キツネとカミサマ   作:ろんめ

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4-50 カミかくし

 私、コノハ博士は朝から、いえ、昨晩から最悪の気分だったのです。理由は他でもないコカムイの単独行動、我々に情報を隠しての行動。

 

 思えば初めてイヅナがここに訪れたときからコカムイは知っていることを隠していました。アイツには人を、というかフレンズを信じる心というものがないのでしょうか? 私は昨日の晩からずっとそれが頭に引っ掛かり――

 

「博士」

 

 ああ、少し考えすぎてしまいましたね。助手はこういうタイミング丁度良く声を掛けてくれるのです。

 

「助手、かばんは連れてきましたか?」

 

「はい、ここに」

 

 いつも通りのかばんの姿。しかし助手は理由をその場で言わなかったのですね、図分と困惑している様子です。

 

「あの、ボク、なんで……?」

 

「理由はほかでもありません、コカムイのことです」

 

「コカムイさん? そういえば昨日もここに泊まって調べものをするって言ってましたね……今はどこに?」

 

「それが分からないから、お前の力……というか知恵を借りたいのです」

 

 我々も十分に賢いのです。しかし、ヒトであるかばんは我々の思いもよらない方法を思いつくのです。何が起こるか分からないこの状況、借りれるものはサーバルの手でも借りたいのです。

 

……いえ、サーバルでも、は言いすぎですね。

 

 

 

 

「どういう状況なんですか?」

 

「説明しましょう、昨晩、コカムイが単身で火山に向かったきり、戻ってきていないのです」

 

「火山に?」

 

「コカムイが言っていたところによると、イヅナがそこにいたらしいのです、少なくとも昨晩は」

 

「イヅナさんの所に向かって、今も戻っていない、と……」

 

「要約すればそういうことです、そこで、これからどうするべきか、一度お前を交えて話す必要があると感じたのです」

 

 ……はぁ、「大丈夫」だの何だのと大見得切って出ていったのに、ここまでいらない心配を我々にさせるとは、戻ってきたら一度”お仕置き”でもしておくべきかもしれませんね。

 

 

「……やっぱり、何か起きたんですか?」

 

「というと?」

 

「いえ、本当に、何かまずいことが起きたのかなー、って思って」

 

「あったに違いないのです」

「助手の言う通りです、コカムイは赤ボスも連れていきました、無事なら連絡の一つも寄越すはずなのです」

 

 そこにトコトコと一体のラッキービーストが近づいてきた。呑気なこいつは何が起きているのか一切知らないのです。

 

「あ! だったら、こっちから赤いラッキーさんに通信すればいいんじゃ……」

 

「それが出来れば苦労はないのです、我々は赤ボスに直接つなぐ方法を知らないのですから」

「他のラッキービーストと違うのは見た目だけで、中身は一緒ですから」

 

「そっか、そうですね……」

 

 あちらからなら……と考えてみても、コカムイの行動が制限されていたりすれば不可能、あてにはできないのです。

 

「どうにか、居場所を知ることが出来れば……」

 

「ええ、その後どうするかはそれからです」

 

 コカムイは一体どこにいるのか。はて、それを知るためのいい方法はないものでしょうか。

 考えるのです、この島の全てを虱潰しに調べるのでは時間がかかりすぎる。しかしそうでもしないと”そこ”にいないことが保証できない。なるべく短時間で広範囲を調べる方法……

 

 

「――ラッキーさん」

 

「……ラッキービースト?」

 

 突然のかばんの言葉に、ついオウム返しに問い返してしまいました。

 

「コカムイさんを捜すよう、島中のラッキーさんに頼んでみる、とかどうでしょう?」

 

「島中にとなると……研究所から指令を出すのはどうでしょうか、博士?」

「名案なのです、早速……」

 

『任せて、島中のラッキービーストに指令を出すよ』

 

「っ!?」

 

 突如後ろから聞こえた電子音に、思わずシュッと細くなってしまったのです。恐る恐る振り向くと、そこにはさっきのラッキービーストがいました。

 

「お、驚かせるななのです……」

 

 返事はないと分かりつつも文句を言うと、私はさらに驚かされることになりました。

 

『……ごめんね、驚かせるつもりはなかったんだ』

 

