2-14 忘れモノ?
……眠い。
昨日は早めに床に就いたはずだけど、寝た心地がしない。
悪い夢でも見たのだろうか。
動こうとしない気だるげな体を恨みながら、
天井にあるシミを眺めていた。
バタンッ!
ドアが開いた。
「おはようっ!」
この声はサーバルだ。
こんなに元気な声が聞こえてくるとこっちも元気になる気がした。
だが、体は動かないし声は出ない。
その代わり、妙に感覚が冴えている気がする。
「ちょっと、起きてよ!」
急かされてやっと起き上がることができた。
「ふわぁ~……おはよう……」
「大丈夫? すごく眠そう……」
「……問題ない、といいな……」
起き上がった僕の体は、横向きに倒れ込んだ。
「ええっ!?」
二度寝したい。夜がもう一度明けるまで。
「もう、起きて、起きてってば!」
「そんなにムキにならないでー……」
なんやかんやで結局起こされた。
ロビーにはもうみんな集まってジャパリまんを食べていた。
「おはようございます、遅かったですね」
「うん、なんだか眠くてね……」
ジャパリまんを食べた。
なんだかいつもよりおいしい。元気が出る気がする。
「アリツカゲラさん、これ、いつものジャパリまん?」
「そうですけど、どうかしました?」
「……いや、なんでもないよ」
疲れた体に栄養満点のジャパリまんがよく効いただけだろうね。
……こんなすぐに効果が出る気はしないけど、まあいいや。
それはともかく、これからどうしよう。
これ以上やるべきことが思いつかない。
記憶は、具体的な方法がないし、帰るのは、いろいろな理由で無理だ。
だったら、行ったことのないところにでも行ってみるべきかな……?
そうなると、バスを使ってまた移動することになる。
ロッジは居心地がいいから離れるのは名残惜しい気もする。
別に戻って来ないわけじゃないけどさ。
突然、ロッジの扉が開かれた。
いつしかのキリンを思い出した。
そこにはフェネックが立っていた。
「フェネックさん、おはようございます」
「おはよー、かばんさん。それに、コカムイさんもまた会ったねー」
「あの時はどうも……あれ、アライさんは?」
「アライさんならすぐに来ると思うよー」
その言葉通り、すぐにアライさんが白いフレンズを連れてロッジに入ってきた。
「かばんさん、大発見なのだ!」
「あ、もしかして昨日のサンドスターで生まれた子?」
「きっとそうに違いないのだ! ええと、
名前は……そういえば聞いてなかったのだ」
「わ、私はイヅナっていいます……」
アライさんが連れてきたフレンズはそう名乗った。
格好を見てみると、ぱっと見は真っ白だけど
よく見ると服に赤や黄色の綺麗なアクセントが施されている。
白い尻尾と耳……キタキツネに似ている。
「この姿は……きっとキツネの仲間なのだ!」
「散歩してるときにアライさんが見つけたんだよー」
「これも、アライさんの”かんさつりょく”の力なのだ!」
「はじめまして、僕は人間のコカムイ。よろしくね」
「あ、の……! おほん、はじめまして」
イヅナは何か言いかけて少しせき込んだ。
「はじめまして、かばんです」
「サーバルキャットのサーバルだよ!」
とその場にいる一人ひとりがイヅナに自己紹介をして、
アライさんがイヅナを見つけた時の話で盛り上がっていた。
すると、ぴょこぴょこと音を立てて赤ボスがイヅナに近づいた。
イヅナもそれに気づき、少しかがんで赤ボスを覗き込んだ。
「ハジメマシテ、ボクハラッキービーストダヨ」
「はじめまして、よろしくね、赤ラッキーさん」
「ねえねえ、イヅナちゃんは何が得意なの?」
「え、私の得意なこと……ですか」
イヅナは思いつかず困っているようだ。
「よーし! アライさんが見つけてやるのだ、外に行くのだ!」
「ゴーゴー!」
「ええっ!? ちょ、ちょっと待ってくださーい!」
サーバルとアライさんに連れられ、外に出て行ってしまった。
「元気だね、あの二人……」
「新しい友達が増えて、きっとうれしいんだろうね、
それにあの子、なかなかいい表情するねぇ……」
「サーバルちゃんもアライさんもとっても楽しそうですね!」
「……そうだ赤ボス、”イヅナ”って動物について教えて」
「マカセテ」
赤ボスは検索を開始した。
開始した……が、電子音は勢いをなくし赤ボスは震え始める。
「検索中、検索中……」
「赤ボス、分からないなら正直に言って?」
「……ゴメンネ、ボクノデータデハ”イヅナ”ニツイテ分カラナカッタヨ」
「オオカミさんとかは知ってますか?」
「私もイヅナなんて動物は聞いたことがないね……」
「ボクも、わからないです」
「あ、私も……」 「名探偵であるワタシにもさっぱりだわ!」
「じゃあ、図書館なら何か分かると思います……
そこから帰ってきたばかりですけど」
確かにわからないフレンズのことだったら図書館が一番だ。
でも見る限りイヅナは狐だから……
「その前に雪山に寄るのもありかもね、狐のことだし
キタキツネたちに聞いたら何か分かるかも」
「それなら、雪山に寄ってから図書館に行きましょう」
奇しくも、初めてここに来た時と同じルートで
同じ目的地へと向かうことになったのだった。
……ふと横を見ると、何やら考え込んだまま
固まっているフェネックがいた。
「フェネック、どうしたの?」
「……コカムイさん、妙には思わなかった?」
「妙?」
「ラッキービーストが、イヅナに話しかけたことだよ」
「……ええと、それがどうかした?」
「そっかー、聞いてなかったのかもね」
フェネックの言っている”妙な事”がよく分からなかったけど、
次にフェネックが発した言葉によって、それに気づかされることになった。
「……ラッキービーストは、普段ヒトにしか反応しないんだ」
「そ、それって……」
その言葉の意味について考えていると、別の疑問が脳裏に浮かんだ。
あれ、イヅナ確か、『赤ラッキーさん』って言ってたよね……
昨日生まれたフレンズが、ラッキービーストは普通赤じゃないって知っていた?
ここに来るまでに見かけただけ?
それにしては迷いなく『赤ラッキー』と呼んでいた……
そして、僕は彼女の姿に強い既視感を覚えていた。
いくつもの疑問が混ざり合い、無邪気に二人とはしゃいでいる彼女の姿が
異質なものに見えてしまった。
「君は、一体……」
彼女の紅い瞳と目が合った時、こちらに向かって微笑んでいたような気がした。