「博士、また来たよー!」
2日ぶり、そして3度目の図書館訪問だ。
「で、今回は何の用ですか」
「この子について教えてほしいんだ」
「イヅナです、は、はじめまして」
「イヅナ……という名前ですか」
博士たちは少し悩んで、
「そうですね、とりあえずついてくるのです」
とイヅナを図書館へ連れて行った。
博士たちは流石話が早くて助かる。
「じゃ、僕もちょっと調べものしてくるね」
と言って、僕も図書館に向かった。
イヅナたちがテーブルに着いて話をしている。
多分僕の時のような会話だろう。
僕は階段を上り、上の階の書庫に入った。
この書庫には百科事典や国語辞典、図鑑が揃えられている。
手始めに動物図鑑を手に取り、『イヅナ』について調べた。
案の定、この図鑑には載っていなかった。
続いて手に取ったのは百科事典だ。
動物図鑑に比べ2倍の厚みがあり、重い。
書庫の隅にあった椅子に座り、事典を開いた。
索引を見て『イヅナ』の記述を探す。
しばらく目を走らせているとそれらしいものが見つかった。
飯縄権現(いづなごんげん)、そして飯綱(いづな)という項目だ。
手始めに飯綱の方を読んでみることにした。
『飯綱は管狐に同じ。管狐とは日本の伝承上における憑き物の一種である。
名前の通りに竹筒の中に入ってしまうほどの大きさなどといった伝承が
いくつかある。
別名飯綱、飯縄権現と呼ばれることもあり、
また狐憑きとして語られることもある……』などなど。
なるほど、これを見る限り飯綱とは狐憑き……つまり狐の幽霊といった
ところになるだろう。
続いて、飯縄権現についての記述を見てみよう。
『飯縄権現は多くの場合白狐に乗った剣と縄を持つ烏天狗の形で表され、
五体あるいは白狐に蛇が巻き付くことがある。
一般には戦勝の神として信仰され……』云々。
上に乗った烏天狗やら巻き付く蛇やらは抜きとして、
ここまで記述があるならほとんど確定と言っていい。
イヅナは狐の幽霊、あるいは神の片割れということになる。
ここに書いてあったことを要約して手帳にメモした。
といっても、まだ疑問は残っている。
「ということで、赤ボス、質問してもいいかな」
「マカセテ、ボクニ分カル事ダッタラ答エルヨ」
「じゃあまず、フレンズになる時にそれ以前のことは忘れちゃうの?」
「ソレハフレンズ化シタ時ノ状態ニヨルケド、
動物ダッタトキノ事ヲ覚エテイル個体モ珍シクナイヨ」
つまり、場合によりけりということ。
あまり参考にならないかもしれない。
「で、次に……幽霊ってフレンズになれるの?」
「データニハナイケド、ツチノコノヨウニ未確認生命体ガ
フレンズ化シタ例ハ存在スルヨ、タダ……」
「ただ……何?」
「サンドスターガ触レルコトガ出来ル実体ガナイト、
フレンズ化ハ難シイト思ウヨ」
サンドスターが触れられる実体、幽霊は別として神様なら
神社とかのご神体がそれにあたるのかな?
でもロッジの近くにそんな建物はなかったはずだ。
「じゃあ物のついで、噴火すると……その……
空気中のサンドスターが増えたりするの?」
最後にしたのはどうでもいい質問だけど何となく気になる。
サンドスターがどういった風に動物に触れてフレンズ化するのかに
関係している気がしないこともない。
「普通ハソウナルヨ。今モ……」
そう言いながら赤ボスは目を光らせた。
そうしてキョロキョロとして、僕の方を向いて動きを止めた。
「赤ボス、どうしたの?」
赤ボスは答えることなく光った目でこっちをずっと観察している。
正直不気味でならない光景だ。
しばらくして目は発光をやめ、赤ボスは首……と呼べるかどうかわからないが、
頭の辺りを傾げた。
「ノリアキカラ、普通ノフレンズト同ジ位ノサンドスターが検出サレタンダ」
さっき目を光らせたのは空気中のサンドスターを観測するためだろう。
実際に濃度を観測して伝えてくれるつもりだったんだと思う。
でも、その代わりによく分からない事実が告げられた。
「それが、何か問題なのかな?」
「ウン、今カラ説明スルネ、マズ……」
赤ボスがしてくれた説明をまとめるとこうだ。
まず人間は、体内に多くのサンドスターを保有することはない。
ジャパリまんなどを食べて少量を摂取しても、自然と抜けていく。
さらにジャパリまんなどに含まれるサンドスターの吸収率はフレンズの方が強く、
人間と比べ20倍近くに及ぶらしい。
そして、普通なら食事以外にまとまったサンドスターを摂取する方法はない。
この島で育った植物などはサンドスターを有するが、それからの摂取効率も
ジャパリまんとほとんど変わりはないらしい。
そして、赤ボスは説明をこう締めくくった。
「ノリアキ、君ハフレンズ化シテイル可能性ガ高イヨ」
数分、沈黙が書庫を支配した。
別に唖然としていたわけではないし、赤ボスから告げられた
可能性について思い当たる節はあった。
朝ジャパリまんを食べたとき、妙に元気が出る気がしたことを覚えている。
「でも、フレンズはみんな女の子だよ」
ようやく口を開いた僕の言葉にしばらく黙り、こう返した。
「フレンズノ中ニハ『元となった動物のオスの特徴』ヲ持ツ個体モイル、
ノリアキガ知ッテイル中ダト、ライオンガソレニアタルヨ」
ライオン、彼女の持つ立派なたてがみ。
それは本来オスの個体が持っているものだ。
それを僕のケースに当てはめるとするなら、
フレンズの素体となるヒトのメスの体に『元となったヒトのオスの特徴』が現れ、
結果としてフレンズ化したが前とほぼ変化はしなかった、となるのだろう。
そして、赤ボスは続けた。
「フレンズハ『サンドスターの塊』ガ当タルコトで生マレルンダ、
ソシテ……」
「そのサンドスターの塊は火山が噴火した時だけ出てくる……ってこと?」
赤ボスは首のない体で頷いた。
「だったら、フレンズ化は昨日起こったってことだね、
僕は昨日そんなものに当たった記憶はないけど……」
みんなに聞いてみたら、何か分かるかもしれない。
イヅナについて調べた結果も話すべきだろうか?それも含めて考えよう。
そう思い書庫を出たところ、赤ボスが階段に躓いた。
「アワワワワ……」
小さい赤ボスの体は階段をキレイにクルクルとまわりながら落ちていく。
もうそろそろ階段も終わりかと思った頃に赤ボスが壁に当たって方向転換、
あと数段残したところで横から落ち、その下にあった赤い……ペンキ缶に……
ボチャン。
再び彼?……の体はペンキまみれになってしまった。
しかもこの短期間で。
全く、とんだアンラッキービーストだ。