キツネとカミサマ   作:ろんめ

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7-92 作戦開始

  

「あ、師匠!」

「おはよう、キリンももう来てたんだね」

「当然です! ジャパリパークのためならこの名探偵、何処へでも駆け付けますよ!」

 

 ロッジにはオオカミにキリン、かばんちゃんにサーバルがいる。気合の籠っているキリンとは対照的にサーバルは眠そう。

 かばんちゃんは帽子を目深に被って何やら考え事をしている様子だ。

 

 声を掛けようかと思ったけど、その前にオオカミが話を切り出した。

 

「さて、黒いセルリアンが再び現れたというのは本当かい?」

「確かに、この目で見たんだ…映像越しにだけどね」

「私たちは山から見つけた、セルリアンは間違いなくいるよ」

 

 今になって思えば、火山から見えるってことは相当大きいんじゃないかな。

 下手をすれば、以前この島を襲ったセルリアンよりも。

 

「忘れられた頃に甦った黒いセルリアン…随分と奇妙だね」

「それなんだけど、アレが生まれた理由に心当たりがあるんだ」

「なに…それは一体?」

「ええと、博士たちが来てからでもいいかな」

 

 オオカミはきょとんとして不思議なものを見るような目を向けてきた。

 そして、声を上げて笑った。

 

「ハハハ、まさか私を焦らすとはね」

「え、いや、そういう訳じゃ…」

「気にしないでくれたまえ、多少待った方がその分期待も膨らむものだ」

 

 オオカミの微笑みがより一層僕にプレッシャーを掛ける。

 …あはは、勘弁してほしいな。

 

 

「…そうだ、博士が来るまで漫画でも読まないかな?」

「え…今?」

 

 そんな状況じゃないと思うけど、オオカミはお構いなしに漫画を押し付けてくる。

 

「ほらほら、読んで!」

「あー、じゃあ」

 

 渋々表紙をめくり、目次を見る。

 それによると、この漫画には全部で13のお話が載っているらしい。

 道理で分厚いと思ったら、気合の入った一冊のようだ。

 

「それで、感想は?」

「まだ目次だよ…?」

「そ、そうか、すまない…」

 

 しゅんとするオオカミを横目に、漫画のページをめくっていく。

 

「これってやっぱり…」

 

 物語の筋書きの端々に、何処かで聞いたような、もっと言えば自分が体験したような展開がちりばめられている。

 中には、普通なら知りようのない出来事――眠り薬の下りとか――までも。

 

 それでもこういった要素はあくまでアクセントで、本筋自体はしっかりしているから文句のつけようがない。

 

「すごいよオオカミさん…面白い」

 

「フフ、そうだろう! こんな近くに最高のモデルたちがいるんだ、私の想像力も膨らんで留まることを知らないよ」

「あ、あはは…それは、良かった…」

 

 それと余談だけど、さっき話に挙げた眠り薬はヒロインらしき女の子が頻繁に使っていた。僅か13話の中で。

 

 …大丈夫かな、この物語。

 

『…一度誰がモデルか考えてみろ』

『あー、うん、そうだね…』

 

 それでもきっと、上手くまとまってしまうのだろう。

 僕たちの関係も、一度()()()()()()に監修を頼みたいものだ。

 

 

 

「コカムイ! …ああ、もう話は聞きましたか?」

 

 乱暴に扉が開けられ、博士と助手がハンターのみんなを引き連れて現れた。

 

「これで、揃いましたね…」

 

 かばんちゃんの呟きに、場の空気が引き締まった。

 ようやく、討伐隊の出番が来たことを実感したような気がする。

 

「まずは状況を整理しましょう」

「研究所近くの森に、黒いセルリアンが現れた…ですよね」 

 

「ああ、私もここに来る前、遠目にだが見てきた。間違いなくあの時のセルリアンと同じ形だ」

「でも、どうしてまた出てきたの? ちゃんと船と一緒に沈めたはずだよね…?」

 

 時間も経って、サーバルの目も覚めたみたいだ。

 

「それについては、コカムイ君が説明してくれるよ」

「そうなんですか、師匠!?」

 

 目を輝かせるキリン、袖を引っ張るキタキツネ…小さく舌打ちをするイヅナ。

 オオカミも地味に期待するような視線を向けてくる。…もしかして、この状況を面白がってるのかな。

 

