さばくちほーを後にして、再び空を飛んでいく。嫌な思い出が残る湖の上を通り過ぎて、すぐ近くのへいげんまでやってきた。
穏やかな天気、開けた景色、目に優しい草木……快適で過ごしやすくて、とっても素敵な場所、全部終わったらこの辺りにお家でも作ってゆったりと暮らすのも悪くないかも。
でも今は一応旅の最中、そういうことはまた後で。……さて、ライオンが先かヘラジカが先か、どっちでもいいけど迷っちゃう。
「そうだ、じゃんけんで、右手が勝ったらヘラジカ、左手が勝ったらライオンのところに先に行こっと!」
最初はグー、じゃんけんポイ! あいこでしょ、あいこでしょ、あいこで……
「……決まるわけないじゃん」
何考えてんだろ、サーバルのおっちょこちょいな部分が伝染っちゃったかな?
……ハッ!? もしかしてツチノコちゃんが言ってたのってこのこと!?
「……そんなわけないか」
近い方から先に行こう、ということで先にライオンのお城にお邪魔させてもらうことにした。
「よく来たね~……あ、はじめまして、かな? でもなぜか初めてって気はしないねぇ」
一応初対面、ってことになってるから、軽く自己紹介をした。あとかばんちゃんたちとも面識があると言っておいた。
「えへへ、ちょっと一人でいろんなところを回ってみたいなー、って思って」
「ほうほう、まあ何もないけどゆっくりしていきなよ」
私と話している間も、ライオンはゴロゴロ寝っ転がってたまに柱で爪とぎをしたり……マイペースな人……というかフレンズだなぁ。
「…………」 「…………」
あれれ、会話が始まらない。ゆっくりしろって言われたけど、文字通りホントにゆっくりってことなんだ。で、でもせっかく来たんだから、ただ寝っ転がってるだけはもったいないなぁ……
「ライオンさんは普段どんな風に過ごしてるんですか?」
「ここでゴロゴロしたり~、ヘラジカたちとねー……前にかばんが教えてくれた”玉蹴り”みたいなのをやってたりだね」
「玉蹴り、っていうとサッカーみたいなものかな……」
「”さっかー”……? へえ、外ではそう呼んでるんだねぇ」
かばんちゃんのひらめきは活きているみたい、とっても賢くて優しくて、尊敬しちゃうな、でも、ちょっとばかし邪魔なんだよね、ヒトの仲間を探すためにこの島の外に出ようとしている点においてだけは。だとしてもかばんちゃんを傷つけるのは忍びないから、なるべく穏便に事を進めないとね。……ってあれ?
「そ、外ではって……?」
「え、コカムイから外にある玉蹴りに似た遊びのことを聞いてたんだろ?」
「あ、ああ、はい、そうです」
あ、危なかったかもしれない。そうだ、私はここで生まれたフレンズ……ってとりあえずここでは通しておかないと、そのうちみんな知ることになるけど、それだって適切なシチュエーションがあるんだ。口を滑らせないようにしないと……
「ええと、じゃあ、みんなサッカーを楽しんでるんだ」
「……そうなんだけど、ヘラジカは『たまには昔からの合戦もやりたい』って言ってるんだよねぇ……最後にやった時のルールなら怪我人は出ないけど、いまいちやる気でないんだよね~」
怪我しないとはいえ、常にピリピリするような合戦に気乗りしないのは共感できる。
「そうは言っても、時々わたしが相手すれば満足して帰ってくれるんだけどね」
「戦うのが好きなんですね……」
「ヘラジカと仲はいいと思うんだけど、戦い好きなところだけはよく分かんないなぁ~……」
怪我しないように配慮してくれてたけど、初対面のノリくんに戦いを仕掛けてくるくらいだったもんね、あの時は私も影ながらちょっぴり手助けしてあげたんだ。
それにしてもあの夜は災難だったなぁ……ちょっと夜の散歩に出ようと思ったら博士たちに見つかっちゃって、そのまま図書館で寝る訳にもいかなくなって、バスで平原までくる羽目に……全部博士たちのせいだよ全く。
「……で、イヅナはどう?」
「ど、どうって……?」
「どうってそりゃ、楽しんでるか、ってこと。キミ、フレンズになって間もないんだろ?」
