オーキドの ばくれつパンチ!
急所に 当たった!
グリーンは 床に へたり込んだ!
♦︎ ♦︎ ♦︎
「っでぇ……何すんだじいさん⁉︎」
「バカモン!生まれたばかりの相手と戦う奴があるか!」
ありのまま今起こったことを話そう。
背後にはオーキド博士。振り抜いた右手はピタリと静止している。踏み込んだ左足が若干床にめり込んでいるのは、目の錯覚であって欲しい。
空手王だとか暴走族だとか、そんなチャチなものよりももっと恐ろしいものの片鱗を目の当たりにした気分だ。
ここはグリーンの耐久力を誉めるべきだろうか。
「それに、ヒノアラシはまだレッドのポケモンではないんじゃ。ポケモンを持っていない相手に勝負をしかけるのはおかしな話じゃろ?」
モンスターボールに入ったポケモンはトレーナーの手持ちのポケモンとして扱い、そうでないものは野生のポケモンとして扱うのが常識だ。
普段は外に出て人と共に暮らしているポケモンにも、基本的には自身が入るモンスターボールが存在する。
俺が引き受けることになったとはいえ、モンスターボールに入っていない以上、厳密にはヒノアラシはまだ「俺のポケモン」ではない。
つまり。
「なるほどなぁ……それなら俺がゲットしても問題ないんだろ?
遠慮して損したぜ!行け、イーブイッ!」
普通にゲットすることができる。
ちらりとヒノアラシの様子を見ると……おお。臨戦態勢だ。
背中で火の粉が舞っている。
オーキド博士はさっきの反動で動けない。無理し過ぎだ。
かくして、研究所の中で、ヒノアラシにとって生まれて初めてのポケモンバトルが始まってしまった。
〜〜〜〜〜〜〜〜
目の前ではイーブイとヒノアラシの攻防が続いている。
体当たりをかわし続けるヒノアラシだが、反撃のタイミングを見いだせていない。徐々に壁際に後退している。
やがてヒノアラシは部屋の隅に追いやられた。
「よし、いいぞイーブイ!そのまま"たいあたり"!」
「ヴィィィッッッ!!!」
目を不自然にギラつかせたイーブイがヒノアラシに襲いかかる。
無理やり人間の言葉を当てはめるなら「ヒャッハー!!」といったところか。
戦闘になると性格が変わるタイプらしい。
あわや絶体絶命と思われたそのとき。
ヒノアラシが初めてイーブイを真っ直ぐに見据えた。
その目に燃えるのは戦意。自らにとっての敵を排除せんとする意志。
イーブイが一瞬怯んだ隙を見逃さず、ヒノアラシが体当たりを敢行した。直撃だ。不意を突かれたイーブイへのダメージは小さくないようで、攻撃の手を止めて後退し、様子を伺っている。
「くそっ……ちょっと優しくしたら調子に乗りやがって!
