「サバンナだー!」
僕たち4人を乗せたジャパリバスはサバンナに到着した。
さばんなちほーはかばんちゃんとサーバルが出会った場所で、サーバルはその前から
ここで暮らしていたらしい。
ジャングルとは打って変わって地面に生えた草は茶色がかっている。
木も密集せずにぽつぽつと生えている。
見晴らしも日差しも良くて、それなりに快適な場所だ。
「せっかくだし、降りて歩きたいね」
「バスは、どうしましょう?」
「マカセテ、ボクガ責任ヲ持ッテバスヲ連レテイクヨ」
「お願いします、赤ラッキーさん」
4人ともバスから降りてサバンナの土を踏みしめた。
特にサーバルは久しぶりに帰ってきたから感慨深いようで、
木に登ったり下りたりジャンプしたりと忙しい。
「ジャンプ力がすごいっては聞いてたけど、見るのは初めて……」
地面から2、3mはありそうな木にジャンプ一回でスッと飛び乗る姿を見て、
似た姿をしててもやっぱり違う動物なんだな、と思ったり
フレンズ化しても自分にはなんにも起きないんだな、と思ったり。
「……どうしたの?」
「いや、もし思い出したら、もっといろいろできるようになるのかなって思ってさ」
「それって、ここに来る前の記憶のことだよね」
「うん、未だになんでこの島に来たのか分かってないし」
「やっぱり、思い出したいよね……」
「……イヅナ?」
「…………私は……」
「イヅナも、思い出したいの?」
「え、いやそうじゃなくて、その……」
イヅナは目を左右に動かしてしばらく考えてから、こう言った。
「忘れちゃったことなんて、気にしなくていいかなって、思うんだ」
「……まあそういう考え方もあるよね」
なんで忘れたか分からないし、思い出せる保証も無く思い出す方法も分からない。
それなら、そんなものにこだわらないで忘れてしまったことそのものも
忘れてしまった方がいいのかな?……分からないや。
「あ、池だね」
「カバいるかな?」
少し歩くと池のあるところに来た。
普段カバはこの辺りにいるらしい。
「カバー! いるー?」
「……あらー?」
サーバルの呼びかけから数秒後、
大きな水しぶきと音を立てて水の中からカバが現れた。
「サーバルもかばんも久しぶりねぇ……ところで、
そこの彼とキツネの子はどなた?」
「はじめまして、コカムイです」 「い、イヅナです」
カバは僕とイヅナを頭のてっぺんから足までゆっくり見て、
「……そっちの彼は少しかばんに似てますわね」
と言った。
「ああ、僕は……一応、ヒトなので」
「そういえば、かばんもヒトの子でしたわね」
「でね、コカムイくんは島の外から来たんだよ!」
「あら、この島の外から?」
「うん! でもコカムイくんが来た時に海にセルリアンが出てきて……」
それからしばらく、サーバルは僕が島に来て起きたことをかばんちゃんとの
思い出を交えてカバに話していた。
僕も体験したことだったから尚更、サーバルが楽しそうに話しているのはうれしい。
カバは相槌を打ちつつサーバルの話に聞き入っていた。
「……サーバル、楽しそう」
イヅナもカバと一緒に話を真剣に聞いている。
「そういえば、イヅナは僕が島に来た直後のことは知らないんだったね」
「え、あ……うん」
「まあ、聞いてわかると思うけどそんなに面白い話はないよ」
「そんなことないよ」
「そう? ……きっとサーバルの話し方が上手なんだね」
「…………」
といってもサーバルはいつまでしゃべる気だろう。
結構長くしゃべってるけど話のネタが尽きる様子はない。
どこまで話が進んでいるかと耳を傾けた。
「それで、ご飯を炊き忘れたコカムイくんがね……」
驚き桃の木山椒の木、ブリキに狸に蓄音機。
まだ三回目の図書館訪問までしか話してないみたいだ。
サーバルが時系列に沿って話しているならの話だけど。
