キツネとカミサマ   作:ろんめ

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2-20 密林に溺れるジャパリバス

「ここがジャングル……木がいっぱいだね」

 

さばくちほーを出発し、今僕たちはじゃんぐるちほーに来ている。

木がいっぱいと言っても、図書館のあるしんりんちほーよりも

木の背丈が高いように思える。

草も深く生い茂り、日光が入らず暗くなっているところもある。

そして何よりも……

 

「砂漠のすぐ隣にこんな湿った地域があるなんてね……」

 

「サンドスターの影響でこんな風になっているんだよ」

 

久しぶりにかばんちゃんのボスから説明してもらった。

万能物質サンドスター。これさえあればこの島の大体の出来事を説明できそうだ。

 

「北に森林、南にジャングル……」

せめてもう少し段階的に変化すれば……とも思ったけど、

自然現象に何を言っても無駄だよね。

さて、小難しい話はやめにして、ジャングルにいるフレンズの話でもしよう。

 

「サーバル、ジャングルにはどんなフレンズがいるの?」

 

「前に来た時に会ったのは、ジャガーとカワウソと……フォッサと……」

 

「ジャガーさんとカワウソさんにはお世話になったんだよね」

 

「へえ、何してもらったの?」

 

「前に話しましたけど、橋を架けるときに……」

 

 

かくかくしかじか。

 

 

「ああ、その時の話だね」

 

「ジャガーのおかげで、川を渡れたんだったよね」

 

「……その川の話だけど、バスで通れる道はあるの?」

 

「マカセテ、ちゃんと通行できる場所のデータは入っているんだ」

 

「……だったらいいけど」

 

任せてと言われても、どこか不安に感じてしまう。

まだ10日だけど、ラッキービーストのポンコツさは

十分に見せられてきた。

いつもは普通に頼れるから心配はないけど、何かあったら助けてあげなきゃ。

 

 

「出来るなら、いろいろ回って行きたいな」

 

「私も、ジャングルのフレンズさんを見てみたいです」

 

「ワカッタヨ」

 

 

そんな感じで回り道に回り道をしていろんなところを通ったけど、

フレンズの姿は一向に見えない。

 

「あれ、なんでだろう……」

 

「もしかしたら、バスを怖がってたりするんじゃ?」

 

「イヅナさんの言う通りかもしれませんね」

 

「えー、バスなんて怖くないよ!」

 

「サーバルが慣れてるだけだったりして」

 

確かにこんな見慣れない黄色の大きな物体が動いていたら

警戒されても仕方ないかもしれない。

緑の多いジャングルだとなおさら目立つだろう。

……よく考えたらジャパリバスが目立たないところなんてない。

目立たなきゃサファリバスとして不便だ。

 

「適当なところにでも止めて、歩い……うわわっ!?」

 

ガコンッ!という大きな音を立ててジャパリバスが右に傾いた。

 

「ボス、どうしたの?」

 

「アワワ……」

 

「赤ボス、状況分かる?」

 

「アワワ……」

 

僕とサーバルの呼びかけに2人?は揃った言葉を返した。

 

「右のタイヤが引っ掛かってるみたいです」

 

運転席に座ったかばんちゃんがボスたちの代わりに状況を説明してくれた。

バスから降りて四人がかりで持ち上げようとしたら、

左のタイヤまで沈んで引っ掛かる始末。

少なくとも僕たちだけでは手に負えない事態になった。

 

「どうしよう、これ」

 

「もっとフレンズがいたら持ち上げられるかもだけど……」

 

「じゃあ、そのジャガーさんとか探してみる?

 せっかくだし、歩き回ったら誰かいるかも」

 

「そうだね、せっかくだもん!」

 

イヅナは妙にウキウキしている。

一応ボスにバスの場所を記録してもらって、僕たちは

フレンズを探しに歩き始めたのだ。

 

少し歩くと視界が開け、下の方に大きな川が見えた。

 

「湖と比べて濁ってるなあ……」

 

「川ノ流レガ緩ヤカナ所ハ、砂ノ粒トカガ漂ッテイルカラ

 濁ッテイルンダヨ」

 

「そうなのね……」

 

