ブレイククローはカッコイイ技ではありますが、ザングースの影がチラチラするのはカントー的に違うな、と思いこれも没。
どちらかと言えば特殊で押していくポケモンなので、別に良いのかも知れませんが……。
ヒノアラシに生まれつきチート能力方面の設定は無理そうです。
寒かった。
独りだった。
それが、すべてだった。そのはずだった。
* * *
人工の光。
インクとコーヒーの匂い。
電気の動く気配が充満している。
そして沢山の人がいる。
目の前にも。
ーー考える前に、体が動いていた。
♦︎ ♦︎ ♦︎
「うわあっ⁉︎」
何の前触れもなく、目の前でいきなり火が吹き出すのを見れば、誰だって同じ反応をするだろう。
近くにいた研究員の何人かがこっちを見て驚いている。
オーキド博士も振り返る。
「あまり騒ぐなよレッド……ん?なんじゃ、そのポケモンは」
俺に聞かないで下さい。
目の前で縮こまってぷるぷると震えているポケモンと博士とを交互に見ていると、奥の方からさっきオーキド博士と話していた研究員らしき人がひょっこりと現れた。
「……ヒノアラシ?ヒノアラシじゃないか!ジョウト以外で見るのは初めてだよ!」
「おお、ウツギ博士。そういえばジョウトに研究所を構えているんじゃったな」
この人、博士だったのか。てっきりオーキド博士の助手かと……。
〜〜〜〜〜〜〜〜
「……つまり、レッド君が拾ったタマゴから、そのヒノアラシが生まれたと」
「そういうことになりますね」
これまでの経緯を説明し終わると、ウツギ博士は「うーん」と考え込む態勢に入った。
俺としてはこのポケモンの名前が分かっただけでもじゅうぶんなのだが、博士二人はそういうわけにはいかないらしく、ああでもない、こうでもない、と話し込んでいる。俺は完全に蚊帳の外だ。別に混ざりたいとも思わないので構わないが。
ヒノアラシは俺の横に若干の距離を保って座り込んでいる。
今のところ火を噴く気配はないが、さっきからずっとぷるぷる震えている。怯えているのだろうか。
ちょっと触ってはみたいが、また火を噴かれても困る。
どうしたものか。
「……」
すすっ、と距離を詰める。
「……!」
ヒノアラシが、物凄い反応速度で同じだけ距離を空ける。
懲りずにまた少し距離を詰める。
「……!!」
縮めた距離が同じだけ開く。
もう一度距離を詰める……
〜〜〜〜〜〜〜〜
諦めよう。
「近づく→逃げられる」を何セットか繰り返して結論した。
完全に怖がられている。どうしようもないな。
考えようによっては俺はヒノアラシの命の恩人なのだし、もう少し懐いてくれたって良さそうなものだが……まあ、それどころじゃないか。
ポケモンの生態に明るいわけではないが、それでも火を噴くポケモンのタマゴが川を漂っているのは異常なことだと思う。それなりに大変な事があったのだろう。
ふれあい(未遂)を諦め、近くのテーブルの上の、来客用に置いてあるドライフルーツ(オレン)をつまむ。何度食べても不思議な、少しクセになる味だ。やめられない、とまらない。
無言でひょいひょいと口にオレンを運んでいると、真横から、じーっと見つめる気配。
ヒノアラシが、ほとんどにらみつけんばかりの勢いでこちらを見ている。心なしか興奮しているような。体の震えも止まっている。代わりにもぞもぞ、もじもじと動いているが。
「……食べる?」
「……!!!」
フルーツを渡そうとすると、壁まで猛ダッシュで逃げられた。
相変わらずこっちを見ているあたり、食べたいに違いないとは思うが……。
このまま目の前で食べ続けるのも酷だ。
なにより空腹はときに血みどろの争いを引き起こす。後顧の憂いはない方が良い。
オレンをいくつか、俺とヒノアラシのちょうど中間の位置に置く。
食べたければ取りに来るだろう。
俺がもといた位置に戻ると、壁際で縮こまっていたヒノアラシは徐々にフルーツの方へにじり寄りはじめた。
オレンを齧りつつ、目の端でヒノアラシの様子を見る。あと五歩、四歩、三歩……。
「じいさーーーん!いるかーーーッ⁉︎」
ほとんどヒノアラシの目と鼻の先にオレンが迫ったその刹那、研究所の戸を破らんばかりの勢いでグリーンが現れた。
ほとんどの研究員が振り返った。
ヒノアラシは驚いて固まっている。
「お、レッドじゃねーか!横のはお前のポケモンか?」
目ざとくヒノアラシを見つけ、大股で歩いて来る。
ヒノアラシはもはや震えてすらいない。あれだけ食べたそうにしていたオレンを前に、微動だにせず丸まっている。
「へーえ、見たことないポケモンだな。レッドが捕まえた……わけないか。またじいさんが連れてきたのか?」
なかなか言ってくれる。
グリーンは歩調を緩めずヒノアラシに近づき、触ろうとしている。
……触ろうとしている?