「コカムイ、分かっているなら話すのです」

「あ、そうだね…博士はサンドスターを保存してた場所を覚えてる?」

「…確か、寒いところでしたね」

 

「そこがセルリアンに襲われたみたいなんだ、そのせいでサンドスターが漏れ出して、巨大なセルリアンになったんだと思う」

 

 博士と助手は顔を見合わせる。

 

「確かにあの量なら巨大化しても不思議ではありませんね、博士」

「なら、今のままではさらに厄介なことになるのでは?」

「あ…!」

 

 

「もしそうだとしたら、一刻の猶予も残されてないかもしれませんね」

 

 長らく沈黙を続けたかばんちゃんが、口を開いた。

 博士は待っていたと言わんばかりに質問をぶつける。

 

「かばん、何か考えはありませんか?」

「…博士、今の時間は?」

「時間? …太陽を見る限り、お昼前なのです」

 

 唐突な質問に戸惑いつつも、聞かれた通りに博士は答える。

 

「研究所…港は遠いから…もう大きな船もないし…」

「か、かばん?」

 

()と同じ方法は厳しいと思います、だから選択肢は……別の方法で海に沈めるか、セルリアンを倒すかの2つです」

 

 

 今はお昼前、前と同じ方法を使うなら夜まで待たないといけない。

 日没までの時間が長いと海から離れられたり被害が出たりする可能性が高くなる。

 今の時間を聞いたのはそれを確認するためだろう。

 

 そして前は最終的に船の明かりでおびき寄せ、ボスごと海に沈めた。

 勿論船も道連れだから、もうその方法を行うだけの準備が足りない。

 

 だから。

 

「根本的に違う方法が、必要なんだ…」

 

「…倒したりはできないの?」

「アレの大きさは前以上だ…まともにやれば、勝ち目はない」

 

「しかも、もっと大きくなるかもしれないんですよね…いくらハンターの私たちでも、そうなると…」

 

 そう、普通は倒せない。

 もし倒せたとしても、どれほどの傷を負うことになるか分からない。

 

 海に落として殺せる相手なら、そうする。

 相手の土俵に乗る必要は微塵もないのだから。

 

『神依君は、何かある?』

『いんや、何も。…悪いな、力になれなくて』

『…そっか』

 

「ハンターから見て、足止めはどれほど可能ですか?」

「少しでも持つかどうか…すごくキツいオーダーです…」

 

「かばんちゃん、大丈夫なの…?」

「安心してサーバルちゃん、きっとどうにかなるから」

「うん…だよね!」

 

 

 ただ事ではない問題だ、力を合わせて解決策を捻りだそう。

 

「キリン」

「はい、師匠!」

 

「どうして、セルリアンを海に落とせないと思う?」

「…コカムイ、何を言い出すのです?」

 

「なんで海に落とす方法が使えないか…それが分かれば、アイツを海に落とすために必要なことが分かると思うんだ」

 

「分かりました師匠…このキリン、頑張ります!」

 

 キリンは腕を組み、椅子に座って目を閉じた。

 なぜかその場の全員が息を呑み、キリンの言葉を待ち始める。

 

『ノリくん、大丈夫なの?』

『このままじゃ大丈夫じゃない、だから、頑張ろう?』

『…そうだね!』

 

 

「…わかりました」

「キリン…!」

 

 しばらくの時間を費やし生まれた答えに、全員が期待する。

 

「ずばりそれは、セルリアンが海に近づこうとしないからです!」 

 

「……」

「……」

 

 博士と助手は、顔を見合わせた。

 

 

 

「っ、それです!」

 

 その時、かばんちゃんがひと際大きな声を出した。

 

「セルリアンは海を嫌うから落とせない…なら、海岸ギリギリまでおびき寄せてから、無理やりにでも落としてしまえばいいんです」

 

「そうは言っても、セルリアンだって抵抗するのですよ?」

「…だから、『船』を使います」

「知っての通り船はもう…!」

「あ、そうか!」

 

 合点がいった。

 この方法なら、セルリアンを海に落とせる。

 

「はい、コカムイさんが乗ってきたボートを使います」

「あ、あんなに小さいのをですか?」

 

 キンシコウが驚く。実物を間近で見ているからこそ、この反応が出てくるんだろう。

 