「かばんちゃん、話長くなりそうだし、ちょっとそこらへん歩いてくるね?」
「あ、はい、分かりました」
「コカムイさん、私もついてくよ!」
僕とイヅナ(と赤ボス)は池から少し離れて、
その辺りの草むらを歩き回ることにした。
バスに乗ってたときには気づかなかった何かがあるかもしれない。
「この近くは……何も、ない?」
見渡す限り普通のサバンナ。
見晴らしがいいから特に何もないことがよくわかる。
「私たちも、何かお話して過ごしませんか?」
イヅナは早々に諦めてしまったようだ。
でもわざわざ疲れる必要はないし、それでもいいか。
「そうしよっか。 どんな話がいいかな?」
「……じゃあ、サバンナの次に行く場所の話」
「げ、現実的……」
僕はジャパリパーク全図のキョウシュウのページを開いて、
さばんなちほーの辺りを指さした。
「今いるサバンナがこの辺りで……」
「で、今までこうやって移動してきたから」
とイヅナは指でロッジからサバンナまでの
今まで通ってきたルートを指でなぞった。
「次はゆうえんち……って場所かな」
「遊園地ってことは、メリーゴーランドとかあるんだよね!」
と目をキラキラさせて迫ってくる。
「遊園地、知ってるんだ……」
「……え、ま、まあね!」
急にしどろもどろになる。分かりやすい。
遊園地なんて普通の動物は知らないし、イヅナは何も覚えてない
なんだけどね……
「ほ、ほら! もうサーバルちゃんの話も終わったんじゃない?」
「……そうかもね、戻ろっか」
ここで追及しても意味はないと思うから、ひとまず気にせず
カバたちのいる池に戻ることにした。
「あ、コカムイさん」
「コカムイくん、どこ行ってたの?」
「ちょっと散歩、で、これからどうする?」
「えっとね、次は私の縄張りまで行こうと思うんだ!」
「サーバルの縄張りっていうと……」
「かばんちゃんと初めて出会った場所、だよ!」
「最初は狩りごっこだったね」
そう言うかばんちゃんはどこか懐かしそうだった。
「カバ、またね!」
「ええ、気を付けるんですのよ」
「それじゃあ、また」
カバと別れてからおよそ30分。
歩き続けた僕たちは他と比べて少し大きな木のところまで来た。
「ここでちょっと、きゅうけーい!」
「ふふ、最初もここで休憩したんだったね」
そうだったのか、ここも二人の思い出の場所なんだ。
木の周りを見てみると、サバンナのほかの場所とは違った感じがする。
座れそうな木が横になっていたり、テーブルが置かれたりしている。
かつて、ここにいた人が使っていたのかもしれない。
「ずっと歩いてると疲れちゃうね」
30分くらいと言えど、サバンナは道が舗装されているわけではないし、
日射しを遮るものも少ないから疲れは案外たまりやすい。
「ここからサーバルちゃんの縄張りまで、どれくらいあるの?」
「えーと……確か川を越えて壁を登って……」
「……まだまだあるんだね」
「大丈夫! 少しずつ行こう!」
「じゃあ、そろそろ出発しましょうか」
木陰を出発するとき、後ろについてくるジャパリバスを見て、
今からでもこれに乗って楽をしてしまいたいと思ったのはここだけの話だ。
その後はサーバルの言う通り川を越え崖と呼ぶには低い壁を登り、
草の間にあるけもの道を通ってサバンナを進んでいった。
「ここだよ、ここが私の縄張りなの!」
とサーバルが言う。
ただ他の場所と見た目はほとんど変わらない。
それも当然だ。動物の縄張りはヒトの家のように表札もなければ
町や国のように明確な区切りは見えない。
その辺りで生きる動物だけがそれぞれの縄張りを知っているのだろう。
サーバルは着いたらすぐに木に登って周りの景色を見渡した。
「えへへ、何にも変わってないね」
