キツネとカミサマ   作:ろんめ

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0-36 イヅナの思い出 後編

 鞄を背負った彼女についていく。当然彼女は私に気づかない。お話できたら、とっても楽しいはずなのに。

 

 

 サバンナをしばらく歩くと、向こうの木の上に誰かが寝ている。目を凝らしてよく見るとサーバルだった。この辺りは彼女の縄張りで、よく他のフレンズと狩りごっこをしたりして遊んでいる。

 火山の近くで噴火を待つ間、何度かサバンナに訪れることもあったから彼女のことも知っている。もちろん、彼女は私を知らない。

 

 ピョコっとサーバルの耳が立った。鞄を背負った子の足音を聞き取ったみたいで、木から大きくジャンプして着地した。

 

 始まる追いかけっこ、サーバルからしたらよくやる狩りごっこ、しかし追いかけられる方からしたらたまったものではない。

 

 程なくしてサーバルが彼女を捕まえた。

 

 その後しばらくの問答、彼女たちは図書館を目指すようだ。そしてサーバルが鞄を背負った彼女に『かばんちゃん』という名前を付けてあげたみたいだ。

 

 

 そのセンスは置いておくとしても、素敵なことだ。

 

 フレンズになる前、どんな人だったのかは知らない。だけどかばんちゃんはついさっきフレンズとなった。

 

そんな彼女のためにサーバルが付けた名前。かつて私が、神主様に付けてもらったような――生まれ変わった者のための名前。

 

 少なからず、かばんちゃんに親近感がわいた。自分がなりたくてもなれなかったフレンズという存在だから、思いを投影しているのかもしれないけど。

 

 

 

 このままサバンナにいる訳にも、はたまた再び火山に行くわけにもいかない。私は2人の後についていくことに決めた。もっと、かばんちゃんの姿を見ていたかった。

 

 木陰で休憩したり、木登りしたり、川に落ちて、小さなセルリアンをやっつけて、小さな池でカバに出会って――

 

 橋にいた大きなセルリアンをやっつけた。1人じゃない、2人の力で。もし私がフレンズになれていたら、彼女たちと共に――

 

 ジャングルを離れても、サーバルはかばんちゃんについていくみたい。

 

夜はゆっくりと眠る。ラッキービーストが喋れることに私も驚かされたのはここだけの話。

 

 2人と1体はどんどん進んでいく。ジャングル、こうざん、さばく、こはん、へいげん――

 

 

 

 そしてついに、彼女たちは図書館へとたどり着いた。

 

 博士と助手は何の動物か教える見返りにかばんちゃんに料理を作ることを要求した。かばんちゃんはサーバルの手助けも借りつつ、難なくカレーを完成させた。ただしその後辛さのせいでひと悶着あったんだけども。

 

 かばんちゃんは自分がヒトであると告げられた。これについては平原でハシビロコウの推測もあってあまり驚きはしなかったけど、ヒトがこの島から絶滅したと聞いた時には一切の言葉を失っていた。

 

 ヒトのキョウシュウエリアからの撤退。図書館の奥に大事にしまわれていた書物の中に書いてあるのを読んだことがある。無論、私がそれを教えることはできない。

 

 ともあれ、かばんちゃんは次なる目的を見出したようで、ヒトの縄張りを探すことにしたみたいだ。

 

 

 

 次に訪れたのは水辺のちほーで、そこでは3代目となるPPPが初めてのライブをしていた。博士にもらったチケットで見学したりしてその後なんやかんやあったけれど、今日のところはあまり深く言及はしない。……する日が来るとも思えない。

 

 でも、ここで人を最後に見たのは港であるという情報を2人は得ることができた。ただ、それは昔のことらしいし、この島にもうヒトがいないことは私が確認している。

 

 その次に着いたのが雪山。ここの温泉旅館にキタちゃんとギンちゃんがいるからここのことは印象深い。キタちゃん、などと呼ぶのは何だか親しくなったような気がするからだ。……気がするだけだ。

 

 温泉に浸かるみんなはとても気持ちよさそうだった。羨ましい。

 

 

 次はロッジ。私が見た第一フレンズのオオカミさんがマンガを描いているこの建物の名称だ。正確にはロッジアリツカ……これはアリツカゲラさんが付けた名前だったかな? ともかく今の名前はそうなっている。

 

 お化け騒動の時は、ついに私の姿が見られてしまったのか、と少し焦った。しかし、もしかしてこれを機に私も2人と一緒に行けるかもしれないという希望を持ってしまった。あえなくその望みが打ち砕かれてしまったことは言うまでもない。

 

 

 紆余曲折、様々な試練を乗り越え、多くのフレンズと仲良くなったかばんちゃんとサーバルは、とうとうこの島の港とそこから広がる海を目にした。

 

 しかもお誂え向きに外に向かうための船もある。これならこの島の外にあるヒトの縄張りも探すことができるはず。――あれ、フレンズはジャパリパークから出たらフレンズ化が解けるんじゃなかったっけ、かばんちゃんは外に出ても大丈夫なのかな?