「そうだなあ……まあ、結構楽しんでる……のかなぁ?」
ノリくんやかばんちゃんたちとジャパリパークを巡って、いろんなフレンズに出会って遊んだりおしゃべりしたり……あとは遊園地でばすてきなものにも乗ったし、ノリくんとこうざんまで飛んで行って紅茶をごちそうになったりした。
って感じのことを話した。
「それはよかった、フレンズになって、今までと違う体に変化して人知れずストレスを貯めちゃう子も少なくないからさ」
とっても楽しい。だから、この島に来てよかった。
もう、ひとりぼっちじゃないんだもん。
「他にもいろいろありますよ、図書館に行った時、博士たちがノリくんに『料理を作れ』って吹っ掛けて、カレーが完成したはいいけどお米を炊くのを忘れちゃっててそれで……」
まだまだ短い時間だけど、たくさん思い出がある、それに、こうやって誰かに思い出を話すなんて初めて。
話し終わると、ライオンがゆっくりとやってきて私のすぐ横に座り、小声でこう言った。
「ねえねえ、キミ、コカムイのことどう思ってるの?」
「うぇ!? ど、どうして?」
「いいから、わたしにだけ教えておくれよ」
「う、じゃ、じゃあ……」
こっそりと、ライオンに耳打ちした。
私の言葉を聞いてから、ライオンはずっとニッコニコだ。
「そんなに面白いですか……?」
「んー? 面白いっていうか、今までこういうこと全然無かったから、物珍しい気持ちなんだよ」
「……なんで分かったんですか?」
「分かるよ、コカムイの話をするときだけ、テンションが違うからさ」
「うぅ……」
「ま、応援してあげるから、頑張りなよ」
「……はい」
その日はライオンのお城にお世話になって、次の日にヘラジカが普段過ごしている場所まで向かうことにした。
「じゃ、また面白い話聞かせてね!」
「あはは、はい、また来ます」
城を出たら周りの目を気にしつつ、こっそりと飛行開始。遮蔽物とかはないから、見ようと思えば丸見えなんだけど、念のため、ね?
飛べば下の地形とかは一切合切関係ないもの、10分もしないうちにヘラジカのところまで着いてしまった。
「やあ、よく来たな! ……ふむ、初めまして、か?」
「はい、はじめまして、イヅナです」
ヘラジカ、結構おおらかで仲間思い、優しい、だけど戦い好きで戦闘狂……ってほどじゃないけど戦いを仕掛けてくることがある。ノリくんに突然戦いの申し入れをしてきたくらいだからね。
「ふむ……」
「……?」
ヘラジカは私の狐耳と尻尾を物珍しそうに観察している。
「これ、珍しいですか?」
「……いや、お前から、強い者の気配を感じるのだ」
「……うぇ?」
え、何それ、なんで!?
「まるで、あの時のコカムイのような……」
嘘、私が手伝ったことバレてるの? 『強い者の魂』ってアレ適当じゃなかったってことかぁ、さ、流石だなぁ……
……と、考えると、次に考えられる言葉は、
「わたしと一度、手合わせ願いたい!」
だよね、そうに決まってる。
「あ、これが紙風船でござる」
「ありがとう、カメレオンちゃん」
カメレオンちゃんに受け取った紙風船を右腕の手の甲側に付けた。こうするとノリくんと対になってる感じでなんだかワクワクする。
「……では、行くぞ!」
ヘラジカとの一騎打ち。前とは違ってフレンズの体だから、力、瞬発力、体力全て前よりも高くなって動きやすいはず。もっとも私は霊体だったからそういう身体能力は一切なかったんだけどね。
「……はあっ!」
ヘラジカが一気に突進してくる。まともに受けたらひとたまりもない、右にかわした。
左にかわすと紙風船をつけた右腕がヘラジカに近くなってしまう。右に避ければ、左足を軸にして後ろを向いても右腕をかばうように立つことができる。
「…………」 「…………」
初撃をかわし、均衡した状態に入る、どちらかが動いた時点で再び大きく戦局が変化するけど、しばらくは膠着するだろう。
さて、どうしよう、狐火を使ってかく乱……アンフェアだね、今は使わない方がいいや。どうやって頭の風船を狙おう?
