キツネとカミサマ   作:ろんめ

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5-63 レアアイテムを探し出せ!

 

今日の朝は、体にくっつく謎の感覚によって目を覚ました。

 

「ぇ……何、これ……」

 

何かが体にぴったりとくっついていて、身動きが取れない。

体から離そうとすると、しがみつく力を強めてきて少し痛い。

 

「ん……んん……!」

 

それでもなんとか引きはがすと、それが眠っているキタキツネだと気づいた。

 

「キタキツネ……? あれ、なんで……」

 

必死に思い出してみても、キタキツネと一緒に寝た記憶はない。

もしかして、僕が寝てる間に入り込んだのかな?

 

「イヅナはしないと思ってたけど、まさかキタキツネがとはね……」

 

振り解いた後もキタキツネが起きる気配はない。

穏やかな寝息を立てて、僕の代わりに布団にしがみついて眠っている。

 

「そういえば、キタキツネの部屋決めてなかったっけ」

 

行く場所がなくて、僕の部屋にたどり着いたってことかもしれない。

そう考えると、悪いことしちゃったな。

 

こんなにゆっくり寝てるなら起こすのも悪いかな。

僕は起き上がって、支度をしてロビーへと向かった。

 

「ん、ノリアキ……」

 

キタキツネが初めから僕の布団に潜り込むつもりだったことに気づけるはずもなく、この先それを知ることもないだろう。

 

 

 

起きた後は特に何も起こらず、とんとん拍子に研究所に到着した。

今日研究所を訪れたのは僕とキタキツネ、そしてイヅナの三人。

まあ、少し考えれば当然と言える顔ぶれだ。

 

「ここが研究所だよ、来るのは何日ぶりかな」

「すごい、機械がいっぱい……!」

「ふん、はしゃいじゃって……」

 

キタキツネは目をキラキラと輝かせている。

前はゲームセンターにあるような筐体でゲームをしていたから、こういう機械に関しては他のフレンズよりも興味があるんだと思う。

 

「赤ボス、研究所のシステムを起動して」

「ワカッタヨ」

 

すぐさまコンピューターが起動し、聞きなれたラッキービーストの声が部屋のスピーカーから響き渡った。

 

『こちらは、ジャパリパーク中央研究所キョウシュウエリア支部です、アクセス権は認証されています、ようこそ』

 

さて、とりあえずログインしたけどこれからどうしよう。

キタキツネには”ゲームを探す”って言ってるから、記録を色々見る前にそっちを済ませた方がいいかな。

 

「じゃ、ひとまずこれは置いといて、先に何か無いか探しに行こっか」

「うん、楽しみ……!」

 

 

前に来た時、ゲームを見つけたのは二階だった。

それを話すと、瞬く間にキタキツネは二階へと上って行ってしまった。

僕も遅れてキタキツネについていき、まず二階から探し始めることになった。

 

といっても、今更何か見つかるのかな……?

 

「ノリアキ、これ何?」

 

声のする方を見ると、キタキツネが花瓶を持ち上げていた。

 

「ああ、花瓶だよ、花はボスたちが活けてるのかな」

 

そう考えると、やっぱり研究所にも水道が通ってるってことか。

当たり前っちゃ当たり前だけど、なんとなく、通ってないんじゃないかって思わせられるのが、この島の怖いところだ。

 

 

「……なんか、ジュースが飲みたくなってきた」

「外と違って、ここには水……か、こ、紅茶……しかないものね」

 

これは、紅茶に酢を入れられたことが相当なトラウマになってるな。

絵面では地味だけど、キタキツネはかなり効果的な攻撃をしたようだ。

 

だったら、尚更別の飲み物を探さないとね。

今のままじゃ、イヅナはこの島で水しか飲めなくなってしまう。

 

「研究所って言うんだから、冷蔵庫でもないものかな……」

 

僕の探し物がゲームからジュースに移り変わろうとしたその時、襟を後ろから引っ張られた。

 