イーブイ、もう手加減はいらねー!倒すつもりで行ってこい!!」
「ジュルリ……カハァ……ケヘヘ……ヒィーァアーッッ!!」
グリーンが短気を爆発させ、イーブイがそれに応える。
というかイーブイ、お前……イメージ、台無しだよ。
なんかもうキマッている顔をしている。何がとは言わないが。
とはいえ、今までは本当に手加減していたのだろう。ここにきてイーブイの攻撃の精度は、さっきまでに比べて明らかに上がっている。
ヒノアラシも必死に反撃してはいるが、いかんせんタイミングが悪い。攻撃のことごとくを読まれ、かわされ、やがて……。
「そこだッ!!」
「……!?」
イーブイ渾身の体当たりがヒノアラシを捉えた。当たりどころはあまり良くないように見える。立ち上がって応戦してこそいるものの、動きのキレが落ちている。
俺がヒノアラシのトレーナーなら、ヒノアラシに指示を出して戦わせることも出来ただろう。
だが今の俺は違う。グリーンがヒノアラシをゲットすることに思うところがない訳ではないが、それを止める権利は持っていない。
譲ってくれ、と言っても譲ってもらえるとは思えない。
俺がグリーンと勝負して手に入れようにも、勝てる見込みは無いに等しい。
足は動かない。手も届かない。
何もできない。何もしてやれない。
「良いのか、レッド」
「博士……」
諦めに近い気持ちで立ち尽くす俺に、反動から回復した博士が声をかけた。
「後悔は先に立たんものじゃ。いつか、今日動かなかったことを後悔する日が来るかもしれん」
それに、と一旦言葉を切った博士は、タマゴの残骸に目をやると、再び口を開いた。
「今のヒノアラシが一番心を許しておるのは、レッド、おそらくお前じゃ。普通、野生のポケモンは
「運命って……」
「言葉通りの意味じゃよ。ここでヒノアラシを捕まえるということは、ヒノアラシの幸せと、その将来に対する責任を背負うということじゃ。全てのポケモントレーナーにはその責任がある」
痛めたらしい右肩をさすりながら、オーキド博士は語り続ける。
「グリーンが悪いトレーナーになるとは思わん。短気じゃが、才能はある。だが、トレーナーに才能があるということと、ポケモンが
どうせならポケモンの意志を尊重してやりたいと思うんじゃよ、と言い置いたオーキド博士は、どっかりと椅子に座りこむと、思い出したようにまた言葉を続けた。
「ポケモンはある程度弱ると体を小さくする性質がある。普段はモンスターボールを嫌がるポケモンでも、弱りきったところにボールをぶつけられればそれほど抵抗はできんじゃろうな」
それを最後に博士は言葉を切った。
見れば、イーブイの猛攻はさらにヒートアップしている。ヒノアラシはもう気絶寸前といった感じだ。
グリーンも熱くなっているのか、ゲットすることを忘れているようだ。俺のことも視界に入っていない。
「これなら……」
一歩、二歩。気配を殺してグリーンの背後に忍び寄る。
ふと、ヒノアラシと目が合った。ような気がした。
心の中で一言謝る。すまん。
そして……。
〜〜〜〜〜〜〜〜
「あーッ!ずりい!やりやがったなレッド!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐグリーンの声も今は心地よい。
手の中のモンスターボールを見ながら俺はほくそ笑んだ。
俺がしたことはたったひとつ。
ウツギ博士にもらったモンスターボールを、弱ったヒノアラシに向かって投げただけだ。
グリーンのイーブイが与えたダメージが蓄積したところで、俺がほとんど横取りに近い形でボールをぶつけた訳だ。グリーンが文句を言うのも当然である。
俺にこんな行動力があったことに、何より俺自身驚いている。
独占欲とは少し違うと思う。
ヒノアラシを育ててみたい、その将来を見たいと思ったから、というのが本当のところだ。
ヒノアラシの意志は無視する形になったかも知れないが、今は二人の博士の言葉を信じるしかない。
ともかくこれで晴れてヒノアラシのトレーナーだ。
(しかし、あれだけ嫌がっていたモンスターボールから出てくる気配すらないとは。相当やられたな、こりゃ……)
今しがたヒノアラシが収まったモンスターボールは微動だにしない。
あとでキズ薬か何かを使う必要があるだろう。
「さて、レッド。ちょっと良いかな」
やっと立てるようになったオーキド博士が、俺に手招きをしている。
「何です?」
「今のバトルを見ていて分かったじゃろう。ヒノアラシにはバトルの経験というものが足りておらん。そこでじゃ、ワシのお使いも兼ねて、トキワシティまで行ってはくれんか?道中のポケモンと戦えばヒノアラシにとっても良い経験になるじゃろう」
「そりゃ構いませんが。トキワで何をすれば良いんです?」
「なに、頼んでおったものがフレンドリィショップに届いたと連絡があってな。ワシの名前を出して受け取ってきてほしいんじゃ」
なるほど。
わかりました、と返事をして、一度家に帰ることにした。
まずは
「にらみつける」と防御が下がる原理がいまいちわかりませんでしたので、ちょっとビクっとさせた隙に攻撃を当てる感じなのかなという解釈のもと、進めさせていただきました。
次回こそは旅に出られるよう、頑張ります。