「え、ええ?」

 

「ラッキーさんが、博士に喋った?」

 

 つまりこれは、いわゆる『ヒトの緊急事態』というものが訪れている、と考えていいのでしょうか。

 

『話を聞く限りお客様に想定外の事態が発生しているらしいから、研究所に問い合わせた結果、フレンズへの干渉が許可されたんだ』

 

「なるほど……少し話がそれますが、研究所が再起動する前はどうだったのですか?」

 

『それぞれの個体の判断だよ』

 

 ああ、要は裁量次第、という話だったのですね、もしかしたら”かばんのボス”も、もう迂闊にサーバルと話せなくなっているやもしれないですね。

 

『でも、そんなに厳しくはないんだ。話しかけるとかの無闇な干渉をしなければ大丈夫だよ』

 

 しかし会話は原則禁止、そこから考えると研究所はコカムイに危険が迫っている、と判断したようですね。

 

『後は結果が帰ってくるのを待つだけだよ』

 

「ラッキーさん、ありがとうございます」

 

「……これで進展すればいいのですが」

 

 

 一応捜査方針の進展は見られた。けれども私の気持ちは芳しくない。

 

「博士、何か心配なんですか?」

 

「もし、ラッキービーストが簡単に入れないところにいるとしたらと考えると、おちおち待っている気分にはならないのです」

「それは例えば、火山の頂上付近や遺跡などのことですか?」

 

 確かに到達困難な場所、でも私が心配しているのは時間を掛ければ行ける場所の話ではないのです。

 

「ラッキービーストが入れないように締め切られた場所があったら……!」

 

「……! もしそうなら、そこを探すことはできませんね」

 

 イヅナがそんなことに気づかないとは思えない。確実に捜索を妨害するための策は張っているに違いないのです。だったらそこを我々が探す必要が――

 

 

『ジャパリまんを食べて、落ち着いたらどうかな』

 

 ラッキーがカゴ一杯のジャパリまんを持ってきてくれました。普段積極的にできない分のサービスでしょうか。

 

「……頂くのです」

 

 これを食べて思い出したのですが、ジャパリカレーまんは美味しかったのです。だからどうしたという話ですが、シンプルながら癖になる味なのです。もしあれが二度と食べられなくなったらと考えたら……!

 

 居ても立ってもいられないのです、早く見つからないのですか?

 

 

「でも、何ができるのでしょうか……?」

 

「コカムイさんは、大丈夫って言ってたんですよね。だったら少しでも信じてあげましょう」

 

 聞かせるつもりのなかった独り言でしたが、かばんは聞き取って私に言葉を返した。

 

 ……信じる、ですか。

 

 そうですね、あいつに信じろだのととやかく言う前に、まずは自分が信じてみるべきでしょう。

 そうしてから、アイツには私の模範的な姿勢を見習ってもらうことにしましょう。

 

 

 

 

 

 ふゎぁ……少し落ち着いたら眠くなってきました。思えば昨晩から一睡もできていない気がするのです。

 

 『果報は寝て待て』とも言います、ここは寝て英気を養い、来るべき、『イヅナを懲らしめる機会』に備えることとしましょう。

 

「私は仮眠を取ってくるのです、助手、進展があれば呼んでください」

 

「分かりました。博士、お大事に」

 

「……私は病人ではありませんよ」

 

 すると助手はやたらニヤニヤしてこう言うのです。

 

「目の下にクマがありますよ、コカムイのことがよほど心配だったようで」

 

「なっ!?」

 

 助手の言葉を聞いたかばんも、私の顔をまじまじと見つめて、

「確かにありますね、心配なのは分かりますけど、寝ないとダメですよ」

と至って純粋な目をして言うのです。

 

 助手が私をからかうのはよくあることです、しかしかばんは助手の意図に気づいていない様子。いつもの賢さはなぜこういうところに表れないのでしょうか。

 

「私が心配なのはアイツが作るカレーまんだけなのです! も、もう行くのです」

 

 寝床に向かおうとする後ろから、

「博士は相変わらず素直じゃないですね」という助手の声と

「照れてるんでしょうか?」と単純に疑問に思っているようなかばんの声。

 

 

 

 寝転がった後も、二人の言葉が頭の中に残響として残り続け、昨晩のように私の眠りを妨げ続けるのです。

 

「私が、心配……?」

 

 心配しているのは確かでしょう。しかしそれは長として、そして食べ物のため……のはずなのです。

 

 ですが、もしコカムイが記憶を取り戻したとしたら、アイツの縄張りの話を聞けるのでしょうか?

