キツネとカミサマ   作:ろんめ

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2-19 ツチノコとヒトの記憶

今、バスはさばくちほーの入り口に差し掛かっている。

僕の希望によって、ツチノコのいる遺跡に向かうことになったからだ。

 

なぜツチノコに会うかといったら、

普通の動物とは違うフレンズの記憶について聞きたいからである。

 

道中サーバルとかばんちゃんにも聞いてみたら、

「わかんないや!」「ボクも、覚えてません」と言っていた。

一応記憶がある例として僕もいるけど、なるべく多くのフレンズから

話を聞いておきたい。

図書館で博士たちやフェネックたちに聞いておかなかったことを

今になって後悔している。

 

ひとまず、イヅナについて調べてから僕のフレンズ化についても調べたい。

どこかにそれっぽい施設でもあればすごく助かるのだけれど。

 

そうこうしているうちにバスはトンネルに入ってゆく。

砂漠の入り口と言ってもトンネルの入り口だ。

あの熱い地域を少しの間とはいえ通り抜けるのはよろしくない。

 

トンネルに入ってしまったらあとはもう早いもので、

あくびをする間もなく遺跡の入り口に到着した。

 

「ここが遺跡……! 何の遺跡なんだろう」

 

「ココハ、”さばくちほー”ノ”アトラクション”ダヨ」

 

「……あはは、そっか」

遺跡に対して抱いた一種のロマンのような興奮は、

赤ボスの極めて機械的な言葉によって沈んでしまった。

 

「ツチノコって、遺跡のどこにいるのかな」

 

「出口の近くかな……? でも、遺跡の中を調べてるかも……」

 

つまりどこにいるか分からないってことか。

だったらせっかくだ、アトラクションとやらを体験しながら

ツチノコを探すのも悪くない。

ツチノコ探しというと、一昔前のブームのような響きで悪くない。

 

大きな扉を思い切り開け放……とうとしたらすでに

体を横にして通れるくらい開いていた。

足元を見ると下駄のようなものが挟まれている。なんだか原始的なストッパーだ。

こういうところが、閉鎖されたテーマパークのような雰囲気を感じさせる。

というか実際その通りだろう。

となると、ラッキービーストは職員のいないサファリパークで

ずっとフレンズたちの世話をしていたということに……少し、寂しいな。

でも、まあ……そんなしんみりする場面でもない。

ちゃっちゃとゴールにたどり着いてツチノコも見つけよう。

 

……待った、暗い。

 

「赤ボス、照らせる?」

 

「マカセテ」

 

赤ボスの目がいつもより強く光って遺跡の暗闇を照らし出す。

それでもまだ暗く、何か出てきそうな感じがする。

目を凝らしてなんとか見ようとすると、

天井近くの壁に照明のような飾り付けがある。

だけどそれをいつまで睨みつけてもそれが光ることはない。

 

「こ、こんな中を探せっていうの?」

 

「いくらなんでも暗すぎるよぉ……」

 

「大丈夫! こんなときはね……」

 

と言ってサーバルが扉に近づく。

そして挟んであった下駄を引っ張って扉を閉めてしまった。

外から差しこむ光がなくなって、赤ボスの目以外に

光源がなくなってしまった。

 

「サーバル!?」

 

「へーきへーき! こうするとね……」

 

カチカチと音が奥から少しづつ近づいてきながら通路の奥に光が現れ始める。

そしてその光は僕たちのすぐそばにも現れ、

入口の開けた場所を照らし出した。

そして間髪入れずにスピーカーからアトラクションの

開始を知らせる音声が流れた。

 

「こういうところはまだ動いてるんだね……」

 

職員がいなくなってどれくらい経ったのかは知らないけど、

ろくなメンテナンスもなしにここまで動くとは一種の永久機関でも

搭載されていたりするんじゃないか?

あるいはラッキービーストにメンテナンスの機能が備わっているか……か。

興味深いかもしれない。

僕が技術者だったら何か分かったのかもしれないけど、

まだ碌な専門技術を習っていない僕では……あれ?

