キツネとカミサマ   作:ろんめ

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3-32 お狐様にお供え物を

「というわけで、報告に来たよ」

 

「ご苦労なのです、いい結果は……出なかったようですね」

「仕方ありません、次を読むのです」

 

 ジャパリバスでロッジから数時間、予定通り報告にやってきた。博士たちはよほど待ち遠しかったようで、テーブルの上に資料が山のように積まれている。

 

「食べ物の方は大丈夫かな?」

 

「ああ、ラッキービーストたちが一昨日あたりから忙しなく動いていましたね、厨房へ行けば用意しているはずですよ」

 

「じゃあ、先に確認を……」

 

「ダメなのです」「先にこっちなのです」

瞬く間に詰め寄られ、攫われてしまいそうだ。

 

「そんなぁ……」

 

「じゃあ、ボクたちが確認しましょうか?」

 

「じゃあお願いするよ」

 

「かばんちゃんに任せてね!」

「サーバルちゃんは?」

「私は付き添い!」

 

「あはは、よろしく、赤ボスに聞けば何を用意させたか分かるよー……」

 

 会話が終わったと思われたのか否か、言い終わらないうちに博士たちが一刻を争い僕を連れ去っていく。僕の声はドップラー効果よろしくおかしく聞こえていたかもしれない。

 

 

 

 

 

「さて、この中から少しでも手掛かりが見つかればいいのですが」

 

「その前にさ、野生開放について載ってるものはないかな?」

 

「……これはまた、どうしてですか?」

 

「まあ、かくかくしかじか……」

 

 昨日の出来事について簡単にまとめて話した。

 

「……本当なのですか?」

 

「誓って本当のことだよ」

 

「博士、これは」

「ええ、非常に興味深いのです」

 

「そんなに?」

 

「当然なのです、そもそもヒトという動物が他の動物にない能力を持っているのです、その野生開放となれば、未知数の力を発揮できるに違いありません」

 

「でも、やったことといえばジャンプして竹刀を投げただけだし……」

 

「ならば今野生開放をして実験をすればよいのです」

 

「や、野生開放か……」

 

 集中して力を出そうと踏ん張ってみるが、変化する様子はない。昨日のことを思い出して勾玉を握ってみても、何も起きなかった。

 

「あれ……?」

 

 やっぱり昨日は結構集中していたからこそできたのかもしれない。

 

「今は不可能、ですか。まだ慣れていないのかもしれませんね」

「では、とりあえず今わかっていることだけで考えてみましょう」

 

「ジャンプと、投げること?」

 

 はてさて、そんなことから一体何が分かるのだろう。身体能力が上がった、というようにしか捉えらえない気もするけども。

 

「この2つは些細なことに思えますが、大きなヒントがあるのです」

「コカムイは、どちらだと思いますか?」

 

 助手に突然クイズを出題された。ええと、なんとなく重要そうなのは、投げること、の方かなぁ……?

 

「投げること?」

 

「その通りです、では詳しく説明するのです」

 

 

 博士の説明はこうだ。ヒトは高い投擲――つまり投げる――能力を持っているらしい、先のヘラジカとの戦いで、それが普段より高くなっていた。そこから、少なくとも体を動かすことにおいては、他の動物と同様にその動物の、この場合はヒトの長所を伸ばしたものになると考えられるそうだ。

 

 

「……情報が少ないので、今はここまでですね」

「さあ、次はこれを読むのですよ」

 

 未だ知らぬジャパリパークの秘密とカードキーの場所を求めて、僕はファイルを静かに開いた。

 

 

 

 場面は変わって。

 

 ボクとサーバルちゃんは、コカムイさんが赤いラッキーさんに頼んだ食材の確認のために厨房に来ていた。

 

 ラッキーさんたちが用意したであろう食材がいくつか台の上に載っていた。

 

「ええと、これでいいのかな?」

「わぁ、いっぱいあるね!」

 

 コカムイさんが何を頼んだのか聞いていなかったからちゃんと用意されてるか分からない……赤いラッキーさんを呼んで確認してもらった。

 