僕から見ても何か変わった様子はないけど、
サーバルが言っているのはかばんちゃんと会った時と比べての話だ。
その一切変わらない景色がサーバルの思い出を強く蘇らせたのか、
木から大きくジャンプして地面に降り立った。
すると、
「がおー! たべちゃうぞー!」
「たべないでくださーい」
と言いながらかばんちゃんと狩りごっこみたいな
追いかけっこを始めた。
といってもどっちも遊んでいるみたいで、
子供のようにはしゃぎまわる姿は微笑ましい。
しばらく眺めているとサーバルがかばんちゃんに追いついた。
「えへへー、たべちゃうぞー!」
そしてかばんちゃんのセリフが来るか来るかと思っていたら、
「サーバル、食べちゃだめだよ」
とかばんちゃんの腕から予想外の声が聞こえてきた。
「え……ボスが、私に話しかけたよ!」
「ラッキーさん、どうしてですか?」
「え、なんで、なんでしゃべったの!?」
「こ、コカムイさん、どうしたの?」
しまった。予想外の出来事につい過剰に反応しちゃった。
ただ喋っただけなら別に「なんでだろう」で終わったけど、イヅナの件がある。
赤ボスが反応したのが何でもないことだったら……
疑惑のそもそもの始まりが間違っていたことになる。
だとしたら、イヅナに対して申し訳ない。
「いや、ちょっとびっくりしただけ」
「そう……で、なんでしゃべったの?」
「僕たちラッキービーストは、ヒトの危機の場合のみ
フレンズと話すことが許可されているんだ」
「……え?」
ヒトの……危機?
さっきの狩りごっこにもならないじゃれあいが?
少し判定が緩い、いや、厳しい?どっちでもいい。
あれくらい判断できないのだろうか。
それとも、サーバルと話したかった?
ロボットと言えど感情がありそうな振る舞いが多々見受けられる。
普段はしゃべれないからここぞとばかりにポンコツっぽくしつつ
喋ったりしたかったのなら、少しかわいいかもしれない。
「そっか……サーバル、もう一回」
「がおー!たべてやるー!」
「食べちゃダメだよ、ジャパリまんがバスにあるから、
それで我慢してね」
さっきよりも長くしゃべった。
やっぱり、話してみたいだけだな。
それはさておき、イヅナに関してはヒトの危機的状況じゃなかった。
やはり別の理由があるに違いない。
「がおー!たべちゃうぞー!」
ボスが反応してくれたことに味を占めたサーバルは、
その後しばらく「たべちゃうぞー!」を連呼していた。
ボスも小言を挟みながらいちいち反応してあげてたあたり、満更でもなさそうだ。
『11日目
今日はジャングルとサバンナを訪れた。
ジャングルでバスがはまって大変!だけどいろいろあって脱出。
ジャングルのみんながアンイン橋を完成させてくれていた。
博士たちの采配に感謝。
サバンナではカバと出会った。
ボスとしゃべる方法をサーバルが見つけて、
長い間それで遊んでいた。
初めて出会ったフレンズ
カバ ジャガー コツメカワウソ』
ジャングルのフレンズは……僕が会話した二人だけにとどめておいた。
そうこうしているうちに夜になって、僕たちは
サーバルの縄張りで一夜を過ごすことにした。
「赤ボスも、あのボスと同じ?」
「ウン、ヒトガ危機的状況ノ時ニハフレンズト話セルヨ」
「……僕は”ヒト”で”フレンズ”だけど」
「大丈夫ダヨ、かばんヤ君ノヨウナ場合デモ、
”ヒト”であれば会話することを許されているんだ」
「そう…………え?」
今、何て?
「赤ボス、『かばんや』ってまさか、かばんちゃんも?」
「かばんモ、ヒトノフレンズダヨ」
なんてこった。でも、記憶の面では違いがある。
ただの個体差か、あるいは何か大きな違いが……?
……眠い。
「まあ、いいや、寝る。おやすみ」
「オヤスミ」
明日は、遊園地だ。
……誰もいない、遊園地。