「あっ……グリーンッ!!」
ヒノアラシの背から火炎が噴き出した。
〜〜〜〜〜〜〜〜
オーキド博士に説教をくらっているグリーンはさておいて、俺はウツギ博士の話を聞いていた。
「ヒノアラシは今のところ、カントーでは生息が確認されていないポケモンなんだ。それだけでも妙なことだけど、さらにこのヒノアラシはタマゴから生まれたときてる。ポケモンがタマゴで増えるというのは聞いた事がないけど、目の前の事実を否定する訳にはいかないからね。これは重大な発見かもしれないな」
「はあ、そうですか……」
当のヒノアラシはオレンを齧りながら、相も変わらず絶妙な距離を保って俺の横にいる。さっきの放火が少しはストレス発散になったのか、震えたり、固まったりしている様子はない。
「僕はジョウトに戻ってサンプルを集めることにするよ。このヒノアラシだけではデータとしては不十分だからね」
「なるほど……ってことは、こいつは連れて帰るんですか」
「そうだねえ……それが出来ればいいんだけど」
そう言ってウツギ博士はヒノアラシを見やった。
ヒノアラシは一心不乱にオレンを齧り続けている。
ウツギ博士はしばらくヒノアラシを見つめていたが、おもむろに俺とヒノアラシが保っている間隔と同じだけの距離に接近した。
するとヒノアラシは今まで食べていたオレンを取り落とし、ウツギ博士を警戒するように背中を丸めた。体毛が逆立っている。あと少しでまた火を噴きそうな様子だ。
「……この様子じゃあ連れて帰るのは難しいだろうね。君の事は多少受け入れてるみたいだし、どうだい、世話をしてみるのは」
「俺にだって全然慣れてくれてないと思うんですが……」
「あそこまで臆病なヒノアラシが、君の置いたオレンを食べているんだ。それに何より、君は無理矢理に触ろうとはしなかっただろ?さっきの攻防、なかなか面白かったよ」
見られていたのか……。
ウツギ博士が離れると、ヒノアラシはオレンを齧る作業に戻った。どうやら最後の一個らしい。
それも食べ終えると、ヒノアラシはこちらを向いた。
ふんふんと鼻を鳴らしている。
もっとないのか、と言わんばかりだ。
試しに一個取って渡してみる。また逃げられることも覚悟していたが、予想に反してヒノアラシはこちらに近づき、前足でオレンを受け取ってそのまま齧りだした。
「……ほらね?」
満面の笑みでそう言われては、返す言葉もない。
わかりました引き取ります、と返事をすると、ウツギ博士は白衣のポケットから赤と白にカラーリングされたボールを手渡してきた。
「これは……モンスターボールですか」
「その通り。君のポケモンになる訳だし、一応これに入れておく方が安全だろうからね」
俺もついにモンスターボールからポケモンを出せるのか……。
なんというか、感慨深い。
「行けっ!」という掛け声とともにボールを投げてポケモンを繰り出すトレーナーに、誰でも一度は憧れるものだ。
しかしボールを近づけると、ヒノアラシはまた毛を逆立てた。
「……仕方ない。慣れてきたらボールに入れるといいよ。それまではあまり目を離さないようにね」
「何が燃えるかわかったもんじゃありませんしね」
ボールをポケットにしまっていると、オーキド博士がこっちに歩いてきた。後ろにげっそりしたグリーンもいる。ありゃ相当絞られたな。
ウツギ博士はオーキド博士に二言三言挨拶をすると、すぐさま研究所から飛び出していった。
〜〜〜〜〜〜〜〜
「なるほど、ヒノアラシはレッドが引き取ることになったのじゃな」
「まあ、成り行きで」
「手をかければそれだけポケモンはそれに応えてくれるもんじゃ。今は焦らずに距離を縮めることを考えなさい」
「……そうっすね」
最初に比べればだいぶ慣れた方ではないだろうか。
食べ物で釣っただけのような気もするが。
すると今まで黙っていたグリーンが口を開いた。
その左手にはモンスターボール。
「なあ、せっかくポケモン手に入れたんだ。
……ちょっとオレの相手してみろ!!」
時代としてはポケモンピカチュウ赤青緑を想定しております。
FRLGでも殿堂入りするまでポケモンのタマゴを発見することは出来ず、育てやにも1匹しか預けることは出来ないので矛盾はない……はずです。
主人公の名前は一応レッドにしていますが、名前と外見は同じでも性格とか中身が割と違うのでオリ主とさせていただきます。