「これは味噌ですね」

「ソノ後ロモ見セテクレルカナ」

「はい、これは……」

 

「豆腐ダネ、今回ハ、コレガ一番大事ナンダ」

「なにこれ? 水が入ってる」

 

「ヤワラカクテ崩レヤスイカラ、気ヲ付ケテネ」

 

「平気平気!…………うわぁ!?」

「サーバルちゃん!?」

 

 地面ギリギリでキャッチ成功して、なんとか崩れなかった。

 

「もう、気を付けてね」

「ごめんなさい……」

 

 

 

「後は野菜とお米と、それにお魚もありましたね」

 

「全テノ食材ヲ確認シタヨ」

 

「よかった、……じゃ、じゃあコカムイくんに知らせたら?」

 

「サーバルちゃんは?」

 

 サーバルちゃん、少しソワソワした様子だ。

 

「わ、私はここで待ってよっかな~……って」

 

「お魚、食べる気でしょ?」

 

「かばんちゃん、なんで分かったの!?」

 

「お魚に目が釘付けだったよ」

 

「うう、でも、食べたい……」

 

「きっとサーバルちゃんの分も作ってくれるよ」

 

「……そ、そうだよね! うん、我慢する」

 

「じゃあ、知らせに行こっか」

 

 

 

 

 

 

 

場面は再び変わって……

 

 

 今回博士たちが用意してくれたファイル、そこに書かれていたのは研究所の建設についての進捗報告がほとんどだった。建材がどうとか人手がこうとか書かれているだけで役に立つものは皆無。

 

「もっとちゃんと選んでよ……」

 

「仕方ないのです、読めない字もあったので」

 

「それはいいとして、こんなものを調べてカードキーが出てくると思う?」

 

「…………」

 

「この島を出ていくときに持ってっちゃった、ってオチじゃないかな」

 

「……では、一体どうすれば」

 

「うーん、入り口をぶっ壊す、とか。どう、赤ボス」

 

「研究所ニ被害ガ及ンダトキハ、島全体ニ警報ガ発令サレルヨ」

 

「警備がしっかりしているのはいいことですが、そこを何とかできないのですか?」

 

「…………」

 

 赤ボスは露骨に落ち込んだ、要はどうにもならないということだろう。

 

 

「何か、何か方法は……」

 

「とりあえずさ、何か食べて気分転換しようよ、イヅナの分もまとめて僕が作るから」

 

 かばんちゃんとサーバルも、ちょうどいいところにやってきた。

 

「コカムイさん、食材は全部揃ってましたよ」

 

「ありがと、じゃあ作るとしようか」

 

 イッツクッキングタイム、というやつだ。

 

 

 

 

「じゃあ、まずは今日の主役を作ろうか」

 

 誰かに話しているようだけど、そばには赤ボスがいるだけ、要は独り言だ。

 

「『油揚げ』、これを使えばイヅナも釣られるはず」

 

 普通は豆腐を薄切りにして揚げて作られる、しかし油の温度の調整が難しく、火傷するかもしれない。

 

「ですので、すでに完成した油揚げがこちらにあります」

 

 3分程度で終わりそうな感じで出された既製品の油揚げ、ボスたちがせっせと作ってくれたのだろう、その苦労に敬意を表しつつ丁寧に料理を作りたいと思う。

 

「テーマはずばり和食! イヅナの服も巫女装束に似た感じだし、きっと効果は抜群だよ」

 

 油揚げは味噌汁を作るのに使うことになっている。ご飯、味噌汁、そして焼き魚。まさに和を体現した料理になるはずだ、当然作り手が上手だったらの話だが。

 

 しかし、ヒトには知恵がある。そしてその知恵を未来へと残す技術がある。大層なことを言ったが、つまりはレシピ本を使って普通に作るのだ。妙なアレンジは失敗のもとであるよ。

 

「じゃあ、まずはお湯を沸かして…………あれ?」

 

 皿に乗せた油揚げを持ち上げようとしたら、手にもふもふした感触が感じられた。

 

「あっ、くすぐったいよ」

 

「……!?」

 

 イヅナだった。まさか油揚げ単体でおびき寄せられるとは。

 

 

「イヅナ、な、なんで?」

 

「なんでって、その、いい匂いがしたから……」

 

 と、とりあえず、油揚げは効果てきめんだったってことでいいのかな?

