肉を胃に詰め込んだ。
だいたい活動の時間が来て、人もまばらな時間帯だ──人気は少ない。少なくとも、忙しい人間は今の自分のようにのんびりはしていない。仕事だからだ。仕事に出かけているからだ──今ここに残っているのは、鋭気を養っているものたちか、既に仕事を終え束の間の休憩に浸っている者か、あるいは自分のような人間くらいだ。
食事の味を軽く堪能して、置かれていた水を飲み干す──いくら食べても自分は足りないくらいだ。体を構成する物質が狂っているのではないか、と、そんなふうに思ったりする。
「どうするかね……」
そう呟いてみた。自分がどうすればいいかなんて、自分じゃ全然わからない。そうしてずっと机に座ったままだ。それでも店員が何も言わないのは、自分に期待を寄せているからだろう。
史上最速に近いほどの速度でハンターランクを上げた男。そんな称号がある俺が、しばらくの休業を得るのは当然だと思っているのだろうか。
「わっかんねぇなあ……」
「──よ、ハグモ。お前もそろそろ狩りに出たらどうだ?」
自分の名前が呼ばれたほうへと顔を向けると、そこには教習所を同時期に卒業した仲間がいる。コミュニケーションをとるために席を勧めると、そいつはどっかりとこちらの正面の椅子に座った。
「大丈夫か? お前。最近狩り出てないだろ。体鈍ってんじゃねぇ?」
「ああ、大丈夫さ。別に、運動してないわけじゃない。毎日の早朝全力ダッシュは続けているし、体力についてはそんなに問題もない」
問題があるとすればだ、とこちらがつなげる。
「なんか、ハンターランクをさっさと上げて、給料も溜まって、それを使う機会もそんなにないくらい休みを取ってない社畜生活だったなー、と思うとな? なんかやる気がなくなったわけだ」
「お前はそんな体質だもんな……大丈夫? 性欲解消してる? オナホいる?」
「なんでそんな話になると言うか貴様使用済みのを人に渡すつもりか」
そういうわけじゃないけど、と言うそいつを無視しつつ、皿に残っている肉を全て口に詰め込み、飲み下した。酒で口を洗い流す。スタッフのほうに皿を渡し、それがさっさと回収されていくのを見て考える、
──自分がこうなってしまったわけを。
ハンターと呼ばれる職業がある。
それは名の通り狩人だ。この世界に生息する、モンスターと呼称されるものを狩猟するための存在。その狩猟を生業とするものの職業をそう呼ぶ。
主な仕事は竜種の間引きだ。生態系の輪を乱すような事態を解決するためにハンターは竜と正面から戦い、狩猟する。戦闘と言う行為は当然危険であり、ハンターの仕事の報酬が高い理由は主に危険度からくるものだ。危険な仕事を引き受けさせるかわりに相応の報酬を与える。
中には志からハンターになった人間も存在するが、しかし大半がハンターになる理由は金のためだったりする。それでも最低限の礼儀を破ることがあればギルドナイトと呼ばれるハンターズギルドが保有するハンター間の諍いを抑制する機関がなんらかの罰を下すらしい。そのため、最低限のルールを破る人間はほとんど存在しない。
このハンターと言う職業の就き方は簡単だ。申請する。それで就任できる。しかしそれでは死亡者が多いため、最近では十分な指南を受けた人間が申請しなければ許可が降りず、申請が拒否されることもあるらしいので、やはりなり方としてはハンターの養成機関に通い、戦闘について学ぶか現役のハンターから指南を受けることをする必要がある。死亡率が高い仕事のため、やはり相応の安全策は用意されている。
ハンターと言う仕事は主にギルドに登録して、ギルドから仕事をもらい行うことになる。時々ギルドに登録せず、どこかの旅団のハンターとしてハンター業を行うものもいるらしいが、しかしそれは極僅か。だいたいのハンターはハンターズギルドに登録しているし、だいたいのハンターはハンターズギルドから仕事を受ける。
ハンターズギルドのハンターにはハンターランクと言うものが用意されており、これが高いほど難易度の高い依頼が回されるようになってくる──つまりハンターランクはハンターの実力をそのまま表していると言ってもいい。
そのハンターランクをハンター就任から二週間で上昇させたのが自分だ。
聞けば、これは最速記録に近いらしい──ハンターランクを上げる際の試験のような形として緊急クエストというものが存在するのだが、それが降りた許可で言えば最速記録だったらしい。しかし緊急クエストは移動時間が長い遠くの場だった。それの往復時間が掛かったせいで最速記録には一歩及ばなかった。