「……ノリアキ、ゲームが先」

「あはは……はーい」

 

自分で言い出しておいてアレだけど、ゲームが残っているとは思えないよ。

一体どこを探せば見つかるのやら……そんな気持ちでゲーム探しに取り掛かった僕は、キタキツネを見て驚愕した。

 

 

「……キタキツネ、何処を、探してるの?」

「こういう所に、レアアイテムがあるんだよ」

 

キタキツネはテーブルの足の裏から観葉植物の鉢の底、壁の継ぎ目までくまなく。文字通り()()()()()()探していた。

 

「……ゲーム探しも、ゲーム思考なんだね」

 

建物の細かな傷やヒビにまで目を付けるのを見ると、デバッガーかあるいは建築士ではないかと錯覚してしまいそうになる。

 

 

「全く、どうしてこんなものに夢中になれるのかな」

「イヅナもそう言わないであげて……そうだ、ジュースでも探してきたら?」

「……キタちゃんと二人きりにはさせない」

「あはは……そっか」

 

イヅナこそ、一体どうしてこんな人()にここまで夢中になってるんだろう?

……そんなことを思ってしまった。願わくば、聞かれていませんように。

 

 

それから早数十分、案の定と言ってしまってはキタキツネに悪いが、やはりゲームに関係する物は見つからなかった。

 

「……無かったね」

「おかしい、ノリアキ、嘘吐いたの?」

 

僕に詰め寄るむくれっ面のキタキツネ。

 

「嘘じゃないよ、もしかしたらあるかもな~……ってだけだし、ま、まだ一階は見てないよね!」

 

キタキツネがじと~っとした視線を向けてくる。

この様子じゃ、機嫌を直すのにかなり骨が折れそうだ。

 

「……一階、見に行こ」

 

それだけを言って、僕を階段の方向に強く引っ張り始めた。

 

「うわわ、せめて袖は引っ張らないで!」

 

普段とは比べ物にならないほどの力に抗えず、無様にも抵抗できないまま医務室まで連れていかれてしまった。

 

 

「一階にはいよいよ無いと思うけど……」

「どこにも無かったら、ノリアキは嘘つき」

「そ、そう……」

 

ただ機嫌を悪くしているだけかもしれないが、淡々と紡がれる言葉になんとなく背筋が寒くなった。

すると、キタキツネがこちらを向いて一言。

 

「嘘だったら、おしおきだよ……?」

「……アハハ、嘘じゃないからおしおきは無しだね」

 

いっそのこと、イヅナに頼んでセルリアンから偽造してもらうのも選択肢の一つか。

でも、”おしおき”とは一体どんなものなのか、少し気になる気持ちもある。

 

「医務室か……まあ、変わってないね」

 

手当て用の薬品棚も多分変わってないし、ベッドもシーツが綺麗に敷かれている。

一番可能性があるのは薬品棚だ、当然消毒液とか包帯とか、そういう目的の物しか置かれてないけどね。

 

「何かあるかもしれないし、いくつか持ち出したいけど……赤ボス?」

「少シナラ補充モデキルカラ、持ッテ行ッテ大丈夫ダヨ」

「良かった、何か入れ物といいけど……これにしよっか」

 

薬品棚の下の少し高い段に、黒い鞄があった。

ファスナーでしっかり閉じることができて、薬とかを持ち運ぶのに適している。

 

「消毒液と包帯、それと薬箱は……うん、色々入ってるね」

 

あまり多く入れて嵩張っても良くない、この辺りにしておこう。

 

「じゃ、こんなもん……か、な……?」

「……ゲーム探しはどうしたの?」

 

わ、忘れてた……さっきにも増してご立腹だ、このままでは間違いなく探索の終わりを待たぬまま”おしおき”に突入してしまう。

 

「手当ての道具を探してたんだ、もしキタキツネが怪我しちゃって、手当てできなかったら大変でしょ?」

「……ボクが怪我した時のためなの?」

「だって、キタキツネが痛がる姿なんて見たくないから」

「…………えへへ」

 