自分は何歳だったっけ?……思い出せない。

 

今まで意識していなかったけど存外僕の記憶喪失は重い症状だ。

ただフレンズ化とは関係ないから……なんでだろ。

 

イヅナの件でバタバタして忘れかけてたけど、

僕自身も結構謎を抱えている存在だ。

その辺りは今探しているツチノコと似ているかもしれない。

……別に探されているわけではないけど。

 

 

 

「ええと、こっちだったかな?」

 

今は前に遺跡を訪れたことのあるかばんちゃんが僕たちの案内をしている。

サーバルも同行していたけど、覚えてないらしい。

まあ仕方ない。

 

しばらく歩くと派手に崩れた橋があった。

 

「……ここ通れるの?」

 

「はい、……多分」

 

「大丈夫なの……?」

 

少し危なっかしかったけど、問題なく通れた。

だけどヒヤヒヤする。

できれば二度と通りたくはない。

 

そこからまたしばらく進むと、大きな黒い岩石に塞がれた出口が現れた。

 

「こっちの非常口から外に出られます」

 

さて、遺跡の中にはツチノコはいなかった。

出口のところにはいるだろうか。むしろいなかったら困るよ。

チラッとイヅナの様子を見ると、あちこち見回して目をキラキラさせている。

こういう遺跡に興味があるのか……少し意外だ。

 

 

「イヅナ、もう行くよ」

 

「え、ま、待って!」

 

「はは、置いていかないってば」

 

 

遺跡を出ると日の光に照らされた石碑が出迎えた。

急に明るくなって目がチカチカする。

手で日の光を遮って周りを見てみると、フレンズが一人いた。

あれがツチノコかな?

 

 

「はじめまして、君がツチノコ?」

 

「……? ボクはスナネコですよ」

 

「そっか、あ……僕はコカムイだよ」

 

「もしかして……ヒトですかー?」

 

かばんちゃん以外の人を見るのは初めてなのか、

興味を持っているようだ。

 

「うん、そうだよ」

 

「そうですか……」

 

 

……え、何この落差。

スナネコは飽きっぽいって聞いてたけど、ここまでなんだ……

 

「……ええと、ツチノコがどこにいるか知ってる?」

 

「いえ、ボクもツチノコに会いに来ましたから」

 

 

スナネコも知らない……か。

でも他のところに行ったっている保証はないし、

しばらくここで待ってみるのも一つの手だろう。

 

遺跡っぽく作られたといっても、なかなか面白そうだ。

せっかくの観光だし目一杯楽しんでもバチは当たらないはず。

 

 

と色々見たり少し戻って黒い岩を観察したりして時間を潰したけど、

待てど暮らせどツチノコは現れない。

 

 

「だったら、ボクの家に行ってみますか?

 入れ違いになったのかもしれません」

 

そういうことでスナネコの家にまで行ってみることにした。

けど、バスでものの数分。

この距離で入れ違いなんて起こりうるのか不思議でならない。

 

スナネコの家はよくある洞窟だ。

昨日ビーバーたちの家を見たので否が応でも比べてしまうけど、

動物の家なんて大体がこんなものだ。

そう考えるとあの二人の建築能力の高さがうかがえる。

 

ただの洞窟だし特に見るものはない……と思ったら、

少し端の方の地面に絵のようなものがある。

描いてから時間がたったのかかすれているけど、遠目で見ても

かばんちゃんとサーバルらしき絵があるのがわかる。

 

絵を見ているとスナネコが砂の中からジャパリまんを掘り出して

一人に一つずつくれた。

 

 

「もらっていいの?」

 

「これくらいはいいですよ」

 

「……ありがとう、いただきます」

 

 

地味に朝ご飯を食べてなかったからありがたい。

 

「……そうだ、今度お返しにジャパリカレーまんでも食べさせてあげるよ」

 

「おお、楽しみにしておきますね」

 

言葉遣いは興味なさげだったけど、声の調子は嬉しそうだった。

 

 

「でも、ツチノコさんはいませんね」

 

「やっぱり遺跡にいるのかもですね」

 

結局遺跡……だよね。

多分探し足りなかっただけなんだろうな。

 

もう一回バスで遺跡に戻ると、ちょうど出口にツチノコらしきフレンズがいた。

 

 

「……ん、なんだお前?」

 

「こ、コカムイです……ツチノコ、さん……ですか?」

 