イヅナは興味ありげに川を見つめている。

別にずっと見てても何も見えないはずだけど、それを言うのは

少し野暮な気がしたのでやめておいた。

 

フレンズを探すため、僕たちは川に沿って歩き始めた。

 

 

「というか、暑いね、じめじめしてる」

 

「ジャングルハ高温多湿ダカラ、コマメニ水分補給スルノヲオススメスルヨ」

 

「……できればしたいんだけどね」

 

あいにく水筒の類は持っていないし、川の水を飲めと言われても困る。

とどのつまり、体を熱しすぎないようにしながらジャングルを抜けるまで

我慢を続ける他にない。

 

「わあ、何あれ? 初めて見た!」

 

こんな状況なのに、イヅナはとびきり元気そうだ。

ジャングルの蒸し暑さよりも新しいものを発見するワクワクが強いみたい。

 

「ねえねえ、あれ果物じゃない? 取ってみようよ!」

 

「うえっ!? ひ、引っ張らないでよ!?」

 

地面の辺りにあった果物めがけて走り出した。

ついでに僕の腕を強く引っ張ったから痛いのなんの。

少しその元気を分けてほしいものだ。

 

イヅナが見つけた果物は、黄色いリンゴくらいの大きさの果実だった。

食べてみるとみずみずしい。風味はメロンだ。

今まで見たことのない珍しい果物だった。

 

「ソレハ『ペピーノ』ダネ」

 

「「ペピーノ?」」

 

「”ペピーノ”ハ、南米ノジャングル、山脈ニアル果物ダヨ」

 

「なんべい……?」

 

「コカムイさん、知ってるの?」

 

「……どこだったっけ」

 

外の世界にそういう場所があるなら知識として知っててもおかしくない……とは

思うけど、知らない。知名度が低い場所か、勉強不足か、記憶喪失……

あるいは万能物質サンドスターのせい……!?

……そんなわけはない。

とりあえず謎が一つ増えたって認識でいいや。

 

「ペピーノ……とかいうの、まだいくつかあるね」

 

「サーバルちゃんたちにも持って行ってあげようよ!」

 

「そうだね、みずみずしいから水分補給にちょうどいいよ」

 

適当に3、4個取ってかばんちゃんのところに持って行った。

 

「はいこれ、ペピーノとかいうやつ、どうぞ」

 

「あ、ありがとうございます」 「おいしそー!」

 

かばんちゃんちゃんとサーバルは一個ずつ果物を食べた。

 

 

「さて、これからどうしましょうか?」

 

「僕はもう少し探してみるのもありだと思うよ」

 

「アンイン橋の近くならいるかもしれないよ、行ってみようよ!」

 

「うん、そうしよっか。ラッキーさん、道案内お願いできますか?」

 

「マカセテ」

 

案内に従ってジャングルを歩いていく。やっぱりフレンズは全然見えない。

 

「まさか、セルリアンとか出てたり……ね」

 

「……」

 

ふっと空気が重くなる。

誰も現れない不自然さに僕の一言が重なって、

最悪の想像が脳裏によぎってしまったに違いない。

 

「……もしもだよ! そんな、気にしなくてもいいって、きっと」

 

「……だ、だよね?」

 

「……大丈夫だよ、サーバルちゃん」

 

「……うう」

 

かばんちゃんがサーバルを励ましてなんとか明るくしてくれてるけど

重くなった空気と縁起の悪い想像は晴れはしない。

余計なことを言ってしまった。

 

不安になってイヅナの方を向くと、着いてきてはいるけど

顔はどこか遠くを向いていてこちらの会話はどこ吹く風。

多分聞こえなかったんだろう。

それならそれでいい。わざわざイヅナの気分まで沈める理由はない。

 

 

 

 

「ここがアンイン橋だよ」

 

僕のせいで、橋に着くまでほとんど会話もなく歩いていた。

だけど、そんな重い気分もアンイン橋の光景を見て吹き飛んだ。

 

「わあ、橋がつながってる……!」

 

かばんちゃんが初めに架けた飛び飛びの橋は、

綺麗に繋がった一本の橋になっていた。

そして、完成した橋の周りにはたくさんのフレンズがいた。

こんなに集まってたのなら、他の場所にいなかったのも納得だ。

 

「お、かばん、元気にしてる?」

 

「はい、おかげさまで。ところで、この橋は?」

 

「すごいでしょ! わたしたちで作ったんだよ!」

 

「え、どうやって?」

 

「おととい博士たちが来てね、ジャングルのフレンズを集めて

 アンイン橋を繋げろって言ったんだ」

 

「一体どうしてだろう?」

 

「君たちが通りやすいように、だってさ」

 

「そこまで配慮してくれてたんだ……!?」

 

橋の工事を手配してくれた博士たちにも、

たった2日で橋を完成させてくれたジャングルのフレンズのみんなにも

お礼をしないといけないな。何がいいだろう?