故郷の友人や家族の話を、そこでの思い出を、アイツが話して、私が聞く。

そんなことがいつかあるのかもしれない。

 

 それは、きっと楽しいことなの…で……す……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「博士、博士!」

 

「……ん、どうしたのですか?」

 

 眠気をまとったまま、目をこすってなんとか意識を覚醒させた。

 

「ラッキービーストからの連絡です、おそらく”赤ボス”からだと」

 

「何ですって!?」

 

 思いがけない吉報に眠気は吹き飛び、私は飛び上がって通信を受け取ろうと部屋を飛び出そうとしたところを、助手に呼び止められた。

 

「博士、こっちです」

 

 振り返ると、助手が下を指さしている。その方向を見るとラッキービーストがいた。通信を受け取ったのはこいつでしょう。

 

「焦りすぎですよ、心配も程々に、です」

 

「う、うるさいのです……!」

 

 相変わらずの助手の軽口に言い返しながら、ラッキービーストに確認をした。

 

「どこからの通信なのですか?」

 

『他のパークガイドロボットからの通信です』

 

どいつもこいつも、肝心なところで融通が利かないのはロボットの宿命なのでしょうか。仕方ないと分かりつつも、こんな状況なのもあって腹を立てずにはいられませんでした。

 

「そんなことは分かっているのです! 詳しく”どこ”からの通信か教えるのです」

 

 そして私が『詳しく』と要望すると、少しの沈黙の後にこのロボットは更なる油を私の苛立ちの炎に注いだのです。

 

『個体番号-Lackey-K-127-R からの通信です』

 

「詳しく、とはそういう意味ではありません! どこに()()のか教えるのです!」

 

『現在、同個体のGPS機能にエラーが起きており、位置情報は提供できません』

 

「こ、こいつ……」

 

 進展があると思えば、なんという体たらく。こいつもあの赤ボスもヒトの安全を守るつもりが無いのではと感じてしまうほどポンコツではありませんか。

 

「……博士、向こうにいるであろうコカムイと話せばいいのでは」

 

「…………」

 

 さ、さすがは助手なのです、どんな状況でも冷静なのです……うぅ……やはり二人いる、というのはこういう時に吉と出るのですね……はぁ……

 

「い、今そうしようと思っていたのです」

「……ふふ、そうですか」

 

「な、何を笑っているのですか」

 

「いえ、何でも?」

 

「…………」

 

 こうなった助手は取り合うだけ時間の無駄、分かっているでしょう? さっさとコカムイに繋ぐのです、私は賢いので。

 

 

「では、通話をつなぐのです」

 

『分かりました』

 

 聞きなれた電子音が鳴った。あちらから声が聞こえてこないから、まだ時間がかかる様子です。……思えば、このラッキービーストはやけに礼儀正しい、というか格式ばった言葉遣いをするのです。こいつらにも性格のようなものがあるのでしょうか。

今度研究所に行った時に確かめてもらうことにしましょう。そのためにもいち早く連れ戻さなくては。

 

 

 ラッキービーストの電子音は止みません。調子でも悪いか、「でんぱ」とかいうものが繋がりにくいか、でしょう。……どちらも同じようなものですね。

 

 まだ通話は始まりません。業を煮やした私は小声でラッキービーストに尋ねました。

 

「……まだですか?」

『もう繋がっています』

 

 すでに繋がっているのに、声が聞こえてこない? その事実は、私に様々な想像をさせました。声が出せない状況化にあるとすれば……隠れているか、逃げているか……口を塞がれている、あるいは喉を潰された……?

 

 決壊したダムのようにあふれ出す負の想像に不安が募り、ついに私はラッキービーストを掴み上げ、全力で叫んだのです。

 

「コカムイ! 返事をするのです、これはどういうことなのですか!?」

 

するとラッキービーストの向こうから、あいつが驚く声が微かに聞こえて来たような気がしたのです。

 

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