「むむ……」
お互いに向き合いながら一歩一歩右へ右へと動く、そしてお互いの位置が入れ替わった時、ヘラジカが再び攻めてきた。
突っ込んでくるのを避けて……え!?
「はあぁぁぁ!」
何とヘラジカは突っ込み切る直前にブレーキをかけ急停止して、体を反転させて私の紙風船を貫いた。あまりに突然の出来事、予想外の頭脳プレーに反応できなかった。
「す、すごい……」
「いや、君もなかなか慎重で攻めにくかった、楽しかったよ、ぜひまた戦おう!」
「あ、あはは……はい……」
「だが、やはりコカムイを彷彿とさせる立ち回りだったな」
ええ……ノリくんとやった時は本当に一瞬と言っても差し支えないほど短かったのに、立ち回りの癖を大体掴んでるってこと? 天才、と呼ぶべきセンスを感じるよ。
戦いが終わったら、ライオンさんの時と同じようにノリくんたちとこの島を反時計回りに回った時のお話をしたり、53回ほども続いた合戦のお話を聞いたりした。
「そう、あれは18回目だったか、あれはハシビロコウが私たちの仲間に加わって初めての戦いだった……」
「そのときに、一体何が……?」
「うむ、それはだな……」
中略
「そ、それは大変でしたね……」
「ああ……ところで、お前たちは図書館から左回りに来たのだろう? なぜここに寄ってくれなかったのだ?」
ええと、ノリくんはヘラジカと戦って体力を使うのを避けたくて……じゃなくてヘラジカを避けて? はさすがにないか、ノリくんに限ってね……とはいえ正直に話して落ち込まれるのもあれだし、それっぽい理由をでっちあげよう。
「あの時はちょっと時間が押してて、一度行ったところは通り過ぎよう、ってことになったから……です」
「そうか……そうだ、こちらから訪ねるのも悪くはないかもな、よし、今度ロッジ、で良かったか? そこに向かうと伝えておいてくれ」
「は、はい、機会があれば……」
その後、わざわざ戻るのもためらって、はたまた図書館の近くにいくわけにもいかず、数日ヘラジカやほかのみんなのところで寝泊まりさせてもらった。
そしてある日、竹刀を持って稽古のようなことをしている時のことだった。
「う、うぅ!?」
突然の頭痛に襲われた。
「だ、大丈夫でござるか!?」
「イヅナちゃん、どうしたの……!?」
心配してカメレオンちゃんとハシビロちゃんが振り向いて駆け寄ってくる。
「何があった!?」
2人の声を聞きつけ、ヘラジカやほかのフレンズもやってきた。
ひとまず、原因は分かった、対処しないといけないから、我慢してでもみんなを安心させないと……
「ご、ごめん、これ頭にぶつけちゃって……しばらくすれば収まるから、大丈夫」
「ほ、本当でござるか……?」
声を出さず、ゆっくりとうなずく。
「分かった、無理せずに休むんだぞ」
「……はい」
みんなホッとしてゆっくりと元の場所に戻った。
さて、原因を取り除かないと。
この頭痛を引き起こしたのはノリくんの記憶の断片が取り切れておらず、一部がよみがえったからだ。辛い記憶が蘇って、拒絶反応に似たものを引き起こしている。それが私にもリンクしちゃったんだ。
早急にそれを再び取り除いて、頭痛は収まった。この『お揃いの勾玉』が無かったら、対処は難しかったかもしれない。
記憶の残滓が残ったのは、その記憶に強い感情が籠って、ノリくんに強く引っ付いたからに違いない、それに加えるとするならば、
「こんなに強い反応、よほど辛かったんだね……」
でも、もう彼は何も覚えていない、だから、もうそれに苦しめられる必要なんてない。
「……大丈夫、だよ」
嫌なことは、全部私が忘れさせてあげるからね?