でもナンバー2である。
そしてここからが問題だった──ほんとに問題らしい問題だった。
ハンターランクを上げて、そこから唐突にやる気が起きなくなってしまったのだ。
自分はハンターランク上昇から一回クエストに行って実感したのだ、
あ、これヤバイやつだ、と。
今はハンター業の全てが手につかない、と言うかなり困った状態になる。幸い金については使う機会がそんなになかったため貯蓄はあるが、しかしそれもいつ消えるのか危ういくらいだ。保って一月だろう。
辛いなー、と考えつつ自分は帰路についている。自分の家は案外ギルドから近い。そのため、幾ら酔ってもすぐに帰れる。その点酒飲めるからいいよなぁ、と思う。
そうしてのんびりと、空気を取り入れながら帰っていると、
「こんにちわ」
──目の前に少女の顔があった。
「うわっ、わっ、っ!? わっ、っっ──っ!?」
鼻がくっつくほどに近くに顔が現れた。それに驚いて、体制を崩し、後ろへと転倒した。そのときに後頭部を打ち付けて痛い。
「──っ、な? だれ?」
「わたしよ」
誰だよ。
そう思ったが、それを口に出さず、とりあえず起き上がって口を開こうとする──が、言葉を発する前にその少女に妨害された。
「あなた──あなたはね、その体に可能性を秘めているの。ひょっとしたらわたしに届くほどのポテンシャルを持っている──なのにあなたはその才能を腐らせている。これは問題よ。大問題よ。こんな世界の、わたしたちの数少ない楽しみが、勝手に終わろうとしている。これほど酷いことはないわ。だからね、わたしは発破をかけてやろうと思ったわ。けどあなたにどう発破をかけてやればいいのかわからない。あなたは何をどうやったらハンター業に復帰するのかしらね?」
「そんなこと言われても……」
ほんとにそんなことを言われても、だ。自分がどうやったらハンター業に復帰できるのかなんて、そんなのわからない。どうすればいいのかがわからないので、自分は何も言えない。どうすればいいんだろうか。
「わからないかしら? なら一緒に考えましょう? あなたがハンター業への熱を取り戻すほどのことを」
そう言われて、少し考えてみる。現状自分も危ないと思っていたのだ。そのため、自分は、その少女の一切がわかっていないのに、言われた通りに考えてみることにした。
「例えば──完全に、がらっと環境が変わって、必死にならざるをえない状況なら、って感じかなぁ……義務化ってやつだな」
「そう? じゃあこんな感じかしら?」
そう言って、
直後に視界が明滅する。
明滅──いな、突然地面が迫ってきた。頭を強かに打ち付けて、そして漸く何が起こったのか理解する。
──転倒したのだろう。しかし背中に感じる重みはなんだろうか?
「わたしの足」
「何ナチュラルに人踏んでんだお前……!」
足を退けられ、起き上がって、そしてふと違和感があった。
「ん?」
なんか、前面に体の重みを感じる。普段とは違う重心感覚を疑問に思いながらも、背中を叩こうとして、そして髪の毛に触れた。
「あれ?」
これは、自分の髪だろうか? そう思って引っ張ってみれば頭に痛みを感じた。痛い。指を離して、そして数瞬考え、思い至った結論に汗が急に溢れた。
「……嘘だろ?」
声が普段より高い。服の上から胸部に触れてみると、服を押し上げる膨らみがあった。嫌な予感がしたのでズボンに手を突っ込んでみる。そこには普段からあったものはなく、軽く指で弄ってみると指が急に吸い込まれるように、何かを押し広げた。
「よしわかった、これは夢だ」
「現実なのよねー……」
少女に目を向けるとにこにこと笑っている。そして理解した。
こいつの仕業だ、と。
「え、ちょ、ま、──死んでくれない?」
「やーだっ」
そう笑って少女が言うので駄目らしい。
「元に戻りたいなら……そうね、あなたが必死にハンターをしてたら、どうにかなるかもしれないわね?」
どういうことかを問い詰めようとして口を開くと、瞬きすらしてないのに忽然と少女の姿は消えていた。
「……夢だったのか……? じゃあ、この体は……」
そう疑問に思って、やめた。寝て起きたら現実か夢か、わかるだろう。そう思って家へと帰る。
「あああああああああああ──!! ちくしょおおおおおおお──!! バカやろおおおおおおおおおおおお!!」
「うっせぇ!」
「ごめんなさい!!」
落ち着いた。