どうにか機嫌を直してもらえたみたい。その証拠に、キタキツネは横を向いて頬に手を当てているけど紅潮した頬が指の隙間からのぞいている。

 

「この部屋は探し終わった?」

「うん……あ、ノリアキ、それちょうだい」

「え……うわわっ!?」

 

後ろからキタキツネに飛び掛かられて、薬を入れた鞄をひったくられた。

 

「えへへ、”ボクのため”のお薬だから、ボクが持ってるよ」

「……ああ、まあ、そういうことなら」

 

 

医務室から出ると、そこにはコップ一杯のジュースを飲むイヅナの姿があった。

僕たちのところに来なかったのは、ここにしかないジュースの虜になっていたからみたいだ。

 

「イヅナ、そのジュースは?」

「ノリくん、それがひどいんだよ! あそこの冷蔵庫の中にあったんだけど、それが今まで隠されてたの!」

 

イヅナが指さす方向を見ると、見えにくい部屋の隅に確かに冷蔵庫があった。

しかし、そこは前に調べたときには確かに何もない場所だったはずだ。

 

「ボクガ説明スルヨ」

 

なぜだろうと首を傾げていると、またもや赤ボスが現れて教えてくれた。

 

なんでも、長い間研究所が休止状態で冷蔵庫が稼働していなかったため、中の飲料がダメになっていたらしい。その飲料の処分と冷蔵庫の整備のため、研究所の復活と共に一時的に持ち出していたようだ。

 

「まさか、この島でジュースが飲めるなんてね」

「原料ハ栽培シタ果物ナドヲ使用シテイルヨ」

 

「……なるほど」

「ノリアキ、感心してないで次に行こ?」

 

キタキツネはこういう飲み物にあまり興味を持っていないようだ。

 

「わかった、イヅナはどうする?」

「もう少しだけここにいるよ、今度はあれが飲みたいな~」

 

すっかりジュースに取り憑かれた化け狐のイヅナを置いて、医務室の隣にある比較的危ない薬が置いている部屋を探すことにした。

 

 

部屋に入ると、所狭しと並べられた棚に薬に息苦しくなる。

前に助手と調べたときには調べ切れなかったから、万に一つは見つかる可能性があるかもしれない。

 

「あまりに多いから、手分けしようか」

「そう……だね、そうする」

 

キタキツネが右の方に行ったので、僕は左の壁際から調べることにした。

 

「……まさか、こんな形でまた漁ることになるとはね」

 

気になったものは手に取って詳しく表示などを見てみる。

石灰水やヨウ素液など、特に何でもないものが多いが、時々塩酸らしき酸性の液体や非常に毒性の強い粉末も置かれていた。

 

……鍵もかけずに置いておくべき代物ではない。

 

「赤ボス、調べ終わったらこの棚か部屋に鍵を掛けたりできない?」

「ジャア、後デ研究所担当ノ”ラッキービースト”ニ要請シテオクネ」

 

これで、誰かが間違って持ち出したりすることは無くなる。

でも、もうちょっとだけ何があるか見てみようかな。

 

 

――沢山見ていった中で、研究員が作ったとみられる薬が一際目を引いた。

その薬は専用の棚にまとめて保管されており、一つ一つのラベルに効能と使い方が詳しく書いてある。

 

僕がその棚を調べ始めるころにはキタキツネも右側を調べ終わり、しょんぼりした表情で僕と一緒にその棚を探った。

 

「”けものプラズム活性化薬”に、”セルリアンによく効く液体”……水なの、これ?」

 

そしてこっちには”セルリアンの何かとどうにか反応する薬”がある。

ふざけているのか? いや、おそらく本気だっただろう。しかしこれの正確な効能を発見する前に、彼らはここから出ていくことを余儀なくされたんだ。

 

しかし、”セルリアンによく効く液体”はないんじゃないかな……?