「ああ、オレがツチノコだ、何か用か?」

 

つっけんどんな態度をしているけど、拒絶ではない。

言葉遣いがキツいから最初は面食らったけど、普通に話せそうだ。

……と思ってたけど、ツチノコの目がサーバルと合った途端に顔をしかめた。

 

 

「おい、お前!」

 

「え、私何かした!?」

 

「しらばっくれるんじゃねぇ! 挟んどいた下駄外したのお前だろ?」

 

「……あ」

 

……この感じからして前科持ちだな。

 

「……まあいい、というかお前、ヒトか?」

 

「うん、そうなんだ」

 

「ほう、かばん以外にこの島にヒトがいたなんてな」

 

「ええと、僕は島の外から来た……みたいなんだけど」

 

「外からだと!?」

 

 

今までの中で一番の食いつきっぷりだ。

カレーを食べるときの博士たちでもここまでの反応は見たことがない。

まあ当然そんな反応が来たらたじろいでしまうもので、

「うん、でも記憶が……」

 

「外にヒトの群れはあるのか!? どんなシステムだ!?

 お前はどんなことをしてたんだ!?」

 

という風に1から10まで問い詰められ、

僕について説明するのに30分くらいかかった。

疲れたけど、自分の状況について整理するのには結構役立った。

もちろん、イヅナについての辺りと僕のフレンズ化については隠して話した。

というかイヅナについては名乗らせただけで

ツチノコはほとんど興味を持たなかった。

やっぱり傍目から見たらただの白いキツネのフレンズということだろう。

 

 

 

「ふむ、じゃあ外の様子はからっきしか……」

 

「ごめん、覚えてなくて」

 

「いや、外にヒトの群れがあるって分かったことは大きい。

 だが、海のセルリアンか……」

 

そもそもの話、フレンズはジャパリパークの外に出たらフレンズ化が解ける、

と例のファイルに書いてあった。どちらにせよ見に行くなんてできない。

 

さて、こっちも質問に答えたし、ツチノコにもそれとなく聞いてみよう。

「ツチノコって、フレンズになる前のこと覚えてる?」

 

「フレンズになる前か? 覚えてるには覚えてるが、

 面白い話とかはないぞ」

 

「いや、気になっただけ、ありがとね」

 

「? まあ、いいけどな」

 

ツチノコは、『覚えてる』ってことか。

あくまで一人のフレンズの話だが、イヅナだって覚えてる可能性は否定できない。

本人は否定しているけど、怪しいのは事実だからね……

 

 

「そういえば、ツチノコどこ行ってたの?」

 

「あ? ずっと遺跡の中だ。どこにも行ってねえよ」

 

やっぱり探し足りなかっただけか。

 

 

さて、ここに来た目的は果たしたし、次のちほーでも目指そうか。

 

「……待て」

 

「あれ、どうかした?」

 

「お前、外の世界のこと知ってんだろ?」

 

「まあ、”知識”としてならそれなりにね」

 

「……だったら、遺跡のアレについて……」

 

突然ツチノコが小声でボソボソと何かをつぶやき始めた。

どうしたのかと様子を見ていると、突然大きな声を出した。

「よし! コカムイ……だったか? ちょっとついてこい!

 いいもの見せてやる」

 

「いいもの……?」

 

「ああ! お前なら何か分かるかもしれないな……」

 

そうか、遺跡の中でツチノコが分からないものについて

僕が何か分かるかもしれないってことで見せたいのか。

まあ、少し見るだけだったらいっか。

 

「わかった、それってどこにあるの?」

 

「よし、こっちだ!」

 

そして僕とツチノコは遺跡に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……その後、数時間にわたる遺跡探検とツチノコの解説、

そして遺跡にあるものについての考察。

 

頭も体も使い果たし、予定を変更して僕たちはその日

スナネコの家にお世話になるのだった。

 

 

 

『10日目

 

 今日は砂漠の遺跡を訪れた。

 遺跡探検と入れ違いが重なって、ツチノコに会うのに

 遠回りをした。

 ツチノコはフレンズになる前のことを覚えているみたい。

 その後は遺跡の中で振り回されてへとへとだ。

 

 初めて出会ったフレンズ

 ツチノコ スナネコ』

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