細かいお礼は後で考えるとして、2つ持っていたペピーノを

ジャガーとカワウソに渡した。

 

「途中で採ってきたものだけど、どうぞ」

 

「くれるのかい? ありがとう」

 

「わーい、おいしー!」

 

「ふふ、もう食べてる……」

 

 

気になってイヅナの様子を見てみたら、

少し離れた場所でフレンズたちとおしゃべりしていた。

楽しそうだったから放っておくことにした。

 

「そうだ、みてみて!」

 

カワウソが石を手に持ち、ジャグリングを始めた。

最初は3つだけど、4つ……5つ。

ついには6つの石を回している。

 

「すごーい!? 前より石が増えてるよ!」

 

「器用だね……」

 

「あれ、そういえばバスはどうしたんだい?」

 

「ああ、それが……」 かくかくしかじか。

 

「そっか、タイヤがはまっちゃって……」

 

「なんとか持ち上げられませんか?」

 

「見てみないと分かんないけど、やってみないとね。

 バスはどこにあるんだい?」

 

「ラッキーさん、バスまでの案内お願いします」

 

「マカセテ」

 

「イヅナー! バスに戻るよ!」

 

「えっ、はーい! ……じゃあ、またね」

 

「またねー!」

 

イヅナはフレンズたちにバイバイをして、

僕たちはジャパリバスのあるところに戻ってきた。

 

「うわあ、こりゃ深く沈んでるね……ん!」

 

ジャガーが持ち上げると少し車体が浮いた。

 

「私も手伝うよ!」

 

サーバルも加わって更に高く浮きあがる。

でも長くはもたないはずだ。

元通り沈まないように何か策を考えないと。

何か、何か……

 

「げ、限界っ!」

 

「一旦、下ろすよ……」

 

サーバルたちの支えがなくなり、バスは元通り地面に溺れ……ない。

平らな地面の上にタイヤが接地して、問題なく走れそうだ。

 

「これなら運転は問題ないよ」

 

ボスもうれしそうな声を出す。

……でもなんで?

 

「よかったね、コカムイさん」

 

そう言うイヅナはなぜか得意げで……もしかして、イヅナの仕業?

そもそもバスがはまったのもバスから降りる理由作りで、

ジャングル観光が終わったから元通り……とか?

 

「コカムイさん、どうかしたの?」

 

……いや、考えすぎか。

いくらイヅナが不思議な力を持ってる可能性が高いからって、

こんなイタズラめいたことしない……しないよね。

とりあえず、僕の中では今回の件はラッキーとアンラッキーが

重なったってことにしておこう。

 

 

 

「じゃあ、また、元気で!」

 

「ジャガーさんたちも、お元気で!」

 

「またねー!」 「またあれ見せてね!」

 

「じゃあ、またいつか」 

 

 

頭の中に若干のもやもやを抱えながらも、僕たちコカムイ一行は

ジャングルを後にしたのだった。

 

 

 

「次は、サバンナだね」

 

「サバンナ! 久しぶりだな~」

 

「サーバルの故郷、だったね」

 

「カバ、元気にしてるかな?」 「きっとそうだよ!」

 

「だよね! ……あ、縄張り、取られちゃってるかも!?」

 

「と、取られてたらどうするの?」

 

「新しいのを見つけるんだ!」

 

「はは、なんか問題なさそうだね……」

 

 

 

「……イヅナ? どうしたの、ボーっとして」

 

「……なんでもない」

 

 

 

 

「……ちょっと、懐かしくなっただけ」

 

「あれ、イヅナ、何か言った?」

 

「……ふふ、なんでもないよ」

 

 

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