 

 ヒトのフレンズは珍しいから分からないかもしれないけど、あとでもう少し図書館で漁ってみることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 ……いよいよ生まれた島を離れ、外に仲間を探しに行くのか。

 

 短い間で、全然お話できなかった。けれど、見守っているだけでも楽しかったし、彼女たちがこれからどうしていくのかが楽しみでならない。

 

 きっとどんな場所でも、頑張れるんだろうな。

 

 

 ――そんな私の気持ちに、暗雲が立ち込める。

 

 

 おそらく、地面が揺れたのだろう。海に浮かぶ船、そしてかばんちゃんとサーバルの体が、不自然に大きく揺れた。

 

 様子を見に行った2人を追いかけた先で私が見たものは、今までと違う、黒いセルリアン。他の色をしたものとは違う禍々しさを、『狐』としての第六感が()()()()と感じ取っていた。

 

 セルリアンハンターも駆け付けて、いよいよ事が大きくなってきた。

 

 

 かばんちゃんたちは火山に向かうみたいで、どちらの様子を見ていようか少し悩んだけど、いつも通りかばんちゃんについて行くことにした。

 

 火山についた彼女を待っていた最初の出来事は、アライグマとの出会いだった。それは他のフレンズとの出会いと違って中々乱暴な挨拶であった。

 

 よく見れば、アライグマはかばんちゃんがフレンズになった時に近くにいた子によく似ている……おそらく本人なのだろう。

 

 そしてアライグマのお供のような立ち位置のフェネック。彼女は冷静かつおっとりな性格で、周囲の様子を観察することが得意に見える。行動力は高いが突っ走りすぎてしまうアライグマとは互いをフォローしあうという意味でぴったりのコンビだろう。

 

 ぼうし騒動の後は、フィルターを復活させてサンドスター・ロウがそのまま外に出てしまうことを防いだ。

 

 私の力でサンドスター・ロウにちょっかいを掛けられないかなー、と思って試してみたら、ちょっぴり思い通りに動かせた。でも妖力では動かしにくい。何か工夫がいるかもしれないと力の掛け方を変えてみたりとしたけれど、その成果が出る前にフィルターは修復された。

 

 

 サンドスター・ロウの放出が収まってもそれ以前に出てきたものは消せない。故に黒いセルリアンはサンドスター・ロウを吸い込んで先ほどよりも巨大になっていた。

 

 ここまで強大になってしまえば並大抵の方法では倒すことができない。そこでかばんちゃんの作戦を用いて船ごと海に沈めてしまおうという魂胆らしい。

 

 外に出るための船、それを犠牲にしてでもパークの皆を守りたいという覚悟――かばんちゃんがただ優しいからでは説明できないような、かつてパークを守ろうとした者の意思を、あるいは無意識の記憶を引き継いでいるような気さえしてきた。

 

 

――覗いてしまおうか?

 

――何か、一線を越えてしまいそうな気がした。

 

 

 

 

 

 セルリアンは光におびき寄せられる。

 

そのため、太陽が沈んだ妖が現れる夕刻、作戦が開始された。

 

運転席だけになったジャパリバスのライトを利用してセルリアンを海まで誘導して、船ごとボチャン、という算段だ。

 

枝がタイヤに引っ掛かってもハンドリングで吹き飛ばす。今日のボスは本気だ。

 

だとしても、都合よくいかないのは何かの約束なのだろうか。

 

セルリアンが地面を揺らしてバスを飛ばし、2人を食べようとしている。

 

そんなことさせない。使えるすべての妖力を集中させて、セルリアンの動きを止めようとする。

 

だけど、止まらない、止まらない、どうして?

 

私の力はこんなちっぽけなものだったの?何もできない。

 

 

サーバルがかばんちゃんとボスを庇って一度食べられて、決死の思いでかばんちゃんがセルリアンからサーバルを奪還した。

 

しかしセルリアンは止まらない。再びその輝きを奪おうと腕を振り上げる。

かばんちゃんが、松明を持って狙いを自分に――

 

 

 

 

 

 

――まただ、また止められなかった、奴はうんともすんとも言いはしない。私の力はどうなっている?自分の妖力を辿って原因を探った。

 

――――――分かった。『記憶』に干渉する私の力、これが原因だ。

 

 この『力』はまだ完全に覚醒しきっていない。あまりに強い物を持ってしまった弊害なのだろうか、湧き出てくる妖力がすべてここに吸い込まれてしまっている。もうほとんど覚醒していてあと少し、それでも今、この瞬間、セルリアンと戦って彼女たちを救うことは私にはできなかった。

 

 

 

――『私だって、悪さする妖怪を懲らしめたいよ、ポン吉!』

 

『い、イヅナは……ダメだ、その、周りにとばっちりが行くかもしれないだろ』

 

『ええー、それくらい制御できるって』

 

『と、とにかくダメだって、神主様に言われてるんだ、な? 我慢してくれ――』

 

 ポン吉のあのときの言葉は、神主様が止めたのは、私が戦えないことを隠すためだったのかな、私を傷つけないために……? 神主様は、全部お見通しだったのかな……

 

 

 失意の中、私にはもうこれ以上彼女たちの行く末を見守るなどという傲慢なことは言えず、そんなことをしたいという思いすら完全に擦り切れていた。

 

 ただ後から博士の記憶を覗いた限りでは、島全体にボスが信号を送り、多くのフレンズがかばんちゃんを助けるために駆け付け、結果としてかばんちゃんの救出にも成功し、黒いセルリアンも海に沈めることができたらしい。

 

 

 それだけは本当によかった。……だけど、それはかばんちゃんやサーバル、島の皆が団結してつかみ取ったものだ。私はみんなの友達にも、セルリアンを倒す助けにもなれなかった。

 

 

――――私はずっと、蚊帳の外だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このままじゃ、終われない。

 

どこかにあるはずだ。私でもフレンズになることができる方法が。

 

四神、オイナリサマ、ツチノコ……そんな伝説上の存在だって、フレンズとなった記録がある。私と違うのは一体何?

 

 

私だって、フレンズになりたい。『友達(フレンズ)』になりたい。

 

 

その一心で、セルリアンを海に沈めてから3日、私はその可能性をとある資料から発見した。

 

その可能性は明確ではなく、不確かなものだった。

 

 

だとしても、その可能性に縋らない手はない。

 

私はそんな希望を胸に、かつて私が住んでいた神社、あの町に帰ることにした。

 

再び、ここに戻ってくると誓って。

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