!」
「……そうだといいけどね」
ついさっきまでは気にしていなかったけど、
日記の5日目のところも書かれていた。
……いつ書いたんだっけ?