キツネとカミサマ   作:ろんめ

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Ⅷ-192 ジャパリパークで捕まえて

「……鬼ごっこ?」

 

 僕は首を傾げる。

 

 ”誕生日”と”鬼ごっこ”という二つの言葉が、どうしても頭の中で結びつきそうになかったから。

 

 うーん、別に繋がってなくても良いのかな。

 イヅナは楽しそうにしてるし、それはそれで。

 

「イヅナちゃん、変な遊び考えたんだね」

「ふっふっふ…そう言ってられるのも今のうちだよ」

「……」

 

 意味深な物言いと、イヅナから一歩離れるキタキツネ。

 

 流石に警戒が過ぎるとは思うけど、日頃の行いを思い出せばあながち気にしすぎとも言えないのが悲しいところ。

 

「ああ、心配しないで! 危ないことは全然ないから!」

「本当でしょうね?」

 

 わたわたと手を振って釈明するイヅナ。

 珍しく問い詰める姿勢のギンギツネ。

 

「間違いなく本当だよ! 信じて!」

 

 コクコクと、イヅナは何度も首を縦に振った。

 

「ここまで言っていますし、信じてあげてもいいのでは…?」

 

 とどめはホッキョクギツネの一言。

 結局、イヅナを信じようってことで話は決まった。

 

「もう、みんな信じてくれないんだから!」

 

 ……遊びの提案たった一つでここまで疑われるイヅナも、身の振り方を考えるべきだとは思う。

 

 

 閑話休題。

 

 おほんと可愛く咳をする。

 そうして気を取り直したイヅナが、改めてルールの説明を始めてくれた。

 

「ルールは簡単、たったの三つ!」

 

 三つらしい。

 

「一つ、ノリくんは遊園地の中で逃げること!

 二つ、捕まったらその子と一日デート!

 三つ、期限は今日から一週間後まで!」

 

「うん……うん?」

 

 なんかこのルール、色々とおかしい気がする。

 

「待ってイヅナ、逃げるのって僕一人なの?」

「そうだよ」

 

「追いかけるのは?」

「私たち四人だね」

 

「それを、一週間も」

「大丈夫、しっかり休憩の時間は取るから」

 

 …そういう問題じゃないんだけどな。

 

 

「ボク、がんばる!」

「素敵な鬼ごっこじゃない、よく考えたと思うわ」

「え、えっと…わたしも、全力を尽くします…!」

 

 僕以外の三人には好評みたいだ。

 だって、追いかける側にはデメリットなんて一切ないもんね。

 

 前代未聞だと思うよ。

 鬼の方が多い”鬼ごっこ”なんて。

 

 なんかもう、逃げても無駄な気がしてきた。

 

「始まるのは今から一時間後! だからノリくん、その間に遊園地のどこかまで逃げてね!」

「…うん、分かったよ」

 

 仕方ない。

 やる以上は頑張らなきゃ。

 

 そんなこんなで謀られて、遊園地にて四面楚歌。

 

 一日デート権を賭けた鬼ごっこが今、ここに幕を開けようとしていた。

 

 

 

――――――――― 

 

 

 

「…あ、あれって」

 

 ホテルから少し離れた大きなメリーゴーランド、その裏に隠れることにした僕。

 

 しばらく様子をうかがっていると、遠くから見知った顔がやって来た。

 

 こちらを見つめる目は赤色。

 装いも同じく、かつて赤に染まった布をまとっている。

 尻尾は白と赤のしましま模様。

 物陰に隠れやすい僕の足元ほどの身長。

 

 …そう、赤ボスだ。

 

「赤ボス…どうしたの?」

「ラッキービースト代表トシテ、祝明ノサポートヲスルヨ」

「…いつの間にそんな代表に」

 

 まあまあ、そっちはどうでもいいや。

 

 サポート役はありがたい。

 逃げ時間の残りも知りたいし、マップもあって困らない。

 

 ハッキングが唯一の心残りだけど……別に分かって対処できることじゃないし、いざとなったら放逐すべし。

 

 そんな感じで良いかな。

 よし、赤ボスは連れていこう。

 

「早速聞くけど、後何分で始まる?」

「…アト二分ダネ」

「うわ、結構早いなぁ…」

 

 というか分かるのもすごい。

 用意周到だね。

 

 それはさておき、場所探しに時間を掛けすぎちゃったな。

 少しは周りの土地勘を掴んでおきたかったけど……仕方ない。

 

 ()()()見つかるまで隠れる作戦だったし、予定通りにしておこう。

 

 

「さてと、どれくらいで来るかな…?」

 

 僕の予想だと…遅くても十五分。

 救急車かな?