 

「じゃ、じゃなくて! イヅナ、お話ししようよ、なんでその、こんなことというか……なんて言えばいいんだろ」

 

「分かってるよ、私のことを知りたい、ってことでしょ?」

 

「まあ、端的に言えば」

 

「そっか、そうだよね、私のことも、目的も、全然話してなかったもん」

 

「……だから、どうするか決めるためにもキミのことを知らなきゃいけない」

 

「うん……でも話すと長くなりすぎるし、ゴチャゴチャしちゃうかな、だから……」

 

 

 そう言うとイヅナはどこからか青いセルリアンを出した。持ってきたとか引っ張ってきたとかじゃなくて、『出した』。その様子を言えば、サンドスターが集まってセルリアンになったのだ。

 

「セルリアン……!?」

 

「気にしないで、フレンズになってから呼び出せるようになったの」

 

 呼び出すというよりかは、作りだすといった方が適切だろう。いや、そうじゃなくてセルリアンを作る、というところから疑問を持つべきか。そう考えているうちに、イヅナはセルリアンに腕を突っ込んだ。

 

セルリアンはしばらくもがいていたけど、力尽きたようでぐったりとした。そして次の瞬間砕け散った。

 イヅナが突っ込んでいた手の中には、虹色の星型の結晶とカードが握られていた。

 

「……それは?」

 

「こっちはカードキー、ノリくんこれ探してたよね」

 

 ヒラヒラとそれをなびかせながらイヅナは僕にそれを差し出した。僕がそれを受け取った後、イヅナは虹の星を目の前に突き出した。

 

「……それで、こっちは?」

 

「まあ、見てて」

 

 何をするのかと不思議に思いつつ見ていると、イヅナは星にかじりついた。せんべいを咀嚼するような音が聞こえて、星の5つある足のうちの1つが欠けていた。

 

「た、食べた……?」

 

 その後もそれを食べ進め、1本、また1本と足がなくなっていく。

 

そして残った胴体を、丸ごと口に放り込んだ。

 

やがて、咀嚼する音が聞こえなくなったが、まだその星の成れの果てを口の中に全て残しているようだ。

 

「ね、ねえ、何して……んぐっ!?」

 

 

 口で口を塞がれた。それだけではなく何かが流れ込んでくる。即座に虹の星を口移しされていると分かった。

 それだけに留まらず、舌まで入れてきた。

 

「ん……んんっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 十数秒経ったのち、ようやく解放された、しかしその後に待っていたものは、走馬灯のように速く頭の中に映し出される映像の数々。

 

「こ、これ……は……?」

 

「それは、私の記憶、サンドスターで形を持たせて、ノリくんにもあげたの」

 

「……イヅナの、記憶?」

 

今見えているこれは、イヅナがこの島に僕とやってくる前の――

 

「そう、ちょっと恥ずかしかったかな。でもここまでやれば、()()()に勝ったって言えるよね!」

 

「ア、イツ…………?」

 

 どこか恍惚とした様子のイヅナの声も、聞こえているけど理解できない。頭を流れる彼女の記憶の数々が、恐ろしく鮮明で、はっきりと理解できて。

 

 

「ねえ、イヅナ、なんで!?」

 

混乱。

思わず荒ぶる声。

 

「答えてあげたいけど、博士たちが来ちゃうかもしれないから、それに答えは、考えればわかるはずだよ」

 

「なん、で?」

 

「ごめんね、混乱させちゃったね」

 

ゆっくりと、イヅナの腕が僕を抱え込む。

 

イヅナに、抱きしめられている、思わず、突き飛ばしたくなる。

 

「またね、ノリくん」

 

「僕は――」

 

 イヅナの記憶が、今まで信じてきたことを嘲笑うように否定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は――誰『だった』?」

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