 

もちろん、フレンズやセルリアンとは関係のない薬もある。

 

例えばここにある”液体眠り薬”がそれだ。

この薬は強い効果を持ち、ハンカチに染み込ませて吸わせるだけで数秒のうちに標的を眠らせることができる。

これが使用例に書いてある辺り、これを作った研究員はよほどの推理マニアに違いない。

 

「こんなの何に使うんだろうね……」

 

その瓶を持ち上げると、横にある白い粉末の瓶が目についた。

これも同じ研究員の作った物らしい。

その名も”安全な睡眠薬”……彼または彼女は不眠症だったのだろうか。

こちらも使用例が犯罪を匂わせる記述になっている。

本当に何に使うつもりだったんだ? と、そう思いながら薬を奥の方に仕舞った。

 

「ま、”セルリアンによく効く液体”よりかはマシかな」

「ええと……うわぁ!?」

 

キタキツネが薬の瓶を落としてしまった。

こぼれてはまずいと慌てて両手で受け止めたら、例の”水”だった。

 

「ご、ごめんなさい……」

「大丈夫、こぼれてないし、ただの水だよ」

 

”水”を元に戻すため受け止めた姿勢から立ち上がると、棚の様子に違和感を覚えた。

はっきりどこがとは言えないけど、何か変わっている気がする。

 

「ノリアキ、どうしたの?」

「いや、なんでも……って、なんで息切れしてるの?」

「お、落としちゃってびっくりして……」

「本当に大丈夫だから、落ち着いて」

 

キタキツネをなだめつつ、”水”を棚に戻し、棚の扉を閉めた。

 

 

 

「おかえりノリくん、キタちゃんとの探し物デートは楽しかった?」

 

ロビーに戻ると、藪から棒にそんなことを言われた。

考えるまでもなく不機嫌なんだろうけど、僕としては腑に落ちない。

 

「そんなこと言うくらいなら、イヅナも来ればよかったのに」

「な、ノリくんは分かってないよ! この飲み物を前にして、前にして……!」

 

苦しそうなイヅナ、珍しいジュースを飲むことと僕と一緒にいること、イヅナはその二つからジュースを飲む方を選んだ。

 

でも、今までのことから考えると迷わず僕の方に来るような気もする。

それとも、イヅナにとって飲み物というものが特別に大事なのかな、疑問の浮かんだ頭の中に、自分の声が聞こえてきた。

 

『一体どうしてこんな人()にここまで夢中になってるんだろう?』

 

「……っ!」

 

少し前に頭に浮かんだ考えだ。フラッシュバックし、再び脳裏にこびりついた。

イヅナはその時何も言わなかった。だけど、聞いていたんじゃないか?

それで、遠慮の気持ちが生まれて、結果として葛藤して……

 

――僕は、イヅナを傷つけたのか?

 

 

「あ、えっと、ノリくん、そんなに考え込まなくても……」

「別になんでもないよ……そうだ、そんなにジュースが気に入ったなら、頼んでロッジとかにも用意してもらおうよ、赤ボス、できる?」

「え……?」

 

「マカセテ」

 

……これでいい、はずだ。

 

「あ、もう探すところないね……どうする?」

「えと、ノリくん……?」

「ボクは楽しかったから、もういいや」

「よかった、じゃあ帰ろっか」

 

僕はひょんなことから始まったゲーム探しを終えて、研究所を後にした。

 

「ねぇ、ノリくん? ……急いでるの?」

「急いでないけど、そう見える?」

「なんだか、焦ってるみたいだよ……」

 

ポンポン、とイヅナの頭を軽くたたいた。

 

「気のせいだって、なんなら、今日はゆっくり帰る?」

「……ううん、早く帰りましょ?」

 

 

僕たちはまっすぐロッジに帰った。

その後のことは語るに足らないから、まあいつも通りと思って構わない。

 

……一つだけ気になったことがあるとするなら、キタキツネが薬鞄を異様なまでに大事に抱え、僕でさえ開けるのを許されなかったことくらいだ。

 

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