 でも、もし怪我をしたら本当に超高速で駆け付けてくれそう。

 

「ここに隠れたのは果たして正解かな…」

 

 メリーゴーランドはこの遊園地の中心。

 だからどの方向から来ても、袋小路にされること無く逃げることが可能だ。

 

 …ええと、相手が一人ならね。

 

 メリーゴーランドのあるこの広場は、ホテルから十数分歩いた所にある。

 あの四人なら大した時間もかけずに来られるだろう。

 

 まあそれも、僕の位置が最初からバレている前提のお話。

 

 大凶みくじを引いたとしても、同時に四人がやって来る展開はまずないと思う。

 

 イヅナとのテレパシーは()()()いる。

 一応、始まる前に一度シャワーも浴びてきた。

 

 だからテレパシーの逆探知も、匂いを辿った追跡も出来ないはず。

 

 となるといよいよ、赤ボスのハッキングを気にする必要アリなのかな…?

 

「ま、まだ可能性だから…」

 

 万一そうだとしても、上手に使うことが出来れば逆にこっちの狙いを誤解させることだって―――

 

 

()()()()

 

 

「っ…!」

 

 考えを巡らせているうちに、とうとう時間が来たようだ。

 赤ボスが、無機質に始まりの合図を告げた。

 

 そして――

 

「ノリくん、みーつけたっ!」

「えっ…」

 

 数秒さえ経つ隙もなく、かくれんぼが終わった。

 

「あ…うわっ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げ、僕は慌ててメリーゴーランドから脱出する。

 振り返ると、イヅナが僕のいた場所を抱き締めていた。

 

 腕を放し、芝居めいた仕草でキョロキョロ。

 

 こちらを見てイヅナは頬を膨らませ、脇目も振らず走り寄ってくる。

 

「もう、避けないでよ~!」

「…そ、そういう遊びだから」

 

 僕の身体もクルリと反転。

 ジェットコースターの方向に逃げて行く。

 

 何か思惑がある訳でもなくて、そっちが一番近いから。

 

 だけど、前の視界にチラッと見えたホテルに考えを改めた。

 今、僕は誘導されているのかもしれない。

 

「赤ボス、ホテルからの最短ルートってどこ?」

「…コノ道ダヨ」

 

 ああもう、本当じゃん!

 

 咄嗟に横道の方へと逸れた。

 何を企んでいるかは分かんないけど、思惑通りになったらマズい気がする。

 

 暗い暗い裏通りを、狐火を頼りに駆けていく。

 

 

「……ふぅ、一旦は撒いたかな」

 

 ゴミ箱の裏に腰を下ろして、一時の休息。

 

 もちろん警戒は忘れずに。

 一体どこから飛び掛かってくるか、予想なんてさっぱり出来ない。

 

 隠れてる僕に配慮してくれたんだろう。

 胸に抱えた赤ボスが、控えめな音量で質問をしてきた。

 

「…ナンデ、誘導サレテイルと思ウンダイ?」

「そりゃ、今になって考えたらね…」

 

 どの方向にも逃げられる。

 

 一見それは、逃げる側にとって非常に有利な条件だ。

 

 だけど、追う側にだって出来ることはある。

 鬼が出てきたら、誰だってきっと逆方向に逃げ出すだろう。

 

 現れる方角でイヅナたちは僕の逃げ出す方向を制御できるし……広い遊園地、何かトラップが仕掛けられていないとも限らない。

 

 まして、こっちはホテルのある方向。

 

 さっきまでの一時間、最も活動しやすいのはホテル周辺の他に無い。

 

「罠なら、仕掛けた方に上手く誘い込んだ方が効率的だからね」

 

 さて、そろそろ体力も戻って来た。

 

 あまり長く一か所に留まるのも怖いし、そろそろ動き出そう。

 

「どっちが良いかな…」

 

 三方向に分かれる岐路に立って、少し悩む。

 とりあえず、全部の道に狐火を放ってみることにした。

 

 うーん、どれも同じかなぁ…

 

「じゃあ、とりあえず右。…おいで、赤ボス」

 

 吉と出るか凶と出るか。

 

 さあ、気楽にいこう。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

「…あ、ノリアキ~!」

 

 裏道を抜けると、早速キタキツネと出くわした。

 

 キタキツネは手を振りながら、まるで待ち合わせとしていたかのようにゆっくりと駆け寄って来る。

 

「…わわ、逃げないで!」

「いや、騙されないからね!?」

「ちぇ、バレちゃった…」

 

 危ない危ない。

 これが鬼ごっこであることを忘れそうになってしまった。

 

 キタキツネが獲物を狙う時の顔をしていなかったら、間違いなくあのまま餌食にされていただろう。

 演技面はまだまだで助かったよ。

 

 とりあえず逃げる。

 

「うぅ、もうちょっとだったのに…」

「良い戦術だったけど、まだ未熟みたいね?」

 

 お化け屋敷の近くまで差し掛かったところで、目の前にギンギツネが現れた。

 

 仕方なく進路を変更。

 しばらくのにらみ合いの末、僕らは噴水の辺りで向かい合う形になった。 

 

「……ギンギツネはどうなの?」

「私はもう少し様子見して、ノリアキさんが疲れるまで待とうかしらね~…」

 

 じわじわと、円弧を描くように文字通り()()()()ギンギツネ。

 

 なるほど。

 こちらが緊張で疲弊するのを待っているらしい。

 

