要所要所で私の「こうだったらいいのにな」が炸裂します。
玄関のチャイムが鳴った。
階下で母親が応対する声が聞こえる。やがてドアが閉まる音がして、廊下に二人分の足音が響いた。
そのまま居間で談笑しはじめたあたり、相手はグリーンの母親だろうか。別段珍しいことではない。物心ついた時から隣の家のグリーンとは一緒に遊んでいたし、母親同士でも親交はあった。
ベッドから体を起こし、ファミコンの電源をつけようとして、ふと外出しようと思い立った。グリーンの母親はしばらく帰らないだろうし、このまま家にいたら、また母親にグリーンと比べられて小言を言われるかも知れない。せっかくの晴れの日に、それはあんまりだ。
外へ行こう。リ○クの冒険はまた今度だ。
小さい頃からずっと、グリーンは俺より優秀だった。記憶力、行動力、判断力。知識でも、身体能力でも、未だにあいつに勝てる気はしない。少し自信過剰ぎみで短気なところはあるが、生まれ持ったさまざまな才能を考えればむしろ当然と言えるだろう。
忍び足で階段を降りる。
聞こえてきた会話によれば、グリーンは近々、近所のポケモン研究所の手伝いのために全国を回る旅に出るらしい。凄い奴だ。
俺はどうしたものか、と自問して、何も考えていなかったことを思い出す。フレンドリィショップでバイトでもするかな……。
自分の家なのに妙に肩身の狭い思いをしながら居間を通り過ぎる。ありがたくないことに、グリーンの母親に声をかけられた。
「あ、こんにちはレッド君。どこか行くの?」
「こんちは。ちょっと1番道路まで行こうかと」
あんたがいると家に居づらいからちょっと出てきます、とはとても言えない。
小さい頃はそんなこと考えもしなかったなあ……。
「レッド、あんたポケモン持ってないんだから、草むらなんかに入っちゃダメよ。グリーン君ならともかくだけど。あ、そうそう、グリーン君、オーキド博士の手伝いで……」
母親を適当にあしらい、家を出る。
快晴の空だが、妙に陰って見えたのは、たぶん気のせいだろう。
〜〜〜〜〜〜〜〜
マサラタウン周辺のポケモンは比較的おとなしい。とはいえテリトリーに侵入しようものならそれ相応の反撃をうけることだろう。
野生のポケモンは、基本的には自分より弱い生物である人間に、致命的な被害を与えることはない。とはいえ種類によっては自衛のために物凄い悪臭を放つ液体を吹きかけてきたり、吸い込むと昏倒するような粉末を撒くようなものもいるようで、万が一の事も考慮したうえで大人は「草むらに入っちゃいけないよ」と子供に注意をする。
ちなみに俺はその言いつけを守っている子供を見たことがない。
子供は好奇心の塊だ。親の目を盗んで野生のポケモンを見に草むらに突っ込むようなことは、マサラの子供なら誰でも一度はやるものだ。俺だってポッポに砂をかけられたり、コラッタに追いかけ回されたりしてほうほうの体で逃げ帰った経験がある。どちらもグリーンが面白がって近づき過ぎたのが原因だった。あの野郎。
さすがに今はコラッタと鬼ごっこをする気分ではない。
「川でも眺めにいくか……」
なんとなく、そのまま南に歩き出した。
時刻は午後1時。太陽が眩しい。
途中でオーキド研究所を通り過ぎる。覗くともなく中を見ると、オーキド博士が誰かと話しているのが見えた。
メガネをかけた、穏やかな顔つきの男性だ。白衣を着ているあたり、研究員の一人だろうか。
二人は年の差を気にする様子もなく、熱く語り合っている。
ずっと見ていると、近くを通った別の研究員に不審そうな顔をされたので急いで顔を背け、早足で川へ向かった。
〜〜〜〜〜〜〜〜
川。正確には21番水道。
ドラゴンポケモンがいるとかいないとか、そんな噂を小さい頃に聞いて、ワクワクしたのを思い出す。
今にして思えばあれはギャラドスか何かの事だったのだろう。コイキングがたくさんいるのは確かだが、こんな小さな町でギャラドスなんかが出ようものなら大惨事は免れない。
きっと知識をつけた子供がガセネタをバラまいたに違いない。
そういやグリーンはそれを聞いてすぐに川に飛び込もうとしてたっけ……。
とりとめもない思考はどんどん過去へ向かう。午後のそよ風がそれを助長する。ああ、いい天気だ。
そのまま川岸に腰掛け、ぼーっと遠くの水面を眺めていると、何か違和感があることに気がついた。
……なんか、浮いてる。
最初は岩か何かかと思っていたが、明らかに違う。水の動きに合わせて揺れている。
どんぶらこ、どんぶらこ。
岩(だと思っていたもの)はどんどんこちらに近づいてくる。
おばあさんが見つけた巨大なモモンの実から生まれたカモネギが、やがて遠くの地方の2匹のポケモンを倒しに行く昔話があったような。
やがてそれは岸に当たって止まった。
「よいしょっ、と」
抱えて引き上げると、結構重い。白くツルツルした表面に、うっすら斑点が浮かんでいる。楕円形を球にしたような、この物体は。
「タマゴ……?」
もしくは顔のないタマタマだろうか。
どこから流れてきたかは知らないが、割と丈夫なものに違いない。
何の気なしに拾ってしまったが、どうしたものか。
もう一度放流するか持って帰るか悩んでいると、さっきまで暑いくらいだった陽射しが無くなっていることに気づく。
ていうか曇ってる。遠くで雷も鳴ってる。あっ、雨落ちてきた。
とりあえず研究所まで走ろう。雨宿りぐらいなら許してもらえるはずだ。
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そんなに距離はないのですぐにたどり着いた。
軒下でしゃがみこみ、さっきのタマゴを下ろす。
それにしても絶妙に重い。雨で滑るのもあって不安定だ。
立ち上がって、タマゴを抱え上げようとすると、研究所から誰かが出てきた。オーキド博士だった。
「おや、レッド。どうしたんじゃ」
「見ての通り、雨宿りです」
「そんな所では風邪を引くわい。中に入りなさい」
「じゃ、お言葉に甘えて……。これも一緒でいいですかね」
「ほう、ずいぶん大きいな。構わんぞ、すみの方に置いておけ」
別に俺のものと決まったわけではないのだから、外に置いておいても構わないようなものだが、なんとなく雨の中に置いておくのはしのびないような気がしたのだ。
許可は得たのでそのまま研究所に入る。
この辺にでも置いておけ、と言われた場所にタマゴを置く。
と、ピシッと、何かが割れるような鋭い音がした。
見ればタマゴにヒビが入っている。置き方がまずかっただろうか。
タマゴのヒビはどんどん広がっていく。やがて殻の破片がひとつ、またひとつと剥がれ、中から出てきたのは。
「……ポケモン?」
丸っこいボディに、丸い頭。鼻はやや尖っていて、目は閉じているように見える。糸目というやつだろうか。頭から背中にかけて、青みがかった毛が生えている。腹側はクリーム色だ。
そいつはしばらくキョロキョロとあたりを見回していたが、やがてこちらに向き直った。
……なんだろう、なんというか、ロックオンされた感じが。
見つめあったのは数秒。
俺が足を少し引いた瞬間、そいつの背中が燃え上がった。
なんとか完結させたいと思っております。
システム面はFRLGに準拠していく予定です。