「問題ないよ…イヅナ、妖術は使える?」

「任せて、ノリくんのためなら何でもするよ!」

「それは嬉しい限りだけど……ん?」

 

 後ろから控えめに引っ張られた。キタキツネだ。

 そのまま耳元で囁かれる。

 

「ボクも、その、ノリアキのためなら…」

「…ありがとう、キタキツネ」

 

 頭を撫でると、キタキツネは僕の手を捕まえてはにかんだ。

 いや、”にへらと笑った”と言うべき表情だった。

 

 最近は()()()鳴りを潜めているように見えるけど、キタキツネもキリンに敵対的な視線を向けている。

 感情を派手に出さないのが長所とも言えるが、キリンの身を案じればいつ爆発するか分からないのは恐ろしい。

 

 とはいえそれも、僕に扱えない問題ではないだろう。

 

 

「…おほん、我々は話について行けていないのですが」

「あはは、ごめん…じゃあ、改めて作戦を言うね。かばんちゃんから言う?」

 

「いえ、コカムイさんにお願いします。ボクでは()()()()まで賄えませんから」

「分かった…それじゃあ、よく聞いてね」

 

 黒いセルリアンを再び海に葬り去る作戦。

 その一から十までを、場の全員に語って聞かせた。

 

 

 

「…理に適っていると言えるでしょう。()()()()()

「ああ、本当に可能なのか?」

 

「確かに難しいけど、他に方法が無いんだ。…どうしても、最終的に()で押し切る必要がある」

 

「…他に、方法はないのでしょうか」

 

「多分、もっと良いやり方はいくらでもあると思う…だけど、それには前もっての準備が必要になるんじゃないかな」

 

 元々討伐隊は、海のセルリアンを主な仮想敵として結成されたもの。

 勿論、陸上のセルリアンと戦うこともできるが、この規模のセルリアンは様々な意味で想定外だ。

 

 たとえ急ごしらえの穴だらけな戦術でも、最も可能性の高い戦術ならば使う他ない。

 

 

 そして時間もない、僕達は作戦の最終確認を始めた。

 

「さっき言ったように、僕とイヅナがボートに乗り込むよ」

「我々は、セルリアンを誘導すればいいのでしたよね」

 

「…師匠、やっぱり私も乗せてください!」

 

 …予想外の提案だ。

 どうしようか悩む間もなく、イヅナがキリンに文句をつけた。

 

「キリンちゃんは誘導にあたるんでしょ?」

「でも、力仕事なら私がいた方がいいはずです…必ず役に立って見せますから!」

 

「…分かったよ」

「の、ノリくん?」

 

「大丈夫、やっぱり僕たちの仕事にも人手が必要だ。博士もそれでいい?」

「ええ、構いません」

 

 …と、多少の変化はあったものの作戦開始に向かって滑らかに話は進んでいく。

 

 

「では急ごう、早い方がいいのだろう?」

「うん、よろしく」

 

 セルリアンハンターの3人、博士と助手、かばんちゃんにサーバル、そしてオオカミ。

 合わせて8人が黒いセルリアンを誘導する役目を持ってロッジを出発した。

 

 …しかしここに、役目を負わないフレンズが1人。

 

「ノリアキ、ボクは何すればいいの?」

「キタキツネは、ここで待ってて」

 

 正直に言って危険だ。

 キタキツネは討伐隊の中でも後方支援の役だし、戦いもさほど得意じゃない。

 …あと個人的に、戦いの場に連れて行きたくない。

 

「でも、ボクだってノリアキのために…!」

「うん…だから、赤ボスをお願い」

「…赤ボスを?」

 

 キタキツネの腕に、赤ボスを預ける。

 

「戦いが終わるまで、赤ボスと…あとアリツさんと、一緒にロッジで待ってて欲しいんだ。お願いして、いい?」

 

 声はなく、彼女はコクリと頷いた。

 

「よかった、僕の大切な友達だから…よろしくね」

「…うん!」

 

 

 

 そして、僕達3人も港の海に浮かべたボートへ乗り込む。

 

「…いよいよ、始まるんですね」

「倒せる…よね?」

「できるよ、必ず」

 

 船のエンジンをかけ、その振動に耳を傾ける。

 

 アクセルを踏んで、このボートを脅威であふれた海に送り出そう。

 

「さあ…出航だ」

 

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