「いいの? 追いかけて来ないならずっと休んでるけど」

 

 何となく挑発する。

 向こうも軽口を叩いてるし、まあいいでしょ。

 

 ギンギツネも気にした様子はない。

 むしろ面白そうにくすくすと笑って、尻尾と一緒に身体もゆらゆら。

 

 ギンギツネは回るように歩くのを止めた。

 

 人差し指を唇に、艶めかしい足取りで距離を詰めてくる。

 

「うふふ、口が上手くなったのね?」

「まさか、ギンギツネには敵わないよ」

 

 一歩一歩と、後ろにはお化け屋敷。

 ああ、そろそろ思いっきり走り出さないとな。

 

「ねぇ、ボクも褒めてよっ!」

「かわいいよ、キタキツネ」

「え、えへへへ……!」

 

 でも、その前に。

 

「ところで、一つ聞きたいんだけど」

 

 足元の()()は、ちゃんと処理しておかないとね。

 

「どうして、ホッキョクギツネはこの箱の中にいるの?」

「……っ」

 

 空気が凍る。

 緊張が走る。

 まるで吹雪の中のようだ。

 

 八重歯を光らせて、ギンギツネはまだ平静を保つ。

 

「……驚いたわ、まさか気付かれるなんて」

「あ、本当にそうなの? 適当に言っただけなんだけど」

「…うふふ。あぁ…これは一本取られたわね」

 

 でも、本当にいいのかしら?

 ギンギツネはまだ笑う。

 

 次に彼女はこう言った。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()――

 

 

「――ノリアキ様、ごめんなさいっ!」

 

 瞬間、箱を突き破ってホッキョクギツネが現れた。

 

「っと…」

「おっとっと…つ、捕まえさせていただきますっ!」

 

 避けられてよろめきながら、ホッキョクギツネは尚も食らいついてくる。

 僕の後ろに陣取って、隙あらば捕まえに来る構えだ。

 

 ギンキタが前からにじり寄る。

 こっちも当然放っておけない。

 

 …挟み撃ち。

 

 一番厄介な戦況に誘い込まれてしまった。

 

「あはは、上手く追い詰められちゃったね」

 

 今この状況を作り出すべく糸を引いていた黒幕。

 それはギンギツネで間違いない。

 

 段ボールの箱、お化け屋敷への誘導、最後の位置調整。

 

 一本取られた?

 悔しいけれど、それはこっちの台詞だよ。

 

「でも驚いたよ、まさか協力してるなんて」

「イヅナちゃんには「必要ない」って言われたけどね」

「あはは、らしいね」

 

 和やかに言葉を交わす間にも、僕たちの距離は縮んでいく。

 

 ……そろそろ限界だ、動かなきゃ。

 

 これ以上詰められたら、本当に二進も三進も行かなくなってしまう。

 

「無駄な抵抗はやめて、大人しく捕まってくれないかしら?」

「あはは、難しい相談だね」

 

 前か後ろか。

 そんなの()()()()()

 

「…ごめん、ホッキョクギツネ」

「え……きゃっ!?」

 

 燃え上がる蒼。

 怯んだ彼女の横を駆け抜ける。

 

「あっ、ノリアキが…!」

 

 行く先はお化け屋敷。

 暗く、狭く、入り組んだこの建物。

 

 追っ手を撒くための最高の条件が揃っている。

 

 この中に入って、全部仕切り直しに――

 

「…うふふ」

 

 その時聞こえた笑い声。

 

「もしかして、予測してないとでも思ってた?」

「……あ」

 

 ペタリ。

 

 手を壁につく。

 お化け屋敷の入り口を塞ぐ、木製の壁に。

 

 ペタリ。

 

 背中に手をつく二つの感触。

 ほぼ同時。

 キタキツネとギンギツネが、僕を捕まえた瞬間だった。

 

「…あら?」

「…ボクの方が早かったよ」

「あらあら、横取りは一丁前なのね」

 

 流れるように煽りながら、ギンギツネは肩を竦める。

 

「どうしましょう、これじゃ判定も出来ないわよね」

「じゃあ、コインを投げて順番を決めるとか……どうでしょう?」

 

 取り出された一枚のコイン。

 表は金で、裏は銀。

 はたまたこれは何の因果か。

 

 ホッキョクギツネの提案に、ギンギツネは手を叩いた。

 

「じゃあ、そうしましょう」

「…わかった。ホッキョクギツネちゃん、お願い」

 

 自然と二人は向かい合う。

 

 長く平生を共に過ごして来た者同士とは思えない、強烈な敵意をお互いに向けながら、この勝負の行く末を見守る。

 

 間に立ったホッキョクギツネ。

 二人の敵意などどこ吹く風、柳のように立っている。

 

「投げますね」

「ええ」

「…うん」

 

 パチン、親指で弾いた。

 綺麗な回転を描きながら、コインは真上に飛んで行く。

 

 空を舞い、光を放ち、再び彼女の手の中に。

 

 

「…では、開きます」

 

 

 そして、運命の女神が微笑んだのは―――

 

 

 

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