と言うか冷静になった──朝だ。ふといつも朝に張っている感覚がないことに気づき、そして軽く違和感から自分の股間へと手をやり、そうして理解した、理解したのだ、
自分が女になったことを。
「にしたってあれはおかしいよな……」
自分が現実逃避と、今なら言える行動を取ったのは単純、信じられなかったからだ。普通人間は性別が変わることはない。変わったとして夢の中くらいだろう。だからその超常に困惑する。
ありえない、と。
「しっかしそのありえないがありえてしまってるんだよなぁ……」
だから困惑している。正直ふざけんなボケ! 死ね! と言う気分であるが、しかしそれはそれとして鏡を見てみることにする──そこにあったのは、自分が女になったら、と言う面影を残しつつ、しかし
髪は肩甲骨あたりまで伸ばされている。前髪は長く、両目が隠れてしまっているくらいにはあった。元々から視界が隠されていたために気づかなかったが、しかし意外に変化しているものだ。服そうは体のサイズが変わったからかだぼっとしている。胸元が大きく開かれて胸が見えた──そのことにがっかりした。何故自分が初めてみた女の胸は自分のものなのか。そう思ってがっかりしつつ、軽く髪の毛を寄せて瞳を露出させてみた。
その色は紫色だ──これは、もともとの自分の色と変わらないらしい。そのことに安心しつつ、そして服を脱いだ。
そこから直観でわかったことは、そこそこな体付きと言うこと──少なくとも、胸はそこそこある。そして体を見て、そこから筋肉が消えていることを見て、服を着てから移動し、武器を持ってみる。
「わっとと……、」
体型が変わったからか、普段どおり持つと軽く体制を崩しそうになる。自分の武器は盾を持たないロングソードだ。片手剣を長くした武器。そんな武器だが、扱いについては基本動作さえしっかりと守れば正直、豪快な武器より扱い易い。片手剣がハンター入門と呼ばれるには相応の所以がある。
扱い易いのだ、単純に。
少なくとも、盾がある分安定性も取れ、そして武器の中で一番使い易いと言っても過言ではない武器──剣。太刀などのように技量で切り裂くものとは違い、そして力で切り伏せる大剣とも違い、堅実に、その鋼の重量で肉を叩き割ると言った扱いかた故に初心者には扱い易いのだ。
実のところ、打撃武器と言うのは対等な力関係であれば初心者が扱う際の凶器として最適なのだ。足を叩き、頭を潰す。床とサンドイッチにするようにすればそれだけで簡単に人は殺すことができる。
そして斬撃武器と言うよりソードは打撃寄りだ。そのため、初心者でも容易に操れる。しかし初心者でもわりと扱えるからと言ってそこで終わりではない、
──武術に終焉はない。
武に最終はない──故に、剣と言う武器も、初心者におすすめされる武器ではあるが、そこで終わりではない。少なくとも自分がこの武器を使い続けるのには理由がある。
単純な話、強いのだ。
極限まで精錬した動作は振るうのにロスがない。
肉体をどう動かせば最適か──振るう際に完全に流暢に振り切れるか──力を捻出できるだけの最小限の動作はどのような形か──
──それらの課題をクリアすれば、剣と言うものはどこまで行けるのか。
自分はそう思い続けている。自分以外にもそう思っているものは意外に多い。そんなものたちが剣を振るう。盾も合わせた対竜の確殺技術を追求するものもいる。盾を捨てて攻撃的に、短時間で狩り殺すことを目的とするものもいる。
──つまるところ、この道は修羅の道だ。自分だってそれは理解している。故にこの業界にきた。だからハンターになったのだ。
「……そういや、忘れてたなぁ」
ふとそんな事実を思い出し──今持っている剣を見る。ハンターナイフの、特殊改造バージョン。
幼い頃は棒きれだった。
教習生になってから模擬刀を手に取った。
ハンター初期の俺はこれを手に取っている。
次へ──次へ、続けなければいけない。この命が尽きるまで。俺は、剣を知れていないのだから。
「──俺はハンターだ」
剣をより強く握った。そうして、自分がどうやって生きるべきかを一瞬で自分の意思で決定する。
「必死になって、最強のハンターを目指してやる」
ついでにこの体から元の体に戻りたい。
そんなことを思って──朝、
漸く体に気力が戻る。
と言うことでTSプラス修羅系主人公によるモンハンです。いっつもモンハンばっか書いてるなー、とりあえず中編作品と言うことでだいたい50話くらいで終わるはずです。それでも目標は80話行きたいですね。